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日本で暮らす難民の子どもたちを勉強で支えるオンラインの無料学習支援―社会福祉法人 日本国際社会事業団

2021.06.15 

学習支援4トリミング後

 

日本在住の外国にルーツをもつ子どもとその家族をサポートしている「社会福祉法人 日本国際社会事業団」。

 

新型コロナウイルス禍で様々な支援を拡げるなかで、難民や難民申請をしている家族の子どもたちのために、オンラインの家庭学習支援を始めました。勉強の困りごとを解決する取り組みです。

 

母国を離れて日本にやってきた家族と子どもたちは全国各地で暮らしています。「みてね基金」では、新型コロナウイルス感染症拡大防止策による一斉休校でさらに課題感が増した、難民の子どもの教育格差と向き合うこの支援が広がることを願って、第一期助成先団体に採択しました。

 

「社会福祉法人 日本国際社会事業団」の常務理事である石川美絵子(写真右)さんと、オンライン家庭学習支援を担当している近藤花雪さん(写真左)にお話をうかがいました。

 

おふたりトリミング後

 

※こちらは、「みてね基金」掲載記事からの転載です。NPO法人ETIC.は、みてね基金に運営協力をしています。

日本で暮らす難民の子どもたちの課題

 

「日本国際社会事業団(以下ISSJ)」は、日本にいる難民・外国籍の家族や子どもたちに寄り添った支援をしている民間団体です。いつでも安心して生活でき、幸せを感じられるように相談支援や情報提供などを行っています。

 

表トリミング後3

 

「ISSJ」が丁寧に続けている支援の一つに、難民の家族を支えることがあります。難民の子どもたちを取り巻く環境について、常務理事の石川さんは、「かねてからまわりの子どもたちとの教育格差に問題意識を持っていました」と話します。言葉や文化の違いが大きな壁となって、勉強を不得意と感じてしまう子どもが多いとのこと。

 

そこには、親自身が日本の暮らしになかなか馴染めない、また親が日本語を読めないため子どもに勉強を教えることが難しいなどの課題もありました。

 

新型コロナウイルス感染症拡大は、そういった懸念をより重く感じさせるきっかけとなりました。特に、2020年春に始まった一斉休校で石川さんたちは大きな危機感を募らせたと言います。

 

「休校措置が始まった時は、いつになったら以前のように学校に登校できるかなどの見通しがまったく立たなかったこともあって、教育格差がより一層広がってしまうと思いました。なぜかというと、外国にルーツをもつ子どもたちにとって、学びの場は圧倒的に学校でした。しかし、一斉休校で子どもたちは必然的に家庭で学習することになりました。休校中には宿題のプリントが配布されたりもしましたが、日本の文化や言葉をもとに作られた問題を子ども一人で解くのは難しいのです。親御さんたちからも、勉強を心配する声がいくつも寄せられていました。」

1対1で勉強に寄り添う

 

家庭の様子1トリミング後2

 

「子どもたちの家庭学習を支えるために、今、できることを始めよう。」

 

石川さん、近藤さんたちが挑戦することを決めたのが、オンラインでの家庭学習支援です。同時期に「みてね基金」を知り、応募したところ採択が決定。助成金を得て、2020年7月、本格的にスタートしました。

 

「親御さんとの話の中で、パソコン環境が整っていないご家庭が多いことがわかり、まず企業から寄付されたパソコンをはじめ、タブレットやWi-Fiルーターの貸し出しなどを行いました。ボランティアの講師には、難民支援に関心のある方に呼びかけ、大学生や社会人など幅広い層の方々に関わっていただきました。」

 

今回のオンライン家庭学習支援の大きな特徴は、1対1の個別支援を実現したこと。子どもと親との面談で家庭の状況や勉強の困りごと、また子どもが集中できる時間帯などを把握。そのうえで、ボランティア講師と「ISSJ」のスタッフとで一人ひとりに合わせた教材を準備し、カリキュラムを作りました。授業は週1回、1時間。現在、主に関東地域に住む小学3年生から高校1年生までの子どもたちに対して、学習支援を無料で提供しています。

 

11での学習支援は、以前からその必要性を強く感じていました。子どもたちは違う場所でばらばらに生活しているうえ、一人ひとり、勉強のつまづきも細かく違うのです。」

 

たとえば、漢字への苦手意識から日本語の習得が難しいことが珍しくなく、読解力が不足する要因にもなるのだそう。また家庭環境でも、文化や価値観の違いから、きょうだいが賑やかに遊ぶその隣で子どもが勉強をしている家庭も少なくないと近藤さんは話します。

 

「これまで、子どもたちが暮らすそれぞれの地域で個別の学習支援ができないか何度も働きかけてきましたが、形にすることができないでいました。ずっと何とかしたいと思っていました。このオンライン家庭学習支援は、新型コロナウイルス禍がきっかけでしたが、一人ひとりの家庭学習を支援したいという以前からの課題を解決するためのスタートにもなりました。」

 

家庭の様子2

 

子どもを中心に、家族を整えていく

 

子どもたちの個別支援を実現することになった今回のオンライン家庭学習支援。進めるにあたり、どんなことを大切にしたのでしょうか。石川さんは、こう答えてくれました。

 

