少子高齢化や人間関係の希薄化が深刻化する地域社会において、自治体やNPOが主体となり、さまざまな「居場所」がつくられています。一部の居場所は、地域住民の新たな交流やつながりを生み出す場として機能するなど、今や「居場所づくり」は地域づくりにおける一手段として捉えられるほどです。
では、「地域づくり」の実践者にとって「居場所」はどんな存在なのでしょうか?
これまで開催されてきた連続オンラインセミナー「居場所づくりは地域づくり―地域と居場所の新しい関係性を目指して」(実行委員会 : 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ、NPO法人エティック)の第1フェーズでは、「居場所づくり」の実践者の声を聞き、居場所づくりと地域づくりの関係性について考えてきました。
第2フェーズとなる今回は、「地域づくり」の実践者が考える「居場所」について互いに意見を交換しました。セミナーの一部を抜粋してご紹介します。
<パネリスト>
丑田 俊輔(うしだ しゅんすけ)さん ハバタク株式会社 代表取締役
森山 奈美(もりやま なみ)さん 株式会社御祓川 代表取締役
豊田 庄吾(とよた しょうご)さん 島根県海士町役場
<モデレーター>
飛田 敦子(ひだ あつこ)さん 認定NPO法人コミュニティ・サポートセンター神戸 事務局長
湯浅 誠(ゆあさ まこと)さん 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 理事長
三島 理恵(みしま りえ)さん 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 理事
川島 菜穂(かわしま なほ) NPO法人エティック ソーシャルイノベーション事業部
番野 智行(ばんの ともゆき) NPO法人エティック ソーシャルイノベーション事業部
※記事中敬称略。パネリストのプロフィール詳細は記事最下部に記載。
※イベントは、2023年12月に開催されました。本記事は当時の内容をもとに編集しています。
捉え方が異なる「居場所づくり」と「地域づくり」の共有を
湯浅 : 居場所づくりと地域づくり。この2つの関係性を考えるにあたり、地域づくりの実践者から居場所づくりはどう見えているのかについてお伺いしたいと思います。
私はもともとホームレスの人たちの支援を行っていました。当時は、課題がある人の居場所をつくっていたように思います。そして活動には、自治体や町内会などの地域の人たちに、ホームレスの人たちのことを「わかってほしい」という思いを込めていました。そのとき目指していた地域づくりのイメージは、居場所に優しい地域になることでした。
20年が経った今、地域コミュニティの衰退、無縁社会、さらには孤独・孤立が社会的課題として浮上し、地域そのものがぐらつくようになりました。「こども食堂」をはじめ、自治会や商工会による居場所など、居場所づくりが積極的に行われるなかで、これからの地域づくりは「多様な居場所のある地域にすること」ではないかと思っています。
しかし、居場所づくりと地域づくりの捉え方は、人によって違います。お互いがどう見えているのか、それぞれがイメージする居場所づくりと地域づくりを共有しながら、両者が同じ文脈で話せることを目指したディスカッションをしていけたらと思います。
人によってイメージが異なる「居場所づくりと地域づくり」
地域に自治力が芽生えると、自然と新たな活動が生まれる──ハバタク株式会社 丑田俊輔さん
丑田 : ハバタク株式会社は、コミュニティづくり、遊びと学び、共助(コモンズ)をテーマにしたさまざまなプロジェクトを行っています。
2014年に人口約8000人の秋田県五城目町(ごじょうめまち)へ移住し、2015年、茅葺古民家を拠点にした、都会と田舎がシェアし学び合う「シェアビレッジ」を立ち上げました。
シェアビレッジは、この古民家を仮想の村に見立て、年貢(会費)を納めることで住む場所にとらわれず、誰でもデジタル村民になれる仕組みとして始まりました。現在は、茅葺古民家の宿泊施設「シェアビレッジ町村」と、そこから生まれた新たな集落「森山ビレッジ」を運営しながら、地域に暮らす人や関わる人達がつながり合い、多様な住まいが育まれる場づくりを進めています。
