入院した際、看護師などを呼ぶ「ナースコール」。
日常にはLINEやSlackなど様々なコミュニケーションツールがあるのに、なぜ病院はナースコールしかないんだろう――。そうした疑問から、医療現場でのデジタルコミュニケーションツール「ポケさぽ」を開発したのが、株式会社OPERe(オペリ)代表取締役の澤田優香さん。
開発のきっかけは、自身が入院した時に感じた実体験からでした。
澤田優香(さわだ・ゆうか)さん
株式会社OPERe(オペリ)代表取締役/CEO、TOKYO STARTUP GATEWAY2019ファイナリスト
急性期病院で臨床看護師として働いたのち、病院経営コンサルティング会社に入社。多数の医療機関のコンサルティングや分析システムの開発などに従事し、2020年6月に独立。 株式会社OPEReを創業し、「患者と医療者のコミュニケーションハブになる」を掲げ、看護・医療事務に特化したデジタルコミュニケーション手段「ポケさぽ」の開発・提供を行っている。 「TOKYO STARTUPGATEWAY」にて優秀賞受賞。東京都スタートアップ社会実装促進事業(2020年度)、東京大学協創プラットフォーム開発株式会社が運営する1stRound(第8期)など、採択歴多数。
医療オペレーションを刷新する「OPERe」公式サイト https://www.opere.jp/
facebook: https://www.facebook.com/yuka.sawada
動画とテキストで入院案内を半自動化
―今取り組んでいるプロジェクト・事業を教えてください。
患者説明を半自動化する「ポケさぽ」です。「ポケさぽ」は様々な患者説明で使うことができるコミュニケーションツールで、たとえば入院説明で使用する「入院生活のしおり」や「アメニティーの資料」などを、それぞれの病院に合わせて動画やPDFに変換して患者に届けることができます。スマホを用いて入院数日前の体調確認や受付の場所の案内が可能なことに加え、患者さんが「電話を掛けるほどではないが聞きたいことがある」といった場合にメッセージを送信できるため、電話での問い合わせも減少させることができます。ご高齢の方にはタブレット等を活用しています。
入院案内を半自動化させるアプリケーション「ポケさぽ」
―ビジネスアイデアを思いついたきっかけは?
自分が入院した際に、ナースコールがすごく押しづらかったんです。
何でだろうと考えたら、日常のコミュニケーション手段と乖離しているからだと気づきました。
日常で使うコミュニケーションはメールやLINE、SlackやZoomなど、1対1でコミュニケーションを取る場合や、大勢でコミュニケーションを取りたい時など、多様な手段を選ぶことができますよね。一方で、病院では普段日常でやり取りしているような「ちょっとだけ聞きたい」「後からでもいい」といったことでも、対面や電話、ナースコールといった同期的なコミュニケーション手段しかありません。非同期の、テキスト型のコミュニケーションツールが欲しいと思ったのがきっかけです。
日常であれば多様なコミュニケーションツールを選ぶことができる
医療現場でのコミュニケーションツールは同期的な手段が多い
―実際にビジネスアイデアを形にするときに、最初に誰に伝えましたか?
尊敬する経営者の先輩と、後輩の看護師に伝えました。二人は「いいんじゃない」と、ゆるいながらもポジティブな反応だったのが、ありがたかったです。ただ、その後、資金調達のためにVCの方にお話ししましたが、そのときは全否定されました。
否定的な意見はブラッシュアップポイントとして受け止めた
―何がきっかけで、自分の心に火が付きましたか?
肯定的な反応と否定的な意見をそれぞれ貰いましたが、フィードバックを受けることでブラッシュアップするポイントがだんだん出てくるので、実現したい気持ちが強くなっていきました。
ちなみに、今CTOをしてもらっているエンジニアは、TSGのオフライン会で知り合ったエンジニアさんです。そういった協力してくれる人が魅力的であったのも、心に火が付いた理由だと思います。
ー最初のお客様が見つかったのはどのくらいたってからですか?
創業がコロナ禍なのですが、コロナ禍では、病棟に入れない時期、患者さんの欲しいものを聞いて買い物代行をするという業務を看護師が担っていました。そんな時、以前からお世話になっている方から「ナースコールだけでは限界なので、使ってみたい」と声をかけていただきました。大変ありがたかったです。なので、創業直後からお客様がいました。
―事業を進めていてぶつかった壁、大きな課題はありましたか?
