2023年1月、オンライン連続セミナー「居場所づくりは地域づくり―地域と居場所の新しい関係性を目指して」第3回目が開催されました。主催は、NPO法人ETIC.(エティック)および認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえです。
前編では、リアルもしくはオンラインの居場所を舞台に取り組む実践者が、運営に込める思いや目的を共有しました。後編では「居場所づくりは地域づくり」について議論を深めていきます。
<パネリスト>
高橋 望(たかはし のぞむ)さん 公益財団法人 さわやか福祉財団 新地域支援事業担当リーダー
森 祐美子(もり ゆみこ)さん 認定NPO法人こまちぷらす 理事長
今井 紀明(いまい のりあき)さん 認定NPO法人D×P 理事長
<モデレーター>
湯浅 誠(ゆあさ まこと)さん 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 理事長
三島 理恵(みしま りえ)さん 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 理事
川島 菜穂(かわしま なほ) NPO法人エティック ソーシャルイノベーション事業部
※記事中敬称略。パネリストのプロフィール詳細は記事最下部に記載。
※イベントは、2023年1月に開催されました。本記事は当時の内容をもとに編集しています。
“セミ”の発想で地域とつながる
湯浅 : 公益財団法人さわやか福祉財団の高橋さんから、「居場所と地域がつながるためには、セミプライベート・セミパブリックという空間を丁寧に考えていく必要がある」というお話がありました。どんな形でセミプライベート・セミパブリックが地域とつながっていくのでしょうか。
高橋 : 多くの家庭で個室が取り入れられているのは、「守られたい」「外と遮断して自分のスペースを確保したい」「安心したい」という気持ちの表れです。だからといって閉じこもるのではなく、プライベートを大切にしながら、外と積極的につながることが必要です。しかし、閉じた個室からいきなり、わいわいした外とダイレクトにつながるのは難しいので、セミの部分を介在させて地域とつながりやすくすることが、発想として大切だと考えています。
新しいつながり方に、オンラインがあります。例えば、高校生が高齢者の集まる場所とオンラインでつながり、交流する事例が増えていますが、これは従来のプライベートからセミパブリックを通して地域とつながるスタイルだと言えます。
湯浅 : オンライン空間がこども食堂や学習支援より居場所だと感じている割合は、10代後半の子どもを中心に高く、オンライン空間が居場所だということが若い世代の常識になっていると感じます。認定NPO法人D×P(ディーピー)はLINE相談「ユキサキチャット」を運営していますが、オンラインにおける居場所は、リアルな居場所と比べて何が違うのでしょうか?
今井 : まず、LINE相談「ユキサキチャット」では「否定せずに関わる」ことを大切にやりとりするので、子どもたちが安心して関わることができ、話せる場所になっていると感じます。本人が望めば、ここで何かしらのきっかけやつながりを得ることができる一方、関わりの薄い子の場合は話を聞くしかできないなど、本人の距離感で決まってしまう部分があります。目的があって来るのがオンライン相談なので、ちょっとした会話が生まれづらく、オンラインだけだと難しい面を感じています。
子どもから寄せられた相談には、さまざまな専門知識や経歴を持つ相談員が対応
オンラインの居場所は「地域づくり」で機能するのか?
湯浅 : オンライン空間にはゲーム空間も含めていろいろなスペースがあります。基本的には地域性から解放されるのがオンライン空間だと思いますが、メタバースだとバーチャルでありながら地域性を持ち込めます。オンラインの居場所は地域づくりと関係するのでしょうか?
今井 : はっきりした答えはなく難しいです。一つ言えるのは、地域づくりは長い視点で見るので、オンラインの場合はプラットフォームの生存率が大きいということです。LINE相談が10代から支持される割合は徐々に減ってきていると感じますし、どこまで機能し継続できるかはプラットフォームによるのだと思います。
森 : 認定NPO法人こまちぷらすでは、コロナ禍、オンラインのおしゃべり会を立ち上げました。そこでどういう会話が生まれたかというと、日常の些細な困りごとに関するものでした。自分の中で持っていたちょっとした疑問を解消できる場として、参加者のみなさんは活用していたのです。
話が合いそうな人がいたら「今度、近くのお店へお弁当を一緒に買いに行きましょう」と約束して会い、その次には運営するカフェへ一緒に来たこともありました。こんなふうに、オンラインかつ地域を区切っておしゃべり会を開催するとそのスロープを作れることがわかりました。
「いつの間にか関わっていた」そんな居場所づくりが地域との接点になる
湯浅 : 認定NPO法人こまちぷらすの森さんのお話から、居場所をベースにして地域と関わるなかで、「ウェルカムベビープロジェクト®︎」などが生まれ、地域づくりへとつながっているように感じました。森さんにとって居場所は、地域づくりをするための出撃拠点なのでしょうか?
