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馬とのふれあいで、現代の子どもが変わる。海外ツアーから学びまで、なぜ三浦海岸の乗馬クラブは人を集めるのか【ローカルベンチャー最前線:後編】

2019.03.12 

(credit:ホーストレッキンファーム三浦海岸)

(credit:ホーストレッキングファーム三浦海岸)

 

「馬は、思っただけで動いてくれる。1%でも伝わったら大成功」

神奈川県三浦市にある乗馬クラブ「ホーストレッキングファーム三浦海岸」のオーナー、吉村優一郎さんはそう語る。

京急・三浦海岸駅から徒歩10分のところにある同ファームは、都心から電車に乗って行ける乗馬クラブだ。

 

従来の乗馬ファンだけでなく、子ども向けの課外授業や海外ツアーの企画など、様々なアプローチで幅広い年代に、馬の楽しさや魅力を伝えているのが特徴だ。最近では、細田守監督の手がけたアニメ「未来のミライ」の舞台になり、4歳の男の子が馬に乗るシーンが描かれている。

 

現代の子どもたちは、馬と出会ってどう変わるのか。後編では、季節や天気に左右されない人気企画のヒントや、馬でつながるコミュニティ作り、三浦を拠点に世界や各地のローカルとつながる事業の展開について聞いた。

>>インタビュー前編はこちら

季節や天気に左右されない、人気企画のつくりかた

(credit:Masaki Kudo)

(credit:Masaki Kudo)

 

乗馬クラブは会員制が一般的だが、「ホーストレッキングファーム三浦海岸」はコース利用料だけで乗馬体験ができる。誰でも気軽に馬に乗れることがこのファームの特徴だ。

 

とはいえ、乗馬クラブは、真夏や冬、梅雨の時期など、気候や天気によってお客さんの数が大きく変わる。お客さんを待っているだけでは、会員制ではないクラブの経営は安定しない。

 

吉村さんも長年、閑散期のデッドポイントには苦労してきたという。そのウィークポイントを克服したのが、季節や客層に合わせた新しい企画だった。三浦海岸で、馬と一緒に海水浴できる「海馬コース」の開発のほかに、一体どんな工夫をしたのか。

 

吉村さんによれば、2016年から始めた海外ツアーの企画は、梅雨の時期にかけて、通常通り運営しながら、天候に左右されずに集客するアイデアだという。

 

これまでにモンゴルやイタリア、イギリスのほか、ニュージーランド、オーストラリア、アルゼンチンなど世界各地を巡ってきた。三浦で乗馬を経験したリピーターにとっては、次なる挑戦のフィールドにもなっている。

 

(cap 大自然を移動するモンゴルツアー)

(cap 大自然を移動するモンゴルツアー)

 

次に、子ども向けのコースだ。三浦の街を訪れた修学旅行生が、乗馬体験することもある。大手の学習塾も課外活動で取り入れているという。子どもは団体客のケースも多く、売上も見込める。

 

吉村さんが本来、大切にする「馬との遊びや学び」が、乗馬クラブの客層としてはめずらしい、子どもの来場者数を増やすのに一役買っているのだ。

 

 

現代の子どもたちは、馬と出会ってどう変わるのか

 

(cap  大きな馬を目の前にしてちょっと緊張する子ども)

(大きな馬を目の前にしてちょっと緊張する子ども)

 

実際に、子どもたちは馬と出会うことで大きく変わっていくという。便利な都市で暮らす、インターネットやSNSが身近な子どもにとって、背丈よりも大きい馬との触れ合いは初めての経験だ。

吉村さんは、子どもたちが馬と向き合って、初めて感じる「こわい」という感覚がとても大事だと話す。

「一番最初は、 “こわい”と感じるんです。どうにもならない。“こわい”、“できない”を認めて、どう乗り越えていくか。馬と遊んだりするなかで考えるんです。インターネットに答えがないことを学んでいく。できたら馬が応えてくれる。達成感があります」

「馬って思っただけで動いて表現してくれる。1%でも伝わったら大成功。伝わらなくても、伝わらなかっただけで失敗ではない。生き物との対話なんです。みんな、(コースから)帰ってくるときには乗れてますよ」

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繊細な馬は、子どもたちの感情に素直に反応する。調子に乗って騒いているときは離れ、優しい気持ちのときは寄ってくる。「ウマが合う」という言葉があるように、馬は自分の心を映し出す鏡のような存在なのだ。

最近では、「獣医になりたい」という夢を持った女の子もいる。最初は、大きな馬にびっくりして怖がっていたが、乗馬体験をして馬と触れ合い、ファームにいる犬が体調を崩しているのを見て、動物のお医者さんになりたいと思ったそうだ。

