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「データ上では見えない“気持ち”が大事」会社員がプロボノで社会課題解決に取り組んで学んだ 新しい視点とは

2023.04.05 

「ビジネスで凝り固まったこれまでとは違う、新しい視点を手に入れました」

 

こう話すのは、アビームコンサルティング株式会社の竹村 剛(たけむら・ごう)さんです。

 

竹村さんは、昨年、組織の枠を超えて、実験段階の「まだ名もない挑戦」に3か月間限定で参画する「Beyonders」(旧名称 : Beyondワークβ)を活用し、教育現場の課題に取り組む任意団体のプロジェクトに参加しました。この取り組みを通じて、組織の枠を超えて動いてみることで、竹村さん自身が発見したという「新しい視点」についてお聞きしました。

 

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竹村さん(写真右上)

 

船に乗る仕事からコンサルタントへ

 

竹村さんは現在、シニアコンサルタントとして業務・システム変革をサポートするコンサルティングワークのほか、社内講師としても活躍しています。

 

もともとは「子どもの頃からの夢だった船に乗る仕事」をしていたという竹村さん。しばらく後に海から陸へと上がり、海運会社で輸送計画立案や輸送品質管理、資材購買、船舶管理などを11年間担当。3年前、アビームコンサルティング株式会社に入社しました。

 

「社内でもすごく珍しい経歴だと言われます。ただ、私としては目の前の仕事を一つひとつ真面目にしていたら、いつの間にかコンサルタントになっていたという感覚なんです」

 

前職では、現場作業の改善プロジェクトや業務システム開発プロジェクトのリーダー、新規輸出案件の立ち上げなど、自然とプロジェクトのマネジメントを担う仕事が増えていったそう。次第に、プロジェクトごとに多様なメンバーとチームを組み、仕事に変化を起こすことに面白さを見出すように。この気づきが、アビームコンサルティングへの入社や、今回の「名もない挑戦」への応募につながったといいます。

社会で自分の力を試したい、ワクワクしたい

 

社会課題解決のプロジェクトを期間限定で取り組む「Beyonders」の大きな特徴は3つ。プロジェクトは、始まったばかりの未完成状態が中心。重視するのは、スキルではなく「共感」。さらに、副業、プロボノなど、自分のライフスタイルに合わせて関わり方を柔軟に選べることで、社会課題解決の仕事を体感しながら自分の可能性につなげていきます。

 

竹村さんがメンバー入りしたプロジェクトは、5年前、運営が始まった「教育・学びの未来を創造する教育長・校長プラットフォーム」です。これまで全国から300名以上の教育長や校長を中心とする教育関係者が参加し、議論を交わしてきたこのコミュニティを進化させ、優れた実践を広げながら日本の教育界に貢献することが目的のこのプロジェクト。竹村さんたちに求められたのは、産業界や自治体を巻き込みながら、プロジェクトをより発展させるための戦略立案・実践などでした。

 

教育長や校長がより良い教育を求めて議論しあう。そんなコミュニティづくりに竹村さん自身が手を挙げた理由は2つありました。まず、子どもが通う小学校で先進的な取り組みを目にして最新の教育に興味を持ったこと。もう一つは、「ゼロイチに関われるかもしれない」という期待感でした。

 

「最近はシステム導入の仕事が多く、自分で先を読み、思考を働かせながら、ゼロからプロジェクトを作る経験をしばらくしていないと思ったんです。大きな規模の会社では、チームづくりも最初から重厚で、その分、挑戦の機会も少なくなります。自分のコンサルタントとしてのスキルが社会でどれだけ通用するかを試してみたい、ワクワクしたいと思いました」

社会課題解決にプロボノとして関わる面白さと課題

 

実際に、各方面から集まったメンバーとゼロイチを始めた竹村さんは、「面白いです」と一言。

 

「人に恵まれているのでしょうか。みなさん得意分野があって、例えばマーケティングを得意とされている方がいるのですが、まさに今回、プラットフォームをどう発展させるかという議論ではマーケティングの視点が発揮されていました。

 

教育現場で働かれている方は意見一つひとつに実感がこもっているし、私はコンサルタントとして課題解決やプロジェクト推進などで貢献できているかなと。一人ひとりの知識やスキルがうまくかみ合っているところが面白いですね」

 

一方で、今回のプロジェクトを通して感じた、有償プロボノとして社会課題解決の仕事に関わることの課題を2つ挙げてくれました。「時間の制限」と「効率性」です。

 

「教育界の方々のビジョンに向けて、いろんなメンバーの方とどうすれば実現していけるかを議論し、一歩ずつでも前進できていることには充実感を持っています。ただ、時間とのバランスが難しいと感じてしまいます」

 

大きなゴールは「より良い教育を実現すること」と壮大なのに対して、メンバーはそれぞれプロボノで時間に制限があります。無限に時間をかけることができれば納得感の大きな成果にもつながるかもしれないけれど、本業があるなかでは難しいとも感じると竹村さん。

 

