「みてね基金」は、子どもの写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」の社会活動として、「すべての子ども、その家族が幸せに暮らせる世界を目指して」活動する非営利団体を支援しています。
2022年9月27日に公募を開始した第三期「ステップアップ助成」では、「みてね基金」が定める「難病・障がい」「教育」「貧困」「出産・子育て」「虐待」の5つの領域で社会貢献活動を行う非営利団体が、事業基盤や組織基盤を固め、事業や団体のステージを一段アップさせていくための取り組みを支援します。
(第三期「ステップアップ助成」は2023年1月11日正午にて、受付を締め切らせていただきました。)
そこで、今回の記事では「みてね基金」の立ち上げ当初から関わっている事務局メンバー2人にインタビュー。第三期を実施するに至った背景や申請のコツ、「どんな団体に応募してほしいか」などについて伺いました。
本木 裕子(NPO法人ETIC.ソーシャルイノベーション事業部 コーディネーター)
外資系の消費財メーカー、国際協力NPOや企業の広報・PR、海外勤務を経て2015年にETIC.に参画。NPO・ソーシャルビジネスの成長支援や、ソーシャルリーダー向けのリーダーシップ支援、企業のソーシャルインパクト拡大に向けた活動などに携わる。岨中 健太(株式会社MIXI Vantageスタジオ 事業推進室 室長)
2005年にイー・マーキュリー(現MIXI)に入社。「Find Job!」(現FINDJOB!)の営業や商品開発、SNS「mixi」の事業責任者などを経験。2019年12月から「みてね基金」の立ち上げを開始。現在はみてね基金事務局に関わりながらMIXIの複数部門の業務を手がける。※こちらは、「みてね基金」掲載記事からの転載です。NPO法人ETIC.は、みてね基金に運営協力をしています。
非営利団体の「経営リソース強化」によりフォーカスした理由
――まずは、第三期の「ステップアップ助成」について教えてください。
岨中 2020年に実施した「みてね基金」の第一期では、コロナ禍の緊急支援をテーマにNPOへの助成活動を行いました。続く第二期では、事務局を一緒に運営しているETIC.さんの知見も生かしながら、革新的な取り組みを支援する「イノベーション助成」と、地域に密着した活動を行う団体の組織基盤の強化を支援する「ステップアップ助成」の2つを実施しました。
現在公募中の第三期では、引き続き「ステップアップ助成」を実施します。第二期との違いは、第二期の伴走支援で得られた知見を生かして、経営リソースの強化によりフォーカスしている点です。非営利団体((特定⾮営利活動法⼈(NPO)、財団法⼈、社団法⼈、社会福祉法⼈など))の人材育成や組織づくりなど「緊急度は低くても重要性が高い」経営課題に取り組むために、使い道の自由度が高い資金を提供します。
――経営リソースとは、具体的にどのようなものですか。
本木 非営利団体のステップアップには「人」「事業」「資金」が必要だと考えています。第二期で採択された団体の伴走支援をするなかで、この3つがバランスよく整っているところや、これらの重要性に気づいて整えようとした団体ほど飛躍的な成長を遂げる様子を見させていただき、非営利団体の成長には経営リソースが大事だと改めて実感しました。
非営利団体の場合、1人や2人など少人数で事業を立ち上げることがほとんどです。まずは「人」と「事業」から活動をスタートしたとして、どう「資金」をつけていくか。そして、資金を得る仕組みをつくるために、事業と組織をどうバランスよく成長させていくか。この点がステップアップにつながると考えています。
――第三期の「ステップアップ助成」では、1団体あたりの助成金額を最大1,000万円(下限500万円)としていますね。この金額には、どのような思いが込められているのでしょうか。
岨中 最大1,000万円という金額は、ひとつの課題を解決することや特定の事業を改善するという観点ではなく、団体の事業全体を俯瞰して見たときに、足りない部分を強化するために必要な金額を意識して設定しています。
本木 非営利セクターになにが必要だろうと考えたとき、中・長期的に大切なことに使える助成金が足りないと考えました。
たとえば、創業から一歩ステップアップするための基盤整備の支援は特に足りていません。このソーシャルセクターが成長していく過程を支援する存在も大切だと思っています。
第二期同様、今回の「ステップアップ助成」でも、団体職員の人件費や管理費などにも助成金を使うことができます。団体の状況に応じて、人を雇ったり、事業に使ったりしながら、2年後には3つの経営リソースが潤って、今よりステップアップしている状態をつくっていきたいと思っています。
岨中 最長2年間の助成期間が終了したあとも、中・長期的なステップアップを実現するための資金として活かしてほしいですね。
経営リソースの「現在地点」と「目指す地点」に向き合うための「団体の現状分析シート」
――その想いが、第三期の「ステップアップ助成」に応募用紙のなかにある「団体の現状分析シート」の内容につながっているのですね。
※上記ページから「応募用紙(Excel)」をダウンロードし、「様式2 団体の現状分析シート」タブをご確認ください
岨中 はい。ステップアップを着実に支援するためには、申請する団体の皆さんと「みてね基金」が、経営リソースの「現在地点」(人・事業・資金がどの程度備わっているか)と「目指す地点」(これからどこを伸ばすのか)について共通の認識を持つことが大切です。
団体さんには、「団体の現状分析シート」を書くプロセスを通じて、自分たちの組織が成長するために必要な要素を感じ取ってもらい、そして、「私たちは助成金でこの部分を強化したいです」と言って申請してもらえたらうれしいと思いつくりました。
本木 自分たちの組織の課題に気づくには、「内省する」「外部の人に指摘してもらう」という2つの方法があります。まずは内省に役立つツールをご提供したいと考えて、海外の参考事例などもフル活用しながらつくりました。
一方で、外部からの視点も大事です。そのため、「みてね基金」の助成金を使って外からメンターや有識者をお招きし、組織の体制を整えていただくことも歓迎しています。
――それにしても、このアセスメントシートはかなりのボリュームですね。シートをつくるのにも、項目すべてを埋めるのにもかなり時間がかかりそうです。
岨中 シートづくりにはものすごく時間かかりました。「この項目を入れることに意味があるだろうか」「申請団体さんが答えにくいのではないか」など、一つひとつ悩みながらつくっていきました。ETIC.さんは、架空の団体を想定しながら試しにシートを埋めてみていましたよね?
