飛行機は特別な乗り物。ましてや、それを所有するなんて想像もつかない。そんな日本での当たり前を飛び越えようとしている事業が現在進んでいます。
海外の事例を参考に、日本やアジアで企業や富裕層をターゲットとした会員制のプライベートジェットサービスを展開し、「タクシーに乗るように、気軽に飛行機に乗れる社会を目指す」とビジョンを掲げる株式会社OpenSky 代表の本多重人さんにお話を伺いました。
本多 重人(ほんだ・しげと)さん
株式会社OpenSky 代表取締役 / TOKYO STARTUP GATEWAY2017ファイナリスト
18歳のときにアメリカでパイロット免許取得。東北大学に通いつつアメリカとフランスで曲技飛行の専門教育を受け、曲技飛行パイロットとして活動。全日本や全仏曲技飛行選手権などで優勝。海外と比べたときに日本では空の利活用が進んでいないことに疑問を感じ、26歳のときに独立して日本の空をより多くの方が自由に使うことができるようにするための活動を始める。2017年TSGに応募し、最優秀賞を獲得。翌年にもう一人のパイロットと共に法人化。航空機の運航管理、パイロット教育などから事業を始め、2021年に前澤ファンドから出資を受け、現在の事業の準備を開始。アジアではほとんど提供されてこなかった、ビジネスジェットの区分所有によって安価な空の利用方法を提供。
公式サイト:https://www.opensky.jp/
聞き手:栗原吏紗(NPO法人ETIC.)
パイロットだったから見つけられた空の可能性。いつでも使える飛行機のシェアリングサービス。
―今取り組んでいるプロジェクトや事業を教えてください。
OpenSkyは、私たちが仕入れたビジネスジェットの所有権を分割してお客様に販売し、1機買わずとも少ない金額で所有者になることができて、使った分だけお金を払って飛行できるというサービスを行っています。これまで日本では、ビジネスジェットを使おうとすると、まるごと1機を自分で購入するか、比較的高額なチャーターサービスを使うという選択肢しかありませんでした。
1機を買うと数億から数十億円ですが、所有権分割なら、数千万円台から所有者になることができて、1回あたり数十万円から使うことができます。
―ビジネスアイデアを思いついたきっかけは?
小さい時に『風の谷のナウシカ』や『紅の豚』などのジブリ映画を見て、空を飛びたい、パイロットになりたいと夢を持ちました。18歳くらいの時にフライトスクールに通い、パイロットの資格を取った後、欧米で曲技飛行のパイロットとして活動しました。
ある程度自分がやりたかったことができるようになると、次は、社会に貢献できるようなことをしたいと考え始めました。それが本格化したのが、TSGに応募したくらいのタイミングです。
その頃、調べたり、考えたりしていく中で、このビジネスモデルなら日本でもいけそう、みたいな感じですかね。アメリカやヨーロッパでは既に確立している空の使い方の成功事例があるのだから、日本やアジアでも同じように、必ず広められるはずだと信じて活動を始めました。
海外で成功しているビジネスモデルを日本で展開。試行錯誤ととにかく地道な普及活動
――アイデアを思い付いた時、最初に誰に話しましたか?
ずっと探していて、色んな人と話してきていたので、覚えてないですね。
長くこのアイデアを温めてきて、これが一番効率いいなとわかったのが今のビジネスモデルなんです。ただ、始めようとすると最初に物凄く大きいお金が必要でしたが、集めることが難しくて、資金がかからない方法を試していくといった試行錯誤を重ねました。
私たちの場合は、海外でちゃんと成功しているサービスを見て、日本やアジアで成功しない理由は今のところ無さそうだねってことで、このサービスを展開しています。タイムマシン経営と言われる手法です。
―海外でうまくいっているモデルを日本で推進していく際に気を付けていることはありますか?
大枠としては、変わらないと思っています。ただ、微妙な調整は必要です。
例えば、私達のビジネスモデルは、ビジネスジェットやそれ以外の小さい航空機を既に使ったことがある方達にとってはとてもスムーズに導入しやすいサービスです。ですが、日本の場合は使ったことがない方がほとんどです。そういった方達が前提となる日本のマーケットに入っていくには、やっぱりこれまでとは別の施策が必要です。
まずはサービスを身近に感じてもらうために、とにかく地道に、使った人から他の人に話してもらうといったことに取り組んでいます。
好きなことだからこそ、24時間だって考え続けられる。好きなことで、他の人も喜ばせる方法を模索し続ける
――何がきっかけで、自分の心に火が付きましたか?
