「人を集める」まちから、「人が集まる」まちにしたい。
2018年、NPO法人G-net(ジーネット。以下、G-net)の代表理事、南田修司さん(38)は団体のアニュアルレポートの中で、そう語ります。
「若者を集める、地元に残す。そうじゃない。どんどん世界に羽ばたいてほしい。多様なフィールドに飛び込んでほしい。それでも残りたくなるような、戻りたくなるようなまちをつくる。それが僕たちの取り組みたいことです」
それから4年たった、2022年。南田さんの言葉は着実にかたちになってきています。地域に「人が集まる」仕組み、とは何か。その先にどんな未来をみているのか。お話を伺いました。
南田修司/NPO法人G-net 代表理事
1984年、奈良生まれ。奈良学園高等学校、三重大学大学院教育学研究科修了。2009年に新卒でNPO法人G-netに加入し、副代表、共同代表を経て2017年より代表理事に就任。中核事業である長期実践型「ホンキ系インターンシップ」は地方都市初の本格的事業化に成功し、政府による複数の表彰や全国で採用される高校「政治経済」教科書でも紹介されている。また、13年より行う、中小企業の右腕人材に特化した新卒採用支援事業も大きな注目を集めている。現在は、蓄積したインターンシップのコーディネートノウハウを活用し、大学教職員向けの研修や、カリキュラムの共同開発、社会人向けのプログラム開発にも従事し、地域と若者をつなぐ新たな仕組みづくりを進めている。
岐阜のことを考えるほど、岐阜のことだけ見てたらダメだと思うように
G-netは、2001年に「岐阜の街を元気にしたい」と立ち上がった団体です。地域の中小企業と挑戦意欲の高い若者をつなげ、若者の育成と地域産業の活性化を両輪で行っています。
岐阜に対しての熱い思いは並々ならぬものがあるのに、ホームページには「岐阜」の言葉がほとんど出てきません。仕掛ける、関わるプロジェクトは、岐阜を超えて全国規模。
地方の共感する事業にプロジェクト単位で参画できる兼業プラットフォーム「ふるさと兼業」、高校生から若手社会人まで、世代や地域を越えた人が集うオンラインコミュニティ「つながるキャンパス」、全国の地域と連携しながら、地域とともに新しい最先端をつくる大学、Co-Innovation University(略称:CoIU・仮称/呼称:コーアイユー)。
「岐阜のことを考え続けた結果なんです。岐阜のことを考えれば考えるほど、岐阜のことだけ見てたらダメだって思うようになりました」(南田さん)
地域に囲いこまない。一定の緊張感を持つ
「ふるさと兼業」のスタートは、2018年。きっかけは、南田さんが仕事で出会った、青森出身で東京で働く、ある女性の言葉でした。「青森に帰るか帰らないかで、3年も悩んでいる」、と。
「給与が下がるのは仕方ない。でも、青森に帰っても、どんな人とどんな仕事ができるか分からない。今の職場に充実感もある中で怖くて踏み切れない」(女性)
色んな人に会う中で、同じ悩みを抱える人は多いことに気づいた南田さん。今の仕事を続けながら、故郷のプロジェクトに参画できる「ふるさと兼業」を立ち上げました。
「『ふるさと兼業』をつくる時に考えたんです。岐阜の兼業WEBをつくるか。全国をカバーする兼業WEBをつくるか。数年先のトレンドや市場を考えたら、岐阜の兼業WEBをつくっても、まぁー、無理だろうなって思ったんですよ」
南田さんが考えたのは、童話『スイミー』のやり方です。小さな魚のスイミーが、マグロに立ち向かうため、仲間を集めて1匹の大きな魚をつくった話。南田さんたちは、大きなビジョンを描き、その夢を共有できる仲間たちと共に、全国をカバーする兼業マッチングサービスをつくりました。
「この方が、数年後の岐阜への流入人材も確実に増える。そういう仮説が僕の中にありました」
結果的に、ふるさと兼業は登録者7000人を超える、G-netの中核サービスに成長しています。
「つながるキャンパス」も構造は似ています。「つながるキャンパス」は、コロナ禍の若者支援のために立ち上がったオンラインコミュニティ。サークル活動やアルバイトなど社会との接点が絶たれてしまった若者たちに、多様な大人たちとの出会いを提供しようとスタートしました。全国各地のNPOや地域の企業を巻き込み、750名の若者と、190名の社会人サポーターが参画しています。(2022年4月時点)
「もし、『コロナ禍の若者たちに岐阜との出会いを提供する』だったら全く違う結果だったと思うんです。日本全国の方々と一緒にやることで、結果としてたくさんの若者たちが集まってくれたのだと。そして、その中で、G-netとして届けたいものを真面目に情報発信し続ける」
