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#ローカルベンチャー

大切なのは地域にマイルドな競争を起こし続けること。巻組・厚真町の取り組み〜地域と企業の共創の未来(2)

2022.02.16 

2021年10月下旬から断続的に5日間開催された「ローカルベンチャーフォーラム2021」。最終日11月5日は、「地域と企業の共創の未来 ~我々は地域課題解決を命題とした新たな市場を創り出せるのか?」と題したセッションが行われました。

 

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企業が地域と関わるときはたいてい、新規事業の小規模な実証実験や人的交流からスタートするもの。その後、自治体と企業とが一緒に市場開拓や社会実装まで目指す「共創フェーズ」へと移行するには、どうしたらいいのか?このセッションでは、自社の全国インフラを生かして新規事業に取り組む大手2社と、そうした企業を迎える地方の側から1自治体とローカルベンチャー1社が登壇。すでに始まっている共創の事例を紹介し、「企業x自治体」の関係にいま起きつつあるパラダイムシフトにフォーカスしました。

(モデレータ:NPO法人ETIC.山内幸治)

 

その充実の内容を3つのパートに分けてお届けしています。

【パート1・3はこちら】

>> 大企業の持つ資源を地域課題の解決にどう活かすか?日本郵政・セイノーの取り組み〜地域と企業の共創の未来(1)

>> 地域と企業が一緒に「社会の新しいパラダイム」をつくるには?実践者たちのディスカッション〜地域と企業の共創の未来(3)

パート2 : 自治体や地域のローカルベンチャーは、大企業とどう連携しようとしているか

 

■空き家活用のローカルベンチャー巻組、日本郵政と組んだ次のプロジェクト始動

 

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渡邊享子氏/株式会社巻組 代表取締役

1987年埼玉県出身。2011年、東京工業大学大学院在学中に東日本大震災が発生、研究室の仲間とともに石巻へ支援に入る。そのまま移住し、石巻市中心市街地の再生に関わりつつ、被災した空き家を改修して若手の移住者に活動拠点を提供するプロジェクトをスタート。2015年3月に巻組を設立。地方の不動産の流動化を促す仕組み作りに取り組む。2016年から2019年は東北芸術工科大学講師として教鞭をとった。2016年、COMICHI石巻の事業コーディネートを通して日本都市計画学会計画設計賞を受賞。2019年、「第7回DBJ女性新ビジネスプランコンペティション女性起業大賞」を受賞。

 

東日本大震災で大きな被害を受けた石巻市は、震災前の人口16万が現在は14万まで約2万人も減少している。そうした中でハードの復興は進み、街の風景はがらりと変わった。震災直後はたしかに家が足りなかったが、10年間で市内に7,000戸の新築住宅が供給された結果、いま全住戸の約2割にあたる13,000戸が空き家になっている状態だ。

 

私は人々のライフスタイル自体が持続可能なものにならない限り、地域の人口は流出し続けると考える。巻組は、13,000戸の空き家の中でも築古で立地が悪いなど絶望的な条件の家屋を大家から預かり、あるいは買い上げ、無駄を省いたミニマルなリノベーションを施し、リーズナブルな賃貸物件として運用している。そういう場所にこそ価値を見出してくれる若者は少なくない。一次産業に関わりながらアート制作に打ち込むなど、自由な生き方を追求する人たちが入居してくれて、彼らの存在が地域の多様で豊かなライフスタイル発信につながっている。

 

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巻組としてこれまで50軒ほどの改修実績がある。自社で運用しているのは宮城県内5地域で15軒、延べ居住者は100名以上に上る。10年間、試行錯誤しながら収益の上がる空き家活用手法を確立してきた。その中でわかったことは、地方で空き家が増える最大の理由のひとつが「相続」だということだ。築50年以上といった物件は、一世代が使い終わり次の世代に相続されたとき空き家になるケースが多い。巻組が運用中の15軒の元所有者(または大家)がその物件を取得した理由は、9割方が相続だ。また、地方の高齢者の多くは、家のほかにも処分したい動産・不動産をたくさん持っている。私たちは、そんな隠れた地域の資源を使ったアーティスト支援も2020年から行っている。

 

この切り口から、いま日本郵政さんと一緒に構想しているのは、「遺贈バンク」の立ち上げだ。2022年度からのスタートを考えている。全国24,000の郵便局を窓口として、処分したい相続財産などに関する相談を受け付け、その中から利用可能なアセットを見つけてソーシャルな領域で活動している地域の民間団体につなぐ、というものだ。つなぎ先としては、例えば農業を通した人材育成に取り組む一般社団法人イシノマキファームなどを想定している。さらに、これら事業者の将来性が評価された場合には、支援(融資・出資など)をいただくというスキームを考えている。

 

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――ひとつの地域内でやってきた事業をスケールアウトしていく際の課題はどんなものか。

 

地域にまだ価値を生み出す余地があっても、地域の人口減少自体は止められない。ビジネスとして持続性を考えれば、もっと広く市場を捉えていく必要がある。全国市場、さらには世界市場へ、いかにつながっていけるかが、これからの地方の課題だと考えている。一方、これまでの大量生産・大量消費型の住宅供給のあり方は、まったくサステナブルではない。被災地の復興もこの旧来型の発想で進められてきたが、それを変えたい。まずローカルで起こした変化が、全国に広がって世の中を変えていくのが重要だと思う。

 

空き家活用が課題なのは石巻だけではない。私たちのような地方発のビジネスを全国展開する際、人的経済的さまざまな資源の調達が必要になるが、日本郵政のような巨大インフラを持つ企業との連携によってその課題がクリアできることを期待している。

