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「400文字から世界を変える」起業イベントに、なぜ関わるのか。「TSG2023」Starting Dayの一日【運営メンバー編】

2024.05.28 

「400字から世界を変える」。

 

約10文字のキャッチコピーを目にした人たちは、最初、どう感じるだろうか。自分が世界を変えることなんてできるのだろうか。でも、本当に変えられるとしたら――?

 

自分のアイデアを400文字に込めてエントリーした人たちが一つの会場に集まる「TOKYO STARTUP GATEWAY 2023 ―Starting Day―」が昨年夏、開催された。

10期目となるこのコンテスト自体は今年1月に終了したが、Starting Dayに集まった参加者、運営メンバーのことを伝える記事ができないかと考え、まずは書いた方が早いと原稿にすることにした(記事として公開されたら、無事に企画が通ったということだ)。

 

運営メンバーの一人、NPO法人ETIC.(エティック) 佐々木健介から、イベントが始まる直前にかけられた言葉も気になっていた。「表面的なことではなく、本質を見て記事にしてほしい」。大都市の“若者”といわれる人たちを巻き込んだこのイベントの本質とは何だろう。

 

ふと浮かんだテーマは、「なぜ、Starting Dayに関わるのか」。

当日、いろいろな立場の人たちを見て感じた一日を伝えたい。

 

取材・文 たかなしまき

運営メンバーのうち約100名に当日の会場づくりが託された

 

TSG2023のスタートであり、

起業という未知の世界への挑戦がはじまる日。」

 

公式WEBサイトにはこうある。

 

今年、TSG2023の応募者数は、過去最高の2,963名

そのうち約600名が当日の会場に訪れたという。

 

東京国際フォーラム内の会場そばに貼られた「TSG2023」のポスター。「その夢を眠らせるな」

 

当日の運営を担ったのは、事務局を担うエティックのスタッフをはじめ約100名。エティックのTSG担当スタッフとTSG担当以外のスタッフ、元インターン、家族や友人知人などの当日アルバイトスタッフ、外注企業のスタッフが会場に集まった。

 

Starting Dayの開催時間は12時から17時まで。朝10時に集合する運営メンバーも多いが、中心的な役割を担うメンバーなど早朝から当日の準備を始める者もいた。この日のために分刻みのスケジュールで何日も準備に携わってきたメンバー、1年かけてTSG2023のプロジェクトに関わり、準備を進めてきたメンバーもいる。TSG1期から10年間、関わり続けているメンバーもいる。

 

開場の2時間前、会場では、各地からこの日のために集まった運営メンバーが揃い、みんなで輪を作るようにまるく広がった後、一人ずつ自己紹介と意気込みやメッセージを話していった。一人話すたびに全員の拍手が鳴り響く。解散後は、それぞれ担当する場所へ。最終調整を行いながら参加者たちを迎える準備を進めた。

 

「TSG2023」Starting Dayの会場案内。

ステージトークセッション、参加者同士がつながるコネクトゾーン、先輩起業家に相談できる

ゲートウェイゾーンの3つのエリアに分かれ、それぞれプログラムが行われた

 

「TSG2023」Starting Dayで行われたタイムテーブルの一部

 

開場前の静かな雰囲気の中、それぞれ運営メンバーが自分の仕事を進めていく

 

広報の木村(右端)は報道関係者と打ち合わせを行った

 

準備の合間に集まって最終確認や談笑する姿も見られた

 

今回、運営メンバーに参画した都内の高専に通う杉山は、準備を進める間、「イベントスケジュールを聞かれるニーズが高いのでは?」と予測し、QRコードをその場で作成。「特に受付チームに必要になると思う」と、すぐに運営メンバー全員がつながるビジネスチャットで共有した。すると、開場後すぐ、参加者にイベントスケジュールを伝える場面が生まれ、その後も、参加者、運営メンバーともに活用する姿が見られた。

 

普段、工業系を学んでいるという杉山は、続けて、「水飲み場やトイレの場所もわかりやすいほうがいいのでは?」と、会場からのアクセス方法と無料の水飲栓(みずのみせん)の場所を案内する画像を作った。しかし、しばらく経っても聞かれることはなく……。杉山も「必要なかったですね」。ただ、その直後、「水を飲める場があるって聞いたのですが…」と別のメンバーが参加者から質問され、杉山が作った画像とともに場所までの道順を説明。短時間で、場所と、無料で冷たい水が飲めるなど機能について伝えることができた。

