「男の子は理系に進み、女子は文系」――。その「アンコンシャスバイアス」は、小さい頃に読んだ絵本が影響しているかも?
幼少期における価値形成の重要さに気付き、絵本の読み聞かせを通して子どもの対話力を伸ばすサービスを立ち上げたのが、株式会社YOMY 役員代表取締役の安田莉子さん。
対話力を伸ばす絵本の読み聞かせ方とはなんなのか。安田さんに伺いました。
安田 莉子(やすだ・りこ)さん
株式会社YOMY 役員代表取締役CEO / TOKYO STARTUP GATEWAY2022ファイナリスト
慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科在籍。
2000年生まれ。神戸女学院中・高等学部卒業後、高校生の時に訪れたオーストラリアでの教育体験から、国による教育の違いに関心を持ち始める。 ライフイズテック株式会社 、テラドローン株式会社インターンを経て、エンジニア仲間と共に2023年8月に株式会社YOMYを創業。創業の動機の一つは、「女性エンジニアの少なさ」という身近な社会課題。創業メンバーと話し合う中で、幼少期の価値観形成の重要性に気づく。絵本の冒険を通して、子どもたちの世界を広げることを目指し、オンラインスクールYOMY!を開始。
APTWoman8期生、東京都スタートアップゲートウェイファイナリスト、朝日新聞社主催大学SDGs ACTION! AWARDS ファイナリスト
株式会社YOMY https://www.yomy.kids/
聞き手:栗原 吏紗(NPO法人ETIC.)
ただの「読み聞かせ」ではない。読み聞かせ+対話の新しいスクール
―今取り組んでいるプロジェクト・事業を教えてください。
次世代の子供たち向けに絵本をもとにしたオンラインレッスン「YOMY!」を展開しています。
大学生の「クルー」が絵本を使って子どもたちの言語力や文章力、共感力を向上させるようなレッスンを届けています。
3歳から8歳までのオンラインスクール「YOMY」
静かに読むだけが読書ではない
現在は絵本作家さんとパートナーシップを組んで、絵本選びにもこだわっています。
今売られている絵本のうち、女の子が主人公なのはたったの2割なんです。
私たちは多様性やSDGsをテーマにした絵本を扱うようにしています。作家さんにも絵本を読んだ子どもの反応をフィードバックし、現代の子どもに合った絵本を作ってもらえるような仕組みづくりもしています。
コースは1対1コースと最大5人まで参加できる複数コースの2つを用意しています。
複数コースでは子ども同士のディスカッションが盛んで、お互いのことに興味を持つことで学びがどんどん広がっていますし、保護者の方からも「同世代のお友達と一緒だと刺激があって良い」と好評です。
アプリで簡単に参加できるので、送り迎えも不要ですし、子育て世代に優しいサービス設計にするために事前予約も不要にしています。
発案のきっかけは「女性のエンジニアが少ない」ことだった
―ビジネスアイデアを思いついたきっかけは?
社会課題解決のビジネスコンテストに参加して出会ったチームメンバーのエンジニアと話していた時の「女性のエンジニアって少ないよね」という言葉がきっかけです。
男の子たちは意識してエンジニアになったわけじゃなくて、小さい時から電子工作やロボットで遊んでいた、その延長線上に今があると思うと言っていました。それで幼少期に触れるものって、その後の価値観や将来の選択肢に大きく関わるのではないかという仮説を立てて調べる中で、それこそ本や身の回りの環境にはまだまだ課題があるので、子どもたちの世界を広げるサービスを作りたいと思いました。
ーどのようにアイディアを絞っていきましたか?
エンジニアのママをサポートするサービスや、有機野菜に関連するサービスを考えていた時もあり、最初の1か月は決まらない…という状態でした。
その中から、最終的には直感で絞りました(笑)。
ただ、他のアイデアでも面白かったら続けられたと思いますし、違和感を覚えたらその時点で気づいて修正していくと思うので、やりたいこととマッチしていたんだなと思います。
最初に利用してくれた子どもが「めっちゃ楽しい!明日もやりたい!」って言ってくれて、そこからちゃんと火が付いたなと感じています。
ーどのようなプロトタイプを作りましたか?
まずは絵本を用意してZOOMで読み聞かせをするところから始まりました。
今はただ絵本を読むだけではなく、どういった時間を過ごすのが子どもたちにいいかを考えて様々な工夫をしています。例えばハーバード大学などで研究されている、対話しながら読み進める「ダイアロジックリーディング」を取り入れたり、ワークショップをする時間を設けたりなど、教育的観点から設計をしているんですが、その時はただ読み聞かせをするだけでした。
ーサービス改善のために泥臭くしていたことは?
