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コロナで浮き彫りなったひとり親世帯の貧困問題。しんぐるまざあず・ふぉーらむ赤石千衣子さんが説く素早い対応に必要な「受援力」と、未来を描く強い意志

2021.01.27 

意外と語られることのない「経営者のあたまのなか」を明らかにしていく今回のシリーズ。第21弾は、しんぐるまざあず・ふぉーらむの赤石千衣子理事長です。

 

新型コロナ感染の問題が長期化するにつれて最も影響を受けている一つが「ひとり親世帯」。3月の一斉休校やその後の休業要請などが、ひとり親世帯をどんどん苦しい状況に追い込み始めています。一方、こうした状況を受けて、ひとり親世帯の問題を報じる機会が一気に増え問題への注目度は高まりました。現時点では、法人個人を問わず支援をしたいという思いが広がりつつあるようです。

 

ひとり親世帯支援への社会からの期待が急激に高まった今。これまで30年にわたりひとり親の支援をし続けてきた赤石千衣子代表が、この状況をどう見て何を感じたのか。これからの支援のあり方や抱える迷いなども合わせてお話をうかがいました。

 

赤石さん

 

新型コロナの拡大によって浮き彫りになったひとり親世帯が抱える「飢え」と「就労」の問題

 

――2020年2月27日に一斉休校の要請が発表されました。この時、赤石さんはどんなことを感じていましたか。

 

一斉休校が始まったときに、一斉休校について首相が述べた直後から取材依頼の電話がかかってきていました。一斉休校で休まざるを得ない親が出てくるので、補償なしの休校はありえないと思いました。次に、まずは現状の調査をして実態を把握していかなければ、と。

 

また、いつもの支援を超えて、もっと何か大きな事業を早くに実現したほうがよいと強く思いました。というのも、「災害・パンデミック」の時には初動の速さが大事ということを震災の時に思ったからです。遅れれば事態が深刻にもなるのは当然のことです。そして、先に動き出した団体には寄付も集まりやすくなり、大きな事業を任せてもらえるようになります。

 

そこで、大規模な食品配布を行おうと、スタッフに相談しました。「100キロのお米がありますよ」と回答がきましたが、そうではなく1000人規模でやりたいと伝えると少し驚いていましたね。まずは、今までの付き合いのあった米問屋に問合せることから始めました。ひとり親世帯がこれからどんどん問題を抱えるだろうと思っていたので、スピード感をもってやらなければならないという思いで動き、その話を聞きつけてすぐに寄附もいただきました。

 

なお、2020年10月時点では、1週間で2000件以上の家庭に食品配布をすることができるようになり効率化が進んでいます。5月に運送会社さんとの連携が始まり、倉庫から送ることができるようになったので、食品・日用品の梱包から配送する体制が整いました。さらには、J.P.モルガンのインパクト支援で東の食の会さんを紹介していただいたご縁で、生鮮食品も配布ができるようになったりと日々進化しています。ありがたいことにこうした食品支援に係る費用は、法人や個人からのご寄付によってまかなうことができています。

 

――毎月のアンケート調査や相談など素早く活動されてきて、その中からどのような課題が見えてきたのでしょうか。

 

緊急事態宣言が出された直後から毎月アンケート調査を行っています。3月4月は一斉休校の影響もあって、やはり食事の問題が多く見られました。今でも、このときのことを振り返ると胸が痛くなってしまう。家には残り2合しかお米がない、1歳の子どもがいるが1日に1度の食事しかとれない、乳児を抱え母乳をあげている親が2日に1度しか食べられない家庭があったりと深刻な状況でした。

 

これまでは、どんなに深刻な相談を受けてもそこまで私自身がメンタル的に影響を受けることはあまりなくて鈍感なんだなあと思っていましたが、4月~5月来る日も来る日も無理心中しかないでしょうか、ひもじいですという相談を受けていたら閾値に達したんですね。いろいろなメディアに出たり報告したあとつらくて30分くらい寝込んでしまうこともありました。この時のことは涙なしでは語れません。

 

相談員も増やし、丁寧に対応することを徹底しました。相談者の気持ちを受容する言葉をしっかり書くこと、なんといってもここがキモです。そして食品送付の支援があること、行政支援の具体的な申請の仕方を伝え、さらに書類の不備などで突き返された場合は一緒に対応することも伝えます。特に行政の支援制度を利用する場合は、役所や社協のどこに電話をして、どう交渉したらよいかまで伝えています。時には、本人に代わって交渉したあと、その書類を準備するよう本人に伝えました。そこまでやらなければ、路頭に迷ってしまうと思っていましたし、そのころは、どこかで餓死が起こっているだろうと思っていましたので、なにしろ死なないでほしいと思っていました。

 

これまでにメール相談件数は1200件、電話相談は600件以上にものぼっています。量が多くなると対応も粗くなりがちなのですが、スタッフにはこのような「丁寧な対応」を心がけています。

