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石巻・牡鹿に守りたい暮らしがある。地域活動と自律的な協働プラットフォームづくりを通して、「現状維持のための現状変革」に挑む犬塚恵介さんに聞く

2021.05.31 

本記事は、東北リーダー社会ネットワーク調査の一環で行なったインタビューシリーズです。

 

宮城県石巻市の東端に位置する牡鹿(おしか)半島。その地の魅力に惹かれ、東日本大震災の復興支援ボランティアから一住民となった犬塚恵介さんは、いまの牡鹿半島での暮らしを守りたいといいます。今後のNPOセクターの重要性を認識し、自らの活動に加えて協働プラットフォームづくりにも注力する犬塚さんにお話を伺いました。

 

犬塚さんトリミング後2

■犬塚恵介(いぬづか・けいすけ)氏プロフィール■

一般社団法人おしかリンク代表理事、合同会社くらしごと代表社員、いしのまき市民公益活動連絡会議(いしのまき会議)共同代表理事。愛知県岡崎市出身。豊田工業高等専門学校で建設工学を修了。名古屋の設計事務所にて建築の設計監理に携わる。東日本大震災の発生後、石巻市へ。仙台ベースの建築家による復興支援ネットワークに参画、牡鹿半島での活動に関わった後、自らの団体おしかリンクを設立。環境保全、生業づくり、人材育成など多彩な事業で30年後を見据えた地域づくりを進める。地域の公益団体の協働プラットフォームづくりにも尽力。

 

■石巻における犬塚さんの主な活動履歴■

2012年9月 建築的な視点で復興をサポートする一般社団法人アーキエイドに参画、牡鹿半島での活動を開始

2014年4月 牡鹿半島で交流人口獲得活動を行う団体間の連携、ツーリズムプラットフォームづくりを目指す任意の協議体に参画

2015年2月 一般社団法人おしかリンク設立

2016年4月 古民家を改修したワークショップハウス&ゲストハウス「やまのゐ」づくりに着手。改修プロセスもプログラムとして交流・関係人口の受入を開始

2017年 メープルシロップがつくれるウリハダカエデを使った森林保全プロジェクトをスタート

2015年10月 石巻市NPO連絡会議が設立され、牡鹿半島地区の団体として参加

2017年12月 おしかリンクの活動を大学生と共に行う仕組み「ローカルリンクカレッジ」開始

2019年10月 石巻市NPO連絡会議が発展した「いしのまき市民公益活動連絡会議(いしのまき会議)」の共同代表理事に就任

「こうした方がいいですよ」と助言する立場から実際に「やる人」の立場へ

 

――最初ボランティアとして石巻にいらした犬塚さんが、牡鹿に留まった理由はなんですか?

 

私が参画した「アーキエイド」は、大震災直後に仙台を拠点として立ち上がった建築家のネットワークです。復興支援活動を東北各地で展開していましたが、私はそのなかでも石巻市牡鹿半島でのプロジェクトに参加することになったのです。中心市街地から離れ、豊かな海と里山に恵まれた牡鹿半島地区は津波で壊滅的状況でした。プロジェクトでは、半島沿岸に点在していた30ほどの漁師集落一つ一つの特性や地域文化を調べて、住民の高台移転に対する意向などを聞き取りました。そして、その内容を基にまちづくり計画や集会所・公営住宅の設計などを提案。さらには、地域の交流人口を増やすためのツーリズム提案へとつなげていきました。

 

実は私は、アーキエイドで2~3か月ボランティアしたらその後は四国へ移住するつもりだったんですよ。それが、牡鹿半島の集落を見て回る中で価値観がまるで変ってしまった。ここでは仕事と暮らしが一体不可分。何かひとつを切り離すことができない。そんな空間の面白さに魅了されてしまったんです。もともと私は建築デザインの仕事が好きだったんですが、もう見た目といった意味でのデザインなんてどうでもよくなってしまって(笑)。

 

――それで地域再生や社会課題の解決に取り組み始めたのですね?

 

アーキエイドの活動は、あくまでもアドバイザーの立場でした。外からの目線で「こうした方がいいですよ」と助言しても、地域の側に実際にやれる人がいないことも多かった。みなさん目の前のことに忙しいわけで、私たちの計画提案は結局「ないものねだり」に過ぎなかったことが多く、それなら自らプレイヤーとして「やる側」に回ろう、という気持ちになっていったのです。

 

もっとも、おしかリンクを立ち上げた当初は、まだ支援者側のマインドが強かったですね。牡鹿半島で復興支援活動をしていた多数の団体をつないで、「点から面」へ、プラットフォームを作ろうと考えたのが最初の動機です。2014年に牡鹿半島に関わる活動をしていた人たちと任意の協議体を立ち上げ、翌年にはより活動を実働的にするために有志で法人化。その際、たまたま私が代表を引き受けたのでした。

