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社会課題解決の主役はNPOよりもスタートアップなのだろうか?―NPO代表の立場から語ってみた<NPO法人クロスフィールズ 小沼大地>

2022.12.19 

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※こちらは、NPO法人クロスフィールズ代表理事 小沼大地さんのnote掲載記事からの転載です。

 

少し前の話になるが、22年9月号のForbesはかなり衝撃的な特集だった。

 

これまで「社会課題解決の担い手」が特集される際には、NPO/NGOやソーシャルビジネス(社会的企業)のリーダーが主役のことが多かったように思う。だが、いまやその座がスタートアップの経営者たちへと移行したかのようなForbesの打ち出し方は、否応なしに時代の変化を感じさせるものだった。

 

僕がNPOの世界に足を踏み入れた約20年前、「社会課題解決」はある意味NPO/NGOの専売特許のような領域だった。だが、その構図は大きく変わったし、特にここ5年ほどの変化は劇的だ。

 

そこで今回は「社会課題解決の担い手は誰なのか?」という観点から、時代の変化や今後の潮流などについて、自分なりに論を展開してみたい。

経済合理性限界曲線とソーシャルイノベーション

 

社会課題を解決する担い手を整理するにあたり、山口周さんが著書『ビジネスの未来』のなかで提示した「経済合理性限界曲線」というモデルを活用させてもらいたい。

 

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山口周さん「ビジネスの未来」より引用

 

このモデルでは、縦軸に「問題の難易度」、横軸に「問題の普遍性」が示されている。たとえば右下のエリアは、顧客が多くソリューションが簡単なため、ビジネスとしては最も取り組みやすい領域だと考えられる。

 

このように整理すると、ビジネスが合理的に成り立つ限界のラインが浮かび上がり、その曲線の内側(右側)は市場で解決可能な問題で、外側(左側)は市場原理での解決が不可能な社会的な課題だと整理できる。

 

この図にさらに加筆してみると、社会課題への取り組みのアプローチによって3つの領域が浮かび上がってくるように思う。

 

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ここではソーシャルイノベーション領域 サステナビリティ経営領域 公助/共助領域 と名付け、それぞれの領域の特徴と、そこでの活躍が期待されるプレイヤーについて書いていく。

 

ソーシャルイノベーション領域

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経済合理性の限界曲線の周辺は、市場の力で課題解決できるどうかがギリギリのエリアであり、テクノロジーの発展やイノベーティブな事業モデルによって、曲線が引かれる位置は変化する。

 

このようにビジネスの力で社会課題の解決を可能にすることを「ソーシャルイノベーション」と呼ぶ。山口周さんも著書のなかで「これからのビジネスが目指すべきはコマーシャルイノベーションではなく、限界曲線を押し上げていくことだ」と書いている。

 

なお、このソーシャルイノベーション領域で注目を集めてきたのは、いわゆる「ソーシャルビジネス」という概念だった。伝統的な非営利のアプローチで課題解決が行われていた領域を、なんとかしてビジネスの手法で事業として成り立たせようとする挑戦に、2005年頃から世界中の注目が集まった。

 

しかし、このような「非営利」に立脚したソーシャルビジネスの文脈は、ここ数年、以前のような注目を集めることは少なくなった。(ソーシャルビジネスの歴史については、前に書いた以下の記事を参考にしていただきたい)

>> 日本におけるソーシャルビジネスの歴史と展望(を好き勝手に語ってみる)

 

変わって今まさに脚光を浴びているのは、成長志向のスタートアップのなかにあって社会課題解決を志向するプレイヤーたちだ。22年9月号のForbesはそうした企業を「インパクト・スタートアップ」と呼んだ。資金調達を大規模に行い、IPOも可能な成長曲線と時価総額を誇りながら社会課題の解決に貢献する企業群だ。

 

インパクト・スタートアップの例としては、Forbesで掲載されたREADYFOR や五常・アンド・カンパニーライフイズテックなどが挙げられる。また、すでに上場を果たしているユーグレナLITALICOなども代表的な存在だと言える。いずれも素晴らしい企業で、ものすごいスピードで成長を遂げながら社会に大きな影響を与えている。

 

おそらくインパクト・スタートアップの世界には、これからもお金と人が集まってくる。政府が進める「新しい資本主義」の文脈も後押しになるだろうし、SDGsネイティブのZ世代は、ごく自然にこの分野での挑戦を志向していくだろう。

 

僕個人としては、ソーシャルイノベーション領域の担い手が「ソーシャルビジネスの文脈」から「インパクトスタートアップの文脈」に置き換わっていくことはごく自然な流れであり、時代の進化だと考えている。市場原理を最大限に活用する社会課題解決の取り組みが加速することで、限界曲線を押し上げるソーシャルイノベーションがどんどん起きて欲しい。

 

サステナビリティ経営領域

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限界曲線の内側は市場性の確立した領域であり、メインプレーヤーは一般の大企業や中小企業だと言える。ではこの領域が社会課題の解決と無関係なのかというと、そんなことはない。

 

そもそもこの領域においても、もともとは社会課題として存在していた課題を、先人たちが創意工夫で市場化して事業領域として確立させてきたという歴史がある。

 

また、ESG投資の機運の高まりなどもあり、市場性の確立した領域においても、ビジネス活動が与える社会への影響をどうマネジメントしていくのかには、ますます世間の関心が集まっている。昨今では、環境や人権などに対する各企業の取り組みには厳しい目が向けられ、サプライチェーンの見直しなどに本腰を入れる企業も増えている。

 

大規模な事業を展開する大企業が社会のサステナビリティに向けて経営のあり方を見直せば、スタートアップやNPOとは比べ物にならない大きな影響を生むことができる。引き続き、様々なステイクホルダーからの厳しい目が事業活動に向けられていくことで、企業がサステナビリティを意識した取り組みを加速していくことに期待したい。

