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#ローカルベンチャー

地域にお金や人の流れを生み出す発想とは?地域産業を支える新しい仕組みづくり〜ローカルベンチャーリレーピッチvol.1〜

2021.10.26 

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地域課題の最前線にいるローカルベンチャーの担い手たちは、どんな課題に挑み、どんな未来を描いているのでしょうか。

 

地域と企業の共創を考えるオンラインイベント「ローカルベンチャーフォーラム2021〜地域と企業の共創を考える〜」のDAY3・4として、10月26~27日にローカルベンチャーリレーピッチが開催されています。モデレーターはジャーナリストの浜田敬子さん、DAY3のコメンテーターは株式会社ビズデザイン大阪の友田景さんです。全国各地の担い手によるリレーピッチの模様を6回の連載でお届けします。

 

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最初のテーマは「地域産業を支える新しい仕組みづくり」です。都市部への一極集中、人口減少によるマーケットの縮小や、後継者がないことでの黒字倒産等、地域産業衰退が全国的に叫ばれています。地域の産業は地域の人々の生活を支えるインフラでもあり、まさにその影響は地域の未来を左右します。そんな中で、地域資源を活かした新しい発想の産業づくりや、新しいお金や人の流れをつくることで地域の事業者を支えていく多様な動きが生まれています。石川県七尾市、宮崎県日南市、北海道厚真町の3地域での取組について伺いました。(会話文中敬称略)

廃業問題とノトツグの仕掛け~事業承継3.0「Reベンチャー」~

 

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大阪府柏原市と石川県七尾市の二拠点居住で、七尾市では2つの会社を経営している友田さん。そのうちの1つである「株式会社ノトツグ」(以下、ノトツグ)の取組についてお話しいただきました。

 

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友田 : 親族や幹部社員ではなく外部人材に事業承継し、事業革新を行う「事業承継3.0」がこれからの時代のトレンドになっていくと考えています。この事業承継3.0の段階のことを、我々は「Reベンチャー」と呼んでいます。

 

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2035年には今ある様々な職業が、人工知能等に置き換わっていくと予想されていますが、こういった社会を見据えて事業転換していくことが、今まさに求められています。中でも私がこれまでの3年半、七尾市の地方創生として取り組んできたのが廃業問題、つまり事業承継です。七尾市では、データにして毎年約70社の企業が倒産廃業していました。今後も2015年から2025年までの10年間で、1,100社以上が倒産廃業すると予測されています。今が2021年でもう半分過ぎているので、待ったなしの状況です。

 

いろいろなデータを見てみると、実は30代の経営者が一番売り上げを伸ばしているということがわかります。つまり、できるだけ早く世代交代しないといけないわけです。しかし一方で、3割もの企業が跡継ぎがいないために廃業しているという現実があります。その課題を解決するために立ち上げたのが、「七尾事業承継オーケストラ」です。様々な機関とネットワークを組み、情報集約や都市部での後継者募集イベント開催を仕掛けてきました。

 

その結果非常に多くの問合せがあったものの、自分でリスクを取ってまでやろうという人はあまりいなかったんです。そこで我々自身がプレイヤーになろうということで、私を含む3人の仲間で会社を立ち上げました。それが2021年10月に設立したばかりのノトツグです。ノトツグでは、可能性のある事業をどんどん買収し、次世代のために守り育てていくことを目的としています。プレイヤーでありながら中間支援も行っており、若い人が跡継ぎとして七尾市に入ってこられるような土壌を作っていきたいと考えています。

 

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例えば民宿を買い取って、ベーカリーやコインランドリーのあるB&B(Bed & Breakfastの略。朝食付きの簡易な宿泊施設)にリノベーションするといったプランの他、多くの候補があります。事業を精査しつつ、何を引き継げるかチャレンジしていきたいと思っています。

 

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事業承継の重要性を訴え、廃業問題に取り組もうという提案により、2017年の全国公募で七尾市のローカルベンチャー推進事業の責任者に選任された友田さん。七尾モデルを他の自治体にも通用するものにすべく、ノトツグでの新たな挑戦は始まったばかりです。

自治体が独自の求人サイトを運営する意味とは?「日南しごと図鑑」の取組

 

続いての登壇者は、宮崎県日南市マーケティング専門官の田鹿さんです。地域独自の求人サイト「日南しごと図鑑」について発表いただきました。

 

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田鹿 :「日南しごと図鑑」は、日南市の求人情報だけを集めたメディアです。今日は自治体が独自の求人サイトを運営することで、どれほどメリットがあるかをプレゼンしたいと思います。

 

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日南しごと図鑑 WEBサイト

 

「日南しごと図鑑」には、地域の求人情報の提供と職業紹介という2つの機能があります。ですから「今こういう仕事しているんですけど、日南市でできそうな仕事はありませんか?」といった求職者からの相談内容を踏まえて、企業とつなぐことも可能です。

 

この事業の最大のメリットは、人口動態の基本要素である雇用に関する一次情報を押さえることができる点にあります。ハローワークの求人情報を見て求人数の増減を判断するといったことはどこの自治体でもやっていますが、細かい点までは意外と把握できていないのではないでしょうか。企業の採用情報を、直接一次情報として押さえられることは大きいと思います。

 

「日南しごと図鑑」はWebメディアであるため、Uターン者や移住検討者が利用しています。一度地域を離れてしまい、なかなかアプローチできなくなった出身者に対して効果的なメディアです。実際に応募者の7~8割はUターン者や移住希望者です。