活動を続けてきて実感するのは、関わる人たちの住む場所に関係なく「共助」が拡張していること。地域の外から来た人と地域住民が一緒になって屋根の葺替えをしたり、集落のお祭りを再生させたり、二拠点で暮らして学ぶ人が増えたりと確実に変化が生まれています。こうした「コモンズ」が、地域には豊かに存在しているのだと感じます。
森山ビレッジ
五城目町で約520年続く「朝市」も、おばあちゃんたちの組合が自治し、公共の道路に出店していることから、コモンズと捉えることができます。地域の人たちの居場所でもある一方、地域コミュニティの高齢化やライフスタイルの変化で、朝市を継続できないという声もあがっていました。そこで若い女性たちが中心となりスタートしたのが「ごじょうめ朝市plus+」です。
2015年に始まったこの「ごじょうめ朝市plus+」には、まちに暮らす人はもちろん、移住者や起業家も含めいろいろな人が出店しています。小商いもボランティアの活動も、多種多様な営みがこの通りに共存・並存するようになりました。
そして2017年には、この通り沿いの空き家に「ただのあそび場」を立ち上げます。地域の親子約60人ほどで改修した「ただで」誰でも来れる「ただの」スペースです。学校終わりに遊びに来る子どもたち、迎えに来る親たちで通りが賑やかになると、高齢者の方たちからは元気が出るという声もありました。
このように「ごじょうめ朝市plus+」から「ただのあそび場」へと活動が飛び火し、地域につながりの資本が豊かになると、その土壌の上に生まれていったのが小さな経済です。「ただのあそび場」の1階にカフェが、さらには他の空き家を活用して小さなお店やコミュニティスペースもできるなど、この5〜6年の間に、歩いていける範囲に20軒を超える場が入り交じるようになりました。
それぞれが暮らしの中にコミュニティやコモンズを持ち、地域に自治力が芽生えると、自然と新たな動きが生まれるのだと感じています。コロナで休業した温泉では、常連さんたちや高校生が共に出資し合同会社を立ち上げ、地域住民の力で温泉を継続させた事例もあります。
これからは「共助・コモンズ」を新しい視点で「再発明」していきたいですね。また、これまでの活動から感じているのは、コミュニティの場としての居場所は複数が緩やかに、まちの中にあったらいいということ。いくつかの場に所属していいし、無理に一つにまとめる必要はないと考えています。各コミュニティの運営は、お金を介するものから完全なボランティアまでさまざまなので、経済圏も複数あったほうがいいと思います。
「住民自治」は地域の課題を解決する手段ではなく、目的──株式会社御祓川 森山奈美さん
森山 : 株式会社御祓川は、石川県能登エリアを中心に「まち・みせ・ひと」の3つの柱でまちづくりを行う企業です。御祓川(みそぎがわ)の川沿いにお店をつくる事業からスタートし、2007年の能登半島地震をきっかけに中間支援組織としての活動を展開しました。「能登スタイル」や「能登留学」を手掛けながら、一人でも多くの人が地域のための一歩を踏み出せるよう支援をしています。
株式会社御祓川の経営理念
これまでの地域づくりが、地域の人たちの居場所にもなっていると感じています。例えば創業当初から運営する御祓川沿いのお店「麺の華」は、66歳のおばあちゃんが起業したお店です。80代になった今でも、毎朝自転車でやって来てお店を開けるわけですが、それと同時に周辺のお年寄りたちもお店へ集まってきます。こうした居場所をおばあちゃん自身がつくっていることが、私たちにとっては何よりの福祉事業だと思っています。
また、私たちは地域のビジョンづくりの支援も行っています。人口減少が深刻な農村地域では、地域住民が議論して「ビジョン」と「農村で残したいもの」を決め、さらに、それらを守っていくための「人と仕組み」をつくらなければなりません。私たちは、この「人と仕組み」づくりを実現するために、能登半島の企業や集落と若者が関わり、自分らしいキャリアをデザインする「能登留学」を行ってきました。
