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#ローカルベンチャー

大企業の持つ資源を地域課題の解決にどう活かすか?日本郵政・セイノーの取り組み〜地域と企業の共創の未来(1)

2022.02.15 

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2021年10月下旬から断続的に5日間開催された「ローカルベンチャーフォーラム2021」。最終日11月5日は、「地域と企業の共創の未来 ~我々は地域課題解決を命題とした新たな市場を創り出せるのか?」と題したセッションが行われました。

 

企業が地域と関わるときはたいてい、新規事業の小規模な実証実験や人的交流からスタートするもの。その後、自治体と企業とが一緒に市場開拓や社会実装まで目指す「共創フェーズ」へと移行するには、どうしたらいいのか?このセッションでは、自社の全国インフラを生かして新規事業に取り組む大手2社と、そうした企業を迎える地方の側から1自治体とローカルベンチャー1社が登壇。すでに始まっている共創の事例を紹介し、「企業x自治体」の関係にいま起きつつあるパラダイムシフトにフォーカスしました。

(モデレータ:NPO法人ETIC.山内幸治)

 

その充実の内容を3つのパートに分けてシリーズでお届けします。

 

【パート2・3はこちら】

>> 大切なのは地域にマイルドな競争を起こし続けること。巻組・厚真町の取り組み〜地域と企業の共創の未来(2)

>> 地域と企業が一緒に「社会の新しいパラダイム」をつくるには?実践者たちのディスカッション〜地域と企業の共創の未来(3)

パート1 : 全国展開する大企業は、そのインフラを地域課題の解決にどう活かそうとしているか

 

――企業が生み出す新事業は、どのようにして地域課題を解決する新しい社会システムへと発展していくのか。今日はその具体的事例に触れて考えていく。まず各ゲストから現在の取組みについて伺いたい。

 

■物流を活かし、物流を超えたセイノーのオープンイノベーションの考え方

 

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加藤徳人(かとう・よしひと)氏/セイノーホールディングス株式会社 オープンイノベーション推進室

Logistics Innovation Fund 室長

1998年西濃運輸株式会社に入社。現場のトラックドライバーを経て営業専門職に7年間従事、新規顧客開発を担当。管理者層向け米国式マネジメント経営システムの導入およびハンズオン業務改善支援など幅広い現場経験を持つ。2016年、オープンイノベーション推進室立上げメンバーとして自社アセット活用による価値創造を目的としたインキュベーションや新規事業構築に従事。直近では“SEINOアクセラレーションプログラム”の運用をはじめ、日本初ロジスティクス専門ファンドの設立やインドネシアでのコールドチェーン事業、農福連携事業構築など、既存事業の枠を超えた他社との共創による社会課題解決を目指す。

 

セイノーホールディングスは、西濃運輸で知られる輸送事業を中心に、自動車関連、物販、IT事業も展開している。そのなかで2016年にオープンイノベーション推進室を立ち上げ、全国のスタートアップ事業者と共に新規ビジネス創出に取り組んできた。国、地方自治体と連携しつつ、物流の目線で社会的課題の解決に取り組み、日本のバージョンアップのための価値創造につなげることを目指している。具体的には、私たちが全国に持つ営業店や社宅、物流拠点、大量のトラックやコンテナといったインフラをオープンイノベーションの概念で開放し、地域の課題解決につなげていく。

 

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直近の取組みの中からいくつか挙げると、物流センターにメーカーから食料品を集めて生活の厳しい子どもの家に送る「子ども宅食」プロジェクト(東京都文京区ほか)、物流センターの2階部分でレタスなどを水耕栽培する植物工場事業(岐阜県土岐市)、物流センターの中にオンライン薬局に対応したセントラル調剤薬局の設置(国内初、石川県白山市)などがある。

 

また、熊本県球磨郡では2年ほど前から、広大な農地で農福連携事業も運営している。障がい者を雇用し、オーガニック野菜を栽培するものだ。一次産業は物流との親和性がいい一方、地域に入るほど課題感は大きい。物流事業者が生産側に立つことで解決につながる可能性があると考えている。

 

さらに、新スマート物流事業として特に注力しているドローン物流は、各地で実証から実装の段階が視野に入ってきている。山梨県小菅村、北海道上士幌町と連携協定を結んでいるが、小菅村では今年4月以降これまで200フライトほどのオーダーがあり、11月からは有料のサービスを開始している。今後は全国600以上の過疎地域に展開を検討中だ。ただ、もちろんドローンありきではない。スマート物流とは地域ニーズに合った新しい物流をリデザインするという意味であって、ドローンが適切なら利用するということだ。

 

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こうした新事業はいずれも、セイノー1社だけでは成しえないものだ。セントラル調剤薬局はミナカラ、球磨郡の農福連携事業はモエ・アグリファーム、ドローン事業はエアロネクストというベンチャーと手を組んでいる。こうした時代の要請に応えるスタートアップにセイノーがCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)を通じて投資し、パートナーとして連携している。

 

――新規事業は構想から実行・実装に移す際に大きな苦労が伴うはずだが、そこを乗り越えるために意識していることは?

