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#ローカルベンチャー

地方に起業家を増やすローカルベンチャー推進事業、その「本質的効果」をどう検証するか?

2024.06.19 

■通算9年目に入ったローカルベンチャー推進

 

NPO法人ETIC.(エティック)はローカルベンチャー協議会(以下、LV協議会)の事務局として、地方での起業支援や、自治体と民間事業者との連携促進を行っています。

 

LV協議会とは2016年9月、岡山県西粟倉村とエティックの呼びかけに賛同した8つの自治体により発足したもので、地方における地域資源を生かした新規創業(あるいは既存事業者の新規事業立ち上げ)を「ローカルベンチャー」と呼び、国の交付金も活用しつつ、その育成・支援を行う「ローカルベンチャー推進事業(以下、LV事業)」を展開しています。

 

これは、ローカルベンチャーが地域内で次々と誕生して域内経済の循環を促すような環境を育むことが地方創生(地域の持続可能性向上)のカギを握る、という考え方に基づいています。また、そのような環境創出には行政だけでなく民間の中間支援組織の力が不可欠と考え、自治体は必ず地域の中間支援組織と共同で参画することが条件となっているのが特徴です。

 

「ローカルベンチャー推進事業白書2020」より

 

最大11自治体が参画した第1期LV事業(2016年度~2020年度)では、5年間で274件の新規事業創出、400人の起業型・経営型人材の自治体へのマッチング、全体でローカルベンチャーの売上増57.7億円達成、という結果を生み出しました。

 

現在LV事業は第2期(2021~2025年度)に入っており、6つの幹事自治体と7つのパートナー自治体が参画しています。ゼロからの起業支援に重きを置いた第1期と比べ、より大きなインパクトを生むビジネスへの成長にフォーカスしており、都市部企業のリソースを呼び込むことで、各自治体が企業版関係人口の増加に取り組んでいます。

 

■より本質的な効果を探るためのアンケート調査

 

このLV事業の効果については、上述のような個別事業者の売上増額や人材マッチング数のほか、2期目の現在は都市部企業等との協働プロジェクト数などをKPIとして測定しています。

 

しかし、事業開始から9年目を迎えた現在、これらだけではLV事業が全体として地域社会に与えている、より本質的な効果(もともとの目標である「地域の持続可能性向上」への貢献効果)は見えてこないのではないか、という議論も出てきました。

 

そこで私たちはまず、「LV事業は若者(20~30代)および子育て世帯が就労しやすい環境の創出に貢献している」という仮説を立て、これを数値で実証すべく、参画自治体内のローカルベンチャーの従業員について年齢構成を調査しました。

 

その結果、以下の事実が判明しました。

  • ローカルベンチャーで働く人の5割弱が30代以下である。
  • ローカルベンチャーで働く人の3割強が移住者(U/Iターン)である(正社員に限ると4割)。
  • ローカルベンチャーで働く人の2割が子育て中である(全年代)。

 

また、一部の自治体では全体人口の年齢構成とローカルベンチャー従業員の年齢構成との比較も実施したところ、就労年齢層のなかでもローカルベンチャーでは20~40代の従業員の割合が相対的に高いことがわかりました。

 

以上のことからLV協議会では、LV事業が各地域で若者や子育て世帯の就労先の創出につながり、就労人口増・移住者増・産業づくり等を目指す各自治体の政策実現に間接的に貢献していると結論づけました。

 

■先行自治体の現状にも学ぶ

 

今回は直接LVで働いている従業員のみを調査対象としましたが、一歩進んでその家族(配偶者、子ども等)も対象とすることで、LV事業が地域に及ぼしているインパクトをより正確に表現できる可能性があります。

岡山県西粟倉村では、LV従業員にその家族を加えて「LV関係者」と定義した上で、村人口の各年代に占める「村外から移住したLV関係者」の割合を集計しており、参考情報としてそのデータも掲載しました(下図)。

 

それによると、20~30代の働き手世代のみならず、0~10代の子ども世代においても4分の1ほどが村外から移住したLV関係者となっており、LV事業が若者(20~30代)の移住促進に加え、その子世代の増加にも一定の効果をもたらしていることが見て取れます。