 

会場の敷地内にあるボトルディスペンサー式水飲栓の場。

「必要な人がいるのでは?」と、杉山はじめ運営メンバー数人で水が飲める場所の有無や位置を確認した

 

開場後、参加者たちは目的のエリアへ。イベントが動いた

 

午後12時に会場の入り口が開かれると、多くの人が姿を現し、目的のエリアへと足早に向かって行った。

 

会場の外には入場を待つ人の長い列ができていた。パープルのスタッフTシャツを来ているのは(右寄り中央)、

マーケティング担当で撮影取材班の伊藤。終日カメラを片手に会場を動きまわり、撮影をしていた

 

受付に人が集まり、会場へとその動きが広がっていく。

参加者たちに声をかけているのは受付リーダーの小泉(中央左)。同じく受付担当の阿部(中央)は参加者の様子を見守る

 

受付が始まった

 

開場後まもなくすると、起業家に直接相談できる「1on1」の受付に長い列ができた

 

会場内の様子

 

参加者は全員が目的をもって動いているように見えた。正直、会場内のアナウンスがあまり必要ないのでは?と思わせるほど、誰もが機敏に自分から情報を取りに各場所へと向かって行った。どこを見渡しても、「話す」「聞く」、その姿であふれていた。「自分の話を聞いてほしい」「誰かの話を聞きたい」。そういった躍動的なエネルギーを感じた。

 

終日、「立ち止まっている人はいないのでは?」と思うほど、動く人ばかりが目立った。限られた時間をいかに有効活用するか、むだのない行動が会場内に活気を生んでいた。

 

「1on1」ブースはどんどん予約が埋まっていった

 

「昨年は諦めたから、今年はリベンジしたくて」

 

自分のアイデアを通じて仲間と出会い、つながりあう「コネクトゾーン」では、

この日、約30分ずつ計5回のセッションが行われ、すべて多くの人で席が埋まった

 

「コネクトゾーン」のセッションでは、司会進行役の安富祖(あふそ・中央)が場を温めてから各テーブルの交流が始まった。

最初、安富祖は緊張していたという

 

startingday17

参加者たちと交流する安富祖(あふそ)。場の雰囲気が和らいでいく

 

「コネクトゾーン」セッションの参加者には、ベビーカーを隣に置いて座れる場所を探す女性に気づいた運営メンバーが席へと案内していた。彼女は、「昨年は途中で諦めたから、今年リベンジをしたいと思って」とやわらかな笑顔で話してくれた。

 

20代から30代が多く見られる中、高校生と思われるグループや幼い子どもを連れた男性や女性の姿も見かけた。子どもを抱っこしたり、小さな手をつないだりして誰かの話を聞くチャンスをうかがう男性もいた。幼い子どもを連れた女性と、まるいお腹をなでる女性がしばらく話し込んでいる姿も見られた。

 

運営に携わる一人ひとりが自分の役割を通してイベントを作った

 

参加者に会場内を案内する運営メンバーの杉山。彼は、自分で仕事を見つけ、積極的に動いていた

 

スタートアップステージでは、環境系エンターテイナーのWoWキツネザル氏が真剣な話や、

くすっと笑える話を織り交ぜながらゲストと観客席をつないだ

 

「スタートアップステージ」のディレクションを進める高木(中央)と富田(中央左)。

当日、ステージ関連のサブリーダーだった高木は、普段、ETIC.のシステムまわりを担っている。TSGでも毎回システムを担う

 

昨年10周年を迎えたTSG。スタートアップステージでは、応募総数が発表された後、プログラムが展開されていった。

会場内に集まるのはTSGに400字でエントリーした人のみ。

運営メンバーの栗原(右端)は、参加者たちの様子を見守りながら時折笑顔を見せていた

 

この日のために揃った音響系のプロたちも朝から調整を重ね、本番に臨んだ

 

株式会社The Chain Museum のCEO 遠山正道氏(株式会社スマイルズ創業者)のトークセッション。

目の前にいる後輩たちに語りかけるように、自身の起業人生と思いをわかりやすく披露していた

 

起業家に自分のアイデアを直接話し、アドバイスを受けられる「1on1」は、開場後まもなく予約が受付終了になった。

約30分ごとに各起業家と参加者らが向き合った

 