 

まさにオープンイノベーションの考え方だ。自社単独ではできないことばかりなのだから。たとえばドローン物流を地域に展開する際、いきなりヨソモノの私たちが入っていって住民の理解を得るのは難しい。小菅村や上士幌町でも、地域の行政はもちろん、中間支援団体ほか地元の方々に協力をいただいたからこそ、ここまで来られた。行政とセイノー、そのパートナーであるスタートアップがみな同じ目標を持ってワンチームとしてやっている。まずは、こういうフォーラムのような場も利用して地域とつながり、その関係を深めていくことだろう。

 

地域の将来=自分ゴトとしてローカルプレーヤーとの価値共創に取り組む日本郵政グループ

 

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小林さやか(こばやし・さやか)氏/日本郵政株式会社 新規ビジネス室 担当部長

1981年、栃木県生まれ。2006年に民営化間近の日本郵政公社に入社し、郵政グループの不動産資産を活用した不動産開発事業の企画・立案・実施に従事。2017年からは社内副業制度を活用し、地域におけるグループ不動産活用の在り方を模索し、ローカルプレーヤーとの協業を立案。2020年10月新規ビジネス室発足に伴い異動。ローカルを舞台にした共創施策を推進中。

 

当社は全国に多くの不動産を所有している。その中で東京駅前など立地条件の良い物件は収益最大化を図ることが可能だが、地方には管理コストが収益を上回る、いわゆる「負動産」も点在している。しかし、それらは東京から見ればマイナス価値であっても、実はその地域にとっては必要なアセットかもしれない。活用の仕方を工夫してプラス価値に変換していくことも、当社に必要な事業なのではないか。そう考えた私は、ローカルプレーヤーと協業して地域の郵便局の空きスペースや空き社宅を利活用する新事業を2017年に立ち上げた。これまでに実現した例から一つ挙げると、神奈川県の大磯郵便局では地元の起業家、原大祐氏と組み、空きスペースと車庫をコワーキングオフィスと保育所として活用する試みが始まっている。

 

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大磯郵便局/Post-CoWork

 

日本郵政グループは今年創業150周年を迎えた。郵便局は全国に24,000局。まさに地域密着型の事業であり、経営理念にも「地域」という言葉が2度出てくる。地域の持続可能性は、当社にとって事業に直結する自分ゴトなのだ。前島密の創業の精神は、「縁の下の力持ちになることを厭うな。人のためによかれと願う心を常に持てよ」。グループ全体で40万人が働くが、この「密マインド」をもった社員がたくさんいる。

 

しかし、実際に新事業を始めてみると、各地の郵便局が地元で活躍するローカルベンチャーを知らないとか、逆に地域のプレーヤーが郵便局をビジネスパートナーとして認知していない、という実態が見えてきた。「地域課題の解決」という共通の目的に向けて、もっと協働すればいいものを生み出せる。そう考えて、2021年夏に準備を開始したのが「ローカル共創イニシアティブ」だ。①ローカルベンチャーと共創施策を生み出す、②チャレンジしたい人材がチャレンジできる環境をつくる、という2つの目標がある。具体的には、社内公募で選ばれた当社グループ社員を、ローカルベンチャーが活躍している地域に一定期間派遣し、一緒に課題解決策を考えて実行する。このサイクルをたくさん回していこうという試みだ。

 

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こうして、知名度とネットワークを持つ当社が、アイデアと情熱、実行力に優れたローカルベンチャーと組むことで、地域自治を進化させ、持続可能な地域づくりに寄与できると考える。このイニシアティブは2022年から、宮城県石巻市を含む複数個所で同時多発的に進める予定だ。他の企業とコラボも含め、それぞれの地域に適した形に調整しながら展開していく。

 

――地域の起業家たちと会ってみて手ごたえは?

 

地域課題解決を事業化するという難しいチャレンジに取り組むローカルベンチャーたちの姿には、純粋にあこがれる。そうした取り組みを広げるために私たちのリソースを役立て、協働していくことに大きな可能性を感じる。全国に拠点をもつ当社が提供できる価値は、全国のお客様のお困りごとに対し、ローカルプレーヤーと手を組んで様々な解決の選択肢を提供することだ。一地域でのこうした取組みを私たちのネットワークを通じて広く共有し、全国のお客様に選択肢として提示することが、事業として価値のあることだと考える。

 

続き(パート2)はこちら

>> 大切なのは地域にマイルドな競争を起こし続けること。巻組・厚真町の取り組み〜地域と企業の共創の未来(2)

パート3はこちら

>> 地域と企業が一緒に「社会の新しいパラダイム」をつくるには?実践者たちのディスカッション〜地域と企業の共創の未来(3)

 


 

セイノーホールディングス、日本郵政が参画している企業と自治体によるプラットフォーム「企業×地域共創ラボ」についてはこちらをご覧ください。2022年度の参画企業・自治体募集は4月開始予定です。

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中川 雅美(良文工房)

福島市を拠点とするフリーのライター/コピーライター/広報アドバイザー/翻訳者。神奈川県出身。外資系企業で20年以上、翻訳・編集・広報・コーポレートブランディングの仕事に携わった後、2014~2017年、復興庁派遣職員として福島県浪江町役場にて広報支援。2017年4月よりフリーランス。企業などのオウンドメディア向けテキストコミュニケーションを中心に、「伝わる文章づくり」を追求。 ▷サイト「良文工房」https://ryobunkobo.com