森 : まちづくりのための手段としてそこに人がいるわけではないので、ノーですね。居場所づくりで大切にしているのは、一人ひとりが「自分」を主語にすること。車を運転するように自分がどこへ行きたいのか、どうしたいのかを取り戻し、居場所の中でいろいろな価値観と出合うことです。結果的にそれが地域づくりの基本になると思っています。
これから生まれてくる赤ちゃんと家族に「まちからのおめでとう!」を伝え、子育てを応援していくために「ウェルカムベビープロジェクト〜2025年度キックオフイベント〜」を開催
湯浅 : 森さんは、居場所づくりにほかのパーツを組み合わせて初めて地域づくりができるイメージを持っていると思います。居場所づくりだけだと、何が足らないのでしょうか?
森 : まさに「ウェルカムベビープロジェクト」の動機につながるのですが、以前、子育てに関するアンケートを集めたとき、子育て中の方から社会が冷たいという声が多く集まりました。一方で、周りからは、協力したいけど、関わり方がわからないという声をよく聞いていたんです。つまり、子育て中の方と、社会が持っている温かさが噛み合っていないだけなんですよね。同時にそれを伝える機会や接点がないことにも気付きました。
そこで、子育てに関わり、知るきっかけになる「ウェルカムベビープロジェクト」を立ち上げたんです。このプロジェクトを通して「いつの間にかこのプロジェクトのことを知っていた」「立場の違う相手に言葉で伝えた」という人が増え、町の空気も温かくなります。こうしたことが居場所に必要なもう一つの車輪だと思っています。
湯浅 : 「居場所に必要なもう一つの車輪」にあえて名付けるとしたら何でしょうか?
森 : 「関わりやすいプラットフォームづくり」でしょうか。居場所に行くこと自体がハードルが高いので、誰でも関われて、かつ「いつの間にか関わっていた」「結果的に知っていた」というくらい参加するハードルを低くしています。
高橋 : 地域づくりのなかでの居場所を考えたとき、もう一つ必要なものは、「心がつながり、関係性もつながること」だと思います。居場所でつながりだけできたらいいわけではなく、自分自身の役割や出番を再確認できることも大切です。孤独を解消するだけであれば、セミプライベートの空間で仲のいい人たちと楽しい時間を過ごせば十分ですよね。
そうではなくて、相手を思いやり、相手に寄り添って、自分ができることから始める助け合いを通して、さらに一歩踏み出すこと。積極的に地域とつながり、マインドや空間を地域に開いていくことが必要です。その受け皿となる居場所づくりが、地域で求められていると思っています。
いつ行ってもいい。誰が行ってもいい。何をしていてもいい。さわやか福祉財団が目指すのは居心地のいい居場所づくり
湯浅 : 居場所があるから助け合いに踏み出せる。だからこそ「居場所への関わりやすさ」が目指していることであり、かつ地域づくりとの接点にもなるということですね。一方で、若者にとっては、そこまで踏み出せない面があると思います。認定NPO法人D×Pではどうでしょうか?
