「居場所づくりは地域づくり―地域と居場所の新しい関係性を目指して」は、孤独・孤立が一般化した社会のなかで、居場所づくりと地域づくりの新たな関係性を問い、実践者とともに考えるオンライン連続セミナーです。
この数年、地域社会での人間関係が希薄化し、これまでの「困っている人のための福祉活動」としての居場所づくりのほかに、地域課題を解決する「地域づくり」という視点からの居場所づくりも徐々に広がっています。
居場所づくりは地域づくりなのでしょうか? そんな問いを携え、目的も対象も異なる活動を行う実践者たちが互いに意見を交換し、議論を深めました。今回は第3回目のセミナーの一部をご紹介します。
<パネリスト>
高橋 望(たかはし のぞむ)さん 公益財団法人 さわやか福祉財団 新地域支援事業担当リーダー
森 祐美子(もり ゆみこ)さん 認定NPO法人こまちぷらす 理事長
今井 紀明(いまい のりあき)さん 認定NPO法人D×P 理事長
<モデレーター>
湯浅 誠(ゆあさ まこと)さん 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 理事長
三島 理恵(みしま りえ)さん 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 理事
川島 菜穂(かわしま なほ) NPO法人エティック ソーシャルイノベーション事業部
※記事中敬称略。パネリストのプロフィール詳細は記事最下部に記載。
※イベントは、2023年1月に開催されました。本記事は当時の内容をもとに編集しています。
一人ひとりで違う「居場所づくり」と「地域づくり」
湯浅 : 居場所づくり・地域づくりともに、多義的だと考えています。両者とも言葉として知られる一方で、スタイルや担う役割、フィールドもさまざま。人によって、イメージするものも大きく違います。居場所づくりと地域づくりの関係を考えると、さらにイメージするものがバラバラで、話が噛み合わない状況が起きていると感じます。そのためにも、みんなで議論しながら整理し、イメージを共有することが必要だと思うのです。
私のイメージについてお話しします。かつて私はホームレスといわれる人たちの居場所を作っていました。そのときは「課題がある人の居場所を作る」イメージで活動し、そこに集まるホームレスの人たちのことを、町内会や商工会、学校、家庭など地域の人に「理解してもらいたい」という思いを込めていたと思います。地域には「もっと優しくなってほしい」という理想を抱いて活動していました。
しかしこの10年ほどで、地域コミュニティの衰退、無縁社会、孤独・孤立が社会的課題として浮かび上がり、ボランティアやNPOだけでなく、町内会や商工会、学校を含めた地域全体が居場所づくりに取り組む時代になりました。今や、「居場所づくりは地域づくりそのもの」になってきている。そんなイメージを私自身は持っています。
さらにいうと、孤独・孤立が一部の人だけではなく社会全体で広まった今、多くの人にとっての課題は「つながりづくり」ではないでしょうか。とはいえ、地域によって当然のことながら違いもあります。
例えば、しがらみが強すぎてプライバシーが欠けている地域、DV被害者などテーマとする内容によっては排除されている地域などさまざまですが、居場所づくり・地域づくりが社会全体で高まるなかで大切なことは、それぞれの担い手の運営に込める思いや目的を共有することだと思い、このオンラインセミナーを開催しました。
居場所には「頑張ろう」という気持ちを引き出す力がある―公益財団法人さわやか福祉財団 高橋望さん
高橋 : 公益財団法人さわやか福祉財団の高橋です。さわやか福祉財団は、「新しいふれあい社会」を地域に広げようと、地域で助け合う共生の仕組みづくりを推進する、今年(2024年)で設立32年目を迎える団体です。いつでも誰でも気軽に行ける場所を広げようと、全国各地で活動しています。
公益財団法人 さわやか福祉財団の公式サイト
私たちが考える「居場所」とは、まず、地域に住む多世代の人が自由に参加できる場所。そして参加者がお客さまとしてではなく、世話人とフラットな関係でいることで主体的に関わり、自分を活かすことができる場所であることです。ここでのふれあいが、地域で助け合うきっかけにつながっていくような、地域づくりのなかでの居場所を考えています。
居場所は、生きる力を回復させ、「頑張ろう」「挑戦してみよう」という気持ちを引き出す力を持っています。いろいろな人と出会い、触れ合うことが、人と人との絆を深め、自然な助け合いへ発展していくこともわかっています。
