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地域ビジネスの実践者が語る、関係性の紡ぎ方。郵便局はいかに地域ビジネスに貢献できるか―Social Co-Creation Summit Liquid 2024レポート(5)

2024.09.09 

2024年5月10日、東京の日本郵政グループ本社にてカンファレンスイベント「Social Co-Creation Summit Liquid 2024」が開催されました。

 

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日本郵政グループは、気候変動や人口減少などの社会・地域課題を解決するために、グループ社員を地方の企業・団体に派遣し、全国各地に約2万4000ある郵便局のリソースを活用して新規ビジネスを創出するプロジェクト「ローカル共創イニシアティブ(以下、LCI)」を2022年4月より開始しました。NPO法人ETIC.(エティック)は、LCIの運営事務局・アドバイザーを務めています。

 

本稿では、基調セッション「関係性から生まれる地域ビジネス」を要約・編集してお届けします。

 

登壇者は、地域ビジネスの取材経験が豊富なジャーナリストの浜田敬子さん、岩手県議会議員から生産者と消費者をつなぐビジネスの経営者に転身した高橋博之さん、福島県で未利用地域資源を活かす事業を展開し、郵政からの派遣者を受け入れている小林味愛さん、そして日本郵政株式会社代表執行役社長の増田寬也さんです。

 

<登壇者>

高橋 博之(たかはし ひろゆき)さん 株式会社雨風太陽 代表取締役

小林 味愛(こばやし みあい)さん 株式会社陽と人 代表取締役

増田 寬也(ますだ ひろや)さん 日本郵政株式会社 取締役兼代表執行役社長

 

<モデレーター>

浜田 敬子(はまだ けいこ)さん ジャーナリスト

 

※記事中敬称略。プロフィール詳細は記事最下部に記載。

 

「社会のすき間」を埋める地域ビジネスの実践者

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モデレーター 浜田敬子さん(ジャーナリスト)

 

浜田 : 本セッションでは、地域課題をビジネスで解決してきた高橋さんと小林さんにお話を伺います。

 

お二人の話を受けて、日本郵政さんがどのように協力体制を築いていけるか、増田さんにご意見をお聞かせいただければと思います。まずは自己紹介をお願いします。

 

小林 : 私はもともと、国家公務員として働いておりました。東日本大震災の被災地に貢献するために、2017年に福島県国見町で地域商社を立ち上げました。農業課題と女性の課題の解決をテーマに、桃などの農産物の生産・流通や、名産の「あんぽ柿」を作る際に出る柿の皮を使ったフェムケアアイテムの開発・販売などの事業を展開しています。2023年には郵政さんが取り組むプロジェクト「ローカル共創イニシアティブ(以下、LCI)」の一環で、郵政さんから社員を1名派遣いただいて協働してきました。

 

高橋 : 私は、農産物等の生産者・漁師を紹介する情報誌と、よりすぐりの食材をセットでお送りするサービスをリリースしたり、全国の生産者・漁師から直接食材を購入できるアプリを運営したりしています。地方と都市の間にある「すき間」を埋めることはビジネスチャンスであり、社会課題の解決にもつながると信じて事業に取り組んでいます。最近は、能登に入り復旧・復興のためにできることを模索中です。

 

増田 : 私は、日本郵政でLCIを始めとした取り組みに注力しております。小林さんとは2013~4年頃から面識があり、高橋さんとは同じ岩手県の知事と県議会議員の関係性だったこともあり、20年来のお付き合いです。今日は郵便局が社会のすき間を埋め、どのように世の中の役に立っていけるか、皆様と一緒に探っていければと思います。

信頼を得るために桃を手売りしたことも

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小林味愛さん(株式会社陽と人 代表取締役)

 

浜田 : 東京出身の小林さんは、福島で地域の方と協働されています。はじめに福島に入ったとき、地域の方の反応はいかがでしたか。

 

小林 : 移住者も少ない地域のため、住民の方には「なぜこんなところに来たの」と不思議がられました。地域の役に立ちたいと意気込んでいたものの、いきなり現れた移住者に「地域がかかえる課題」を相談してくれる人はいませんでした。

 

浜田 : 震災復興時、福島県には都会の企業がつめかけましたが、ビジネス的にうまくいかないとすぐに撤退していきました。調子のいいことを言って地域に入ってくる企業は数多くあれど、責任を持って事業をやり遂げてくれる企業はそれほど多くないので、新参者のことを簡単に信用できなくなっていたのかもしれないですね。

 

