東日本大震災から10年を迎える2021年。
新型コロナウィルス感染症の影響もあり、未来の不確実性が議論される今だからこそ、東北のこの10年の歩みは、「未来のつくり方」の学び多き知見になるのではないでしょうか。「311をつながる日にする会」によるインタビューシリーズ(全6回)、最終回はNPO法人しんせいの富永美保さんです。「誰一人取り残さない社会」を目指し、障がい者一人ひとりに丁寧に寄り添って仕事づくりを模索してきた富永さんに、大切にされてきたことやこれからつくっていきたい希望溢れる地域について伺いました。
NPO法人しんせい 理事長 富永美保(とみなが・みほ)さん
福島県郡山市で、原発事故により避難してきた障がい者の仕事づくりに取り組む。農福連携事業「山の農園」を立ち上げ、持続可能な循環型の仕組みを取り入れた地域づくりに着手している。
原発事故で避難せざるをえなかった障がい者をサポートする「しんせい」がスタート
――最初に「しんせい」について教えてください。
富永 : 「しんせい」は震災の1週間後にスタートした団体です。当時は「JDF被災地障がい者支援センター福島」という名前で活動を始めました。福島県内が未曽有の状況で、障がいのある方がどのように避難しているのか心配される中、福島県内の21の障がい者団体の長が集まって立ち上げたのです。「しんせい」という名前は、「新しく生まれる」の漢字「新生」をひらがなで書いたものです。当時、「再生」という言葉がたくさん使われていたのですが、私たちは「新しい福島を目指して活動していこう」ということで「しんせい」になりました。
――富永さんはどのようにして活動に加わられたのですか。
富永 : 私は前職では福祉の仕事をしていたのですが、夫の母が末期がんになり、介護のため3年くらい仕事をしていませんでした。その義母が2011年4月末に亡くなり、自分も何か福島のためになることがしたいと、5月の連休明けからボランティア活動に参加しました。
当初は、強制避難区域になった双葉8町村にお住いのみなさんや、そこで活動していた福祉事業所を対象に、必要な支援物資の調査を行ったり、県外から運ばれてくる支援物資を届けたり、要望があれば国や県、他の支援団体に要望書を提出したりしていました。郡山市の避難所が閉鎖されるに当たって、福祉的な支援があった方が暮らしやすい方がいるのではないか、ということで行ったサロン活動の担当になりました。その中で、避難を強いられたみなさん、特に障がいをお持ちの方が大変なご苦労を背負っていることが分かり、放射能の影響も分からない不安な状況でもあったので、そういう方々がこの先立ち上がっていけるのだろうかという想いがあり活動に加わりました。
「しんせい」の皆さんの活動の様子
一人ひとりが役割を持つ仕事づくりを経験した10年
――この10年を振り返ってどんなことを感じられますか。
富永 : 目まぐるしく課題が変わった10年だったように思います。これまで自分の住む地域に福祉サービスがなく、障がいがあっても地域の中でしっかり役割を持って生活されてきた方は、避難を機に社会とのつながりを失ってしまったり、自分が「障がい者」というカテゴリーに入ることに戸惑いを持たれたりする方もいました。
そういうみなさんが、震災から1年後くらいから私が担当していた交流サロンへの足が遠のいてしまったのです。お一人おひとりにお聞きしたところ、〝話をするのに疲れてしまった〟という声がありました。「一人ぼっちで家にいるのも寂しいし、家族とトラブルになって居場所がないのも辛いけれど、毎日毎日お楽しみ会みたいなところで一生懸命おしゃべりすることにほとほと疲れてしまった」という方が大半で、仕事がしたいとか、お金はいらないから役割がほしいとか、そういう話がありました。
私たちはそれで、サロン活動を縮小して「仕事づくり」を立ち上げていくのですが、地域とのつながりのない障がいを持つみなさんが仕事を得るのは難しいということも経験しました。そして、双葉郡8町村から避難した福祉事業所のみなさんも同様に、見ず知らずの土地で事業を再開しても、公民館の掃除や小さな内職の仕事をもらうしかなく、かといって首都圏から大きな仕事をもらっても、小さな人数と短い時間と障がいのある人たちで、大きな責任のある仕事は断らざるを得ない。そういう繰り返しが起きていました。
それを解決するために、みんなで力を合わせて一つの仕事を分け合う共同の仕組みをつくりました。仕組みをつくるに当たっては、企業、NGO/NPO、市民とさまざまな立場の方々と知恵を出し合って役割を分担しました。社会課題を解決するために多様なセクターのパートナーと一緒に取り組めたのは、とても素晴らしい経験でした。