シニアコーディネーターの鈴木(中央)をはじめエティックのスタッフも起業相談にあたった。

イベント終了直後まで、鈴木のもとには訪れる人の姿が絶えなかった

 

TSGのパネル。10年間、置かれ続けたこのパネルを参加者たちやスタッフはどんな思いで見ているのだろうか

 

両端の「TALKING」は「アイデアの話がしたい」。中央の「HELP」は「仲間募集など前進するための一歩を進みたい」。

参加者たちはそれぞれ自分の名前などを書き込み、胸に貼り、出会えた人と話をしていた

 

「1on1」で起業相談に応じるスタッフの川島(中央左)。

普段はインターナショナルチームとして国際的な活動推進にも携わっている

 

Starting Day開催当日は快晴。夏の清々しい日差しが会場内を明るくしていた

 

話す。聞く

 

スタートアップステージのライトニングトークでは、参加者たちが持ち時間20秒内で自分の事業RPや仲間募集などを語った

 

公開メンタリングでは、参加者たちが400字で応募した自身のアイデアを大勢の前で話し、

活躍中の起業家たちからアドバイスをもらった。

特別ゲストとして登壇した株式会社HASUNA代表の白木夏子氏、

Global Mobility Service株式会社代表取締役社長 CEOの中島徳至氏は、

参加者一人ひとりに実践的なアドバイスを丁寧にしていた

 

TSG のOBOG起業家によるスタートアップ公開大相談会に登壇したのは、

株式会社ファンミー 代表取締役 CEOの秋山 悠氏、株式会社パルミー元代表取締役の伊藤貴広氏、

株式会社DO THE SAMURAI 代表取締役の吉田 亮氏。

司会進行の関根(左)のもと、それぞれ自身の起業前後の話などを率直な言葉で語った

Starting Dayの本当の目的は…

 

起業家らの話を熱心に聞く一人の男性に、Starting Dayに参加した理由を聞くと、こう答えてくれた。

 

「今すぐ起業したいわけではない。ただ、起業がどんなものなのか、どんな人が集まって、どんな場がつくられているのか興味があった」

 

運営メンバーの杉山は、今回、友人の紹介で参画した。イベント終了後はその日のうちに、Starting Dayの運営を通して感じたことを教えてくれた。

 

「Starting Dayの本当の目的は、プログラム終了後に仲が良くなった人同士の交流。普段関わることのない分野を通して関わり合っているのを感じた。何回か同じプログラムに参加している人もいた」

 

その後、「こわがらずに自分から話しかけていくことが重要」との言葉で締めくくられていた。

 

今回、Starting Dayのイベントを記事にすることは一度見送ろうとしていた時もあった。しかし、半年過ぎた今、こうして一日、Starting Dayに集まる人たちのために工夫し、行動していた運営メンバーの姿が思い浮かび、再度、記事にする挑戦を決めた。その瞬間、もしかしたら、こう思い、動いたことまでが「TSG2023」のStarting Dayで、佐々木がイベント開始前に言っていた「本質」に近いことなのかもしれないとも思った。

 

「なぜ、TSG2023 Starting Dayに関わるのか」

 

一人ひとり、答えは異なっているかもしれない。ただ、一つ、「こうしたい」と自分の目的をもって、自分を信じて行動することは、まず自分自身から生まれたエネルギーがそれまでにはなかった事実をつくっているのではないか。私自身も、1日取材したことを原稿にしながら、こう実感している。

 

例えば運営メンバーは、確かに仕事だけれど、これまでに一度同じような経験をしたことがあって、願わくば、400文字からコンテストに挑戦した参加者たちに、自分の中に湧き上がるエネルギーを体感してほしいという思いがあるのかもしれない。誰か一人でもいい、エネルギーが湧き上がるその先を見たい、信じたい、そういう思いがあるのかもしれないと想像した。

 

私は、まず原稿が完成したここから。あの場で、自分の中に「こうしたい」という思いが生まれた感覚を信じたいという人がいたら、その人に届くように。

 

1日を終え、会場に残っていた運営メンバーが集まって撮影

 

こちらも合わせてお読みください。

>> 「TSG2023」Starting Dayは一体どんな場なのか。起業家の卵たちの声から探る【参加者の舞台裏編】

>>  特集「夢みるために、生まれてきた。」

 

 

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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。