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「起業家が非営利スタートアップを支援するエコシステムを創りたい」30代で財団を立ち上げた久田哲史さんが思い描く未来とは

2023.01.30 

子どものころからずっと「生きる意味」について自然と考えていた――そう語るのは、30代という若さで、非営利スタートアップを支援する財団を設立した久田哲史(ひさた・てつし)さんです。

 

学生時代に創業した企業が上場するという経験を持つ久田さんは、現在も新たに立ち上げたスタートアップの経営に邁進する日々を送っています。

 

さらに2023年1月には、ご自身の資産を原資に一般財団法人Soil(ソイル)を立ち上げました。

 

「生きる意味」を考え、行動を積み重ねる中で久田さんが導き出した哲学や思い、そして財団を通して実現したい未来について語っていただきました。

 

聞き手 : 佐藤 茜(「DRIVEメディア」編集長)

※NPO法人ETIC.は、一般財団法人Soilに運営協力をしています。

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久田哲史(ひさた・てつし)さん/一般財団法人Soil代表理事

愛知県生まれ。大学在学中の2007年に株式会社Speeeを創業し、代表取締役に就任。2011年、新規事業創出に専念するため代表交代。2018年、ブロックチェーン事業を主軸としたDatachainを設立し、代表取締役に就任。2020年にSpeee上場。2023年1月、一般財団法人Soilを立ち上げ、代表理事に就任。

「30代での財団設立が早いとは思っていない」

 

――財団を立ち上げた理由を教えてください。久田さんのようにまだ30代で個人の資産を元手に団体を作って社会貢献をしようという経営者は多くないように思います。

 

年齢は関係ないと思っています。学生時代にSpeeeを設立し、数年経った頃には、いずれ上場などによって大きな資産を保有することになるだろう、と思っていました。20代半ばの頃です。当時から、資産を非営利活動に投じるということは、自分の中で決めていました。

 

一般的に企業はミッションの実現や企業価値を最大化させる役割を担っていますが、僕自身は、関わる人みんなで会社を作ってきたという感覚を強く持ってきました。だから、自分がビジネスで蓄積してきた資産は、自分個人に使うのでなく、ソーシャルインパクトを期待できる非営利的な活動への投資に使いたいと考えました。

 

――私も久田さんと同じ80年代生まれですが、大学時代にスタートアップを作ろうという人は少なかったと記憶しています。なぜ就職ではなく起業を選んだのでしょうか。

 

僕は大学生になってすぐ大学には行かなくなったんです。それまでの学生生活と同様に、大学は退屈で、気づけばインターンで仕事ばかりしていました。当時の学生らしい視点というか、はたらくことって面白くないんじゃないか、というのがあったのですが、まったくそんなことはない。仕事をするなかで起業という生き方に出会い、これでいこうと直感的に決めました。

 

おっしゃる通り、当時、起業するのはマイノリティで、あやしささえあったと思います。思い込みが強いから、すぐに決断しただけのことで、まっとうに思考する方であれば、やらないのだろうなと、後から気づきました。それでも今では、まっとうに考える人が、起業の意義を理解して、語って、選ぶ時代になったと思います。

 

今回、Soilを立ち上げたことも、今はまだこれからのテーマかもしれませんが、「3年後、5年後には、これが当たり前になっているだろう。今からその土壌づくりをしよう」という気持ちでやっています。

『利己的な遺伝子』を読んで悟ったこと

 

――久田さんは常に先を読んだ選択をされているように思いますが、これまで影響を受けた人や書籍などはありますか?

 

僕はあまり、特定の人や環境から影響を受けないと思います。その中でも、生きる意味を自問していた中で、リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』は、ひとつ大きなきっかけとなりました。

 

本書が言うには『我々は遺伝子という名の利己的な存在を生き残らせるべく、盲目的にプログラムされたロボットなのだ』ということで、人間は遺伝子が未来に生きるための乗り物であるだけなのだから、そもそも人自身に生きる意味などないのだ、と自分の中での整理ができました。もちろん他の視点もあるだろうし、それが必ずしも正というわけでなく、ただ、自分の中でしっくり来るということが大事でした。

 

生きる意味はないのだとしたら、この自分に与えられた数十年間の時間をつかって、生きる意義/価値をつくろうということで、自分の人生の軸として、“個体価値の最大化”というものを定めました。ただし、同時に生きる意義/価値がないと生きていけないという切迫感があって、起業や今回の財団設立など、これまでの選択をしてきたのかもしれません。

 

僕は、あまり自分の幸せには興味がないように感じます。資産を自分のものとして所有して、それをいかに有意義に使うのかという発想ではなく、最初から自分のものではないのだ、という感覚が近いかもしれません。

 