例えば、以前、要介護4だった方は、ここでみんなと過ごすうちに、今では阿波踊りに参加するほどまでに回復しました。また、圧迫骨折の治療で寝たきりだった方は、カラオケで歌っているうちに歌姫と呼ばれるほどに注目を集め、元気に過ごしています。仲間の髪を切ることがやりがいになって、杖がないと立ち上がれなかった状態から、立ったまま元気に髪を切れるまでに回復した元美容師の方もいるんです。ここでご紹介したのはほんの一例。全国にこうしたエピソードがたくさんあります。
また、これは私個人としての考えになりますが、専門である建築の視点からお話しすると、居場所と地域がつながるためには、セミプライベート・セミパブリックという空間を丁寧に考えていく必要があると思っています。
これは、生活を行うプライベートスペースと、公共の場であるパブリックスペースを接続する空間を指します。セミプライベートスペースは縁側や広い玄関、土間といった閉じた家から外に開いて接触する部分で、セミパブリックも、個からダイレクトに外に開くのではない、個から積極的に地域とつながっていく空間になります。
これは、生活を行うプライベートスペースと、公共の場であるパブリックスペースを接続する空間を指します。セミプライベートスペースは縁側や広い玄関、土間といった閉じた家から外に開いて接触する部分で、個からダイレクトに外に開くのではない、個から積極的に地域とつながっていく空間になります。セミパブリックスペースは例えば路地裏や家の前の立ち話をする空間のイメージで、地域の公の部分から個にアクセスする際の緩衝材の機能を果たすものです。
このような中間層が必要な理由は、閉じられた空間(プライベートスペース)からオープンな空間(パブリックスペース)にいきなり、ダイレクトに接続するのは、今の時代、難しいのではないかと考えているためです。
部屋の中から地域へは段階的につないでいく
「居場所」が矛盾・不安定を楽しむ支えとなる―認定NPO法人こまちぷらす 森祐美子さん
森 : 認定NPO法人こまちぷらすでは、子育てがまちの力で豊かになっていき、みんなで子育てすることが当たり前になる社会を目指して活動しています。神奈川県横浜市を中心に、カフェといった居場所の運営、居場所のノウハウ展開やまちの人たちが関わるプラットフォームづくり、情報発信などを行い、いろいろな会話の場づくりを推進しています。
居場所で大切なことは、「自分を取り戻す場であること」だと考えています。子育て初期の頃は冷たいご飯を流し込み、味わうことが少ない方も多いです。居場所を通して、ご飯がおいしいと五感で味わえる感性、そして人間性を取り戻していくことがまず最初にあります。
そのうえで、自分が何をしたいのか、何が好きなのかを知り、本当の自分自身と出会えて、感覚の合う人や価値観が違う人とも程よく出会えるようになっていきます。こうしたことを積み重ねることで、少し違うものと出会う勇気が持て、矛盾・不安定を楽しむことができるんですよね。居場所はその支えになっていくと考えています。
認定NPO法人こまちぷらすの公式サイト
子育てに関する日本の現状を表しているのが、「妊産婦の自殺が1週間に“1人”」「子育て中に孤立・孤独を感じる人が“74%”」という数字です。この原因の一つに、子育てによる環境の激変で新しい人生を歩み直すかのような変化を迎えていることが挙げられます。
既存の関係が切れたり、これまでの経験が全く役に立たなかったり、否定的な意見を自分の中で封じ込めてしまったりと、子育て中の多くの人に孤独・孤立もしくは自己否定が強まっていることが、調査でわかりました。
私たちはこれに対し「対話の場と出番をつくる」ことで子育て中の方にアプローチし、「まちの中で我が事として、関わる人口を増やす」ことを通して、社会に対するアプローチを行っています。
なかでも、まちの中で我が事として、子育てに関わる人口を増やそうと始まった「ウェルカムベビープロジェクト®︎」は、2016年4月に横浜市戸塚区(とつかく)でスタートし、過去6年間で約4500家庭へ出産祝いが贈られました。現在は4地区で実施し、みんなで出産祝いを作って届けています(2023年度末時点では、全国4カ所、8年間で約8,100家庭へお届け)。
関わっている方は、高齢者をはじめとした幅広い世代の方、企業や地元商店の方々など、立場もさまざまです。特に、この出産祝いの中に入っている「背守り」(子どもの成長を願って手縫いで刺繍を施すお守り)を作るために、多くの人が集まり、裏面にメッセージも入れてくれています。
一つひとつ手縫いで作られた背守りは、ウェルカムベビープロジェクトのプレゼントとしてメッセージ付きで贈られる
高齢者の方からは「自分が作ったものが誰かの役に立ち、喜んでくれることがうれしい」という声も聞きます。こんなふうに、さまざまな立場の方が関わることで、周りの人が何をうれしいと思い、何をつらいと思っているか、をお互いが知ることのできるプラットフォームになっています。
地域にはいろいろな人がいて考え方も違うので、地域づくりといったときに居場所づくりだけでは足らない部分もあります。ですが、居場所の中だけではなく町全体で、かつ福祉以外の幅広い領域の人たちが自分事として関わることが、居場所づくり・地域づくりを行ううえで大切なのだと実感しました。
