※この記事はDRIVEインターンからの転載です。
満面の笑みで失礼します。大学生ライターとして、第4回目の【どすこい!起業家ぶつかり稽古】のインタビューを担当させていただくことになりました、松沢です。
現在、就職活動真っ只中の大学4年生。連日の企業説明会、慣れないヒールにリクルートスーツ、かさむ交通費…。そんな就活的なモノに翻弄される日々を送る私が今回お話を伺わせていただいたのは、「株式会社ロフトワーク」の代表取締役を務める林千晶さん。
2万5000人のクリエイターが登録するオンラインコミュニティ「loftwork.com」や3Dプリンターなどのデジタル工作機器を備えたものづくりカフェ「FabCafe」の運営、飛騨の豊かな地域資源を元に森林再生と雇用創出を目指す官民共同事業「飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)」など、様々な人々、組織とのコラボレーションを通じて多種多様な事業に取り組むロフトワーク。聞いただけでワクワクしてしまうような事業を生み出す組織をリードする林さんの姿に、21歳松沢、自分のちっぽけさを痛感…。
やりたいことがまだわからないのに、仕事ってどう選べばいいんだろう。就活や仕事に一体どんな気持ちで向き合ったらいいんだろう。就活という一つの岐路で迷える子羊と化した私は、そんな心のモヤモヤを林さんにぶつけてきました!
一隅を照らす人たちが社会を作っていく
松沢:「FabCafe」や「loftwork.com」から「ヒダクマ」まで、ロフトワークって何屋さんなんだろうというくらい、本当に色々な事業を展開している印象があります。林さんの中でロフトワークを一言で表すならコレ!ということってありますか?
林:「新しい価値の創造に挑戦している会社」、でしょうか。
松沢:なるほど…。その中でもロフトワークは、クリエイターだったり、地域で活躍するプレイヤーだったり、さまざまな人やセクターと協働しながら価値を生み出そうとしていると思います。協働する上で大切にしていることやその大切さに気づいたきっかけとは何だったんでしょうか?
林:どこまで遡るか、ちょっと頭の中で悩んでいるんだけど……。「一隅を照らす」という言葉、知っていますか?
松沢:…知らないです。
林:字はなんとなく想像つく?
松沢:すいません、想像つかないです…(マズい、日本語力の低さが露呈している…!大汗)
林: 7〜8年前、京都のあるお寺に行った時のこと。大きな屏風があって、そこに「国の宝とは何か[※1]」という有名な詩が書いてあったの。内容を簡単に言うと、「国の宝とは何か。それは金銀や財宝ではなく、自分がいる場所をしっかり照らす人間のことである」と。つまり、「自分に与えられている役割に責任を持ち、最善を尽くすことで輝く。そういう人々によって国は支えられているのだ」というメッセージが「一隅を照らす」なんです。
人っていろんな個性があるでしょ?その個性って、社会で評価されるようなことばかりじゃない。例えばプッチンプリンが大好きで、プッチンプリンに関する知識なら誰にも負けないぞっていう人もいる。それはそれでありだと。
[※1]天台宗の開祖 最澄の言葉「径寸十枚是れ国宝に非ず、一隅を照らす此れ則ち国宝なり」
松沢:プ、プッチンプリン…(笑)
林:まあ極端な例ではあるけれど(笑)、そういう「どうしてもこれが気になる!」っていう譲れないことや大切にしていることが誰にでもあるでしょ。物を消費したり、物事の効率性をただ追い求めるだけでなく、これから私たちは、精神的な豊かさだったり、生きがいを大切にするようになるし、そうした感覚に企業や国が巻き込まれていく時代になる。その時に、どんなことであれ、とことんこだわりや愛着を持っている人が、今までの制約を乗り越えて新しい可能性や価値を見い出していくんじゃないかな。それがそれぞれにとっての「一隅」となる。…就職活動の話をするべきなのに、ちょっと抽象的すぎるかな??(笑)
松沢:ロフトワークが「新しい価値の創造に挑戦している会社」というのはそういう思いが込められているんですね。私がインターンをしているETIC.[※2]の取り組みとも通じると思いました。ETIC.では、価値創造・課題解決に挑むさまざまな挑戦の現場に、意欲ある人や組織をつなぐことによって、社会に新しい価値を創るという活動をしているので、今のお話は理解しやすかったです。
[※2]NPO法人ETIC.
「社会に良いこと」は誰にも代弁できない
林:うんうん。でもね、目的が「社会を良くするため」だけじゃなくてもいいかな。
松沢:え?社会をよくすることがゴールじゃないんですか?!