囲い込まない。選択肢を広げる。その代わりに、僕たちが魅力的だと感じる岐阜を示し続ける。一定の緊張感を持ち続けて、正々堂々と勝負する方が、地域にとって良いと判断した、と南田さんは言います。
コーディネートの肝は、どれだけ大きく振れるか
「ふるさと兼業」でコーディネーターを務める掛川遥香さん(28)は、神奈川県川崎市出身。北海道大学卒業後に岐阜に移住し、新卒でG-netに就職しました。移住の決め手は「G-netが岐阜にあったから」。“魅力的な岐阜を示し続ける”という先ほどの南田さんの言葉よろしく、魅力がちゃんと届いた好例です。でも、「同級生の中では、圧倒的に異端児」。掛川さんは言います。
「就活は、東京の大企業を選ぶのが当たり前でした。『地域で働く』とか、『地元に帰る』とか、『名も知られていない企業で働く』とか、そういう道は選ばれない。これを変えるには、選ばれる側(中小企業側)の情報発信を変えなきゃいけないって思っていました」
リサーチする中で、地域に密着して活動しているG-netに入れば、魅力的な中小企業の情報も手に入るのではないか、と飛び込みます。
「いろんな人と関われるのが、G-netの面白いところ。見える世界がどんどん広がっていくな、と思います」(掛川さん)
企業の採用相談、兼業志望の社会人との面談など、掛川さんは、週の半分はミーティングに費やしているそう。掛川さんは、印象深いコーディネート事例をこう話します。
「先日あった事例で、あまり成果が出せなかった兼業プロジェクトがありました。兼業人材の方は、情報発信を担当していたのですが、発信内容に腑に落ちない点があったそうで、うまく進められなかったんです」
受け入れ企業からの厳しい反応を予想していた掛川さん。しかし、実際にもらったのは、「今後も兼業人材を受け入れたい」という声でした。
「“当たり前”だと思っていることを見直す、よい機会になったと言ってくださっていて。全然バックグラウンドが違う人たちが社内で活躍してもらうためには、もっと企業側の勉強も必要だと感じてくださっていました」
成果も出て、関わる人にも学びがあるのが一番良い。でも、「ちょっと成果が出て『頑張りました』ってうまくまとまるよりは、ずっと意味のある失敗だったと思っています」(掛川さん)。
南田さんは言います。「良いコーディネートとは、真ん中にいることじゃない。大きく振れるんだ」と。
「『ああした方がいい』『こうした方がいい』『これが大事』『あれが大事』みんな、いろんなことを言うわけですよ。全部正解なんですけど、現状、全部違うわけです。一人ひとりの意見を尊重しながら、『このチームは何を正解にするべきなのか』『もっとも軸におくべき思いはどこにあるのか』などを、行き来して、振れながら1つにまとめていく。この過程を経ると、チームに推進力がうまれてくる」
チームをまとめていくときに、大切になるのが共感や配慮、相手に対する理解。「これらがあるのとないのとでは、収斂(しゅうれん)のしやすさが全然ちがう」と南田さんは言います。掛川さんの事例では、「失敗」という結果に振れた後、受け入れ企業側に「改善しよう」というさらなる推進力が生まれていました。掛川さんが相手に対して共感や尊重をもって接していることが想像できます。
大企業やスタートアップに、地域の選択肢を並べる
自分と意見や背景が異なる人と出会い、相手に対する理解や共感の姿勢を育む。まさに、その場にふさわしいプロジェクトが飛騨を舞台に進んでいます。Co-Innovation University(仮称/呼称・CoIU/コーアイユー)です。
CoIUは、2024年の開校を目指す私立大学。多様な地域社会での実践を軸に、地域・世界とつながりながら、新しい未来を共創していくことを目指しています。学生たちは、経済・工学(まちづくりやデータサイエンス等)・芸術などの学問を学びながら、日本各地の現場に飛び込み、課題解決プロジェクトへの挑戦を通じて学んでいきます。
発起人は、井上 博成(ひろなり)さん(32)。高山市の出身で、高校生の頃から「生まれ育った町に大学をつくりたい」と漠然と考えていたそう。
井上さんは、東日本大震災をきっかけに、持続可能な地域づくりに関心を持ち、自然エネルギーに関する研究を京都大学大学院で開始します。飛騨高山でビジネスをしながら大学院生活を送った井上さん。大学は利害関係を超えて共創できる場所だと感じ、「大学をつくりたい」が「つくろう」に変化。設立に向けて動き出しました。(※)