 

 

LV事業が地域の人口動態に一定のインパクトを与えるには、相応の時間がかかると考えられます。西粟倉村はLV事業の発起自治体であり、本事業開始以前の2008年から独自にローカルベンチャー育成・支援に取り組んできました。こうしたデータの長年にわたる継続的収集・分析が、事業の効果のより明確な可視化につながると言えそうです。

 

LV協議会の活動目的の一つは、参画自治体がお互いの取組を共有し学び合うことですが、特に西粟倉村のような先行自治体の事例は、同様の取り組みを開始して間もない(あるいはこれから開始する)同規模の自治体にとって直接的に参考となる貴重な情報と言えるでしょう。

 

■「肌感覚」の数値化、より大きな指標への貢献の可視化を目指す

この調査結果について、LV協議会参画自治体および中間支援組織の意見交換を実施したところ、調査自体の意義については以下のようにおおむね肯定的な評価でした。

 

  • LV事業によって若手人口が増えているという効果は肌感覚として持っていたが、データの裏付けがとれてよかった。
  • なんとなく感じていたことがこうしてデータで可視化されることで、対外的に説明しやすくなった。
  • 他地域と比較されることで、自地域の現在位置と目指すべきところがリアルに見えてきた。

 

また、中間支援組織のひとつである株式会社ことろど(日南市)代表の田鹿倫基氏は、ビジネス誌への寄稿の中でこの調査結果を引用しつつ、「地方が若者の流出を抑え、Uターンや移住者を増やすためには、『働くに値する』と若者から思われる仕事を作らなければならない。成長著しいベンチャー企業には今も昔も応募が集中する。そういう企業なら地方でも、いや地方だからこそ働くに値すると感じる若者も多い。地方に若者を呼ぶためには、ここにしかない地域資源を武器に事業を成長させるローカルベンチャーを育てることも重要」という主旨のことを書かれています。

 

いっぽうでは、もっといろいろな角度からLV事業の効果を検証できるのではないかとして、以下のような意見も出されました。

 

  • このような効果をもたらすのに中間支援組織がどんな役割を担っていたかが見えない。それを可視化できないか。
  • 自地域のローカルベンチャーは自身の幸福を実現させているし、周りにその幸福を普及させている、という実感がある。そういう効果を可視化できる方法はないか。
  • LVが盛り上がることで「私もできる」といった若手や高校生(LV予備軍)のエネルギーの高まりを感じている。それをどのように伝えられるか。

 

今後、こうした「肌感覚」をどう数値化できるか検討していくとともに、調査実施時にはLV事業に参画していない自治体との比較対照を可能な限り行うことで結果の有益性を高めたいと考えています。

 

さらに、LV事業参画自治体では、これまで実際に地域の人口推計の上方修正や最低賃金上昇などがおきていますが、本事業がこれにどの程度寄与したかという点についても、可視化できる調査を設計できないか議論していきます。

それによってLV事業の成果を広くわかりやすく伝え、日本全国の地方創生に貢献していきたいと思います。

 

レポート全文は以下のWEBサイトから見ることができます。

>>調査レポート「ローカルベンチャーで働く人の年齢構成」を公開しました(ローカルベンチャー協議会WEBサイト)

 

 

2024/7/13,14(土日)開催のイベント「ローカルリーダーズミーティング2024in宮崎県日南市」では、このレポートについてのブースセッション「調査報告 ローカルベンチャーで働く人の年齢構成〜子どもが減らないまちづくり〜」を行います。イベント詳細はこちらをご覧ください。

ローカルリーダーズミーティング2024in宮崎県日南市

https://llm2024.localventures.jp/

 

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木村静

DRIVEメディア編集長。NPO法人ETIC.広報。 北海道出身。札幌のまちづくりNPOに勤務し、コミュニティラジオ放送、地域情報の取材・執筆等を経て、2008年に上京しフリーランスに。アナウンス・司会、ライター、カメラマン、映像制作、講師、リサーチ、イベントのディレクション業などを事業領域に活動。 2015年〜NPO法人ETIC.に参画。 趣味は、歴史、映画、美術、ガーデニング、読書。

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