小林 : 「信頼なくして事業は進まない」がローカルの特性であり、デジタルでは解決できない部分ですよね。ですから、自分から積極的に地域の方に話しかけ、朝4時に起きて一緒に草刈りをし、農作業を手伝い、コツコツと信頼を積み重ねました。時には、ある農家さんの規格外品の桃を全量買い取りして、東京の路上で手売りしたこともあります。とにかく「この人になら、困っていることを話しても良いかも」と信頼してもらえるまで、アプローチし続けました。

 

また日常会話の中で「あなたたちがいらないと思っているもの・ことには、私や社会から見るととても価値がある」と伝えるようにしていました。

 

浜田 : 高橋さんは、どんなことをお考えになりながら事業に取り組んでいらっしゃいますか。

 

高橋 : 最近はスーパーで野菜を買おうとしても、生産者がどんな人かわからないですよね。自分と関わりがない、顔の見えない人に興味を持てないのは当然のことなので、消費者は「いかに安く、良いものを手に入れるか」という目線で買い物をするようになります。

 

しかし生産者や生産に至るストーリーを知ると、多少価格が高くても、その生産者が作った野菜や魚を「食べてみようかな」という気持ちになるもの。僕たちはデジタルの力を使って、地域の生産者の顔や思いを都市の消費者に届けて、商品の価値を高める取り組みをしています。このような取り組みで、地域と都市の間にあいたすき間を埋められたらと思っています。

 

浜田 : 増田さん、今のお話を聞いてどんな感想をお持ちですか。

 

増田 : 地域では見出されなかった"価値"を感性豊かに発見し、スピード感を持ってビジネス化して、それを継続できるかどうかが重要そうですね。

 

地域でビジネスを興す場合、現地の方々の信頼感をどう得るかは一番の課題です。地域で新しくビジネスを興す方のフォローを、郵便局はどのように行っていくべきか考えなければと思いました。

支社単位の判断が可能な郵便局が理想

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増田寬也さん(日本郵政株式会社 取締役兼代表執行役社長)

 

浜田 : 今後、郵便局が地域ビジネスの中で活用されるためにはどんな変化が必要でしょうか。

 

小林 : 「郵便局に対する認識の転換」が必要だと思いますね。郵便局について勉強をしたところ、アメリカでは昔「郵便局は国家とコミュニティをつなぐ存在」と言われていたことを知りました。

 

確かに郵便局はコミュニティに根ざした存在でありながら、背後に大きな全国ネットワークを持っています。単純に「手紙や荷物を運んでくれる組織」ではありません。協業者は全国ネットワークを活用できることを含めて、事業の展開を考える必要があると感じます。

 

浜田 : 増田さんは「地域にある隠れた価値に、いち早く気付くことができるのは地域外の人」ともおっしゃっております。都市部の企業が地域の中に入っていく時には、どんなことに気をつけるべきだと思いますか。

 

高橋 : いきなり地域に現れたよそ者が、単なるお金儲けのために興した事業は、大体うまくいっていない印象です。

 

「人」を幸せにするのは「人」。地域の人・課題と真正面から向き合い、自分自身が心底、課題だと感じたことに取り組まないと、他の人が追随していかないと思いますね。

 

浜田 : お二人のお話を聞いて、増田さんは郵便局を今後どのように変えていきたいですか。

 

増田 : 収益を目指して社内の機能分化が進み、郵便局と地域との関係が薄くなっている点は課題だと感じています。最近は市町村と協業する取り組みも行われていますので、地域の方々とより距離を縮めて行けたらと思います。

 

またLCIは、本社管轄ではなく支社単位で、臨機応変に判断・実行できるのが理想です。それが実現できるような人材や仕組みを育てていかねばならないですね。

住民自身が「日本の未来に何を残すか」を考える時代の到来

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高橋博之さん(株式会社雨風太陽 代表取締役)

 

浜田 : 高橋さんは、震災のあった能登で発災直後からボランティアをしておられます。能登の復旧・復興の方向性についてどのようにお考えですか。

 

高橋 : 能登のインフラ復旧に関して、震災前と同じ状態に戻すか、それとも街を集約化して一部にインフラを通すかが議論されています。この復旧・復興は、「日本の未来に何を残すか」の問題に似通った部分があるように思います。

 

僕は震災前と同じ状態に戻す場合、インフラの維持を自治で担うことは避けられないと考えます。例えば、今は行政が担っているゴミ回収を住民自らで行ったり、水道を引く事業を住民主体で動かしたりすることになるのではと思います。過疎が進んでいること、東日本大震災の復旧・復興後の財政状況などを踏まえると、"自治"について考えるべきタイミングが来ているのではないかと思うのです。

 

小林 : 将来的には、私たちも行政からインフラの提供を受けられない当事者になると思っています。

 