 

なお、先ほどソーシャルイノベーション領域の主たるプレイヤーはインパクト・スタートアップになってきていると書いたが、この領域でも大企業に優位性がある点にも触れておきたい。

 

スタートアップは手持ちのリソースも限られ、かなり短期的な視点でマネタイズが可能な事業に投資を集中させがちだ。対して大企業は十分な体力があり、スタートアップにはできないような中長期的な投資が可能だ。

 

大企業が社会課題の解決に取り組むにあたっては、サステナビリティ経営領域において既存事業が社会に与える影響を継続的に見直し続けていくとともに、ソーシャルイノベーション領域において短期的な視点では解決が難しい社会課題テーマにじっくりと長期的に取り組んでいくことが同時並行で期待されている。

 

公助/共助領域

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最後の領域は、ビジネスが成立しない限界曲線の外側の世界だ。この領域の課題は、行政サービスによる公助や、寄付などを資金源としたNPOによる共助的な活動による解決が目指される。

 

すべての社会課題をビジネスによって解決することは不可能であり、市場とは異なるアプローチでの課題解決が目指される領域があることは、十分に認識されるべきだ。そして、こうした公助/共助による社会課題の解決は今後さらに重要性が増していくはずだ。

 

一方、前述のソーシャルビジネスの隆盛などにより、実は21世紀に入ってからというもの、NPOの活動においても「事業の持続性」や「成長性」が過度に注目されていた嫌いがある。寄付で成り立つ活動よりも、事業性の高い活動のほうが評価されるかのような社会の風潮すらあったように感じる。

 

しかしいま、社会課題解決の担い手が目まぐるしく変わるなか、公助/共助領域のキープレイヤーであるNPOへの期待は再び大きく変化している。今後のNPOは大きく2つの方向性で価値を発揮していくことになると僕は考える。

 

1つ目は、ある意味での「原点回帰」をして、民間企業には解決できない取り残された課題に対し、寄付やボランティアの力で立ち向かうという方向性だ。ますます社会課題が複雑化する現代において、市場では解決困難な課題に取り組む動きにこそ、NPO活動の真の価値があると言える。

 

2つ目は、スタートアップや大企業の水先案内人になるという方向性だ。

 

スタートアップも大企業も市場原理によって駆動する存在であり、基本的には儲かる領域に対して投資を集中させるメカニズムが内在している。そこでNPOには、ソーシャルイノベーション領域やサステナビリティ経営領域において、民間企業が社会課題に対して適切に取り組むための介入を行うという重要な役割が期待されている。

 

ときにはウォッチドッグ(番犬)として企業の問題行動を指摘したり、あるいは、社会課題の現場に精通する専門家として、民間企業が社会課題解決を行う際のパートナーとしての役割を果たすことがNPOの進む2つ目の方向性だと言えるのではないだろうか。

それぞれの領域の重要性

 

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「社会課題解決の担い手は誰なのか?」という冒頭の問いに対しては、このようにそれぞれの持ち場で各プレイヤーが強みを活かして課題解決を担っていくべきというのが自分の考察だ。

 

重要なのは、それぞれの領域に意味があるということだ。どこか1つが存在すればいいわけではなく、上下もない。各プレイヤーがそれぞれの役割を認識し、互いに協働しながらその役割を果たしていくことで、社会全体のシステムはより良く機能していくと僕は考える。

 

ここのところ、ESG投資の動きやインパクト・スタートアップの台頭についてばかり関心が集まっているように感じるが、こうした社会全体のグランドデザインについてこそ、もっと議論がなされるべきではないだろうか。

「社会課題の解決」では評価できないNPOの価値

 

さて、ここで筆を置こうかとも思ったが、最後に一点だけどうしても書いておきたいことがある。

 

ここまで、「社会課題解決の担い手」という観点から各プレイヤーの役割を眺めてきた。しかしNPOの活動について言えば、「社会課題解決」という軸では評価できない点にこそ価値があるように感じている。

 

無論、「社会課題解決」という結果は非常に重要である。しかし共助による社会課題解決を加速させるには、その前提となる「人々が社会活動に参画する仕掛け」や「地域での人と人のつながり」といった、共助の仕組みが機能するための土台づくりが必要不可欠だ。

 

そのため、これからのNPO活動においては「社会課題解決」を目指す動きだけでなく、その土台となる「人と人とのつながり」を生み出したり、そのつながりを強化・機能させたりする動きにこそ注目が集まっていくのではないかと最近強く感じている。

 

このあたりの「NPOの未来」についてはまだまだ書きたいことがあるので、それはまた別の機会に改めて書いてみたいと思う。

 

 

※こちらは、NPO法人クロスフィールズ代表理事 小沼大地さんのnote掲載記事からの転載です。

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小沼大地さんのインタビュー記事はこちら

>> コロナで打撃を受けた事業と家庭。不安・孤独が感謝に変わった転換点とは?クロスフィールズ小沼さんのケース

 

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小沼 大地

小沼 大地

NPO法人クロスフィールズ 共同創業者・代表理事。 青年海外協力隊としてシリアで活動した後、2008年マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。2011年5月NPO法人クロスフィールズ創業。ビジネスパーソンが新興国で社会課題解決に取り組む「留職」など様々な事業を展開。2011年に世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Shaper、2016年にハーバード・ビジネス・レビュー「未来をつくるU-40経営者20人」に選出される。国際協力NGOセンター(JANIC)および新公益連盟の理事も務める。著書『働く意義の見つけ方―仕事を「志事」にする流儀』(ダイヤモンド社)がある。一橋大学社会学部・同大学院社会学研究科修了。クロスフィールズHP:http://crossfields.jp/

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