オンラインが、孤立した10代の帰ってくる場所になるように―認定NPO法人D×P 今井 紀明さん
今井 : 認定NPO法人D×P(ディーピー)の今井です。経済的困難や不登校、進路未定など10代の孤立を解消するために活動をしています。僕たちは、オフラインとオンラインのどちらも子どもにとって大切だと考え、両面から事業を展開しています。通信・定時制高校や高校内で運営するカフェを活動拠点としたオフライン事業と、進路・就職のLINE相談「ユキサキチャット」というオンライン事業があります。
認定NPO法人D×Pの公式サイト
コロナ禍と物価上昇により、保護者に頼れない10代が増えています。この原因は、子どもの貧困だけでなく、本人が精神的な問題を抱えていたり、親が失業したり、暴力を振るわれたりするなど、子どもが1人で抱える問題が膨れ上がり、解決しにくくなっているためです。
また、子どもを対象としたオンライン相談の多くは、いじめといった一部のテーマでの相談しかできません。オンラインは子どもたちのアクセス手段として有効である一方、アクセスしにくく、「助けて」と声をあげにくい問題も抱えています。
こうした状況を念頭に置き、活動で大切にしていることは、関わりを作っていくことです。例えば、食糧支援では一人ひとりの状況に合わせてカスタマイズして送るなど、ごはんを送って終わりではなく、ごはんを通じた関わりづくりを意識しています。
居場所とは、何かあったときに「帰ってこれる場所」だと思っています。D×P利用者のうち、約6割が福祉制度を使ったり就職したりして利用を終え、約4割が半年から1年間、継続的に支援を受けています。利用を終えたあとに、ここへ帰ってくる子も結構いますが、これは利用を終えてから困ったり、不安になったりしても相談できる環境をつくっているためです。
ここへ帰ってきて「友達でも家族でもない、自分のことを知らない方に相談できるというのがすごく心の味方でした」といった声もあり、オンラインは、居場所にはなれていないけれども、帰ってくる場所として必要とされていることを感じています。
湯浅 : 実践者のみなさんから共有してもらった内容の中には、過去2回のオンラインセミナーと共通した視点もありました。
例えば、「関係性があれば誰かにとっての居場所になるのではないか」「心の拠り所があれば居場所と言えるのではないか」「そもそも場所は要らないのではないか」といったことは、これまでの議論で出てきた内容でもあります。
後半では、居場所づくり・地域づくりは多義的であることを念頭に置き、みなさんと議論を深めていきたいと思います。
>> 後編 “つながりづくり”の充足が、地域づくりへ踏み出す一歩になる【居場所づくりは地域づくり(3)後編】
(※近日公開予定です)
<プロフィール詳細>
高橋 望(たかはし のぞむ)さん
公益財団法人 さわやか福祉財団 新地域支援事業担当リーダー
病院・高齢者施設などの設計業務を経て、広く“まちづくり”に携わる。誰もが健康で、生きがいを持ち、安心して暮らし続けられるまちの実現を推進! 自然にふれあい助け合える地域、生き生きとしたあたたかいまち、新しいふれあい社会づくりを目指し、全国各地でフォーラムやワークショップ等を中心に活動を展開中。
森 祐美子(もり ゆみこ)さん
認定NPO法人こまちぷらす 理事長
トヨタ自動車にて海外営業等に従事した後、第一子出産直後に感じた育児における孤独感や救われた経験から、2012年に退社し当時のママ友数人と団体を立ち上げる。現在横浜にてスタッフ約50人・こまちパートナー約240人とともに「こまちカフェ」等を拠点とした対話と出番の場づくり、企業との協働プロジェクト等展開。
今井 紀明(いまい のりあき)さん
認定NPO法人D×P 理事長
1985年札幌生まれ。高校生のとき、イラクの子どもたちのために医療支援NGOを設立。活動のために、当時紛争地域だったイラクへ渡航した際、現地の武装勢力に人質として拘束される。帰国後「自己責任」の言葉のもと日本社会から大きなバッシングを受けた結果、対人恐怖症になるも、友人らに支えられ復帰した。その後、中退・不登校を経験した10代と出会い、親や先生から否定された経験を持つ彼らと自身のバッシングされた経験が重なり、2012年にNPO法人D×Pを設立。経済困窮、家庭事情などで孤立しやすい10代が頼れる先をつくるべく、登録者7700名を超えるLINE相談「ユキサキチャット」で全国から相談に応じる。
『「居場所づくりは地域づくり」〜地域と居場所の新しい関係性を目指して〜』に関する他の記事は、こちらのリンクからお読みいただけます。
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