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建て直し中の空き家から「人生の立て直し」を──合同会社Renovate Japan 甲斐隆之さん【社会起業塾2024年度最終報告会(3)】

2025.05.15 

2002年、NPO法人ETIC.(以下エティック)と日本電気株式会社(以下NEC)との協働で、社会起業家を支援する国内唯一のプログラムとして始まった「社会起業塾イニシアティブ」。時代の流れに合わせて、支援対象、協働企業ともに幅を広げながら、社会起業家支援のプラットフォームとして、事業推進、経営など組織基盤の課題解決を伴走支援してきました。これまで卒業生は156名(2024年度まで)、事業継続率は88%となっています。

 

2024年度は、計8組の社会起業家たちが「社会起業塾イニシアティブ」に挑戦。約半年の間、実際に事業を推進しながら、経営をはじめ組織や事業の課題に向き合う実践を繰り返してきました。

 

「社会起業塾イニシアティブ」2024年度の最終報告会が、2025年3月10日、都内で開催されました(主催:エティック)。登壇した卒業生は計8名。それぞれがプレゼンした事業内容、成果報告からは、社会でまだ可視化されていなかった課題や解決策が紹介された貴重な時間にもなりました。

 

今記事では、甲斐隆之さんの取り組みと、半年間、卒業生たちに伴走した計4名のメンターからのコメントをご紹介します。

 

<「社会起業塾イニシアティブ」2024年度卒業生>

卜田 素代香(うらた そよか)さん 一般社団法人THYME

北橋 玲実(きたはし れみ)さん 株式会社Estlaughtive

甲斐 隆之(かい たかゆき)さん 合同会社Renovate Japan

山家 ヤスエ(やまけ やすえ)さん 特定非営利活動法人希望の光

沖野 昇平(おきの しょうへい)さん in the Rye株式会社

武田 勇(たけだ いさむ)さん オヤシル株式会社

倉嶋 香菜子(くらしま かなこ)さん 株式会社ママのHOTステーション 

土井 佑太(どい ゆうた)さん Marine Sweeper

 

<メンター>

大西 連(おおにし れん)さん 認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長

竹内 弓乃(たけうち ゆの)さん 特定非営利活動法人ADDS 共同代表・理事

土屋 有(つちや ゆう)さん 国立大学法人宮崎大学 地域資源創成学部 准教授、地域資源ブランディング株式会社 代表取締役、株式会社CNC 取締役

渡邊 享子(わたなべ きょうこ)さん 株式会社巻組 代表取締役

 

人も空き家も地域社会もタテナオシ

  • 分野

地域・まちづくり

  • 事業内容

タテナオシ事業では、収益化される前の改修中の空き家等物件を活用し、失業やDV被害等で一時保護が必要な人を、他の相談窓口と連携して先に完成した個室へと受け入れ、残りの改修の補助作業(専門業者以外でも参入可能な表層リフォーム中心)を時給制の柔軟なアルバイトとして提供しながら、改修期間中に次の就職先や支援制度等へつなぐ支援を行っている。改修後の物件は、賃貸や宿泊等の形で収益化し、自立性の高いソーシャルビジネスとして経営している。

  • 活動地域

東京都、静岡県

 

生きづらさを抱えた人に創造する居場所と機会をつくる

僕は、6歳の時に父を亡くし、その際、遺族年金をはじめ公的なセーフティネットに助けられながら育ってきた経緯があります。しかし、一方で、本来受けられるはずの制度につながれない人、そもそも制度が受けられない地域があることに問題意識を持ち、大学2年のときに生きづらさを抱えた人たちや現場の研究をしながら、合同会社Renovate Japanを設立しました。ビジョンは、「誰もが生きやすい社会をつくる」です。

 

生きづらさを感じている人たちを対象に、社会の余白を活かしながら創造の場としての居場所と機会をつくることができたらと思っています。これは、社会起業塾で言語化できたことです。

 

事業内容は、主に空き家探しと一時保護で、空き家に関しては、空き家物件はもともと廃墟のため、壁など劣化が激しく、人を受け入れるための環境整備や資金が必要になっています。収益化、宿泊事業などが必須の課題ですが、そうすると賃料を払えない人たちが取り残される恐れがあります。それなら、その間を取って、建て直し中だけれど安定した個室がある物件を、DV被害に遭い、制度とつながる前の一時的な保護を必要とする方々のための場所として、支援団体と連携しながら運営していこうと考えました。

 

 

さらに、リノベーション作業の補助という形で一時保護の方が生活費を稼げる場を作り、また、地域とよりよくつながることを目的とした居場所作りも行っています。物理的、心理的、経済的に、人の立て直しが、建て直し中の物件から起こるという、そういう重ね合わせを行っています。具体的には、改修にかかる2~3週間で、少なくとも生活保護、就労先、親族との再生支援等を行っており、利用者の方々が卒業した物件は市場原理に戻して、賃貸・宿泊事業として収益化する、そういった循環が続くように仕組みを作っています。

 

現在のところ、改修済みで収益化させた物件は4件あり、すべて黒字経営です。利用者の方々からは、「精神的なよりどころになった」、「徐々に安心して取り組めるようになった」といった声をいただいています。

 

社会起業塾への入塾は、周囲から「もっと事業を広げてほしい」と声を寄せられ、中長期的なロードマップづくりで悩んでいたことがきっかけです。ただ、社会起業塾のメンタリング等を通して、事業を継続するために自分はどうありたいのか、どんな生活をしたいか、自分軸を保つことが大事だと理解し、方向性を模索できたと思っています。メンターの皆さんには、「自分軸で良い」「アントレプレナーよりもアーティスト思考でいい」など大きな学びを得ました。

 

人と人とをつなぐプロセスを重視

<メンター : 大西氏のコメント>

テーマの「空き家活用」は、現在、大きな社会課題となっていますが、一方で住居に関する課題を抱えている方と空き家をどうつなげるかは今話題のテーマだと思います。甲斐さんらしさは、人と人とをつなげるところではないでしょうか。また、その中でプロセスを大事にしていると思います。

 

 

一緒に住居をつくりあげていく時間、体験、空間のうち体験に最もやりがいを感じ、そんな取り組みの良さを理解してくれるメンバーとのコミュニケーションにすごく魅力を感じています。プロセスを通じて、事業に関わる人たちがどう変化していったのか、それをより見える形にしていくともっと価値が伝わりやすくなるのかなと思いました。

 

また、甲斐さん自身、この活動を通して、自分の在り方について大きく悩み苦しんだと思います。そういった経験を活かして、これからいろいろな地域、場所、利用者一人ひとりに合わせた形をつくりながら、各地域に良い影響を与えてくれたら嬉しいです。

 

自身の良さがより良い形で表面化された事業に

<メンター:竹内氏のコメント>

甲斐さんは、なんでもスマートにうまくできそうな人だけど、実は少し不器用で、現場や人がとても好きというところに一周回って還っていったのかなと感じています。この半年間、今日のプレゼンでは表現しきれないほど、しんどい時間だったかもしれませんが、やっぱり甲斐さんは社会起業塾に参加してよかったんだろうなと思いました。

 

まずは、今ある現場を大事にして、仲間を大事にして、自分の余白と楽しさを大事にしてください。甲斐さんの弱さを知る仲間は本当にかけがえのないものだと思うから、大変な時期が続いたとしても、いつでも帰れる、頼れる場所がここにあるということを甲斐さんには一番伝えたいです。

 


 

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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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