――自分をまず幸せにするために自身のお金を使ってから、誰かのために使うという考えの人が多いと思うのですが、久田さんは若い頃からすでに自分の幸せではなくまわりの誰かのためにお金を使いたいと考えていたんですね。

 

今回の取り組みを、慈善事業的であると捉えてないですし、誰かのために、という意識もそれほど強くはない気がします。

 

子どもの頃から哲学や科学、歴史が好きでした。すごく田舎で生まれ育って、授業もそこにいるだけでほぼ聞いていなかったですし、一人で概念的なことを考える時間が多かったです。そういった環境で、学校教育に影響を受けなかったということが、今のような思考につながっているのかもしれません。

「価値がある」と思えることに時間を使う生き方

 

――新しい価値を創り出す手法としてビジネスを選んだのはなぜですか? アートや学術的な分野で自分の影響を世に残したいという人も多いと思います。

 

人の選択には、短期的な軸と長期的な軸があると思っています。

 

自分の場合は、短期的には、大学に行かず、起業をするためにインターンなどに没頭していたこと。長期的には、先程述べたような、「個体価値の最大化」のような人生観です。

 

長期的な軸が整理できた時に、たまたま生きている中で起業にいきついていて、その時にこれこそが自分がやるべきことだったのだ、と確信が持てました。

 

何のためにそれをするかが明確でないのに、すべきでないという考えを見ることがありますが、後からつながってくることの方が多いわけなので、こころが動く方へまず向かっていくのが大事だと考えています。

 

結果的に、学生時代にぶれない人生の軸ができた後でも、価値や意義とは抽象度の高いものであり、いつも自問して生きている気がします。

 

Speeeでは毎年数十人単位で新卒採用をしますが、「具体的にこれというのはまだ見えてないけれど、何か社会に良いことがしたいです」という新入社員がとても多いです。「それでいいじゃん」って思うんですよ。いざ飛び込めば、世の中の課題や解決策もわかってくるようになります。実現するための方法を考える必要も出てきます。その上で、自分の頭で考えていけばいいんじゃないかと思います。

 

――まずは興味や関心があることを始めること。そこから自分の得意も見えてきて、さらに速度が増していくという感覚でしょうか。

 

そうです。僕自身は、大人になって、自分がかなり欠落しているのだと気づきました。生活力もまったくなくて、やれないことがほとんどで。振り返って、数少ないやれることが起業して事業を作ることだったなと思っています。

自分ひとりでは何もできないので、心の底から信頼できる人と一緒に取り組むことを大切にしています。

 

Soilも、ひとつの新規事業を立ち上げた感覚でやってます。

 

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非営利スタートアップの創業期を起業家が支援するエコシステムを創りたい

 

――今回立ち上げた財団のSoilでは、どんな支援をしたいですか?

 

社会的に意義のある活動を始めた非営利組織のスタートアップを支援したいと思っています。Soilでは、「非営利スタートアップ」という言葉を使っています。日本の非営利組織は、社会的な意義が感じられる活動をしているのに肝心の資金が集まりにくい課題があります。特に創業期に、事業を行うための資金の不足が顕著です。そこを解決したい。支援に対して、経済的なリターンは一切求めていません。

 

さらに、事業運営のノウハウを創り出すサポートなど、非営利スタートアップの創業期を起業家が支援するモデルを創り、Soilの活動だけに閉じない、エコシステム創りにつなげたいと思っています。

 

支援の対象はNPO、株式会社、個人などこだわりません。年齢、性別、国内外かどうかも関係ありません。

 

今の資本主義社会は、株式会社が世の中を動かす大きな役割を担っていると思います。事業が世の中に与えるインパクトは大きい。そして、スタートアップエコシステムの成熟によって、経済的リターンがあるプロジェクトの資金調達環境は大きく改善されています。それでは、同じ事業でも、なぜ非営利組織になった途端、事業に必要な資金が集まらなくなるのでしょうか。それは経済的リターンが期待できないからではないでしょうか。

 

“儲からないけど意義がある”事業を行う、非営利スタートアップには、資金の出し手が構造的に不足しています。最初から儲ける気のない人たちには、お金が集まらないのです。

 

この「社会課題解決の“課題”」の解決策として、Soilが考えるのは、ごくシンプルな仕組みです。

起業家が、IPOやM&Aによって、営利スタートアップのエコシステムで得た資金を、非営利スタートアップの助成に向けること。またそれだけでなく、事業開発のナレッジによって成長を支援していくことです。

 

起業家には、資金があり、事業をつくる能力があり、テクノロジーへの理解もあって、ソーシャルインパクトを志向する感性もあります。実際に、すでに取り組みをしている方々もいます。

 

資金調達や事業運営のノウハウづくり、ネットワークの育て方など現状を変えるチカラをもっている起業家たちが参画することで、スタートアップの課題解決や成長も加速されていくはずだと思っています。

 

起業家が非営利のスタートアップを支援するモデルを創る、非営利スタートアップの育つ土になりたいという思いで、今回の財団名を「Soil」にしています。

 

これは、すでに機能しているスタートアップのエコシステムを非営利スタートアップに適用するとどうなるのだろうという実験でもあります。今回、このモデルを創ることもとても大事にしており、Soilが新しいエコシステムを育む土壌にもなれればと思っています。社会課題のテーマもあえて絞っていません。教育、ジェンダー、環境など自由です。世の中の課題を、テクノロジーを活用しながら解決しようとする人たちを支援したい。

 

――テクノロジーを重視するのはなぜですか?

