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#社会・公共

こども宅食応援団の事例から考える「コレクティブ・インパクト」。ソーシャルイノベーションの現場で大事な3つの視点とは?

2023.08.30 

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中嶋愛さん(写真中央・左)と本間奏さん(写真中央・右)

 

コレクティブ・インパクトが、ソーシャルイノベーションの一つの手法として、注目され実践されてきています──

 

そう語るのは、スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 編集長の中嶋愛さん。

 

コレクティブ・インパクトとは、『異なるセクターから集まった重要なプレーヤーたちのグループが、特定の社会課題の解決のために、共通のアジェンダに対して行うコミットメント』(*)のことを指します。

 

(*)「コレクティブ・インパクト : 個別の努力を越えて今こそ新しい未来をつくり出す」(スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版)

 

本記事では、コレクティブな協業事例として「こども宅食応援団」を紹介しながら、異なるセクターのコラボレーションにおける大事なエッセンスを紐解いていきます。社会課題をどのように解決していくと良いのかについて日々考えていらっしゃる皆さんにとって、少しでもヒントになれば幸いです。

 

※本記事は2023年5月開催「第2回Beyondカンファレンス2023」のオープニングセッションを基に執筆(概要は文末に記載)。記事内のスライドは当日使用されたものから抜粋。

 

【登壇者情報】

中嶋 愛 氏(スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 編集長、同志社大学大学院 客員教授)

日本経済新聞社の記者として通商問題などを担当したのち、スタンフォード大学で修士号取得。帰国後、プレジデント社で20年に渡って雑誌、単行本、ウェブコンテンツの編集に携わる一方、海外ライツ事業部を立ち上げ、日本語コンテンツの海外輸出業務を手がける。担当した『ワーク・シフト』(リンダ・グラットン著)は2013年ビジネス賞対象を受賞。翻訳書に『徹底のリーダーシップ』(ラム・チャラン著)などがある。

 

本間 奏 氏(認定NPO法人フローレンス みらいのソーシャルワーク事業部 全国普及推進チーム サブマネージャー 兼 一般社団法人こども宅食応援団 事務局)

これまで全国50箇所以上のこども宅食の立ち上げ・運営相談や、厚労省と連携した全国勉強会などを実施。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。三菱商事 法務部(新規事業立ち上げ、M&A、訴訟)および営業部(輸出入取引、海外出資先の経営業務関連など)。2019年2月、子どもを育てた経験等から親子に関する社会課題に取り組む仕事に就きたいと考え、NPOに転職。フローレンスにて、2018年10月に佐賀で立ち上げたばかりの「こども宅食応援団」で経営企画・事業推進を担当。元気いっぱいの2児を育てる。新潟県出身。

 

「コラボレーションのリテラシーを高める」ことをミッションに掲げる中嶋さんと、こどもの貧困・孤立の問題に取り組む本間さん

 

中嶋 : 皆さん、こんにちは。中嶋愛と申します。「スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー」(SSIR)という雑誌の、日本版の編集長をしております。SSIRは、2003年にアメリカのスタンフォード大学のビジネススクールで創刊し、2022年1月には日本版が創刊しました。ソーシャルチェンジリーダーが主な読者で、日本語・英語を含めて7言語で出版されています。

 

私のミッションとして、この雑誌を通じて皆さんに伝えたいことは、「コラボレーションのリテラシーを高める」ということです。「クロスセクターのコラボレーションってなんでこんなに難しいのだろう」というのは世界のソーシャルイノベーションの現場で共通の悩みです。SSIRは、その悩みを打破するための戦略や方法論を研究者や実践者が学び合う場です。

 

本間 : 認定NPO法人フローレンスの本間と申します。フローレンスは東京にあるNPOです。こどもの親子支援のNPOで、保育園や、病児保育と呼ばれる事業などを展開しています。私は、こどもの貧困・孤立の問題に取り組む「こども宅食」という事業を行なっています。

 

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団体WEBによると、スタッフは総勢874名(派遣業務委託インターン理事含めて、2023年4月1日現在)

 

今日はクロスセクターのコラボレーションについての実践と実例を話す役目をいただき、3つのキーワードを置いてみました。

 

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中嶋愛さん(写真左)と本間奏さん(写真右)

 

こども宅食は単なる食支援ではなく、子育て家庭を伴走し孤立を減らす事業である。【こども宅食の事例紹介】

 

本間 : 一つ目のキーワード、「『こども宅食』が不要になる未来」を目指す、についてお話します。

 

私たちとしては、こども宅食は単なる食支援ではありません。定期的な食支援をツールにして、親子と繋がりを作って、その過程を伴走して、孤立を減らす事業と定義しています。

 

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ここで一つ事例を紹介します。

 

シングルマザーのご家庭で、お母さんは精神的にかなり不安定で、外に出られる状況でもなく、当然仕事もできないので非常に困窮している状態でした。お子さんも小学校で不登校になり、親子ともに社会から孤立している状態でした。

 

