7月8~9日の週末、宮城県気仙沼市で「ローカルリーダーズミーティング2023」(以下LLM2023)が開催されました。ローカルベンチャー協議会が主催し、NPO法人ETIC.が事務局となったこのシンポジウムには、全国からローカルベンチャー(地域資源を活用した事業家)、自治体、中間支援組織、さらに首都圏の大企業などから約160名が参加。気仙沼市内でのフィールドワークや分科会、さらに若手起業家等によるピッチ(プレゼンテーション)などを通して有意義な意見交換・ネットワーキングを行いました。
本稿では、「人口減少社会を前提とした幸福な働き方、生き方、地域づくり」をテーマとしたピッチの内容を3回に分けてレポートします。今回はその中でも、地域に人やお金を集めるための仕組づくりに取り組んでいる3名を取り上げました。地域の課題を解決したいけど、リソース不足に悩んでいるという方はぜひご一読ください。
複数の事業所に所属しながら正社員として働く。”マルチワーカー”という新しい地方での働き方
榎本朱里(えのもとあかり) さん /日南しごと図鑑事務局 ACにちなん事業協同組合事務局
1998年生まれ、宮崎大学を卒業後、新しい土地で冒険をしたいと思い関西の会社に新卒入社。海のない環境と仕事環境があわず、1年で宮崎にUターン。その後、模索しながら転職活動をし、やっぱり地域の人と関わるお仕事がしたい!と思い、日南市で日南しごと図鑑の事務局とACにちなん事業協同組合の事務局を担当中。
私は日南しごと図鑑という、宮崎県日南市の採用情報サイトを運営しています。採用情報を掲載している他、転職相談や日南のローカル情報の発信もしていますので、日南に興味がある方もない方もぜひご登録をお願い致します。
さて、ここからが今日の本題です。私が事務局を務めている取組ですが、日南しごと図鑑の他にもう1つあります。今日はその「ACにちなん事業協同組合」のお話をさせてください。ACにちなん事業協同組合は、総務省の「特定地域づくり事業協同組合制度」を利用して創立されたもので、ACはAttractive Career、つまり魅力的なお仕事を意味しています。人口減少が急激に進んでいる日南で、地域産業の労働力不足を解消し、新たな人材を確保するために誕生した組合です。
正社員として人を雇うのは難しいけど、繁忙期には人手がほしいという企業が地方には結構ありますよね。一次産業でも、季節によって忙しい時期と仕事がない時期があり、安定した雇用がないことが人口流出につながっていました。そこでそういったスポット的な仕事を組み合わせて、複数の事業所で正社員として働けるのが、この特定地域づくり事業協同組合制度です。
日南市では2023年2月に事業がスタートし、複数の事業所で様々な仕事に従事するマルチワーカーを3人、正社員として採用しました。その内2人が事業所での直接雇用につながったので、さらに2人を組合の正社員として採用し、事業開始から5ヶ月で累計5人のマルチワーカーが誕生しました。
特定地域づくり事業協同組合は、2023年7月末時点で全国に89組合もあり、今まさに波が来ているんです。一方で、これだけ組合があるということは、採用が激化しているということでもあります。地方でマルチワークをやってみたいという方が多くいらっしゃる中で、いかに日南市として差別化していくのか、頭を悩ませているところです。
日南はリゾート感がいいのかもしれないけど、リゾート感で勝負するなら沖縄には勝てないし、漁業が盛んな地域なら他にもあるし、広島カープはキャンプに来るけどファンじゃなければ引きにならないし……と、「なんか別に日南じゃなくてもよくない!?」となってしまっていて(笑)。
そこで、単独で人を募集するのではなく、特定地域づくり事業協同組合をやっている、あるいはやりたいという自治体で連携して一緒に採用活動をしたらいいんじゃないかと考えています。
今日気仙沼にお越しになっている方の中にも、雲南市、海士町、五木村と、特定地域づくり事業協同組合を立ち上げている自治体がありますよね。ぜひ全国の自治体のみなさんと協力して、ドラフト会議や採用フェアのような仕掛けをやっていきたいです。地方で働くマルチワーカーを一緒に増やしていきましょう!
クラウドファンディング型ふるさと納税で寄付と共感を集め、地域課題の解決を!