「私たちは普段から、子どもを中心に置いて、家族全体を整えていくことを大切にしています。移住者や難民の方々のことも全体の背景や課題などを把握し、理解したうえで支援にあたるようにしています。だから、難民の方が何かに困ったとしても解決に向けて対応できるのですが、こうした考え方や関わり方を今回も心掛けてきました。彼らの背景を理解したうえで、子ども一人ひとりに合った教材選びをはじめ、試行錯誤しながら学習内容を組み立てています。」

 

ボランティア講師に対しては、事前に外国からの移住者や難民の方々の生活などについての知識を共有。さらに、授業の前後でもネットを通して情報交換しながらコミュニケーションを細やかに取り、何か困ったことがあった時に一人で抱え込まないよう気を配ります。

 

学習支援では、オンラインの利便性も効果を表しました。それは、離れた場所にいても、画面共有という形で、WEBサイトや動画などを講師と子どもが一緒に見られること。この方法により、オフラインで一緒に勉強しているような支援が可能なうえ、パソコンを用いたオンラインならではの支援もできるようになったそうです。

 

学習支援1

 

子どもたちに表れた大事な変化

 

「できることから始めたオンライン家庭学習支援ですが、やってよかったと思っています。この新型コロナウイルス禍でも、子どもたちに合わせた学習支援を届けることができました。」

 

と、石川さん。支援を続けるうちに、子どもたち、また家族にも変化が見られるようになったと言います。

 

「たとえば、成績が目に見えて上がって、高校受験に向けて前向きに頑張っている子がいます。ある子は、最初はどうすればいいかわらかずとまどっていたけれど、続けるうちに自分の勉強を客観視して『こうしたい』と意見を言えるようになりました。そんな子どもたちのために、静かに勉強ができる環境づくりを積極的に始めたご家庭もあります。小さな変化かもしれませんが、大事な変化だと思っています。」

 

子どもとボランティア講師の信頼関係が育っているのも、オンライン家庭学習支援の効果の一つだと、近藤さんは話します。講師が子どもの状況を把握しながら1対1で勉強を教えることで、そのうち子どもが家族にも話しにくいことを相談できるようになるなど、子どもにとって講師が信頼できる存在となっているそうです。

 

「オンライン家庭学習支援を通して、子どもたちには、勉強の楽しさを感じてもらうとともに、いろいろな社会があることを知って、視野を広げてほしいと思っていました。そのなかで、親や学校の教師以外で頼れる大人ができることはとてもうれしい変化ですね。ボランティア講師の方々もとても熱心に取り組んでくださって、本当にありがたいです。みなさん、『楽しい』『子どもたちに会いたい』と言ってくださっています。」

 

今回のオンライン家庭学習支援は、2021年7月までの1年間の予定で始まりました。期間終了後は、成果をまとめて子どもたちが住むそれぞれの地域でも同じように、オフラインで1対1の学習支援が実現できないか、働きかけていくことも考えていると石川さんは話します。

 

「もともとの始まりは、一斉休校で抱いた教育格差への危機感でした。その時に『みてね基金』に採択されたことで、今回の支援をすぐに始められ、安心して続けることができました。この1年で基盤ができたと思っています。子どもたちや親御さんたちからも『続けたい』という声が多いので、一人ひとりに合ったカリキュラム作りを追求しながら、続けられるように体制を作っていけたらと思います。」

 

学習支援6

 

近所で会ったら、ぜひ声をかけてみて

 

ここまでお話をうかがった石川さんと近藤さん。おふたりをはじめ「ISSJ」の方々は、子どもたちが、オンラインを通して自分のペースで学べるように、仕組みや環境づくりに力を注いできました。ボランティア講師と子どもたちが豊かな関係性を育んでいくその影で、コミュニケーションの橋渡しをそっと続けてきました。そんなおふたりが思い描くのはどんな社会なのでしょうか。石川さんは話します。

 

「私が当事者の方だったら、誰にでもチャンスはあると信じられて、自分のやりたいことを叶えるために前へ進めることに幸せを感じるのかもしれません。何か壁を感じることがあっても乗り越えていけて、成長できる、そんな社会だといいですね。外国にルーツをもつ子どもたちやそのご家族がそう思えるように、私たちは伴走していきたいです。壁を乗り越えるのはご本人ですが、彼らがうまく克服できるようにサポートしたいです。」

 

取材の最後には、「私たちにできることはありますか?」という質問にこう答えてくれました。

 

「もし近所で、外国にルーツをもつ子どもやご家族に出会ったら、ぜひ声をかけてみてください。とても喜んでくれますし、彼らにとって日本人の方と話せることは私たちが思っている以上に大きな意味を持つと思います。それだけ孤立感を持っている方が多いのです。そしてもしよかったら、『明日、学校に持って行くもの用意できそう?』などのおせっかいもぜひ。すごくありがたいと思います。実は、料理が得意でそのことを話したいと思っているお母さんも多いんですよ。そんな話ができる関係につながるといいなと思っています。」

取材して感じたこと

 

日本の中で、二つ以上の文化をもちながら育っていく子どもの未来とその家族を支援している「ISSJ」。今回、現場のお話を取材でき、活動が身近に感じられました。多様性をもつ子ども一人ひとりが社会で活躍することで、様々な背景のもとで生まれ育った子どもを含め、すべての子どもとその家族が幸せな人生を送れる、そんな社会に一歩近づけるのかもしれません。

 

団体名

社会福祉法人 日本国際社会事業団(ISSJ)

申請事業名

難民・難民申請者の子どものオンライン家庭学習支援

 

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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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