 

外部人材・企業との連携でマイルドな競争を促進、パイの拡大を目指す厚真町

 

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宮久史氏/厚真町役場 産業経済課

岩手県出身。博士(農学)。大学院修了後、札幌のNPO法人に就職。研究を続けてきた林業への関わりを増やすため、2011年に厚真町の林務職に転職。研究成果を現場で実装させることを目標に、林業振興施策や町有林管理、野生鳥獣対策に従事。2016年より、持続可能な地域づくりに向けて、地方での起業家を育成するため厚真町ローカルベンチャースクール事業も手掛ける。

 

北海道南部に位置し太平洋に面する厚真町(あつまちょう)は、人口4,400人余り。主産業は農業、町面積の7割が森林という自治体だ。

 

町人口は減少が続いているが、そのカーブを少しでもなだらかにするために、2016年から町の施策としてローカルベンチャースクールを始めた。持続可能な町をつくるために最も足りないリソースは、「志を持つ人」だと考えている。地域の課題をむしろチャンスと捉えてアクションを起こす人=ローカルベンチャーを呼び込み、支援するのが同スクールの目的だ。彼らを軸に、地元が受け入れられる程度のマイルドな競争を促すことで、人・モノ・カネの好循環をつくろうとしている。

 

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初年度のローカルベンチャースクール卒業生には、高級卵の生産農園や馬搬林業者などの移住起業家たちがいるが、その中に、通販大手の株式会社フェリシモから来た三浦卓也さんという人がいる。彼は最初、会社を辞めて厚真で起業しようとしていたが、最終的に「地域おこし企業人」の制度を活用。フェリシモに在籍しつつ、その新規事業開発担当として町の新商材開発やツーリズム開発などに携わってもらうことになった。2018年にはフェリシモ出資によるCVC(株式会社hope for)が厚真町で組成され、町内外のローカルベンチャーへの出資が始まっている。

 

また現在、町内に和牛生産用の牧場を作る計画が進んでいるが、これを運営するGOODGOOD株式会社との出会いもフェリシモを通したご縁だ。熊本県阿蘇郡を中心に繁殖から小売りまで一貫して持続可能な和牛生産を手掛けており、これを厚真町でもできないかという相談をいただいた。そこで町は、バブル期のゴルフ場開発が頓挫した跡地、約200haの町有地の提供を決定。25年間の長期貸借という大型契約を町として初めて結んだ。さらに、そのGOODGOODとフェリシモを含む民間4社が一般社団法人OPEN TOWN ATSUMAを立ち上げ、外部から人を呼びこむ機会を創出し、町のために活動してくれている。

 

企業との連携例をもうひとつ挙げると、宮城県多賀城市の株式会社ワンテーブルとはエネルギー地産地消事業を進めている。ワンテーブルは2011年の東日本大震災で、厚真町は2018年の胆振東部地震で被災した。この共通経験に基づき、日常でも非常時でも使える電気を太陽光でつくり、公共施設に供給する体制を作ろうとしている。

 

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こうした連携を進めるにあたり、私たちは町の資源のオープン化が大事と考えている。こちらで取捨選択しすぎず、まず開示してみると、見る人によっては価値を発見してくれることもある。また、町としてもある程度は失敗のリスクを負い、わからないことにも投資してみる姿勢が必要だ。そうやって一緒にチャレンジすることで、企業だけ、町だけ、町民だけ、ではなくみんな一緒に幸せになることを目指す。土地に根差しつつ多様な産業を生み出し、多様性を楽しむ文化をつくっていきたい。

 

――外の事業者と組む場合、地元との軋轢はないか。

 

軋轢はある。たとえば、町の古民家を改修して商業利用するというプロジェクトで、ゲストハウスをやるという事業者の提案を採択したときには、地元の宿泊業者から批判の声が上がった。今あるパイを守りたい人はそうやって新規参入を拒むが、我々が目指すのはパイ自体を拡大することだ。魅力的な宿泊施設が増えれば、全体としてもっと人が来てくれるはずなのだから。そこをまず前提として共有するには、諦めずに説明し続けるしかない。もちろん、町が仕掛けたことで既存の事業者を“即死”させてはいけないが、そうならない程度のマイルドな競争を起こし続けることで、パイを広げていきたい。

 

続き(パート3)はこちら

>> 地域と企業が一緒に「社会の新しいパラダイム」をつくるには?実践者たちのディスカッション〜地域と企業の共創の未来(3)

前回(パート1)はこちら

>> 大企業の持つ資源を地域課題の解決にどう活かすか?日本郵政・セイノーの取り組み〜地域と企業の共創の未来(1)

 


 

厚真町が参画している企業と自治体によるプラットフォーム「企業×地域共創ラボ」についてはこちらをご覧ください。2022年度の参画企業・自治体募集は4月開始予定です。

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この記事を書いたユーザー
中川 雅美(良文工房)

中川 雅美(良文工房)

福島市を拠点とするフリーのライター/コピーライター/広報アドバイザー/翻訳者。神奈川県出身。外資系企業で20年以上、翻訳・編集・広報・コーポレートブランディングの仕事に携わった後、2014~2017年、復興庁派遣職員として福島県浪江町役場にて広報支援。2017年4月よりフリーランス。企業などのオウンドメディア向けテキストコミュニケーションを中心に、「伝わる文章づくり」を追求。 ▷サイト「良文工房」https://ryobunkobo.com ▷ブログ「東京→福島 移住してフリーランスになった五十路の日々」https://lifeinfukushima.com

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