能登留学を10年以上続けてみて分かったのは、地域課題が難しいほど優秀な学生が来るし、課題が多いほど関わりしろがあるということ。地域の人にとっての課題は、見方を変えると当事者意識が高い外部の人材を呼び込む有力なコンテンツなんです。
経済的豊かさと幸せ感のギャップを埋めるものは、「住民自治の充実度」だといわれています(『幸福の政治経済学』/ダイヤモンド社)。地域の人たちが自分で考え、決め、実行することが住民自治です。住民が参加することは、地域課題を解決する手段だと今まで思っていましたが、実は逆でした。住民自治を豊かにすることこそが、人々が幸せになる道なのだと感じています。つまり、地域の課題解決の先に見据えるものが、自分たちの手で自分たちの地域をよりよくしていく住民自治の営みなのです。
かつてのまちづくりは、大きな目標に向かって全員が力を合わせる進め方でした。今のまちづくりでは、一人ひとりが抱く住みたいまちのイメージに寄り添い、実現するサポートが多く行われています。私のビジョンが、まちのビジョンになっていく。そんな営みが増えてきたと感じます。
地域づくりにおいては「まちづくり会社型」「ワークショップ型」の2つのタイプがあると気づきました。スピード感を持って、腹をくくりリスクを取って進める「まちづくり会社型」と、みんなで意見を出し合いながら、充実感を大事にして楽しく進める「ワークショップ型」と、どちらも地域経営には必要です。「まちづくり会社型」でシステム化する一方、時には「ワークショップ型」でほぐしていくことも大切だと思っています。
島の滞在人口と地域住民が、いかに混ざり、開かれ、つながるか──島根県海士町役場 豊田庄吾さん
豊田 : 海士町(あまちょう)は、島根県に浮かぶ人口約2,300人の島です。「ないものはない」をスローガンに掲げ、島をあげて魅力の創出に取り組んできました。
「ないものはない」のポータルサイト
産業の担い手や人手不足という深刻な問題を抱えていた海士町では、島の外から若者を呼び込み人の流れを生み出そうと、2021年に「還流おこし」プロジェクトを立ち上げ、私も当初から携わりました。
活動で大切にしているのは、帰りたいと思えるまちをつくることです。人口減少地域では、子どもたちに、将来の担い手になってもらうために「(この地域に)還ってこい」と言いますよね。ただ、強く言いすぎてしまうと、子どもたちにそれを強いることになってしまう。どうすれば、この「還ってきてもらうこと」に関わるプロジェクトがいろんな人たちに応援してもらえるか、考えました。
そこで思いついたのが、シャケの事例です。ともすると、ふるさと教育や地域教育が、「地元に戻ってこさせる教育」になってしまう。そうではなく、子どもたちが、自分の意志で還ってきたいと思えるために、大人たちがどうするか、を考えることが大切だと考えました。
シャケは川で生まれた後、海で成長し、数年後に再び生まれた川に戻ってきますよね。私たちはこの習性からヒントを得て、「どうすれば、戻ってきたいと思える『シャケ』を育てられるか」という問いではなく、「どうすればシャケが戻って来たくなる『川』をつくれるか?」という問いを立て、大人が対話しながら試行錯誤していくことが大事だと思うようになりました。何かが生まれそうなワクワクする川だとシャケが戻ってきたくなるし、もしかしたらマスも一緒について来るかもしれません。
「還流おこし」プロジェクトの事例として「大人の島留学」をご紹介します。「大人の島留学」は20〜29歳の若者が1年間もしくは3か月間、島で暮らし働くことを通して、島のまちづくりを担いつつ、お試し移住体験ができる制度です。具体的には、農業や岩牡蠣などの一次産業や島の余剰野菜を活用した商品開発、小学校現場でのプログラミング授業のサポートなどに従事しています。
「大人の島留学」では仕事だけでなく、暮らしの体験もしている。休日は、田植えや稲刈り、お祭りの手伝いなど地域のいろいろな所に顔を出しているそう
これからの地域づくりは、地域住民だけでは限界があると考えています。だからこそ、関係人口や(大人の島留学のような)滞在人口を増やし、地域住民と一緒に地域づくりを行うことが必要です。両者がいかに混ざり、開かれ、つながるかが、カギになるのではないでしょうか。