 

こうして対応を徹底してきたので、「気持ちを聞いてもらえただけでもうれしい」「絶望に手を貸さないで済んだ」「社協で貸付手続きができ、無事お金を借りることができた」というフィードバックをもらうことができました。

 

その合間に、国会ロビーを行い、ひとり親世帯への臨時特別給付金を創設のために記者会見をしたりしました。

 

6月ごろには緊急事態宣言も明け、コロナも落ち着くだろうと見られていましたが、ひとり親世帯には、まだまだ厳しい状況が続くと思っていました。ひとり親への不利益は最初に始まり、回復は最後になるのがこれまでの通例でしたから。特に、経済環境が悪化していたのでこれから解雇されたり、仕事が見つかりにくいなど課題が多様化すると思いました。

 

そこで、研究者を交えたプロジェクトチームを組成し詳しく現状を調査しました。最初に1800人を対象に行い、以降は毎月500人の同じ人にパネル調査しています。現時点で見えてきたのは、解雇よりも休業待機(仕事が減らされている)が多い状況とメンタルヘルスの悪化です。この調査は今後も継続的に行っていきます。

 

グラフ

シングルマザー調査プロジェクト「新型コロナウイルスの影響によるシングルマザーの就労・生活調査」より

 

 

コロナによって「オンラインで働く」ことが取り上げられるようになりました。私たちもオンラインママカフェなど1月から開催し、緊急事態宣言時には大人気だったのですが、でも一方ひとり親の半数近くはそもそもインターネットにアクセスできなかったり、ITスキルが十分でなかったり、取り残されてしまう可能性があると感じました。まずは、ITスキルを育成する取り組みを始めることで、就労支援につなげたい。一般事務職では、収入が250万円前後と頭打ちで有効求人倍率が9月段階では0.25に下がっていました。プログラミングや保守の技術職では400万円以上に伸びしろがある。ひとり親のITスキルが高くなれば、生活の改善が期待できると思っています。

 

そこで、6月ころに、IT企業の営業の経験のある人材を採用して、LPICレベル1の資格取得プログラムを作成。 説明会申込が280人、応募が90人、15人が受講を初め、12月からスタートしました。週8時間以上の勉強時間を確保する必要があることなど、ひとり親のみなさんには少しハードルが高いかもしれないのですが、今のところ全員熱心に取り組んでいますよ!ありがたいことに修了生を採用したいという会社が複数現れています。

 

国もデジタル庁ができて、女性活躍とデジタルの領域で何かできないかと意見を求めらましたので期待が高まっている分野であると思っています。

 

来年もLPICのスクールを運営するとともに、よりスキルが不足しているシングルマザーへのプログラムを行う用意もしています。

“末っ子甘え上手のスキル”を活かしつつも謙虚かつ大胆に周りを巻き込みながら進めていく

 

――2020年の3月から現在に至るまで、政策提言から、調査、食品支援、就労支援など今までよりもスピードも量も倍以上の活動をしてこられています。どうして頑張れるのでしょうか?パワーの源は?

 

本人としてはそんなにスピード感があるとも、今まで以上に頑張っているという自覚はないのですが、多少スタッフは疲れているかもしれませんね(笑)。実際、就労支援をしたいと思ってから実現までは半年近くかかっているので、とてつもなく速いという訳ではないですし、事業によっては報告書の作成が遅れているものもありますし。

 

ただ、自分の力ではできることは限られますので、周りに相談しながらみなさんのお力をお借りしながら進めることは意識しています。今回の食品支援でご協力いただいている運送会社の西濃運輸さんも、フローレンスさんに相談してご紹介していただきましたし、ITスキル育成プログラムを検討するときも、カタリバさんが子ども向けにPC貸し出しをしていらしたので、相談しました。

 

なるべく周りでうまくやられていらっしゃるところに聞いてみるようにしています。もちろん、何か相談やお願いをするときは、断りやすいように「逃げ」をつくるのが礼儀だと思っていますが、まずは聞いてみる。シングルマザーに受援力講座をやっているのですが、そのときにもたとえ断られることがあっても「言いにくいことをいってくれてありがとう」と伝えて、ご縁をつなげるのがポイントだそうです。

 

周りをよく見ながらいいところは、どんどん真似しました。ある意味模倣力が高いのかもしれませんね。自分だけで頑張りすぎない力があるのだと思います。

 

――ひとり親の支援を続けて30年以上のキャリアがあるにもかかわらず歴の浅い若い団体に相談できるのはなかなか出来ることではないように思えますが。

 

そんなこと全くないです!自分では「社会的企業」の分野ではまだまだ素人だと思っています。周りには年齢や経験で関係なくすごい方が、たくさんいらっしゃいますので、もっと色々聞いて学ばなくてはならないと思っています。

 