本木 よくご存知ですね(笑)。実際に書いてみた感想として、ボリュームがあるとは実感しています。
岨中 助成金の申請をするのが初めてだったり、申請作業を誰かにお願いされていた団体さんは、シートを埋めるだけでかなり時間がかかるかもしれませんね。
本木 ちなみに、ここは大事なポイントなのですが、申請する時点ですべての項目が完璧にそろっている必要はありません。「ステップアップ助成」は、これからの成長を目指す団体を対象としています。どんな団体にも経営課題があるのは当たり前ですし、そこに成長余地があると考えています。現状の認識を、飾ることなくお書きいただきたいです。
岨中 また、応募時には申請活動の計画も出していただきますが、必ずしも計画どおりに進めてほしいとは思っていません。目標を掲げることはもちろん大切です。でも、やってみたら思ったようにいかなかったり、取り組むべき新たな経営課題が見つかったりするのは日常茶飯事です。必要に応じて軌道修正しながら、着実にステップアップしていけるように一緒に考えていきたいです。
ちなみに、「みてね基金」を始めるとき、ETIC.の皆さんから「『変えること』を前提にした助成金や支援金はとても珍しい」との声をいただきました。私は事業会社に長く勤めていますが、事業を進めながら必要に応じて軌道修正していくのは当たり前だし、それでこそより良いサービスやプロダクトになるのではと思っています。非営利団体についても新規事業や事業運営と似た感覚で見ているところは、「みてね基金」の特徴のひとつかもしれません。
本木 計画が変わることを前提に助成金を出すというのは、民間だからこそできることだと思います。とはいえ、民間の助成金でもここまで使い道に制限がないのは珍しいです。それは「みてね基金」に個人の資金を提供している笠原さん(MIXI取締役ファウンダー上級執行役員)の「団体の皆さんを信頼し、応援する」という懐の広さの現れだと思います。
一方で、採択団体さんにとっては厳しい部分でもあると思います。なぜなら、「できませんでした」は通用しないからです。「できない」となったら、「では、どうしましょうか」と私たちは問い続け、一緒に考え続けます。今回の助成期間は最大2年です。動いてみて得られた気づきや知見を反映していくことが、より良い成果をもたらすと考えています。
「足りない部分に向き合う覚悟を決め、一緒に歩んでいける団体」とインパクトをつくっていきたい
――第三期では、どんな非営利団体に応募してほしいですか。
岨中 自分たちに足りない部分にまっすぐ向き合うという覚悟を決めて、一緒に進んでいける団体さんが理想です。支援期間が終わったときに、「ステップアップ助成はもう必要ないです。次はイノベーション助成に申請します!」と言ってもらえるところまで到達していたら最高ですね。
本木 私も同じです。中・長期的な安定やインパクトを一緒につくっていきたいです。
――一方で、「自分たちも応募していいの……?」と迷われる団体もあるかと思います。申請対象になり得るかどうかを見極めるポイントはありますか。
岨中 「団体の現状分析シート」を書いてみて、自分たちに足りないところが見つかり、「ここが埋まればステップアップできる」と思考を切り替えられた団体さんにはぜひご応募いただきたいです。
「みてね基金」では2022年12月13日(火)正午まで、不定期で個別相談を受け付けています(申し込みフォームはこちら)。ご不明な点や不安なことがあれば、個別にご相談いただくのもおすすめです。
本木 個別相談の枠を使って事務局メンバーと話しながら団体の現状を整理していただくのもアリだと思います。また、応募用紙に記載する「助成金で取り組む活動」については、組織の核になっている事業を中心に考えていただいたほうがステップアップにつながりやすいと思います。
――採択団体はいつごろ決定しますか。また、助成期間にはどんなサポートを受けることができるのでしょうか。
岨中 公募の締め切りは2023年1月11日(水)正午で、採択は2023年3月を予定しています。採択された団体さんに対しては四半期に1回、みてね基金事務局メンバーが面談を通じて事業や組織のステップアップに向けた伴走支援を行います。採択団体同士のレビューも、年に1回のペースで実施する予定です。
本木 面談以外にも、必要に応じて団体さんと事務局がメールやSlack(チャットツール)でやり取りをします。採択団体さんには「必要なことがあれば声をかけてくださいね」とお伝えしていて、距離感は近いです。これも「みてね基金」の特徴です。
岨中 「みてね基金」の事務局は、MIXIとETIC.のメンバーが共同で運営しています。お互いの知見をうまく生かしながら伴走支援をするためには、各団体さんの状況や、求めていることをしっかり理解することが不可欠です。団体さんのステップアップに対するニーズにお応えしてこそ、お互いの満足感や納得感が高まりますし、このくらいの距離感じゃないと結果を出せないと私は考えています。
本木 ステップアップの道筋をつくるために、団体さんとは全力で向き合います。
「みてね基金」第三期 ステップアップ助成 公募概要
>> 「みてね基金」 第三期 ステップアップ助成 よくあるご質問
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