持続可能な社会を実現するため、近年、ゴミ問題に注目が集まっています。
膨大なコストをかけてゴミを焼却するのではなく、分散型インフラの仕組みでゴミを資源化、コストを削減し、資源と喜びが循環する社会をつくりたいというビジョンをもつ小柳さんにお話を伺いました。
小柳 裕太郎(こやなぎ・ゆうたろう)さん
株式会社 JOYCLE 代表取締役社長 / TOKYO STARTUP GATEWAY2022セミファイナリスト
東京都出身。学生時代は北海道で歌手になるためのボイストレーニングやサッカーに打ち込んだほか、フィリピンなどへの海外留学やアメリカへの交換留学に加え、バックパッカーとしてインドを旅したこともある。小樽商科大学を卒業後、2013年に総合商社の双日(東京)へ入社。1年目に駐在したパプアニューギニアで出会った子供達が、生活に必要な水を汲む為に何時間も時間をかけていたり、夜間に真っ暗な中で勉強せざるをえなかったりと、厳しい生活インフラ環境の中で受けていた大きな時間制約を実際に目にしたことが、環境エネルギー分野に挑む原体験となる。その後、サーキュレーションでの人材コンサル営業や大手広告代理店電通での海外インフラ事業開発、U3イノベーションズでの環境エネルギー分野の事業開発経験などを経て、2022年9月に独立。翌年3月に会社を設立した。
公式サイト:https://joycle.net/
聞き手:栗原吏紗(NPO法人ETIC.)
ごみ焼却炉を廃止した自治体のリサイクル率UPがヒントに
ー取り組んでいる事業について教えてください。
ゴミを焼却炉に運ばずに再資源化するインフラの普及活動を行っています。
現代は人口が減少し、焼却施設への投資が追いつかず閉鎖される施設も増えており、ゴミ収集作業員も減少傾向です。
都心部では大規模な焼却施設が必要ですが、離島や僻地ではゴミを運搬せずに資源化するインフラが求められます。
これからは、サーキュラーエコノミーを実現するために分散型のインフラが必要だと考えています。ゴミの資源化装置はいくつか存在しますが、センサーを設置して、そのパフォーマンスや利用状況を可視化することは、CO2削減などに寄与できるため重要です。
ジョイクルでは、特に医療機関・介護施設で出る廃棄物を資源化し、その費用対効果・環境対効果を可視化する「JOYCLE BOARD」β版サービスの提供を開始しました。
2025年頃をめどに、さらにサービスを発展させて、小型アップサイクルプラントのレンタルサービスを始める予定です。
JOYCLEの小型アップサイクルプラントサービスのPR動画
ービジネスアイデアを思いついたきっかけは何ですか。
鹿児島のある自治体の事例から着想を得ました。
その自治体では、税収不足でゴミ焼却炉のメンテナンスが難しくなり、閉鎖せざるを得ない状況が生じました。これによりゴミ処理が困難になり、対処法が必要でした。
しかし、ゴミの分別を促進する取り組みで自治体は驚くべき成果を達成しました。通常のリサイクル率が2割程度である中、この自治体は8割以上を達成したのです。
ただし、これは自治体が年間数百回の説明会や啓発活動を通じて努力した結果です。
私は住民や企業がリサイクル率向上にインセンティブを感じることでより広がるのではないか、そう考えました。
日本では、産業廃棄物処理に高額な費用がかかる企業が多く、月額制の装置導入によるコスト削減が有益と考えられます。
産業廃棄物処理コストの高騰する地域で実現可能性が高い一方で、アナログ装置の課題もあります。パフォーマンスの可視化やデータの活用でカーボンクレジットなどの経済的合理性を高められるのではないか。
こうした取り組みを行っているプレイヤーが存在しないので、私がその役割を果たすことに意義があると感じます。
ーアイデアを思いついたときに、最初は誰に話しましたか。
最初は前職の上司に話しました。ですが、数字的なインパクトが不足していると社内での実行が難しいというフィードバックを受け、それならば自分でやろうと決意しました。
2023年9月に、最初は副業をかけもちしながら独立しました。
ー具体的には誰に会うことで事業を推進しましたか。
最初はいくつかのメーカーを調査し、数社に会いました。
また産廃業者に装置の検討について尋ねたり、さまざまな業界関係者に会いました。 どこでご縁が繋がるかわからないので、ターゲットとなりそうな企業を調査し、面識がなくてもホームページにメールを送ったり、電話をかけたりしました。
たとえ相手から反応が無かったとしても、とにかくいろいろな方に会うことが大事だと思い地道な努力を続けました。
共感してくれる人を口説いていったらいつの間にかチームになっていた
ー事業を推進するためのチーム作りはいつから意識しましたか。
ボード(基板)や装置を作るために採用したエンジニアが最初の仲間です。
