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「ジャスト・トランジション(公正な移行)」とは? ETIC.が全国19団体と取り組む脱炭素・環境配慮型のビジネス転換

2024.01.22 

 

こちらの記事は、前編「発電所の撤退で仕事を失った地域の新たな挑戦。『サステナブルな拠点』を目指す三重県尾鷲市」の後編です。

 

持続可能な社会を実現するための様々な取り組みが進む中で、近年注目を集めているのが「ジャスト・トランジション(公正な移行)」という概念だ。もともと2015年のパリ協定(※)の前文で使われた言葉で、各国が脱炭素社会への移行を進めるにあたって、それによって不利益を被る人たち――すなわち一時的に仕事を失う人たちにもきちんと配慮していこう、という考え方を指す。急速な脱炭素政策を進める欧州発の概念である。

※パリで行われた国連気候変動枠組条約第21回締約国会議=COP21で採択された協定

 

前回の記事では、「ジャストラ!」というプログラムの一環として開催された視察ツアーを取り上げた。NPO法人ETIC.(エティック)がJ.P.モルガンの協賛により運営し、目的は中小事業者の事業開発支援だという。現在、(前編で取り上げた)「ヤードサービス」と「つちからみのれ」を含む19団体が、本プログラムの支援を受けて2024年9月までに新たなビジネスモデル開発を目指すことになっている。これが他の事業開発支援プログラムと違うのは、名称が由来する「ジャスト・トランジション」という概念が含まれる点だ。

 

本プログラム事務局の責任者、エティックの松本未生によれば、今回の視察先に尾鷲を選んだのは「火力発電所の撤退という象徴的な出来事が起こった場所で、地元の中小事業者がどのように地域経済のトランジション(転換)に対応しようとしているかを知るため」だった。一方、「公正さ」という概念を日本の民間における中小企業支援の文脈にどう落とし込むかは「走りながら試行錯誤を重ねている」という。

 

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視察最終日、貴重な学びの内容を振り返り次のステップを考える参加者たち

 

プログラム公式ページには、その目的として「脱炭素・環境配慮型のビジネスへの転換の際に、関わる全ての利害関係者にネガティブな影響・不利益を及ぼさないよう配慮して事業を行うことで、地域の持続可能性を高めることを目指す中小企業・団体を支援する」とある。

 

もっとも、このプログラムの支援を受けて開発する事業自体は「もちろん新電力などに限る必要はない」と松本さんは言う。ポイントはあくまで「地域の持続可能性を高める」ことにありそうだ。「各地域の中で今ある資源を見直して新ビジネスを生み出し、それを産業化へとつなげる最初のステージを支援する。最終的にそれらのビジネスや産業をカーボンニュートラルやカーボンネガティブにしていきたい」(エティック松本)。実際、尾鷲市のヤードサービスも最初から「脱炭素」を掲げて業態転換したわけではないが、本プログラムで脱炭素の先進地とも言えるデンマークを視察したことなどでサステナビリティに対する意識が高まったという。

 

「詰まるところ、長らく経済を支えてきた産業の構造が崩れたとき、連鎖倒産を避け、適切な雇用の流動化をいかに進めるか、という話です。それが尾鷲ではたまたま火力発電所でしたが、それは造船業かもしれないし鉄鋼業かもしれません。それらが撤退した後、単一の新しい産業で同じ規模の雇用を代替するのは難しい。雇用のレジリエンスを高めるためには、サステナブルなビジネスを複数つくって分散するという考え方もあり、脱炭素ビジネスはその中のひとつという位置づけです。

 

また、大企業の撤退というシンボリックな出来事がなかったとしても、急速に少子高齢化が進む地方では持続可能な地域経済への転換は待ったなしです。外部環境の変化にも耐えうるレジリエンスの高い地域社会・経済は、やはり地域自身でつくり出すべきもの。交付金・地域外大企業頼みではなく、各地域が自律的・主体的に自分たちの将来ビジョンを描いて、そこへの円滑な移行を目指すことが必要です」(エティック松本)

 

その過程で「公正さを担保する」ことがこのプログラムの「肝」と言えるが、実際のところ「公正な=ジャスト」という形容詞の解釈は難しい。参加者の声を聞くと理解はそれぞれ微妙に異なるようだし、「すべての利害関係者に不利益を及ぼさない配慮」を一体どこまで厳密に考えるのか、事務局側も現時点で明確な答えを持っていない。

 

もっとも、これについてはあまり難しく考える必要はないのかもしれない。

 

「経済や社会の変化をトランジションというなら、それを悪い方向ではなく良い方向に変化させることがジャスト・トランジションではないか。結局、そこに暮らしている人たちが何を選択するかが重要な要素になる。僕たちはそこに影響が与えられるような活動ができたらいい。目指すのはグレートなトランジションだ」(つちからみのれファウンダー・伊東さん)

 

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「ジャストラ!」プログラム参加事業者の活動地域を見ると、尾鷲市のほか、北海道下川町、岩手県洋野町、宮城県石巻市、島根県隠岐郡海士町、徳島県上勝町、大分県臼杵市、青森県八戸市など、いずれも地方の市町名が並ぶ。規模や産業構造は異なり、当然具体的なアジェンダも異なるが、このままでは持続不可能な地域・産業を持続可能なものへと転換させることを目指す点では共通している。そして、「自律的・主体的に自分たちの将来ビジョンを描く」意志がある点も。

 

ジャストラ!」プログラムがひとまず終了する2024年9月、これらの地域からどんな将来ビジョンと新しいビジネスモデルが生まれているか、楽しみだ。

ジャストラ!公式WEBサイトTOPページ

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中川 雅美(良文工房)

福島市を拠点とするフリーのライター/コピーライター/広報アドバイザー/翻訳者。神奈川県出身。外資系企業で20年以上、翻訳・編集・広報・コーポレートブランディングの仕事に携わった後、2014~2017年、復興庁派遣職員として福島県浪江町役場にて広報支援。2017年4月よりフリーランス。企業などのオウンドメディア向けテキストコミュニケーションを中心に、「伝わる文章づくり」を追求。 ▷サイト「良文工房」https://ryobunkobo.com