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災害復興はデータ活用で加速する~ジャパン・ソサエティー(NY)日米リーダー対談vol.2~

2021.03.24 

東日本大震災から10年の節目を迎えるにあたって、日米社会起業家の対談企画を3回にわたってお届けします。

 

NPO法人ETIC.(エティック)では、2013年から3年間、ジャパン・ソサエティーと協働し、東北の社会起業家たちと、2005年にハリケーン・カトリーナにより甚大な被害を受けたニューオーリンズをはじめとする、災害や経済危機からの復興に取り組んできた米国の社会起業家たちとの交流プログラムを実施してきました。

 

第2回は、宮城県女川町の小松洋介さんと、アメリカ・ニューオーリンズのアリソン・プライヤーさんとの対談です。プライヤーさんは、ハリケーン・カトリーナの被災後、ニューオーリンズの復興状況とその後の地域の繁栄をデータを通じて分析するために、ブルッキングス研究所と共同で「ニューオーリンズ・インデックス・シリーズ」を開発しました。これらのデータは復興のベンチマークとして活用されると同時に、全米からの資金集めにも役立っています。このようなニューオーリンズの取組に触発され、女川町で復興に向けた課題を可視化するためのデータブックを制作したのが小松さんです。お二人に「データに基づく復興・地域づくり~ビジョンの共有と市民参加型の復興~」について語っていただきました。(文中敬称略)

 

小松洋介さんトリミング後

小松洋介(こまつ・ようすけ)/特定非営利活動法人アスヘノキボウ 代表理事

1982年仙台市生まれ。株式会社リクルートを経て、東日本大震災の被災地である宮城県女川町で復興支援に関わる。その後、特定非営利活動法人アスヘノキボウを設立し、代表理事を務める。アスヘノキボウでは「女川・地方の社会課題解決から日本・世界をよりよくする」ことを大切にし、データ事業(地域課題の見える化)、予防医療事業(医療費対策)、活動人口創出事業(人口減少対策)等を国内外の行政・企業・NPO等の非営利組織と連携し、実施している。

アリソンさんトリミング後

Allison Plyer(アリソン・プライヤー)/ザ・データ・センター代表兼主席人口統計学者

ハリケーン・カトリーナで被災をしたニューオーリンズの人口統計と復興関連の傾向についての国際的なデータ専門家として、メディアにも多数出演。ブルッキングス研究所プレス発行の「回復力と機会:カトリーナ及びリタ後の米国湾岸地域から学ぶ」の編集者を務めた。2001年にザ・データ・センターに入る前は、ニューオーリンズだけでなく、サンフランシスコやグアテマラの非営利団体および零細企業の組織管理能力の開発と強化を8年にわたり行っていた。それ以前は、営利セクターで約10年間、企業向けマーケティングコンサルタントを務めた。ヴァンダービルト大学卒業。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院経営学修士号取得。テュレーン大学公衆衛生熱帯医学校で博士号取得。

非常時にこそ、データを公表することが地域の回復につながる

 

プライヤー:ニューオーリンズでまちの復興にデータが活用されるようになったのは、2005年のハリケーン災害がきっかけでしたが、最近はコロナショックの影響にも注目しています。コロナ禍によって甚大な被害がもたらされ、これまでの常識は打ち壊されました。こうした非常時だからこそ、データの公表が大切です。現在は、コロナ禍による人命や暮らしへの被害状況に加え、回復に向けた施策も調査しています。行政の対応の速さや柔軟性だけでなく、各機関の健全性も調査の対象です。

 

小松:データの公表は重要ですね。ニューオーリンズ訪問では、復興にデータを活用しているという話を伺って感動しました。プライヤーさんの「私たちはまちに繰り出してうわさ話を拾う」という話が印象的です。まちの人のうわさ話や不安をデータで表し、課題を見える化するという話を聞き、東日本大震災の被災地では、その取組は全く行われていないと気付いたんです。

 

ぜひ日本でもやらなければと、ジャパン・ソサエティーさんの支援を受け、女川でもデータブックを作りました。僕たちもまちに繰り出して様々な声を拾った結果、100項目以上の分厚いデータブックができました。

 

例えば、「仕事がないから人口が減っているんじゃないか」という話があれば、有効求人倍率と人口の相関を調べて示したり、どんな人を増やせば将来人口が増えるのかというシミュレーションの他、どんな観光客が増えれば経済効果が上がるのか分析したりもしています。こういう取組は日本では珍しいので、メディアからも注目されました。

