皆さんは「地域仕掛け人」と呼ばれる人たちを知っていますか?
現在の日本は、急速な人口減少に伴い新しい社会の在り方を模索しています。そのなかでも特に過疎など大きな課題を抱える地方には、革新 = イノベーションが求められています。そんな地方をフィールドに、地域の中小企業の「仕事」や「事業」を通じて、果敢にイノベーションを起こすことに挑戦しているのが「地域仕掛け人」です。
では、実際に地域仕掛け人たちは地域の現場でどのような働き方をしているのでしょうか? 今回は新潟県の「にいがたイナカレッジ」の日野正基さんにお話をうかがいました。
にいがたイナカレッジ・日野正基さん
山の人の「強さ」に惹かれて
ー 日野さんがこの仕事につくまでを教えてください。
新潟生まれで、大学は長岡造形大学に進学しました。もともと建築を学びたかったのですが、建築の図面を書いているうちに「向いていないな」と思ってしまい、図面を書かなくてもいいまちづくりや都市計画の世界に進みました。そこでお世話になった先生が、たまたま中越地震の復興支援の活動をやっていて、そこから中越のフィールドに関わるようになったんです。そして、そのまま就職した感じですね。 ー そこから今でも活動を続けている理由や、日野さんが感じている地域のおもしろさって何でしょうか?
僕らの活動は山の集落が対象なのですが、山の人って何でもできるんですよね。物も当然作れるし、縄もしばれるし、土建屋さんのように道もつくれる。そういう強さはすごくおもしろいなと思っています。そういう人たちと何か活動ができたらなと思って、今もやっていますね。
「匠」のもとで自分らしいライフスタイルを見つける
ー 具体的に今地域でやられている仕事、活動についてお聞かせください。
今のメインの仕事は「にいがたイナカレッジ」という若者と地域をつなぎ新しいライフスタイルをつくるプログラムの運営です。長いもので1年間になる地元の企業へのインターンシップや、各地域へのツアー、東京で地方の魅力を伝える食のイベント・物販をしたりしています。
イナカレッジのフィールドは、中山間地域の山や田畑などで、先生となるのはムラでの暮らしに精通している”匠”たちです。農家はもちろん、農家レストラン、地域づくりのNPO、山での暮らしを教えてくれるマタギなど、さまざまな”匠”たちのもとで、自分らしいライフスタイルを見つけます。 ー 都会で暮らす方たちにとって、中越の魅力は何だと思いますか?
そこは僕と感覚が一緒のようで、みなさん山の人の技のすごさとか、話のおもしろさとか、人の良さに惹かれていますね。地域の人とたくさん触れ合うプログラムを作っているので、そこでみなさん魅せられてリピーターになってくれています。リピーターはとても多いですよ。
「雇用」にとらわれず「仕事」を持つ生き方を
ー 地域で活動されている日野さんが、特に気になっている地域課題はありますか。
やっぱり人が足りないというところは一番大きい課題ですね。圧倒的に担い手が足りていないです。地域の人たち自身もいろんな課題が目に入って、「今のままでは、いずれ暮らしが成り立たなくなる」という感覚はみんな持っているんです。でも、「変化」するってものすごくエネルギーが必要で、なかなか行動に移せなくて、ついつい現状維持を選びがちなんです。 だから、これからの時代に合わせて新しい価値観をつくっていく必要があると思うんです。例えば、地方には「仕事がない」とよく言われています。でも、インターンとかで地域で暮らしていると、草刈りや雪かきなどの「仕事」をよく頼まれています。この「雪かき」って、意外と謝礼金が高かったりするんですよね。
そして、そういう「仕事」はたくさんあります。 ということは、正確には地方には「仕事」がないのではなくて「雇用」がないんです。だからこそ一つの「雇用」にとらわれず、いくつかの「仕事」をもつ生き方をつくっていってもいいと思っています。僕自身も、イナカレッジだけでなく他の団体さんから仕事をいただいたり、デザインの仕事をしたりしていますし。
ー そこに対して現在はどんな働きかけをされているのでしょうか?
僕らはプログラムを通じて、いろんな関わり方や担い手を作っていきたいと思っています。もちろん移住や事業の引き継ぎという選択肢はありますが、週末手伝ってくれたり、東京にいながらPRの部分を担ってもらうのもありがたい。これからの時代に合った新しい価値観で、自分らしく地域に関わってくれる人を増やしていきたいと思っています。
そうしていろんな担い手を地域に作っていきながら、地域をまわりの人たち全員で次世代につないでいけるような仕組みづくりをしていきたいです。
「楽しい」や「おもしろい」を原動力に
ー 多様な想いや背景を持った人たちが関われそうなプログラムですね。最近では東京でもイベントをされているとか?
8月から「にいがたライフスタイルカフェ」と題して、月に1回東京でイベントを開催しています。 自分らしいライフスタイルを実現している先輩の、トークセッションとワークショップを通じて、これからの暮らし方について考える会として今年はじめました。月ごとにキーワードを設けていて、9月は「ローカルメディア」、10月は「新しい働き方」をテーマにしています。
ー 最後に、これから地域と関わっていきたいと考えている読者へのメッセージをお願いします。
僕らも「地域のために」と思って活動している部分はもちろんありますが、そこまで地域のためにとか、地域活性化、と思っていないといんです。関わっている地域の人たちがおもしろかったり、生きざまがかっこいいなと思っていたりするところが一番なので、気負わずに「おもしろい」とか「楽しい」という感覚で、地域に関わってもらえたら嬉しいなと思っています。
ー ありがとうございました!
聞き手/NPO法人学生人材バンク/田中玄洋
大学進学をキッカケに鳥取の地へ。大学在学中に、ZIT(ジゲおこしインターネット協議会)を通じて、鳥取県内の大人と地域に接するおもしろさを学ぶ。大学院1年次に任意団体「学生人材バンク」を設立、2008年にNPO法人化し代表理事を務める。大学時代は、環境評価学研究室に所属し、コモンズについて学ぶ。2008年より社員を雇用し、事業型NPOとして規模を拡大。2013年4月時点で従業員4名、大学生のスタッフが30名の規模で事業を運営している。2012年長男の誕生をキッカケに”経営者育休”ということで8月?9月の1か月間育児休暇を取得。NPO法人ETIC.が事務局を行うチャレンジ・コミュニティ・プロジェクト内において、当初より「チャレンジ・プロデューサー」に就任し、地域内外の学生のコーディネートを行う。
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