1年を通じて、子どもたちと課外活動も実践。教育の専門家と共同研究

(credit:ホーストレッキンファーム三浦海岸)

(credit:ホーストレッキングファーム三浦海岸)

 

吉村さんは、馬を活用したホースセラピーや人材育成の手法「EAGALA(イーガラ)」も海外で学んでいる。現在は、教育の専門家や心理カウンセラーなどと一緒に「馬学び-UMANAVI」という課外活動も実践中だ。

ここでは、子どもたちは月に1回集まって、馬を笑わせようとしたり一緒にかくれんぼしたりして、毎回いろんなテーマで馬との時間を過ごす。1年間のプログラムと平行して、馬と子どもたちの教育効果について研究。その効果を学会でも発表している。

 

(credit:ホーストレッキンファーム三浦海岸)

(credit:ホーストレッキングファーム三浦海岸)

 

実際のところ、馬とたくさんの子どもたちが近距離にいて、運営上の危険や怪我のリスクはないのだろうか。馬のスペシャリストである吉村さんは、なるべく自然に「ギリギリなところを見守る」と話す。

「馬はプレッシャーのない状態が好き。逃げきれないときに蹴るだけ。馬の行動習性として、(何かある)その前に逃げる。子どもが股の下をくぐろうが怒らないですよ」

 

最近では、馬と仲良くなった子どもたちが、学校の悩みを相談することもあるという。話しながら自分で答えを見つけていくのだ。

 

そんな取り組みが話題を呼び、細田守監督の手がけたアニメ「未来のミライ」の舞台に。作品には、子どもが馬に乗ってキャベツ畑を通るシーンが描かれている。

 

 

新しい仲間とカフェもオープン。馬でつながるコミュニティに

吉村さんがファームの前身となる乗馬クラブの経営を任されてから13年が経った。

赤字だったファームを黒字化し、2014年に「ホーストレッキングファーム三浦海岸」として独立。年間来場者数は、初年度は700人から2018年は1000人を突破している。

 

雨や台風の影響でキャッシュがショートしたこともあるが、それが海外ツアーなどの新しい企画のヒントにつながった。

1月にはファーム内に「馬と過ごすカフェ uma café」をオープン。このカフェは乗馬しなくても、ワークスペースとして利用できる。馬でつながるコミュニティとしての場づくりの実践だ。現場は「カフェをやりたい」と手を挙げた若手スタッフの裁量に任せている。

 

地域のために、次の世代の人材を育てていく。吉村さんは、これまでに培った経験や資源は惜しみなく提供していくつもりだという。

 

(credit:ホーストレッキンファーム三浦海岸)

(credit:ホーストレッキングファーム三浦海岸)

 

三浦海岸を拠点に、馬を通じて、世界とつながる

 

三浦海岸で、子どもから大人まで世代を問わず多くの人たちに、馬との学びや遊びの時間を届けてきた吉村さん。 三浦を拠点にしながら、乗馬クラブだけではない馬の取り組みを広げている最中だ。

 

日本で唯一の本格ポロ選手として海外の試合にも出場し、競馬の世界でも初期調教トレーナーとしても他県でも活動。馬を軸に、複数の拠点でビジネスを展開しようとしている。

吉村さんは、事業を広げていく一方で「生きものを相手にしている。本当の意味でやりたいことしかやれない」と、馬とともに歩んできたビジネスの本質を語ってくれた。

 

「これからはシビアに馬づくりしたい」

 

吉村さんは、大好きな馬を通じて日本や世界とつながっている。

 

インタビュー前編はこちら。

>> え、馬と一緒に海水浴できるの?10年で三浦海岸の景色を変えた、乗馬クラブの挑戦【ローカルベンチャー最前線】

 

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>> ローカルベンチャー最前線。地域資源を活かしたビジネスの“今”を届ける。

 

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ローカルベンチャーPROFILE

ホーストレッキングファーム三浦海岸  (株)Y’ism

所在地:〒238-0101 神奈川県三浦市南下浦町上宮田1751-3

設立:2014年8月(創業:2006年)

資本金100万円 売上:2600万円(2017年度実績)

従業員数:4名(2019年2月現在)

事業内容:ホーストレッキング、ツアー企画・運営、各種イベントの企画・主催、催事出展など

URL:http://beachriding.jp/

 

(取材・文:笹川かおり 写真:ホーストレッキングファーム三浦海岸、くどうまさき、笹川かおり 編集:山倉あゆみ)

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笹川かおり

岐阜県生まれ。出版社で書籍の企画・編集を経て、2013年より「ハフポスト日本版」に参画。ニュースエディター、副編集長として働きかたやライフスタイルなどを担当。2019年からフリーランスとして活動している。