先日も、当団体で「だいじょうぶだよ基金」を創設したのですが、基金の額を設定する際にはETIC.(エティック)さんの助言を参考にしました。また助成金の運営ではシーズの関口さんやETIC.さんにお世話になっています。

 

また、末っ子の甘え上手なスキルがありますので、うまく人に頼ることができているのかもしれない。この間もとある集まりで私がパソコンの扱いに戸惑っていたら、若い団体の代表の方がお手伝いをしてくれました。こうした小さなことでも、思わず助けていただけるのはありがたいことです。

 

ただ、こうして皆さんに助けていただけるのも、互いの信用があるからこそだと思います。信用していただけるのは、これまで謙虚に活動を続けてきた結果でもあるでしょうし、きちんとホームページなどでも報告してきたおかげでもあるでしょう。これからもこの信用を失わないようには気を付けていきたいですね。

ひとり親世帯の支援を広げながら未来を描き続ける

 

――コロナが終息してもひとり親世帯の問題が一気に改善するわけではありません。これからの活動はどのようなものでしょうか。

 

現時点(2020年12月)では、第三波が到来しているので正直これからの状況はよく見えません。おそらく、事態の終息に時間がかかるでしょう。次年度は、食品支援や就労支援を継続しながらも、もう少し他団体支援を含めて幅を広げていければと思っています。

 

コロナによって、社会的なニーズが高くなり終息してもひとり親が就職できないなどの問題、経済的な困窮というのは、2、3年は続くでしょう。コロナだけでなく世界に目を向けるとあらゆる災厄に見舞われやすくなっています。今後もこのような事態になる可能性がある中、対応できるように団体としても事務局体制の強化を進めたいと思っています。今回も、4、5年前にクラウドシステムを導入したので在宅で対応ができました。入れておいてよかったなと思います。

 

――クラウドシステムを導入したり、迅速に事業をはじめるのに周囲の助けを活用したりと、これまでの取り組みがコロナ禍を乗り越えるための土台つくりの時間だったようにも思えます。ふりかえっていかがでしょうか。

 

たしかに、これまでの取り組みが「今」の土台にはなっていると思います。

 

一方であまりにも私たちの団体が担いすぎて怖いなと思っています。今回の5月に実施した政策提言でも私たちの団体が中心となって行ったのですが、ふともし私たちがいなかったらひとり親世帯を取り巻く社会はどうなっていたのか、と不安になります。まっとうなあるべき姿としては、他の色々なところから声があがってきてパイプが太くなっていってほしいです。

 

山登りでいうと歩き進んでいてふと振り返るとものすごく狭い尾根道だったというような「危うい」状況。他の団体がもっと成長できるように、私たちの団体だけが目立ちすぎないようにしていきたいです。

 

ありがたいことに、ある企業から食品支援の寄付のお話をいただけたのですが、この時もうちの団体だけで活用するのでなく、他の団体と連携しました。こうした同じ課題に取り組む団体同士の波及効果を通じて、互いにいいところを真似しあいながら成長できると良いと思っています。寄附ページをしっかりつくって!などうるさく言っています。

 

――最後にメッセージをお願いします

 

これまで30年以上もひとり親世帯の支援を続けていますが、どういう状態を構想していくのか、確信を持つのは難しいと思っています。この数十年、ずっとひとり親の環境は良くならず、こんなに大変ですよと伝えてきました。では、どのようにしていくべきなのか。制度として給付金が2倍になるとか、企業がもっと積極的にひとり親世帯や子どもがいる女性を採用するとか、具体的なイメージはあるものの、本当にそのような社会を構想していけるのか確信を持てずに迷うことがあります。実は、「これでよいのだ」と思い続けるには自分が強くないとできないものです。だけれども、やはり私たちが思い続けなければ状況は変わっていかないと思うので、これからも迷いながらも進んでいきたいと思います。

 

<お知らせ>

認定NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむでは、新型コロナの広がりでお困りのひとり親家庭を支援する団体への助成事業「だいじょうぶだよ!基金」を運営しており、2021年1月現在、助成先の第二次募集をおこなっています。詳細は団体内ホームページもご覧ください。https://www.single-mama.com/topics/dkikin-josei2/


本記事は、JPモルガンとETICが展開する新型コロナウイルスの影響に対するコミュニティ支援プログラムの一環として執筆されたものです。コロナにより生活が困難状況に陥った社会的弱者の緊急および中長期的支援を目的としています。

 

 

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望月愛子

フリーライター。 アラフォーでフリーランスライター&オンラインコンサルに転身。夫のアジア駐在に同行、出産、海外育児を経験し7年のブランクを経るも、滞在中の活動経験から帰国後はスタートアップや小規模企業向けにライティングコンテンツや企画支援サポートを提供中。ライティングでは相手の本音を引き出すインタビューを得意とする。学生時代から現在に至るまでアジア地域で生活するという貴重な機会に恵まれる。将来、日本とアジアをつなぐ活動を実現するのが目標。 タマサート大学短期留学、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修了。

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