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「起業することは、割に合わない生き方だけれど」西粟倉・森の学校 牧大介さん―起業家七転び八起きvol.1

2014.08.29 

起業家のキラキラした成功体験ばかりがメディアに取り上げられやすいせいか、世の中には「事業って、優秀な人たちがトントン拍子に立ち上げているのかな?」と思っている人も多いのではないでしょうか。

そこで、あえて立ち上げ時の失敗談や苦労したことを聞く「起業家七転び八起き」シリーズを始めました。初回は、人口約1,500人の岡山県西粟倉村で林業の6次産業化やローカルベンチャーのプラットフォームづくりに取り組んでいる、株式会社西粟倉・森の学校の代表取締役・牧大介さんです。 牧大介さん 鈴木:牧さんは、事業を立ち上げて進めていく上で、どんな失敗経験や苦労がありましたか?ベスト3を教えてください。

 

牧:最初の3年間ぐらいはとにかく謝っていた感じで、明るいことはあまりなかったかなあ…。笑

1番苦労したのは、森の学校創業3年目ぐらいで資金がなくなった時です。売上が1億2,000万円で、赤字は8,400万円。追加の設備投資をしながらの赤字でした。資金が回らず苦しかった。今から思えば計画が甘かったのですが…、なんとかなるだろうと思っていたけどなんとかならない。

特に田舎で起業する際は、ものづくりにかかる設備投資など、ハードにも結構お金がかかるんですよ。ビジネスが回りかけて伸びていくときには、お金がかかります。一般的に言われていることなので頭ではわかっているつもりでしたが、売上が思ったより伸びなかった。でもなんとか持ちこたえられました。

2番目は、創業時。地域の中で地位がなかなか得られないことです。説明したからといって簡単に共感してもらえるものではないし、ちゃんと実績と成果を出さなくてはならない。地域で仕事する人には、みんな感じたことがあるのではないかと思います。

森の学校の場合は、ちょうど村の選挙もあり政策的な関与もあったので、余計に政治的なことに巻き込まれやすかったのです。 みんなが簡単に賛成してくれるようなことを、地域の外の人間がわざわざやる意味もないと、思っていました。だから理解されにくいのは頭ではわかっていたのですが、色々と厳しい現状が絡んでくると、ちょっと精神的にはこたえます。でも、よく考えると実害はないのです。今では免疫がついて悠々と構えられるようなりましたが、地域で仕事をすると一回は通るべき道なのだろうと思います。

3番目は、採用ですね。創業当時から採用は結構行っていました。当初のビジネスモデルは1次産業の6次化で、ものを作り、加工し、販売するまでをすべてやるのというものでした。かなり多種多様な人材を集めて、共通言語もない中でチームとして機能させなければなりませんでした。現在は合計25人のメンバーですが、採用した人は述べ50人ぐらいいると思います。

会社は今で5年目なのですが、スタート地点でもっと慎重に丁寧な採用をしていたら、よりスムーズに進んだかなと思います。 今も働いている人は、公募して繋がりがない中で来ていただいた人より、来てほしいと願って、人づてで丁寧に誘った人が多いです。初期のメンバーは大事なので、どう必要な仲間を集めるかは重要だと思います。

「なんとなく田舎で過ごしたい」という人だと厳しい。田舎という場を、真剣にチャレンジするフィールドと捉えてくれている人とでないと、ローカルベンチャーは成り立ちません。 西粟倉・森の学校 鈴木:そうした中でも、印象に残っているエピソードはありますか?

 

牧:基本的には無宗教なんですが、あまりに資金繰りが大変だった時、最後は神頼みだったんです。自分の精神状態を整える意味もあって。定期的に地域の神社を回っていました。「自分の能力でなんとかできる」という感覚を一回捨てなくてはならないと思ったんです。

まめに神社に行くようになってから、売り上げが50%上がりました。因果関係はわかりませんし、やるだけのことをやった結果かもしれませんが…。笑 地域の神社は、地域の人々の祈りがささげられる場所ですからね。その場所で、どういう祈りがあげられていたのかを感じて、ちゃんと自分の中に取りこんで、地域で働いていく上で素直に前向きになれるようなメンタルを整えました。

 

鈴木:こういった失敗や苦労経験から学ばれたことは何でしょう?

 

牧:自分の気持ちが整っておらず、気持ちが弱っていると、社員にもまわりにも悪い影響を与えてしまう。地域での事業に限らず、気持ちを整えることは、とても大事だと思っています。

いろんな人達のいろんな声があって、直接届く反応は、ネガティブな声が多かったりもします。でも、そうした中でも、自分がどんな意味を持ってその地域で仕事をさせていただくのか、どういう思いや願いをもって仕事をし続けるのか、きちんと腑に落とすことは大事かなと思います。

 

鈴木:最後に、失敗して落ち込んだ時に、勇気づけられたりした本や言葉などがあれば教えてください。

 

牧:通っていた高校が仏教系の高校で、「雑巾になりなさい」という教えがあったんです。菩薩とは雑巾なり。まわりが幸せになるために、自分がボロボロになっても周りを磨く。そうすることで、自分自身も磨かれるという意味があります。もともと好きな言葉だったけど、本当に大変な時期にいつも思い返します。苦しい状況に置かれても、その苦しみは意味があることなんじゃないかなと思える言葉です。

起業することは、経済的には借金を負ったりすることもあるし、いろいろな苦労もあるし、冷静に見て割に合わないと思います。だけど、「雑巾になれ」と言われれば、割に意味がある生き方だと思うのです。

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株式会社西粟倉・森の学校 代表取締役/牧大介

1974年京都府生まれ。京都大大学院農学研究科修了。農山漁村専門のコンサルタントとして各地で新規事業の企画・プロデュースを手掛けてきた。2009年10月に株式会社西粟倉・森の学校を設立し代表取締役。

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鈴木 敦子

NPO法人ETIC. 事務局長。1971年生まれ。ETIC.創業期(学生時代)より参画。早稲田大学第二文学部卒業後、 自分で起業→ETIC.事業化により、ETIC.の経営に参画。多くの大学生のインターンシップコーディネート業務、ベンチャー起業、社会起業支援などを通じて、20代の起業家精神の育まれる現場をプロデュース。メッセージ「仕事は面白いと思うことを一生懸命やるべし!」