色々やりました(笑)。例えば、親御さんの「今すぐに読み聞かせをしてほしい」というニーズに応えたいと考えていたので、72時間はどんな時間でも読み聞かせを受け付けますということを1度やりました(笑)。
それが今生きているかは分かりませんが、今の段階ではスピーディーに対応するよりも、教育的な「質」を高めた方がサービスを利用してもらえるんだなということに気づきました。
―サービスの強みを作るとき、どのように差別化を考えていきましたか?
保護者が子どもの習い事を継続したり入会する一番の理由は「子どもがやりたい」ということなので、まずは子どもにとにかく楽しいと感じてもらうことを考えました。その次の段階で保護者に価値を感じてもらう順番を作りました。
最初は何百回と無償でサービスを提供して、その後、大学生以外の読み手でもトライしたんですが、従来の読み聞かせをイメージされている読み手の方もいて、自分が目指すサービスとは違うと感じました。
従来の読み聞かせではなく対話を通して多様な価値観を育む
クルーには現役の大学生・大学院生が在籍
「留学よりも今は事業に専念」と決めたことを正解にするためにも全力で行動。
ー苦労したことやそれをどう乗り越えていきましたか?
3つあります。
1つ目は、学業や留学など、学生のうちにやりたいことと事業のどちらを優先させるかの選択です。
事業を始める以前から、世界の教育に触れたい、留学もしたいという気持ちがありました。
留学は事業に役立つ部分もあるだろう、と考えていましたし
事業よりも先に、学生のうちにやりたいことをやるようにとアドバイスをしてくれる人もいらっしゃったので、どちらを優先するかとても悩みました。
しかしメンバーとじっくり対話したり、何よりも自分自身と深く対話する中で
事業は今の環境や今のメンバーがいてくれるからこそできることなのではないか、と考え 今は事業を優先し、長期的に海外に行くことは将来会社を大きくしてからにしようという決断をしました。
これ以上、自分では考えられないというぐらいに考えて抜いて出した答えなので、その選択を正解にできるように行動していきたいです。
2つ目は、インターンしか経験がなく、ビジネス面ではわからないことだらけだったことです。チームで試行錯誤したり、周りの人に聞きながら、進めています。
マーケティングや起業の本を読んでも、机上の空論だと知識としてしか入ってこないと感じる時もあります。この広告をどう打つか?どう伝えたいか?と具体的に手を動かし、考えながらやることで、よりよくインプット出来た印象があります。
3つ目は、起業を考えた当時は中々行動が加速していかなかったことです。「これをしてほしい」という要望があっても、自分が思うスピード感でできなかったり、やりたいことが沢山でてくるのにできないと悔しいです。
例えば有償のサービスなので経済的に参加できない子もいるんですが、そういう場合に無償で提供しても持続可能性が低いですよね。まずは有償でもやりたいという人が増えれば、補助金を活用したり奨学金制度をつくったりして、ひとり親の家庭に届けていけるようにもしていきたい。
優先順位を決めて、できることから少しずつ取り組んでいます。
―TSGはどんな価値がありましたか?起こった変化や気づきなどがあれば教えてください。
自分たちのサービスを加速することができたと感じています。 TSGはすごく審査項目が多かったのですが、自分たちがどうしたいのかをチームで話すきっかけができたので、良かったと思っています。横のつながりも増え、協力してくださる方に出会うことができました。
TSGに出たことで、東京都の方とのつながりができ、メディア露出もできて、協力してくれる人に出会えたこともありました。ファイナリストで一緒だった子と、壁打ちする関係は今でも続いています。
―これからTSGにエントリーする方・起業に挑戦する方へ応援メッセージをお願いします。
まずは思ったことを周りに伝えたり少しでも形にすることで自分の気持ちに気付けたり、協力してくださる方に出会えたりする。アクションを起こさなければ何も始まらないので、何か小さなことでもやってみたい!という気持ちがあるならばスタートしてみてほしいです。私も小さな積み重ねから、周りの方に支えられて、今こうしてYOMY!というサービスを作ることができています。みなさんと一緒にワクワクできる未来をつくれたら嬉しいです。
「TOKYO STARTUP GATEWAY」に関する記事はこちらからもお読みいただけます。
様々な起業家たちのチャレンジをぜひご覧ください。
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