学長候補には、医療、ビジネス、政治など幅広い分野で活躍しているデータサイエンティストの宮田裕章さん。宮田さんの書籍を読んでビジョンに共鳴した井上さんが、「この人しかいない」とお声がけしたと言います。時代の最先端で活動する人から、地域の伝統産業を守る人、民間企業からNPO職員まで、あらゆる人たちがこのプロジェクトを進めています。
G-netが担うのは、学生と地域をつなぐプログラム、通称「ボンディングシップ」のカリキュラム開発からコーディネートの仕組み作りです。絆という意味の“ボンド”と“インターンシップ”を掛け合わせており、課題解決の実践と多様な人たちとの対話の中で、地域との絆を育みます。
南田さんは、CoIUでやりたいことをこう話します。
「僕らは、“地域万歳”って言いたいわけじゃ全くない。無理に地域に人を流したいわけじゃないんですよ。フラットに見たときに地域に面白さや可能性があるんだ、と伝えたい。大手企業やスタートアップと出会う機会ももちろんあり、そこに当たり前のように地域も選択肢の中に並んでいる。そんなカリキュラムをつくりたいって思っています」
地域が、頑張れば頑張るほどお互いが楽になる仕組み
「ふるさと兼業」「つながるキャンパス」「CoIU」、一見バラバラに見える3つのプログラムですが、南田さんはそれぞれのプログラムが互いに循環する未来を描いています。
「つながるキャンパス」に参加した学生や社会人が、「CoIU」を知って入学する。「CoIU」の卒業生が、卒業後も「ふるさと兼業」でいろんな地域に関わりつづける。G-netは、岐阜を土台に、地域と人との出会いをつくるプラットフォームを拡大していきます。
「このプラットフォームを通して、『岐阜が頑張ってる、だから他地域も頑張れよ』じゃなくて、『岐阜が頑張れば、頑張るほど他地域も楽になる。他地域が頑張れば頑張るほど、岐阜もちょっと楽になる』、そういう地域を越えた連携がつくれたら、と思っています」
アクティブユーザーが増えれば増えるほど価値が高まるSNSのように、魅力的な地域が増えるほど、プラットフォーム全体の魅力が高まる。それによって、地域に人が自然と集まってくる。そんな未来を目指しています。
思いを言葉に、言葉を行動に
壮大な構想を着々と進める裏には、南田さんの、ある一つの信念があります。
南田さんが、三重県のある町を訪れたときのこと。地元で生まれ育った方が、海沿いを歩きながらこんな話をしてくれたそうです。
「家の前は、市場だったんです。300メートルくらい、ずらーっと道が埋まるくらいに魚が並んでいました。漁師もたくさんいて、漁船もたくさんあって。売れるから魚もたくさん入ってきて。で、30年たった今、市場は移転し、漁船も減り、同級生の中で漁師は3人しかいません」
市場は別の場所に移転。売れる場所に魚をおろすので、漁船も入ってこなくなったといいます。「この海でとれた魚なのに、この場所に入ってこないんですよ」
なぜ、そんなことが起きたのか。それは、一人ひとりの親が子どもにかけた、言葉の積み重ねでした。
「漁師になんかなるな、都会に出ろ」
一人ひとりの親は、子どものためを思ってそう言いました。しかし、みんながそれをやった結果、漁師町の活気が消えてしまいました。たった一人の言葉の力は小さくても、積み重なると大きな流れになるのです。
「もしも、子どもたちに違う言葉をかけて、30年積み上がっていたら。今とは違った流れがきっとあったと思うんです。この町の面白さ、仕事の可能性、次への展望、今度やってみたい挑戦っていうことを、僕らは地域の中で語り続けていきたい」
南田さんは続けます。
「岐阜だけではなく、石川や北海道や、宮城や各地の仲間たちが、同じように町の可能性を信じ、言葉にしていく。日本全体の人口は減るかもしれない。でも、これを各地域が30年積み重ねるのと、そうでないのとでは、全く違った流れが生まれるはず。その状態を僕らはつくりたい」
「つくりたい、というか、『つくれる』って信じているってことかもしれません」
◇◇◇
思いを言葉に、言葉を行動に変えていく。南田さんら、G-netのみなさんが紡ぐ言葉とチャレンジは、きっとこれからも、日本の未来を切り拓いていくのだと思います。
<参照>
※1:CoIUホームページ『【座談会】飛騨から文明をつくる ? ! 地域からはじまる新しい共創(学長候補・宮田裕章氏×理事会×水野学氏 )』
※本記事は、求人サイト「DRIVEキャリア」に掲載された企業・団体様に、スタッフが取材して執筆しました。
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