竹下友里絵(たけしたゆりえ) さん / 株式会社ボーダレス・ジャパン ふるさと納税ForGood事業部長
1996年兵庫県生まれ。2019年にタベモノガタリ株式会社創業。規格外野菜のフードロス問題を解決する「八百屋のタケシタ」を開始。その後2023年(株)ボーダレス・ジャパン入社。ふるさと納税事業立ち上げに従事。
株式会社ボーダレス・ジャパンは、ビジネスの力で社会問題を解決していこうというソーシャルビジネスに2007年の創業以来取り組んでいる会社です。現在、世界13ヵ国で48の事業を展開しています。その中で新しく始めようとしているのが、クラウドファンディング型のふるさと納税の事業です。
ふるさと納税は、自分の意思で納税先を選べる素敵な制度だと私達は考えています。とはいえ現実は返礼品重視という側面もあって、海産物や肉、果物といった魅力的な返礼品を持っている自治体が寄付を集め、そうでない自治体には寄付が集まりにくい状況になってしまっています。
地場産品を知ってもらう機会ですし、地元事業者の応援になっているのは間違いないですが、集まった寄付がどう使われるかに注目してもらうという、本来の目的はなかなか達成されてない点が課題です。
そこで私達が挑戦しようとしているのが、使途から選ぶふるさと納税、つまりクラウドファンディング型のふるさと納税です。これによって、返礼品が少ない地域でも共感を呼ぶ事業を打ち出すことで寄付を募ることができますし、ふるさと納税という仕組みを使って、森林保全や教育等、自分が共感できる事業を毎年応援するというような使い方ができるんじゃないかと考えています。
ふるさと納税が盛んになってきているとはいえ、利用者は年間740万人。まだ使っていない人が86%、数にすると5,600万人もいるんです。
利用しない理由を聞くと、「返礼品をもらえるのはお得だけど、そのためだけに書類を出したりするのは面倒」という声も多くあります。ですがもしかしたらその中には、「あなたの寄付でこういう風に地域がよくなるんですよ」というゴールイメージを見せることで動く人がいるかもしれません。
私達は「ふるさと納税 forGood」というポータルサイトを10月末にリリース予定です。 地域課題の解決を目指すクラウドファンディング型ふるさと納税は、財務の問題を解決するだけではなく、地域のことをきちんと知ってもらい、関係人口の創出にもつながると思っています。
これは余談ですが、この事業の裏テーマとして、寄付者のみなさんにも社会問題を知る、関心を持つきっかけにしてほしいという思いがあります。環境に配慮した魚を買おうと思ってはいても、普段より高い買い物をするのは難しいものです。そんな中、ふるさと納税が最初のきっかけとなり、多くの人を巻き込んでいけるような仕組みになればと思っています。
この輪を広げていくためにも、「この仕組みを使ってこんなことができないか」といったアイデアがありましたら、ぜひご相談ください!
動き始めた「地域の人事部」構想。地域が一丸となって人や企業に向き合う仕組みづくり
田中勲(たなかいさお) さん/特定非営利活動法人G-net副代表理事
2007年岐阜大学工学部卒。2012年11月よりG-net職員に。大学生向けに就活セミナーやキャリア面談を実施しつつ、地域の中小企業向けに社外人事部として採用戦略の設計や大学生との接点づくり、イベントを通じた採用力アップなどで関わっている。青年海外協力隊OBとして協力隊ナビや出前講座も実施。2020年9月に株式会社人と土を起業し、地域企業へのより専門的な採用・組織開発コンサルタントを行う。またお寺の住職向けに「TERA WORK SCHOOL」も実施。
みなさんの発表を聞いて、話したくなり飛び入りしました。僕は2012年から岐阜で、地域と人をつなぐ事業を行うG-netというNPO法人で仕事を始めました。2014年頃からは特に、地域の中小企業と若者を採用でつなぐ仕事に携わってきました。中でも新卒で経営者の右腕として働くことを目指す人材の採用支援に力を入れてきました。2021年頃までに、117名が地域企業経営者の右腕として新卒入社しています。
この活動を始めた当時から、一緒に地域企業向けの採用支援に取り組むコーディネーターがいたらと思っていたんですけど、なかなか見つからず仲間がいない状態でやってきました。ところがここに来て、少し風向きが変わりつつあります。
みなさんは、地域の人事部、あるいはまちの人事部という言葉を聞いたことがありますか?これまで経産省とお話ししながらこの仕組みを考えてきたのですが、今やっと予算化され、各地で動きが出てきたという状況です。
2023年9月2日(土)には、「チャレンジフォーラム2023~多様な連携で創る地域の人事部ネットワーク~」という、地域の人事部に関するこれまでの動きや成果、課題等を共有し、新たなステージを描いていくイベントを岐阜で開催する予定です。今までは仲間がいなくて大変でしたが、今はこの地域の人事部構想が全国的に広がり、若者が地域に入りたいときは、まずここに当たればいいんだという、共通理解が生まれそうな予感がしています。
地域によって取り組み内容がまちまちなところもあると思うので、一堂に会して取り組みを共有したり、どうすればもっと地域に目を向けてもらえるかといったことを考えたりできればと思っています。
9/2(土)開催のチャレンジフォーラム2023の様子。現地43名、オンライン18名、計61名が参加しました
今回のピッチは、ローカルベンチャーラボの受講生やOBOG、次世代を担う若手起業家や、ローカルベンチャー協議会の自治体が、今まさに課題を感じて取り組んでいることを紹介し、関心や同じ価値観をもつ参加者と交流することを目的に開催されました。
ピッチのレポートは、次の記事に続きます。
<関連記事>
<関連リンク>
>> ローカルリーダーズミーティング2023
https://initiative.localventures.jp/event/3142/
>> ローカルベンチャー協議会
https://initiative.localventures.jp/
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