「子ども二人の子育てもあるし、毎日、24時間じゃ足りない状態で。携わる時間が契約で何時間以内と決まっているわけでもなく、自己管理が必須なので、特定の分野のプロとして質を維持できる関わり方をするためにどう時間を捻出するかが課題です。

 

私は普段、ゴール設定を大事にしているので、今回も小さなゴールを何度か設定し、優先順位を決めながら進めているつもりです。ただ、そのなかで、ビジネスとは判断基準も違うのを感じます」

 

集合写真

 

社会課題の仕事から学んだ新しい視点

 

竹村さんが感じる、ビジネスとの違い。それは、ビジネスが「利益」に重点を置くのに対し、社会課題解決の仕事は、「想い」への比重がとても高いことでした。

 

竹村さんたちメンバーが参加するのは、基本的に3ヵ月と決まっています。しかし、3ヵ月の間に基盤を整えながら施策を実現するのはとても難しい、そう竹村さんは考えています。

 

「最初は大きな施策を一つ決めることが3ヵ月の大きなゴールかと思っていました。でも、みなさん、熱量が高くて一人ひとり教育への想いや理想が違う。すべてを実現するのは難しく、プロジェクト内の課題を解決していくのにも想いが強い分、時間を要します。チームの想いや進行を整理しながら次へつなげるコーディネーターの必要性も感じました」

 

社会課題解決の仕事では、ビジョン実現を第一の目標に置いている場合が多いのに対し、ビジネスはいかに効率的に利益を上げていくか、が重視されます。竹村さんはその違いを経験することで、社会課題解決の仕事に「効率性」を求めることの難しさを痛感したといいます。

 

一人ひとりの想いが異なることは、社会課題解決の仕事では大事な場合が多いことも。ビジネスのように「AとBを一つにまとめて」効率性を高めようとしても、様々な背景をもった受益者に必要な支援が届きにくくなるのかもしれない、そういった側面が社会課題解決の仕事にはあることも知ったそうです。

 

「ビジネスと同じやり方の効率性は当てはまらない。社会課題解決の仕事は、想いを尊重しながら、そのうえでどう効率化していくか、そこが難しいし、面白さなのかもしれません」

仕事に自分自身の気持ちが入っていることに気づいた

 

「特に地域の場合、投資できる資源が限られていることも大きい」と竹村さんは話します。今ある資源のなかで、教育長や校長一人ひとりの想いを受け止めながら、コミュニティを実現していくにはどうすればいいか、そう思考が変わったことも竹村さんにとって新しい気づきでした。

 

「参加する前は、大きなコミュニティを一つ作ることを想像していましたが、議論を重ねるうちに想いののったコミュニティを一つずつつくることで発展を目指せるかもしれないと思うようになりました。参加する前と目線が変わりました。こういう考え方もあるんだなと」

 

どうすれば限られたリソースを活用しながら、社会的インパクトを実現し、課題解決へとつなげていけるか。その難しさと可能性のバランスをどう両立させていくか、その過程もやりがいにもつながるかもしれない、とも。

 

「ビジネスで必ず求められる根拠が、社会課題解決の仕事では見つけにくいことも実感しました。論理的な思考だけでは仕事を進められない部分が大きいんです。

 

私自身、根拠がほしいので、アンケート結果の分析などを通して調べていますが、データ上では見えない『気持ち』の部分を大事にすることも、社会的インパクトを出すためには必要なんだろうと思いました。

 

また今回、情報を分析するなかで、私自身の気持ちが入っていることにも気づいたんです。『でも、それって、間違っていないんだな』って。もちろんデータも大事で、意図・意見をもちながら、数字を用いて説得力も補っていくのが良いバランスなんだと感じました。『気持ち』が大事という気づきは、ビジネスの視点で凝り固まっていた自分に生まれた新たな視点でした」

 

今後、本業であるコンサルタントの仕事にどう活かせるかについて、「直接的に今の業務に活きる訳ではなくても、考え方や観点として間接的に活きることはたくさんある気がしています。今後、なにか新しくはじめたいと思ったときにも、活かせるかも」と話してくれました。

 

プログラム終了後の現状についても聞きました。

「Beyondワークβの取り組みの最終段階でいくつかの施策を提案させて頂きました。運営事務局の方々とも熱く議論を交わしていく中で、『実際にやってみよう』という話になり、『教育・学びの未来を創造する教育長・校長プラットフォーム』からのスピンオフ(サブプロジェクト)として、私自身も施策の実行(企画、準備)を継続してお手伝いさせて頂くことになりました。

 

2024年度にはいよいよ、Beyondワークβから始まった取り組みが施策の実行(初回)という形で実を結びそうです。常に手探りの状態ですが、教育に関する社会課題の解決につながると信じた一歩を、Beyondワークβで出会った有志たちとともに歩んでいきたいと思っています」

 

これからの「教育・学びの未来を創造する教育長・校長プラットフォーム」の進化と、竹村さんのご活躍がとても楽しみです。

 

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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。