「チームをつくろう!」と言ってつくったわけではなく、ジョイクルの必要性に共感してくれる人を口説いていったら、いつの間にかチームになっていた感じです。
ーチームをつくる上で苦労したことはありますか。
現時点では特にありません。
実は、会社員時代は自分の得意な役割に時間を割けずにミスが続いたりしたことから人間関係や立ち回りにも難しさを感じたことがありました。
会社の中で新規事業を始めたいと思っても、「こうしたら次の社内稟議のステップに進める」という明確なフィードバックがなく、どこをクリアすれば良いのかがわからず、方向性を見失うこともありました。大企業特有のスケール等のポイントを除いて本質的に社会課題に向き合う為のリードタイムを考えると、会社員時代の方が私にとっては遥かに大変だったので、起業してからは自由にできる分、あまり苦労を感じていないのかもしれません。
今は自らゴールを設定し行動した結果、外部の支援も得られているので、起業という環境が自分に合っていると感じています。自分で意思決定してスムーズに動けることで、仕事に取り組むモチベーションも上がるからだと思います。
一つのご縁でも生まれる可能性があるなら、やらないよりもやる方が大切
ー資金調達を意識したのはいつからですか。
資金調達を意識し始めたのは、独立してすぐの頃でした。
独立直後は副業をしていましたが、せっかく独立したのに自分がしたいことに時間を割けないことが悩みでした。自分の事業にフルコミットできる環境にしたいと考え、銀行融資にトライしました。
ーいろんな資金調達があるなかで銀行融資を選択した理由はなんですか。
偶然にも「スタートアップ創出促進保証」が始まり、無担保無保証で融資を受けられたからです。愛知県のビジネスコンテストに参加し、去年の9月に入賞しました。その際に名古屋銀行の担当者と出会い、限度額満額の融資を受けることができました。タイミングと運もあるかもしれないですね。
ー大切にしている信念はありますか。
「とりあえずできることは全てやる」です。また、一つのご縁でも生まれる可能性があるなら、やらないよりもやる方が大切だと考えています。実際にそうした行動が多くのご縁に繋がっています。
登壇の依頼も積極的に受けます。うまくできなかった経験もありますが、その経験を積み重ねることで今のご縁が生まれたと思っています。
死後100年後の社会を変えるビジネスを創る
ー自分の経験から得た教訓やアドバイスはありますか。
「任せられることは任せるべきだが、大切なことには手を抜かないこと」です。事業が望ましくない方向に進まないように、緊急ではなくても重要なことを最優先で行うことが重要です。
ー小柳さんにとってどのようなことが緊急ではなく重要でしたか。
私にとっては副業を全てやめて自分の事業に集中する時間を確保することが重要でした。副業を並行することも出来ましたが、事業に集中したいと決意し、実行しました。
ー事業を通じて実現したいビジョンやつくりたい世界を教えてください。
個人としては、社会人1年目の時から「死後100年後の社会を変えるビジネスを創る」という目標があり、この言葉を言い聞かせると自分自身のテンションがあがります。
会社としては「資源と喜びが循環する社会をつくる」というビジョンがあります。 個人のつくりたい世界と企業のビジョンが一致しているので、頑張って実現したいです。
行動からしか挑戦は生まれない
ーTSGの価値は何だと思いますか。
TSGにエントリーしたことで、エンジェル投資家や起業家とのつながりを築くことができました。今回のようにインタビューを受けることで、記事を読んだ人が積極的にアプローチしてくれる可能性もあります。TSGは新たなご縁が生まれる貴重な場です。
ー最後にエントリーを検討している方、起業に挑戦する方への応援メッセージをお伝えします。
何事もまずは行動に移すことが大切です。少しでも関心があるのなら、やらなかった後悔よりも、挑戦した後悔のほうが価値があります。
私自身の人生でも「あの時にあの行動をしてなかったら…」とぞっとすることが多いのですが、TSGエントリーもそのひとつです。
もし挑戦しなかったら自分はいまどうなってたんだろう?と。
行動からしか何も挑戦は生まれないと思います。
「TOKYO STARTUP GATEWAY」に関する記事はこちらからもお読みいただけます。
様々な起業家たちのチャレンジをぜひご覧ください。
>> 特集「夢みるために、生まれてきた。~世界を変える起業家たちの挑戦~」
あわせて読みたいオススメの記事
#ビジネスアイデア
子どもたちの「対話力」を伸ばすオンライン絵本レッスン 株式会社YOMY 安田莉子さん
#ビジネスアイデア
#ビジネスアイデア
#ビジネスアイデア
#ビジネスアイデア
2026年になっても人間にしかできないこと 〜教育改革家藤原和博さんのタタカイ