きっかけらしいきっかけはないかもしれないです。もともと自分が個人としてやりたいことはある程度できるようになって、20代前半ぐらいから「これは自分のためだけだな」と問題意識を持つようになりました。
それと、自分の中の心が急に燃え上がるというよりかは、心の中に火種があって、それを育てるといった感じがします。
―心の火種を育て続ける上で大事だと思われることは何でしょうか?
興味があるかないかしかないと思います。好きか嫌いか(笑)。好きでないと24時間考え続けられないですよね。反対に今の自分は、意識しないと考え続けてしまうので困っています。
自分が好きなことで、他の人も喜ばせる方法がこの世の中にあるのか。そこをどう見つけていくか模索し続けることが大事なのではないでしょうか。
タクシーを頼むように、プライベートジェットを個人で呼べる社会を目指して
―事業を通じて実現したいビジョンや創りたい世界を教えて下さい。
もっと気軽に空を使える世界にしていきたいです。地上では毎日自家用車やタクシーを使う人もいれば、たまにしか使わない人もいます。たまにしか使わない人でも、必要なときに使おうと思えば使える、という選択肢を持っています。この考え方は空でも同じです。
いまの日本とアジアでは、必要な人が必要なときに小型機やビジネスジェットを使うための選択肢を提供できていない状態ですので、車のタクシーを呼ぶように気軽に飛行機を呼べる時代が来たらすごいカッコいいですよね。
―どのように社会貢献をしていきたいですか?
地上の交通インフラを例に考えると、地上では、やりたいことや場面に合わせて、電車やバスなどの公共交通機関、車、タクシーが全部使えて便利だと思うのです。
一方で、日本の航空インフラは、残念ながら地上でいう電車やバスのようなものしかなく、空の移動の選択肢がほとんど無い状態です。これは明らかに世界と比べて遅れているし、使わない理由も無いですよね。
例えば医療系の話でいうと、日本ではすでにドクターヘリは割と整備されています。一方、今後の日本は人口減少や過疎化など、都市と地方の差が広がっていくので、より効率的な広域医療を提供していく必要があり、他国と同様に飛行機も使った方が社会全体の効率は良くなっていきます。過疎地域の妊婦さんの健診や透析患者さんの定期治療など、ドクターヘリを使うほどの緊急性はない方達に、小型機を使ってスムーズに都市の病院へ移動できるようにすると広域医療の効率があがります。
―事業を進めていてぶつかった壁、大きな課題はありましたか?
私の場合、初期投資がとても大きいので、資金調達はずっと苦労していました。
この事業をスタートさせるには、初期投資で十数億円は必要でしたので、資金調達の活動はずっとしていました。ベンチャーキャピタルとも話をしましたし、思いつくあらゆる調達方法を調べて、試してやってみました。
プロダクトもトラックレコードもない私が創業した法人に十数億円を投資する意思決定ができる機関はなかなかありませんでした。私の周りに資産家がいたわけでもなく、調達できる既存機関が見つからないのは課題でしたね。
その後、エンジェル投資家の千葉功太郎さんとの出会いや前澤ファンドによる出資が決定し、空の移動の選択肢を増やすための事業展開が本格化してきました。
とりあえずちょっと行動してみる。その回数を増やしていく。するとそのうち前進する。
―TSGはどんな価値がありましたか? 起こった変化や気づきなどがあれば教えてください。
最初にメッセージを400文字で提出して、次は何月何日までにまた400文字を出すといった具合に、1ヶ月単位で、毎回締め切りと審査項目が送られてきますよね。
この締め切り効果は大事ですね。自分だけで締め切り無くやっていると、どうしてもダラダラしやすいので、強制的に締め切りの日付があるから行動につながりやすいというのはあります。
―これからTSGにエントリーする方・起業に挑戦する方へ応援メッセージをお願いします。
とりあえずちょっと行動してみるというのがいいと思います。
エントリーするのもいい。とりあえずちょっと行動してみること、そしてその回数を増やしていく。そのことが、何をするにもいいのだと思います。すると、目に見える前進はないかもしれないけど、そのうち変化が起こる。
そういった時に、とてもいいきっかけを与えてくれるのがTSGだと思います。
「TOKYO STARTUP GATEWAY」に関する記事はこちらからもお読みいただけます。
様々な起業家たちのチャレンジをぜひご覧ください。
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