林:もちろん、社会を良くしたいっていう動機はかけがいのないものだと思う。でも同時に、「社会に良いかどうか」は誰が決められるんだろうって考えると、難しいことでもある。
松沢:「社会に良い」って誰が決める…。考えたことがありませんでした。
林:それぞれにとっての正義がある。そして、何が良くて何が悪いかは、文化によって、環境によって、人によって違っていたりもする。その違いを配慮せずに「社会に良い」を持ち出すと、衝突が起こることすらある。どっちも自分の「良い」が正しいと信じているからこそぶつかりあってしまう。だから「社会にとって良いこと」って、画一的に誰かが代弁できるものではない気がしています。さっき人にはいろんな個性があるという話をしたけれど、それぞれ大切にしたいこと、幸せだと思うこと、譲れないものというのがある。「自分」が大切だと思うことと、「社会」にとって大切だと思うことの違いは知っておかないといけないと思うんだよね。
松沢:「社会」じゃなくて「個人」にとっての価値観を大切にするってことなんですね。
林:うーん、そう単純に言い切れるものでもないかな。一人ひとりが「幸せに生きたい」という思いがあるじゃない?そして、個人の「嬉しい」「面白い」「楽しい」という思いが集まったところに、社会があるんじゃないかな。だから、社会を良くしたいという活動を否定しているんじゃなくて、志が近しい人とか、価値観の合う人たちと連なっていきながら、大きなムーブメントになるということの可能性を心から信じてる。自分がいる場所で、モチベーションを持ち、嬉しいと感じられる活動をする、そういう人たちの総体が「社会」だと感じてるんだよね。
多様性は「ぶつかること」からはじまる。だから、違いが大切。
松沢:「個を照らす」、「個の尊重」ということは最近とてもよく言われていることだと思います。でも多様性ってすごく良い言葉で便利な言葉でもある気がして、それゆえにモヤモヤさせられる瞬間が多々あるというか。うーん、ちゃんと伝わってますかね?
林:うんうん、あるよね。
松沢:林さんは、本当の意味で「個を尊重」するためには何が必要だとお考えですか?
林:松沢さんが「多様性ってよく分からない」って言ったように、そういう問いが増えることが大切だと思う。
「多様性って言うけれど、結局それって何を変えることになるんですか?」
「生活の中のどの場面で行動が変わるんですか?」
って議論していくところからしか、始まらないと思っている。今までなかったことをこれから増やそうとするときに「わかりました!多様性を実現します」ということはできないから。本来、「多様性」というのは、いきなり「違っているけど素敵なあなた」を認めることから始まるものではなくて、「理解できない、なんでそんなことをするの?」という異物との出会い。その上で、互いに歩み寄ったり、理解を深めたりして共存していく。
松沢:理解できないもの…
林:そう。だから私はストレスを感じるものと出会った時に「あ、これが多様性との出会いだ」と思うようにしているんだよね(笑)。例えば、私たちは2年前に日本の林業(「飛騨の森でクマは踊る」)に向き合う会社を設立して、広葉樹の価値づくりに挑戦をしているんだけど、この取り組みは林業をよく知る人からするとすごく無謀なこと。色々な人が、絶対にうまくいかないよ、心配だからやめておきなさいとアドバイスしてくれる。でもそんな言葉を聞いた時に、私はまさに「あ、これが林業における多様性なのかな」と思ったの。私は林業について詳しく知らない。でもだからこそ森の可能性にワクワクして、始められることってあるんじゃないかって。
そしてそこに共感して「森っていいですよね」って言ってくれる人も増えていく。その時にどちらの言い分が正しいかというと、どっちも正しいんです。林業が大変なのも事実、ワクワクするものも事実。そこから何かを生み出せば「あ、そういう使い方も確かにあるんだね」という話になると思っていて。だから、違いが大切。(笑)
松沢:たとえば林業なら、林業関係者は一部のエキスパートだけで仕事をするんじゃなくて、多様な人と関わりながら価値観を交ぜ合うことで、新しい価値が生まれる。最初の話に戻りましたね(笑)
就職活動、どうしていいかわかりません!!
林:でもねえ……今おいくつですか?
松沢:21です。
林:21か。21ってさ、自分がわからないよね、まだ。
松沢:わからないです……。
林:だって、みんなと一緒の自分しかないじゃない?