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最初、お子さんが小学校にあがる前に、お子さんの幼稚園から、こども宅食をやっている団体に見守り依頼がありました。まずは、お弁当を持参し、「子育て中のママを応援するために作ったのでどうぞ」という感じで会いに行きましたが、最初は警戒されました。

 

それからは、毎月・2週間に1回などの頻度で繰り返し訪問し、少しずつ会話して、信頼関係を作っていきます。

 

半年ほど通って、ようやく玄関のドアがちょっとだけ開きました。家の中に入れてもらうと中はゴミ屋敷の状態──これは「外から見えない家庭の困りごとに宅食団体が気づけた」瞬間でもありました。信頼関係が構築できた後は、行政の支援に繋げたり、お子さんの次の支援に繋がったりしました。

 

私たちは、こども宅食として、こういう流れを目指しています。

 

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「『こども宅食』が不要になる未来」を目指すとは?

 

本間 : ご存知の方も多いかと思いますが、社会環境として今、「日本の子どもの7人に1人が相対的貧困」と呼ばれています。ひとり親世帯に限って言えば2人に1人、OECD(*)の中では最下位という状態です。

 

(*)OECD(経済協力開発機構):ヨーロッパ諸国を中心に日・米を含め38ヶ国の先進国が加盟する国際機関です。《経済産業省のOECDのWEBページから抜粋》

 

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ただ私たちがこども宅食で取り組もうとしている課題は、経済的困窮そのものではなく、先ほどの事例のように、必要な支援が届いていないとか、SOSが出しにくい家庭の社会的孤立の問題だと考えています。

 

私たちは、全国の地域の子ども・親子が当たり前に「支えつつ・支えられる」状態を目指して、全国の団体さんと一緒に「こちらから“出張って”、会いにいく」というアウトリーチの取り組みにトライしています。

 

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『こども宅食』が不要になる未来について

 

「孤立する親子がいない社会」を一緒に作る仲間がたくさん。大切なのは助けてくれる人がワラワラいる状態!

 

本間 : こども宅食をみんなで全国に広げようという、「こども宅食応援団」の事務局も兼務しています。

 

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「こども宅食」事業を全国にひろめるため、2018年10月に「一般社団法人こども宅食応援団」が誕生(画像は団体WEBより)

 

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2018年の設立から現在までの実績

 

現場の自治体や団体から、例えば、「こういうことを知りたい」というニーズがあれば、知っている団体と一緒に勉強会を開催したり、「予算が足りない」「お米が欲しい」というニーズがあれば、一緒にみんなの声を国に届けますといった感じで、中間支援組織としてブリッジしながら活動を続けています。

 

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これ(=上の図)、ちょっとかっこよく書いたんですけど、私から見て、「これやっぱちょっと違うな」ってさっき思い始めてきました。この図に書かれている人たち以外にも、もっといるんですよね。さっきお話した「孤立する親子がいない社会」というのを、一緒に作って参加してくださる方々がもっと多様にいたなぁと思って、書き直してみました(=下の図)。

 

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私から見えてる状態って、この「助けてくれる人がワラワラいる状態」です。

 

例えば、こども宅食の利用家庭の周りには、見守ってくれる人、食堂、学習支援の方などがいます。他にも、団体を応援してくれる農家の方、ボランティアの方、学校や自治体の方もいます。

 

私たち中間支援組織もいて、団体を応援しつつ、企業もこども家庭庁もいます。また時々、他の中間支援組織の方にも助けてもらったり、ノウハウを教えてもらったりもします。私たち自身も「助けて」というのを発信していきたいと思って、様々なつながりを大切にしながら、ワラワラしています。

 

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「助けてくれる人がワラワラいる状態」の具体例・その1

 

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「助けてくれる人がワラワラいる状態」の具体例・その2

 

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「助けてくれる人がワラワラいる状態」の具体例・その3

 

ある日突然、「自分が当事者になる」かもしれない

 

本間 : 私は4年前まで通常の営利企業にいました。そこからなぜ、今ご紹介したような事業にこんなに思いを入れて取り組んでいるのかと、色々な方々から質問をいただきます。

 

理由としては、ある日突然、「自分が当事者になる」というところかなと思います。

 

息子が二人、うちにはいるんですけれども、一人が0歳の時に重度の肺炎にかかって緊急入院しました。状況はかなり悪かったのですが、奇跡的に状況回復して、今は元気に走り回っています。

 

その後、フローレンスに転職しました。

 

フローレンスでは医療的ケア児と呼ばれる、呼吸器などをつけているお子さんを預かる新しい形の保育園を作り運営しているのですが、そこを現場視察する機会がありました。親御さんたちは24時間ケアをしなきゃいけないので本当に大変で、子どもを預かってくれる保育園があるということがすごく助かっていると──

 

それまでの自分は、好きなように勉強して、好きな会社に入って、好きな仕事をしていて──でもそれって全然当たり前のことじゃなかったと気づきました。人の与えられている環境って突然変わったり、自分がもしかしたらフローレンスの医療的ケア児の保育園を使う側の当事者だったかもしれないなと。

 

これが、最後のキーワード、ある日突然、「自分が当事者になる」ということです。

 