農福連携事業を行う「山の農園」
ただ、私たちは、復興に関係するような商品づくりや仕事づくりを行ってきたので、社会の関心が薄れていき、仕事が減っていく不安の中で、第2創業期を迎えています。
第2創業期に当たってスタートする農福連携事業や、持続可能な小さな暮らしを見つけていくことは、大きな災害時には強いと思っています。農家さんのご厚意で一緒にスタートした事業の拠点では井戸を掘りましたので、飲み水に困るということはないと思います。汚水をどう処理していくかということでも、電気を使わず土地が持つバクテリアの力できちんと浄化していくシステムも入れることができました。エネルギーに関してはすべて大きな力に頼らないのは難しいと思いますが、農家のおじいさん、おばあさんが入植当時やっていた木を焚いてご飯をつくっていたように、そこにあるものを有効活用する暮らしを、私たち自身も少しずつ取り入れていきたいと思っています。
科学や文明の力も大事で、昔の暮らしに戻りたいという考えではないのですが、必要なものを自分たちで調達する力を備えていくことを、少しずつ日々の活動に入れていきたいのです。同時に経済活動もしていかなければならないので、どう事業を組み立てていけばよいか大きな課題ではあるのですが。一つひとつ揃えていこうとしている自分たちの活動に間違いはないと、少しずつ確信を深めているところです。
山の農園での活動の様子
ないものをつくっていくことにロマンを感じてワクワクする
――富永さんの日々の活動のやりがい、突き動かす原点はどんなところにあるのでしょうか。
富永 : 今あるパッケージされているものを、そつなくこなすということではなく、ないものをつくっていくことにロマンを感じてワクワクします。利用者のみなさんの工賃や差し迫った予算はとても必要なのだけど、何を選択するか問われると、ときめくものをみんなで選んでそちらに進んでいく。いつも崖っぷちであることは変わらないのですが、それが楽しいのかもしれません。
――これからの夢や目標を教えていただけますか。
富永 : 社会を変えたい、という大きな目標はまったくなくて、今日一日をみんなで心から笑って終えられればそれで大満足で、その毎日がずっと続いていくことが目標です。自分たちなりの持続可能なものを作っていくというのは大前提ですが、私たちだけではなく、「しんせい」を取り巻く方たち、応援してくださる方たちも含めて、心から笑える日を積み重ねていければ、と思っています。
私は、ものをつくって、それを売ってお金にすることをずっとやってきたのですが、それに限界を感じています。障がいのある人が、一般の人と同じクオリティのものを必死になってつくることに無理があるのではないかと思うのです。ひとり一人の持っている力を伸び伸びと発揮できることが、ご本人の誇りや豊かな人生につながるし、それがお金に換えることができれば一番いいとずっと思っていて、1300通りくらいの仕事をつくってきました。
例えば、お菓子の中に入れるリーフレット、広報物を手書きでつくっていて、これは一つひとつ違う内容になっています。共感してくださるさまざまなパートナーと一緒に、難しいことではありますが、そういう大量生産ではできないものを目指していこうと思っています。
山の農園での活動の様子
――毎日の中で大切にされていることはどんなことでしょう。
富永 : 伝えたいことを言葉や文字で表現するというよりは自分が実践して、その姿を見て周りの人が気付いてくれればいい。しんせいが「誰一人置き去りにしない」社会を目指すのであれば、「しんせい」自体がそういう空間、在り方になっていて、周りの人がわかってくれるようなことがあればいいと思っています。
夢とか希望は、私の人生でとても大切なものです。私を含め「こうでなければならない」ということが苦手な人たちは、社会的に高い評価を受けられないかもしれませんが、夢や希望に向かって進んでいく過程で工夫をしたり、自分で考えたり、学んだりすることができるのではないかと思います。社会全体に閉そく感があり、我慢を強いられている人がたくさんいるのですが、コロナ禍の中でも希望や夢に光が当たることで突破できたらよい、と思っています。
――ありがとうございました。
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