松沢:そうなんです(泣)
林:普通に頑張って生きてきて、大学にも入ったけど、何か特別な、すごいことしてきましたか?って聞かれたら、そんな体験があるわけでもない。それなのに就職活動になると急に色々な人から「あなたはどこが特別なんですか?教えてください」って言われても、みんなと一緒なんですけどー!って言いたくなっちゃうよね。
松沢:おっしゃる通りですね…。まさに就活中で、その問題に直面しています。なんというか、21年の人生を一貫したものとして物語らなければいけないということが突然降ってきて、「え、どうしよう…!?」って。 自分に向き合う良いきっかけではあるんですが、それでも困ってしまいます。みんなが就活をやっている、その波に飛び込むことは簡単なんですが、その中で疑問ばかり感じてしまう。就活、辛いです(笑)
林:「辛い」っていう気持ちを大切にしたら?それが多様性なんじゃないかな。
松沢:え!これが多様性!?
林:いや、本気で言っていますよ!就職活動にガーッと全力で向き合える学生を否定する必要はない。でも松沢さんの中に、うまく波に乗れない自分がいるんでしょ?だったらそういう自分を大切にしたらいいと思う。だってそんなみんなが一様に「はい、私はこうです!」と自己PRする必要はないんだもの。
松沢:そうですよね…。
林:就職活動に向き合わなくていい、ということではない。「自分はどう働くことに向き合うのか」という問いから始まってる。それが自分の物語の始まりであって、無理やり「一般的な物語」に従って行動する必要はないと思う。今の自分が何にワクワクするんだろうっていうことからしか始まらないよね。その時に、多様性を否定するような固定観念を取り除いて、どれだけ素直に自分の気持ちと向き合えるか。自分を作っていくための原点だと思います。
「これがいいことです」「女性はこういう生き方をしなさい」「いい大学を出てないと、いい会社には入れません」。学生には学生なりの、色々な固定観念がある。その中で、それに流されずに、「私」という個が何にドキドキするか、何に向き合いたいのか。一瞬一瞬が勝負だと思う。
松沢:うーん、とっても今の自分に沁みるお言葉ですね…。
林:ちなみにどんなことやっていきたいって思ってるの?
松沢:何がやりたいという明確なものはまだありません…。でも去年一年間、ノルウェーの地方に留学して、都会で生き続けることだけがベストな選択肢というわけではないなということを学びました。
林:違いを学んだんだね。
松沢:そうなんです(笑)。日本のローカルに目が向いたのも、いまETIC.にいるのもそれがきっかけで。インターンをする中で、自分のやりたいことや実現したい未来に向かって活躍されている地方のプレイヤーの方々にお会いしたのですが、本当に色々な学びと刺激を受けました。やりたいことは見つかってはいませんが、こんな人たちと共にある未来でありたいなと思っています。かなりぼんやりとした抽象的な話ですが…。
林:でも、誰とやりたいかが見えているんだったら、それで行きたい先を決めたら?何をやりたいかなんて、変わり得るから、一つじゃなくていっぱいあって良い。だから、誰の元で働きたいかということで就職先決めたっていいと思う。
松沢:そうですね。自分の就活は「何を」より「誰と」を重視する就活になるのかなという気はしています。
林:とても良いと思いますね。
松沢:なんだか、今日のお話を通してすごく背中を押してもらえた気がします。ありがとうございました…!
___________________
最後に
松沢:このインタビューでは学生へのメッセージをいつもお願いしているのですが…いまの学生に対してメッセージをお願いできますか?
林:そうですねえ。就職というと、条件が良いところを探さないと、という思考にどうしてもなりがちですよね。わかりやすく言えば「お給料が高いところは?」「安定しているところは?」「新人教育に力を入れているところは?」みたいに。でも、そんな風に「良い条件」で会社を探すのをやめてみるのはどうでしょう。それよりも、面白いプロジェクトを作ってみたい、こんな事業に挑戦してみたい、そんなワクワクするイメージが湧くかどうかを大切にする。そういう視点で考えると、意外なところに面白くみえてくる会社が見つかるかもしれません。
<編集後記>日常の中でモヤモヤすること、理解できない考えに出くわす瞬間はたくさんありますよね。 その一つひとつの瞬間がとてもストレスなものであることは確かですが、実はそれこそが異なる価値観との出会いとぶつかり、多様性との出会いでもあります。そんな瞬間にこそ、自分のいる場所で自分自身が輝く、「一隅を照らす」のヒントが隠れている。それが、今回の林さんとのインタビューを通じて強く感じたことでした。
それでは、またどこかでお会いしましょう!
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