 

しかしまもなく気づいたのは、プラットフォームに参画している団体各々が自立してなければ、そもそもプラットフォーム自体が成立しない、ということです。今から思えば、当時の段階では少し時期尚早だったのかもしれません。そこで初めて、地域再生や社会課題解決につながる事業を自ら「やる」側に回り、最初はゲストハウスづくり、創造型エコツアーの催行、そして森林保全とメープルシロップの商品化、大学生対象の実践塾など、事業内容を広げていくことになったのです。それと同時に、一旦プラットフォームづくりは諦めました。

 

現在の事業内容を「社会・経済・環境」の観点から整理してみると、地域コミュニティの維持(社会)、水産業だけに頼らない生業の多様性の確保(経済)、それらを支える資源としての自然環境の保全(環境)が3つの柱となっています。

 

2やまのゐ(おしかリンクfbより)

▲牡鹿半島の漁村集落にある築約60年の空き家をセルフ改修したゲストハウス「やまのゐ」。地元の発音で「山の家」を意味する。前は海、後ろは山という絶好のロケーション

 

――メディアでもよく取り上げられている「メープルシロップを使った森林保全」とは何ですか?

 

牡鹿半島には集落統合によってなくなってしまった集落があります。その跡地を自然に戻す環境省の仕事を手伝った際、半島の森がニホンジカの食害などで荒廃している現状を知りました。その保全のために針葉樹をきちんと間伐し、ニホンジカが食べない(不嗜好性の)ウリハダカエデなどの広葉樹を植樹することを考えたのです。また、このウリハダカエデはもともとこの地域に自生している植物。その樹液からつくるメープルシロップの商品化にも挑んでおり、来シーズンには出荷したいと考えています。地域にある未利用の資源を使って、水産業以外の小さな生業がひとつ創出されたわけで、今これに続くものを探しています。生業が多様化することで、この地に住まう際の選択肢が広がればと考えています。

 

3森林保全(地域課題解決MAPより)

▲ウリハダカエデの樹液を採取してメープルシロップに

 

――若い世代の育成にも力を入れていますね。

 

結婚して親になったことで、20年30年後の未来への責任という意識がいっそう強くなりました。持続可能な地域づくりの鍵は「担い手」の育成です。どんなに今を盛り上げてもそれを継ぐ人がいなければそこで地域の持続性はなくなってしまう。そこで、おしかリンクの事業プロセスを企業研修やインターンシップの場としてオープンにしたいと考えました。2016年から武蔵野大学(東京)のフィールドスタディを受け入れたのをきっかけに、翌年から「ローカルリンクカレッジ」という大学生向けの実践塾も開始しました。

 

このプログラムでは、学生たちは牡鹿半島でやりたいことに自由にチャレンジし、それが結果的に地域課題解決につながるように対話を重ねていきます。築60年の民家を改修した「やまのゐ(山の家)」というゲストハウスに滞在して、そこを拠点にモノづくりや場づくりに挑戦したり、地域の人たちと囲炉裏を囲んで交流したり。リピートする学生も多いですよ。こうして牡鹿半島を好きになってくれる若い世代が少しずつ増えてきて、将来は移住したいという学生も出てきています。実際に宮城県内の企業に就職して、自立しながら通う頻度を増やして、自分のやりたいこと、役割を探すという頼もしい仲間も現れました。

 

4学生たち?(地域課題解決MAPより)

▲毎夏、首都圏を中心に各地の大学生が牡鹿に滞在し、自主的なプロジェクトに取り組む

 

機能する協働プラットフォームの大前提は、各団体の自立と「オープンであること」

 

――共同代表を務める「いしのまき会議(いしのまき市民公益活動連絡会議)」設立の経緯についても教えてください。

 

大震災後の石巻市では、多くの緊急課題に対応すべく多数のNPOが立ち上がり、市内各地で活動も資金調達もそれぞれ独自に行っていました。それら団体同士の横のつながりをつくるため、行政の呼びかけもあって2015年10月に立ち上がったのが、「石巻市NPO連絡会議」です。私は当初、牡鹿半島地区からも参加してほしいと声をかけられました。

 

といっても私は当時、牡鹿半島で自分のやりたいことをやっていたのであって、公益という意識はあまりなかったのです。が、石巻中心部で活動していたNPOのみなさんは既に幅広い公益活動の知見を持っていて、私はその会議で多くを学ぶことになりました。協働のためには基本原則(自立・平等・相互理解等)があることも、そこで初めて知った。自分がプラットフォームを作ろうとして失敗した原因も、段々とわかってきました。

 

ただ、そうやって知見は集積しても実践する人がいないのではその先に進みません。緩いネットワークだけの会議体ではなく、自分たちで決めて自分たちで動く。そのための仕組みをあらためてつくろうと、当時会議を運営していた仲間に呼びかけて有志による話し合いが始まりました。それで2019年に誕生したのが、いしのまき市民公益活動連絡会議(通称:いしのまき会議)です。現在のメンバーは109団体。うち15団体で理事会を構成し、月1回会議を行っています。

 

 

5石巻会議総会(HPより)

▲いしのまき会議2020年度総会には石巻市の亀山紘市長も来賓参加

 

――いしのまき会議の運営で留意されていることは?