 

このデータを基に、まちのみなさんと課題を共有して、解決に向けてできることを考える「フューチャーセッション」から様々な取組も生まれています。お菓子を作って地域を盛り上げたい女の子たちが出てきたり、結婚式事業や、害獣の鹿肉を使ったジビエ料理のプロジェクトなど、様々な活動につながりました。

 

データブックを活用した創業支援にも取り組み、この10年で26社を輩出しています。人口6,000人の女川町にとっては大きなインパクトです。

 

さらに、データから町民の健康状態がよくないということも見えてきたので、女川町とロート製薬さんと僕たちで三社協定を結び、予防医療事業もスタートしました。この他にも、国内外問わず様々な企業と「データ」という共通言語を活用した連携が生まれています。ニューオリンズでの学びが、女川の復興を大きく進める原動力になったと改めて感じています。

 

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データ活用で災害時の意思決定がよりスムーズに

 

プライヤー:ニューオーリンズでのデータ活用から、小松さんは非常に多くのことを吸収されたんですね。住民の不安に丁寧に耳を傾けて、解決策を示したのはすばらしいです。メディアにとっても正しい情報は不可欠です。特に災害下では事実やデータが重視されますから、女川のような小さな町がニュースに取り上げられたのも、データの裏付けがあればこそですね。企業も意思決定のためにデータが欠かせませんから、起業家の後押しや企業間の連携も促したというのも納得です。

 

データを若者のために活かすというのも革新的ですね。未来に影響を受けるのは今の若者達ですから、彼らは将来を真剣に考えています。多種多様なデータと向き合いながら26社の起業を支えたという実績は驚きでした。小松さん流のデータ活用は、ニューオーリンズより進化していると思います。

 

災害はそれまでの日常を壊すものです。災害復興にデータを取り入れることは、5つの点で重要です。

①事実について議論するよりも課題解決策を考える

②状況の変化に応じて頻繁に更新された状況認識を図る

③優先事項、戦略、投資(対象)を時間とともに特定していく

④より多くのイノベーションをサポートするために、異なるセクターの垣根を超えて共有のビジョンをもつ

⑤新たなパートナーシップや協働をサポートするため、共有されたビジョンと作業環境に関する共通認識を確立する

 

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インパクトが大きいからこそ、データの提示には慎重さも必要

 

司会:改めて、データ活用の意義や気付きを教えていただけますか?

 

小松:データは強力な共通言語になります。肌感覚での課題や不安も、データに落とすことで、誰もが状況を客観的に理解し、それを土台に議論ができます。データの信憑性を疑うことも含め、課題解決に向けた議論が大切だと感じました。

 

先程の予防医療事業では、僕らが行政に提供した町民の健康状態のデータと、行政から僕らに提供された未公開のデータの一部を合わせて分析したことで、より肌感覚と近い情報になりました。それを基に解決策を考える中で、企業と連携した予防医療事業も立ち上がっていったんです。データがあったからこそ、課題をより正確に把握でき、具体的なアクションにつながるということを体感しました。

 

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プライヤー:アメリカでは、悪い印象を与えたくないと行政側がデータの提供に協力的ではないケースもあります。どんな分野でも、問題の深刻さを理解するためにデータは重要ですが、小松さんは行政にデータ提供を断られた経験はありますか?

 

小松:女川の場合は協力的でした。とは言えデータの力は大きいので、関係機関が非難されている感覚をもたないよう、コミュニケーションの仕方には気を配りました。関係者の方々が一生懸命取り組んでいることを受け止めた上で、「私たちが力になれることを一緒に探せませんか?」と、状況を変えていくために寄り添いたいというスタンスで伝えた記憶があります。

こういう配慮ができたのも、ニューオーリンズでの学びがあったからこそですね。データ活用の仕組みだけじゃなく、データを公表することによる影響や対応を含め、勉強させてもらいました。

 

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コロナ禍においても重要なデータ活用

 

プライヤー:災害の種類は違いますが、コロナ禍の影響はニューオーリンズでもかなり深刻でした。感染者の死亡率は2020年3~5月頃がピークで、エリス・マルサリスのようなニューオーリンズの文化的リーダーも大勢亡くなりました。この時期に約500名が亡くなったことで、ソーシャルディスタンスの確保やマスクの着用が意識され始め、その後6ヶ月間の死亡者は150名程にとどまっています。

 