そんな未来が待っていることを踏まえても「自分たちの暮らしをどうしていきたいか」の問いを住民自身が持つことはとても大事。ある意味、本当の意味での民主主義の時代がこれからやってくるのではないかとも思います。

 

増田 : 私も最終的にはその地域にお住まいの方自身が、将来像を決めていくべきだと思いますね。

 

高橋 : これから日本の人口は減少する一方。「地域を維持するために必要な総活動量」を割り出し、それを維持することにKPIを置くのが良いのではないかと思います。入れ代わり立ち代わりでも良いから地域に関わる人、いわゆる「関係人口」を増やしていくべきではないでしょうか。

最後まで地域を把握する存在は、郵便局

浜田 : 最後に一言ずつメッセージをお願いします。

 

小林 : 関係人口について議論する際に、地方と都市にフォーカスしてお話してきましたが、実は「地域の中の関係人口」にも伸びしろがあるのではないかと思っています。

 

例えば郵便局の業務を効率化して、空いた時間で近隣の方の農作業に関わりを持つこともできますよね。他にも不登校の方、子育て中で少しの時間しか働けない方など、地域の中にいる人との関わり方を、今一度考え直してもよいのではないかと思いました。

 

増田 : 自治体が撤退してしまう未来がきたら、地域のことを最も把握している存在は郵便局のみになるでしょう。地域の信頼を得ている郵便局の強みを発揮し、今後、地域と事業をマッチングする仕組みを整えて行ければと思います。

 

浜田 : 「どのように地域と関係性と信頼を作り、ビジネスとして成立させていくのか」というテーマでお話をしていただきました。本日はありがとうございました。

 

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<登壇者プロフィール詳細>

高橋 博之(たかはし ひろゆき)さん

株式会社雨風太陽 代表取締役

1974年、岩手県花巻市生まれ。青山学院大卒。岩手県議会議員を2期勤め、2011年9月巨大防潮堤建設へ異を唱えて岩手県知事選に出馬するも次点で落選し、政界引退。2013年、NPO法人東北開墾を立ち上げ、世界初の食べ物付き情報誌『東北食べる通信』を創刊し、編集長に就任。2014年、一般社団法人「日本食べる通信リーグ」を創設し、同モデルを日本全国、台湾の50地域へ展開。2016年、生産者と消費者を直接つなぐスマホアプリ「ポケットマルシェ」を開始。2023年、東京証券取引所グロース市場へ株式を上場。「関係人口」提唱者として、都市と地方がともに生きる社会を目指す。

 

小林 味愛(こばやし みあい)さん

株式会社陽と人 代表取締役

東京都立川市出身。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、衆議院調査局入局、経済産業省出向、株式会社日本総合研究所を経て、2017年に福島県国見町に株式会社陽と人設立。福島県の規格外農産物の流通など福島の未利用地域資源を活かして地域と都市をつなぐ様々な事業を展開。2020年には国見町のあんぽ柿の製造工程で廃棄される柿の皮を活用したフェムケアブランド『明日 わたしは柿の木にのぼる』を立ち上げ。女性の健康課題に関する研修など医療の専門家と連携しながら様々な普及啓発活動も行う。子育てをしながら福島と立川の2拠点居住。

 

増田 寬也(ますだ ひろや)さん

日本郵政株式会社 取締役兼代表執行役社長

1977年4月建設省入省。1995年4月岩手県知事(3期12年)、2007年4月に退任。2007年8月総務大臣、内閣府特命担当大臣。2009年野村総合研究所顧問(~2020年1月)、東京大学公共政策大学院客員教授(~2022年3月)。2020年1月日本郵政株式会社代表執行役社長に就任。2020年6月より現職。

 

浜田 敬子(はまだ けいこ)さん

ジャーナリスト

1989年に朝日新聞社に入社。99年からAERA編集部。副編集長などを経て、2014年からAERA編集長。2017年3月末に朝日新聞社を退社後、世界12カ国で展開する経済オンラインメディアBusiness Insiderの日本版を統括編集長として立ち上げる。2020年末に退任し、フリーランスのジャーナリストに。2022年8月に一般社団法人デジタル・ジャーナリスト育成機構を設立。2022年ソーシャルジャーナリスト賞受賞。2023年10月にBリーグ理事に就任。「羽鳥慎一モーニングショー」「サンデーモーニング」「News23」のコメンテーターや、ダイバーシティなどについての講演多数。著書に『働く女子と罪悪感』『男性中心起業の終焉』『いいね!ボタンを押す前に』(共著)。

 


 

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この記事を書いたユーザー
市川みさき

市川みさき

2014年に株式会社ZOZOUSED(現:ZOZO)に入社。2022年に退社し、フリーランスライターに転身。現在は、BtoC領域の企業へのインタビューなどを行う。

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