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本間さんから当日シェアされた、地域共生社会の実践者の豊中市社協の勝部さんという方の言葉。本間さん曰く、「自分が含まれているこの社会がもうちょっとでも安心したら、自分の子どもや大好きな人が何か困った時に、助けてもらえる社会になるんじゃないかなと思って、私のためにも事業をしています」とのこと。

 

3つのキーワードは、世界のソーシャルイノベーションの現場で言われている大事なことを含んでいる。

 

中嶋 : 本間さんがおっしゃっていた3つのキーワードは、世界のソーシャルイノベーションの現場で言われている大事なことを含んでいます。

 

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再掲

 

最後の、『ある日突然、「自分が当事者になる」』はとても大事な視点です。

 

「誰かのためにやっている」「自分は安全で恵まれていて、自分が誰かをという余裕があるから誰かに何かをやってあげている」というその構図が問題を長続きさせてしまう。

 

そのことを頭ではわかっていても、目の前のことに一生懸命で「困っている人を助ける」ことが目的化してしまう。

 

そうすると、「支援を受けられる家庭が増える」「応援する応援団が増える」こと自体がゴールになってしまいかねません。そのような状況をつくることは前進ですが、受益者と応援者が増え続けるこということは、問題が根本的に解決されていない、ということにもなります。

 

ここで一つ目のキーワードに戻りますが、「『こども宅食』が不要になる未来」を目指す、という時間軸がすごく大事かなと思いました。

 

もう一つ、「助けてくれる人がワラワラいる状態」っていうのも大事ですね。

 

ソーシャルイノベーションの分野では「エコシステム」という言葉をよく使います。インパクトを広げていくには、同じ思いをもつ人たちがネットワークを作ることが大事ですが、同じような強み、同じような視点、同じような制約をもつ人たちだけが集まっても、そこから広がらない。異なるセクター、たとえばNPO、ビジネス、行政の方など、色々な異なる立場の方々が集まってくると、相互に支え合い、補完し合う一つのエコシステムができます。そして、そのエコシステムがコレクティブ・インパクトの土壌になっていきます。

 

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アメリカのグラントさんとクラッチフィールドさんという研究者が、「大きく成長したNPOは、何をしていたのか」という要因を調べたところ、意外なことがわかりました。仮説としては、成長のための条件として「よくマネジメントされてる」「ファンドレイジングがうまい」「ミッションがしっかりしている」などが考えられるのですが、これが全部違いました。

 

「周りに助けてくれる強力なパートナーがいた」ということが成長の共通点だったそうです。つまり、「助けてくれる人がワラワラいる状態」があったわけですね。

 

(*)「大きなインパクトの生み出し方:社会を変える非営利組織の実践に学ぶ」(スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版)

 

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システム・チェンジとは、「膏薬ばりも必要だが、できものができないような社会をつくること」である。

 

中嶋 : 私の中で、今、市川房枝ブームなんですけれども、この人は婦人参政権を実現するために人生を費やした方です。彼女はまさにワラワラと仲間をつくって、ときには意見の違う人たちとも手を組んで、日本の政治システムを変えました。「婦人参政権を」と言わなくていい社会をつくったのです。そんな彼女の言葉を一つ、最後に紹介します。

 

「できものに膏薬(こうやく)をはるような社会事業は私は好きではない。膏薬ばりも必要だが、できものができないような社会をつくることに興味がある。」(*)

 

私はこれがシステム・チェンジじゃないかなと思っています。

 

(*)『市川房枝、そこから続く「長い列」』 野村 浩子著、亜紀書房(2023年)

 

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オープニングセッション時の会場の様子

 

【「第2回Beyondカンファレンス2023」のオープニングセッションについて】

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オープニングセッション

「自分たちは、次世代に何を残したいか?」

~一人一社ではできないことをつながってやってみよう~

 

オープニングセッションでは、まず「自分たちは、次世代に何を残したいか?」という問いを考えることからスタート。まず、視点を中長期において、残したいものを残すためには、今、何をしたらいいのか?考えます。創りたい未来をつくるために、1人1社では成し遂げられないことをどうつながって、どう協業していくといいのか?スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 編集長の中嶋愛さんをゲストにお迎えコレクティブな協業事例をご紹介しながら、会場の皆さんと対話します。

 

WEBサイト : https://andbeyondcompany.com/bc2023/

 


 

本記事の中でも登場した「一般社団法人こども宅食応援団」では現在、一緒に業務を推進していくメンバーを募集しているそうです。ご興味ある方はぜひ一度こちらのページをご覧ください。(※本記事執筆時点での情報です)

 

この記事を書いたユーザー
Ryota Yasuda

Ryota Yasuda

1989年生まれ。早稲田大学スポーツ科学部卒業。執筆・編集する、アート作品をつくる、ハンドドリップでコーヒーを淹れる、DJする、など。「多趣味多才」をモットーに生きている。2015年よりETIC.参画(〜2023年5月末まで)。DRIVEでの執筆記事一覧 : https://drive.media/search-result?sw=Ryota+Yasuda

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