 

まずは協働の基本原則を守ること。そしてオープンであること。何か決める際にはメンバーがちゃんと議決権を持って一票を投じること。また、いしのまき会議を窓口として行政から連携に関する相談を受けたときも、内容をメンバー全員にオープンし、だれでも手を挙げられるようにする。そういう開かれた自律的な組織であることが、なにより大切と考えています。

 

一方、これだけたくさんの団体がいると、定期的に話しあっている理事会のメンバーとそれ以外との温度差がどうしても出てきてしまいます。復興予算終了後の地域づくりを考えたらNPOセクターの果たす役割はますます重要で、だからこそ人材不足・資金不足といった共通課題を協働で乗り越える必要がありますが、過去に私が協働に失敗したように、“協働”という言葉にアレルギーを持つ人もいたりして。そういうメンバーとも、私自身がいしのまき会議を通じて得られた価値観だったり、そこから自活動に活かせた良い影響だったり、自分自身の体験談も踏まえて対話を重ねていくことが大切で、今後はもっと相互理解、目的意識共有に注力していきたいと考えています。

 

――現在の課題感と今後の抱負をお聞かせください。

 

牡鹿半島に関わり始めた当初、私は地元の人の間で「ボランティアさん」といって紹介されていました。それがあるとき「おまえ、もうボランティアじゃないな、なんて紹介すればいいんだ?」と(笑)。もはや「支援者」ではなく、地域住民の一人として受容されたと感じた瞬間のエピソードです。また、最初の頃は近所に頻繁にご飯に呼ばれて恐縮していたものですが、「もう家族みたいなもんだから遠慮するな」と言われて、本当にもう家族ぐるみのお付き合いになりました。私はそんな牡鹿半島のいまの暮らしに心から満足しています。

 

6牡鹿の自然(地域課題解決MAPより)

▲豊かな海と里山に恵まれた牡鹿半島

 

でもこの暮らしは、このまま何もしなければ早晩確実に維持できなくなっていく。現状維持のためには課題に対応して変化し続けないといけないんです。人口減少自体はもはや止められませんが、世代間のバランス維持の方が大事。若い世代の育成、彼らが就きたいと思える生業の創出に力を入れているのはそのためです。

 

一方で、これまではなんでも自分が主体となって様々なことを試みてきましたが、今後はもっと地域の人たちと一緒に実践していける関係性を深めていきたいですね。いろいろ試行錯誤してきて、いま私は「一人が365日公益活動をするより、365人が一日ずつ公益活動に関わる方がいい」という考え方をしています。公益的な事業だけで生活していければ理想かもしれませんが、私自身も現在は建築設計の営利仕事(合同会社くらしごと)で経済的に自立し、そのうえで公益的な活動をしています。もっと地域にコミットしてやりたいことはたくさんあれど、完全にマンパワー不足なのが悩み(笑)。今後おしかリンクもNPOとしてさらに体制整備していく予定ですが、そのためにもいしのまき会議を通じた他の団体との交流に大きな意義を感じているところです。

 


 

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【イベント情報】6/25(金)、入山章栄さん(早稲田大学)、菅野拓さん(大阪市立大学)、高橋大就さん(一般社団法人東の食の会)によるオンラインセミナー『イノベーションと社会ネットワークとの関係を考える ~「東北リーダー社会ネットワーク調査」分析結果から~』を行います。参加は無料です。ぜひご参加ください。

 

※東北リーダー社会ネットワーク調査は、みちのく復興事業パートナーズ (事務局NPO法人ETIC.)が、2020年6月から2021年1月、岩手県釜石市・宮城県気仙沼市・同石巻市・福島県南相馬市小高区の4地域で実施した、「地域ごとの人のつながり」を定量的に可視化する社会ネットワーク調査です。

調査の詳細はこちらをご覧ください。

 

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この記事を書いたユーザー
中川 雅美(良文工房)

中川 雅美(良文工房)

福島市を拠点とするフリーのライター/コピーライター/広報アドバイザー/翻訳者。神奈川県出身。外資系企業で20年以上、翻訳・編集・広報・コーポレートブランディングの仕事に携わった後、2014~2017年、復興庁派遣職員として福島県浪江町役場にて広報支援。2017年4月よりフリーランス。企業などのオウンドメディア向けテキストコミュニケーションを中心に、「伝わる文章づくり」を追求。 ▷サイト「良文工房」https://ryobunkobo.com

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