それは、地域の担い手が変化することも意味します。地域住民だけで行われていた地域づくりにIターンや滞在人口が加わり、担い手が変遷すると、島の住民からは「海士町らしさが失われる」という声が聞こえてくることもありました。
大切なのは、いかに海士町らしさや島のアイデンティティをアップデートしていくか。「時代が変わっても残すもの、手放すことができるものは何か」という問いを立てながら、祭りのようなものは残し、昭和時代の物差しのようなものは手放すことが必要だと思っています。
これまでの活動を通して実感するのは、一人ひとりの出番や役割、居場所が地域にあることの大切さです。多様な人が混ざる居場所は、お試し移住で島に来た若者たちが「自分はここにいていいんだ」と思えたり、同期がいる安心感を持てたりするきっかけになります。挑戦を応援するイネーブラー(※)のような伴走者と若者をつなげ、地域とより深く関わる機会をつくり出すこともわかっています。
※他者の成長や成功を支援し、促進する役割を持つ人や要素のこと。豊田さんたちは「いいじゃん、いいじゃんおじさん」と呼んでいるそうです。
地域の人が自分の行動に対して喜んでくれて「ありがとうね」と感謝してくれると、若者は「自分はここにいていいんだ」「役割があるんだ」と思えるんです。こうしたことが移住に踏み出す一歩になるのだと思います。
湯浅 : 皆さんのお話を伺っていると、地域づくりのお話でも住民自治が出たように、居場所づくりと地域づくりには共通点が多いのではないかと感じました。
冒頭で話題にあげた「こども食堂」の取り組みは、自分たちで地域社会をよくする住民自治の実践だと捉えることもできて、それは地域社会の「土壌づくり」でもあります。肥沃な土壌をつくれば、人口減少や単身世帯の増加などの社会課題があっても、社会は健全に発展していけるのではないでしょうか。
>>後編では、「地域」と「居場所」の新たな関係性について議論していきます
<登壇者プロフィール詳細>
丑田 俊輔(うしだ しゅんすけ)さん
ハバタク株式会社 代表取締役2004年、千代田区のまちづくり拠点「ちよだプラットフォームスクウェア」の創業に参画。日本IBMを経て、2010年、新しい学びのクリエイティブ集団「ハバタク」を創業。2014年より秋田県五城目町在住。商店街の遊休不動産を活用した遊び場「ただのあそび場」、住民参加型の小学校建設「越える学校」、住民出資による温泉再生「湯の越温泉」、コミュニティ支援プラットフォーム「Share Village」、地域の森林とデジタル技術でつくる集合住宅「森山ビレッジ」など、地域資源とコミュニティの共助を活かした様々なプロジェクトを手掛けている。
森山 奈美(もりやま なみ)さん
株式会社御祓川 代表取締役
石川県七尾市生まれ。横浜国立大学工学部建設学科建築学コース卒業。平成7年 ㈱計画情報研究所入社。都市計画コンサルタントとして、地域振興計画、道路計画等を担当。民間まちづくり会社㈱御祓川(みそぎがわ)の設立に携わり、平成19年より現職。川を中心としたまちづくりに取り組み、日本水大賞国土交通大臣賞、第7回「川の日」ワークショップグランプリ、ふるさとづくり大賞総務大臣個人表彰などを受賞。2010年より「能登留学」で地域の課題解決に挑戦する若者を能登に誘致している。
豊田 庄吾(とよた しょうご)さん
島根県海士町役場
1996年に広島大学総合科学部を卒業し、株式会社リクルートコンピュータプリントに就職。その後、人材育成会社で研修講師/出前授業講師を経て、2009年11月に島根県隠岐諸島の海士町に移住。県立隠岐島前高校魅力化プロジェクトの立ち上げに参画し、高校/地域連携型公立塾、隠岐國学習センターを立ち上げ初代センター長を務める。2022年4月より海士町役場で若者の還流おこしプロジェクトに従事。大人の島留学プロジェクトの主に研修の企画・運営にも携わっている。2024年4月より広島県三次市教育委員会にて、市内の小学校の学びのアップデートに関わる。
『「居場所づくりは地域づくり」〜地域と居場所の新しい関係性を目指して〜』に関する他の記事は、こちらのリンクからお読みいただけます。
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