死亡者数や経済的な面を見ても、今回はある意味ハリケーン災害より深刻です。特にアフリカ系アメリカ人のコミュニティが影響を受けています。データセンターでは早々にこの危機的状況に気付き、地域の現状を行政に伝え、必要な対策を提案しています。

 

例えば、行政による検査はドライブスルー方式しかありませんでしたが、ここでは4分の1の家庭が車を持っていません。そこでデータを提示して、徒歩で受けられる検査を早急に開始するよう働きかけました。

 

他にも、当初は感染の疑いがある人は帰宅することになっていましたが、そうすると家庭内感染が避けられません。そこで行政にこの地域の世帯当たり人数のデータを共有し、対応を変更してもらいました。幸いこういった取組が成果を上げ、この半年間死亡者数は減少しています。

 

現在データセンターでは、どんな地区が最も影響を受けやすいか示すため、ルイジアナ州全群へのデータ開示に取り組んでいます。地理的な密集や世帯人数、車の所有率、ブルーカラー層の比率、様々な要因が考えられます。感染リスクの高いエリアの人々が優先的にワクチン接種できるよう行政にデータを提示するなど、コロナ禍からの公平で万全な復興のために努力しています。

 

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コロナからの復興事例を、世界的な学びへ

 

小松:女川では感染者数は2名と少なかったのですが、人口の約4割が高齢者のため住民は非常に警戒しています。経済的なダメージも大きく、観光業や水産業を中心に苦境に立たされている会社が多いです。ウイルスという目に見えないものとの闘いなので、復興に向けた対策をどう進めるは、日々悩みながらという状況ですね。

 

女川でもコロナ禍は災害だと捉えられていて、この10年間震災復興を担ってきた若手を中心に、女川町復興連絡協議会第2期が立ち上がりました。その会長さんが、「震災からの復興では、人に来てもらって地域を活性化させるということをやってきたけど、withコロナの時代ではこれまでよしとしてきたやり方を否定しないといけない場面もあるかもしれない。ゼロベースで新しい町のビジョンと、それを実現する手段を考えていくことが大切だ」というお話をされていたのが印象的でした。

 

復興期の10年間の学びは、もちろん考え方や進め方もありますが、何より多くのものを失ったところから立ち上がるマインドの強さだと感じました。それはニューオーリンズでも同じでしょうし、コロナ禍からの復興においても原動力になっていくと思います。大きな危機から立ち上がる経験をした地域は他にもありますから、そういう地域同士で学び合えることがあるかもしれませんね。

 

データを使ってコロナ感染拡大を防ぐという話も、大きな学びだと思います。こういった知見がもっと集まって、世界中のコロナ禍からの復興が学びとしてまとまると、ものすごい流れになるんじゃないでしょうか。

 

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プライヤー:現在は景気が停滞しています。アメリカ全体に言えることですが、コロナ禍でも裕福な人たちは問題なく過ごしている一方、彼らが外食や買い物を控えるので、サービス提供側は苦しい状況にあります。

 

非常事態でも経済の動きを止めてはいけません。どんな災害でも状況は変化していきます。今後は、経済を動かす新しい商品やサービスが必要です。復興には起業家の力が必要ですし、それが今後の私たちの生活の命運を握っています。ですから女川のみなさんのように、機敏かつ革新的でいることは何よりも大切です。それこそが、コロナ禍においてあらゆる課題を解決する強みになるでしょう。

 

小松:女川でも、震災をきっかけにたくさんの個人の方や企業が関わってくれるようになりました。今もつながりは維持されているので、そういった方々との関係性も活かしていきたいですね。コロナ禍においてもしっかりと世の中に価値を提供し、資金を得られるような事業を立ち上げていくという意味で、引き続き創業支援も重要です。

僕自身も震災をきっかけに多くのことを学ばせていただきましたが、引き続き学び合っていけたらと思っています。

 

プライヤー:そうですね。一緒に本を書きましょう!

 

小松:ぜひ!(笑)

 

プライヤー:小松さんの活動を知って、とても刺激を受けました。これからも交流を続けていきたいですし、女川のみなさんから学びたいと思っています。ニューオーリンズにもまた来てくださいね!本日はありがとうございました。

 

動画で見る小松さんとプライヤーさんの対談はこちら

 

※本対談企画は、ジャパン・ソサエティーが震災翌日に設立した震災基金の支援を受けて実施しています。


 

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この記事を書いたユーザー
茨木いずみ

茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2015年4月より、東京大学大学院総合文化研究科修士課程に在籍。

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