 

さらに、企業の前向きな情報をキャッチすることができます。採用情報には、企業が今後どのような事業に取り組んでいきたいかが真っ先に反映されます。例えば今後海外展開をしたいという企業であれば、英語ができる人材や海外経験豊かな人材を採りたいという情報を載せてくれますよね。求人情報について企業に聞くことで、その企業の今後が見えるのも非常にいいところです。

 

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このように求人メディアの運営は、人口動態の把握、UIターンの加速、地域企業の支援等にもつながります。興味のある方はノウハウを全公開しているので、お気軽に日南市までお声かけください。

 

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田鹿さんのピッチ後は、モデレーターの浜田敬子さんより、雇用情報を求人サイトに載せる際、企業自身が休暇や給与等の勤務状況を振り返り、他企業と比較することで雇用環境の改善につながるのでは、との指摘もありました。

「日南しごと図鑑」では求人情報を出してもらう際1件1件取材して記事にしているため、その過程で実際に「この業務でこの給与だと人が来ないので、副業を解禁してください」といったお話もされているそうです。求人メディアの運営は、地域全体の雇用環境をよくすることにもつながっているんですね。

志のある個人を起点に事業を起こす、ローカルベンチャースクール

 

本テーマ最後の登壇者は、北海道厚真町の花屋さんです。ローカルベンチャースクールの取組についてお話ししていただきました。

 

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花屋 : 厚真町では地域の産業を育成するために、ローカルベンチャー(以下、LV)事業として地域で事業を起こす起業家を集めています。地域に産業を興す場合、まずは育てたい産業分野を決め、その産業に関する助成金を作って企業を誘致しようというように、計画的に考えることが多いと思うのですが、厚真町ではやりたいことをやる「人」が起点です。その人材のやりたいことありきなので、どんな事業が生まれるかはわかりません。

 

ですが結果として、起業家の思いがつまった事業が1つ生まれれば、その事業を手伝いたい、何か自分もやってみたいと、チャレンジに対する連鎖が生まれていくと考えています。この「結果として生まれていく動き」を、計画的に対して創発的と言います。行政としては計画的に物事を進めていきたいのが普通だと思いますが、創発的なプロセスによる成果を信じて、5年間LV事業に取り組んできました。

 

この最初の起点となる起業家のために用意している場が、LVスクールです。創発的なプロセスをきっちり機能させるためには、やりきれる人材を見極めていく必要があります。見極めるポイントは、事業性とやりきる覚悟です。そのためLVスクールは、起業を目指す人達に対してひたすら問いかける場となっています。

 

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厚真町で馬搬(ばはん)林業を行う西埜将世さん

 

厚真町でLV事業の成果として上げられるのは林業分野です。厚真町の林業は今、企業間集積が進み、裾野が広がってきています。具体的には、山で切った樹木を馬で運び出す馬搬(ばはん)林業を行いたいという西埜(にしの)将世さん、切り出した木を製材する中川貴之さん、町と森をつなぎたいという思いをもった坂野昇平さんという方々が、LVスクールを通じて町に入ってきました。

 

この一連の流れの中で、地元の林産業者や、炭をつくる事業者とも縁がつながっていったんです。さらに北海道大学の森林研究会の学生など、若い人達も来町する機会が増えました。まさに人が人を呼び、チャレンジの連鎖が生まれてきている状況です。

 

2019年度の厚真町 LVSの皆さん

厚真町ローカルベンチャースクールの様子

 

資金的な面について説明すると、最初にLVスクールを通過した時点では地域おこし協力隊として着任してもらい、卒業後には新事業創出に関する助成金を用意しています。さらにもっと人手がほしいという段階になれば、地域おこし協力隊制度で右腕候補となる人材を入れることも可能です。そしてできることなら次のステージへの支援として、1千万円前後の資金が援助できればと考えています。

 

創発的プロセスの考え方は、個人だけではなく企業にも当てはまるものです。地域で何かやってみたいことがある企業さんがいれば、その思いを起点にできることを一緒に考えていきます。企業も加わることで、地域に集まっている起業家達との創発的な出会いがさらに促進されるといいなと思っています。

 

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浜田 : 地方創生では、今回登壇されたみなさんのようなコーディネーター的役割を担う人材が求められていますが、地域と都市部双方のよさやニーズを理解している人材は貴重です。コーディネーター人材にはその他どのような資質が大切なのでしょうか?

 

友田 : 1つは地域に対するリスペクトですね。地域は年配の方も多いので、自分達の価値観に合わないこともたくさんあると思いますが、地域側にもそれなりの理由があります。そういったところへの配慮があると、大きな衝突は避けられるのではないでしょうか。

それから田鹿さんのピッチの中にもありましたが、いいことばかり言わないというのはすごく重要です。地域に入れば、難しいことややりにくいこともたくさんあります。「中小企業で給与が高くないし、労働環境がいまひとつな部分もあるけど、社長はすごく熱い思いをもっているよ」というように、いいところも悪いところも包み隠さず誠実に対応していくというのは、地方と都市部をつなぐ上で大事なポイントだと思います。

 

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以上、ローカルベンチャーリレーピッチの第一回目の様子をお届けしました。

 

また現在、自分のテーマを軸に地域資源を活かしたビジネスを構想する半年間のプログラム「ローカルベンチャーラボ」2022年6月スタートの第6期生を募集中です!申し込み締切は、4/24(日) 23:59まで。説明会も開催中ですので、こちらから詳細ご確認ください。

 

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茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。