今井 : 僕たちは「どうやって情報を届け、アクセスしやすくするか」が地域づくりを含めた居場所づくりをするうえでとても必要だと考えています。そもそも子どもや若者は「助けて」と言いづらく、窓口へ行ったり電話をかけたりする相談は、なおさらハードルが高いのです。
求められる“つながりづくり”の充足。「居場所づくりは地域づくり」を目指して
湯浅 : 最後に、みなさんの考える「居場所づくりと地域づくりの関係」について、あらためてお聞かせください。
今井 : 僕自身、地域で子育てをして暮らすなかで、情報がより届くといいなと思いました。情報の受け取り方は世代によって違うので一概に言えないのですが、イベントの案内が紙だけで告知されるなど、地域情報の受け取りづらさを感じます。“居場所は情報を載せ、流通させる器”という視点から見ると、イベントにいろいろな人が来てさまざまな交流や話し合いが生まれたら、地域を考えるきっかけにつながりますよね。
認定NPO法人D×Pのオンライン相談も同じで、アクセスしにくかったり情報がなかったりすると相談できないので、いかに情報を届けるかは大きな課題です。
森 : いろいろな制度・サービスは増える一方で、困ったときになんとかなると思えなくて「なんだか不安」な状態を多くの方が抱えています。いい町とは、困った時に「なんとかなる」と思える関係性や人が思いつく状態ではないでしょうか。それだけで「今」が安心できますよね。
困ったときに受け止めるクッションの役割を果たすのが、私たちのような居場所です。これを「なんとかなるクッション」と呼んでいますが、今の社会で足りないものだと感じています。
居場所が受け皿になって、誰かが困りごとを解決できたり、自分自身がなんとかなった経験を周りに広めたいと思えたりすると、結果的に地域づくりへとつながっていくのだと思います。
高橋 : 今、足りないのは「つながりづくり」の部分だと思います。昔のような濃厚なつながり方から、自分と相手のプライバシーを大切にした程よい距離感のつながり方へと変化してきて、これからも時代に合わせてつながり方はどんどん変化していきます。
今、求められるつながり方に最大限寄り添い取り組むことは前提ですが、小さい頃からバーチャルに親しんできたバーチャルネイティブと呼ばれる若い世代が社会の中心になると、つながり方はまた違ってきます。その違う部分を柔軟に充足させていくことが、地域へ踏み出す一歩につながるし、これからの地域づくりのなかで求められていることだと思っています。
湯浅 : さまざまな運営の担い手が集まり、話し合う大切さを実感しました。今回のテーマ「居場所づくりは地域づくり」は、継続して話し合っていくことが大事だと思っています。今後もディスカッションを深めながら、みなさんと考えていきたいです。
<プロフィール詳細>
高橋 望(たかはし のぞむ)さん
公益財団法人 さわやか福祉財団 新地域支援事業担当リーダー
病院・高齢者施設などの設計業務を経て、広く“まちづくり”に携わる。誰もが健康で、生きがいを持ち、安心して暮らし続けられるまちの実現を推進! 自然にふれあい助け合える地域、生き生きとしたあたたかいまち、新しいふれあい社会づくりを目指し、全国各地でフォーラムやワークショップ等を中心に活動を展開中。
森 祐美子(もり ゆみこ)さん
認定NPO法人こまちぷらす 理事長
トヨタ自動車にて海外営業等に従事した後、第一子出産直後に感じた育児における孤独感や救われた経験から、2012年に退社し当時のママ友数人と団体を立ち上げる。現在横浜にてスタッフ約50人・こまちパートナー約240人とともに「こまちカフェ」等を拠点とした対話と出番の場づくり、企業との協働プロジェクト等展開。
今井 紀明(いまい のりあき)さん
認定NPO法人D×P 理事長
1985年札幌生まれ。高校生のとき、イラクの子どもたちのために医療支援NGOを設立。活動のために、当時紛争地域だったイラクへ渡航した際、現地の武装勢力に人質として拘束される。帰国後「自己責任」の言葉のもと日本社会から大きなバッシングを受けた結果、対人恐怖症になるも、友人らに支えられ復帰した。その後、中退・不登校を経験した10代と出会い、親や先生から否定された経験を持つ彼らと自身のバッシングされた経験が重なり、2012年にNPO法人D×Pを設立。経済困窮、家庭事情などで孤立しやすい10代が頼れる先をつくるべく、登録者7700名を超えるLINE相談「ユキサキチャット」で全国から相談に応じる。
『「居場所づくりは地域づくり」〜地域と居場所の新しい関係性を目指して〜』に関する他の記事は、こちらのリンクからお読みいただけます。
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