事業に向き合っていると、さまざまな「壁」が出てくるので、一個一個向き合っていきました。向き合う際に、病院に提供している価値に対して見栄を張ってしまったりすると、身の丈に合わない壁が現れて、乗り越えられない大きさの壁になってしまう気がします。今も本当に気を付けなければいけないと思っていますが、消極的な意味ではなく、バランスのとれた挑戦を続けていきたいと思っています。
顧客を向いて、「顧客価値」で話をする。
一仕事をする上で大事にされていることはなんでしょう。
臨床で働いていた時から、医療者を尊敬しています。ですので、私たちの顧客である医療者にとって価値があるかどうかが一番大切だと思っています。医療者にとって価値があるのか。医療者が向き合っている患者さんにとって価値があるのか。それがとても大切だと思います。
QRコード読み取りで動画やメッセージを届け、患者説明を半自動化する
ー今の仕事を通じて一番よかったなと感じる瞬間はどんな時ですか?
患者さんの声が医療者に届いて、医療者が喜んでいる様子を見るととても嬉しいです。
これまでは患者さんの意見は、意見箱などの「箱」に投書して、しばらくしてから病院に届くことが多かったと思うのですが、ポケさぽではリアルタイムで患者の声が直接医療者にフィードバックされるようになりました。デジタルでつながったからこその良さだと思っています。
とある病院の方から、このツールを使って説明をしていた時に、「患者さんがポケさぽを見て、「こうしたい」と言ってくれたんです!」と嬉しそうに報告してくださったことがあります。その方の表現方法として「ポケさぽ」が定着していて、患者さんもその医療者の方も喜んでいてくれているのがすごく嬉しかったです。
盛らない。誠実に。
―今の自分から見て、駆け出しの時にこうすればよかったと思うことは?
難しいですが、とにかく価値を盛らないということです。
見栄を張らないと案件を取れない時もあるかもしれませんが、誠実に事実を伝えるべきだと思います。
駆け出しのころ、信頼がない分、少し無理をして案件を取ってこようとしてしまったことがあります。今は、正直に懸念点を伝えた上で、「協力してもらわないと価値が出せません」とか「この点を補足してくれれば出来ると思います」といったように、出来ることとできないことを整理した上で、医療者の皆様と一緒に作っていくことを心がけています。
医療DXは、本当に難しいです。価値が出せないこともあります。
だからこそ、信頼の積み重ねを大切にしています。信頼を重ねていく事で、次の価値が出せるようになると思います。なので、価値を盛らずに、正しく伝え、サービスとして足腰を鍛えるようにと、言いたいです。
ー事業を通じて実現したいビジョンや創りたい世界を教えて下さい。
人を動かすのは人にしかできないと思っています。なので、人が介在するアプリを作ることで、患者さんと医療者のお互いが納得できるコミュニケーションができるようになることが大事だと思っています。
患者さんのことを一番考えているのは主治医や看護師さん、薬剤師さん、栄養士さん、理学療法士さん、ソーシャルワーカーさん、医療事務さん…をはじめとした医療者の皆様だと思っています。今は、患者さんも色々な情報をネットで調べることができるので、直接携わっている医療従事者の意見より先にネットの情報が届くことがあると思っています。
なので、デジタルを活用し、医療者と患者さんをつなげるコミュニケーションハブを作って、両者の豊かなコミュニケーション実現を、少しでもお手伝いできればと思っています。 こうしたビジョンに共感してくれる仲間を募集していますので、いつでもホームページからご連絡ください!(笑)
TSG2019の授賞式の記念写真
―TSGにはどんな価値がありましたか?起こった変化や気づきなどがあれば教えてください。
敷居が低いながらも、得られるものがすごく大きかったです。迷っているんだったら、出さない理由がないくらいのものだと思います。 エンジニアさんとの出会いのきっかけももらいましたし、優秀賞を受賞したことでの小池都知事とのツーショット写真など(笑)、社会的信用につながるツールも手に入ります。 今使っているオフィスもTSGきっかけでお声掛けいただいた所に入らせてもらっていますし…本当にありがたいです。
「TOKYO STARTUP GATEWAY」に関する記事はこちらからもお読みいただけます。
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