 

テクノロジーによって普遍的な課題に対する、新しい解決策が生まれると考えているからです。課題はいつの時代も変わらないものが多いと思いますが、解決策につながるテクノロジーは常に進化しています。過去には解決できなかった課題が、新たに解決可能になる、そこに新しい事業やプロジェクトが生まれると考えています。

副業としてソーシャルスタートアップに挑戦する人も増やしたい

 

――助成金のほかに事業運営の伴走もされるそうですね。特徴を教えてください。

 

Soilの支援では、助成金が1,000万円と、100万円の2つのプログラムを考えています。

それぞれ、Soil1000、Soil100と名前をつけました。Soil1000は優れたアイデアとチームがすでにあるプロジェクト向け、Soil100はアイデアもチームもないけれど、このプログラムを通じてそれを起案していく方を対象にしています。

 

Soil1000では、すでに社会的インパクトを生み出している方たちとつなげるなど、必要に応じて成長につながる機会を作る予定です。また、資金を使い切る期間は決めていません。1年、2年、3年と必要に合わせて活用していただきたいです。

 

Soil100では、3ヶ月の期間で、毎月のメンタリング、参加者同士で刺激し合える機会などを提供する予定です。

 

――選考ではどういった点を重視されるのでしょうか。

 

大きく2パターンに分かれています。一つは、すでに特定の領域で実績のある人たちが必要だと思った事業に取り組んでいるパターンです。このパターンは成功する確率も高いと思います。例えば、Soilの一つ目の支援先として決定したのが、一般社団法人デジタル・ジャーナリスト育成機構(D-JEDI)です。今年の夏に設立されたジャーナリストたちによる団体ですが、誰もが発信者になれるこの時代に必要な「伝える手法や理念」を学ぶ機会を提供しています。これはすぐにやるべき事業だし、社会的なインパクトも期待できるので支援を決めました。

 

もう一つのパターンは、テクノロジーを使って尖った事業を起こすことに意欲的な若くて能力のある方々です。社会的な経験では多少未熟でも、「何か大きな変化を起こしてくれるかもしれない」というポテンシャルを感じさせてくれることを期待しています。

 

応募の条件としては、「自分で想いを実現する」ために必要な強い意志とスキル、経験を持ち合わせているかどうかです。今まで何をしてきたか、自分は何ができるのかをアピールできることは大事で、たとえ社会課題解決の知識や経験は不足していても、挑戦するチカラがあれば想いを実現できる可能性は大きいと思います。

 

逆に、「何もないから支援してください」と他力本願な人はうまくいきません。これはビジネスの世界でも同じことで、自分の強い意志のもと進んでいくなかで助けを求めてきた人がうまくいくように支援ができればと思っています。

 

――Soilはテーマも対象も幅広いのが特徴の一つです。どんな方にSoilの支援を知ってほしいですか?

 

ソーシャルセクター以外の人にも広く届けたいという思いがあります。

 

Soil100では、副業として非営利スタートアップを始める人も増やしたいです。今の職場での仕事にもやりがいはあるけれど物足りなさを感じている人は多いはずなんです。「社会に貢献できることないだろうか」と。

 

テクノロジーの分野で社会貢献への思いをもった人とソーシャルスタートアップの人たちが一緒になって社会のために事業作りができたら、社会課題解決がもっと加速するのではないでしょうか。

 

――Soilの支援に関心を持った方、応募を検討している方にメッセージをお願いします。

 

是非ためらわずにご応募をいただきたいです。資金の支援を受ける、というと責任を感じる方も多いかもしれませんが、何か重たいものを背負う必要はありません。WillやTalentのある方のチャレンジを後押ししたい、シンプルな思いで取り組んでいます。

 

私たちは、ソーシャルスタートアップの創業期に寄付支援をするという、ごくシンプルなアイデアを、社会に浸透させることを目指しています。支援先となる皆様とも、そのようなモデルを一緒に構築するパートナーとして歩んでいきたい、そういった気持ちでご応募をお待ちしています。

 

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一般財団法人Soilでは支援先となる非営利スタートアップを募集しています。応募方法はこちらをご覧ください。

>> 助成プログラムについて | Soil

応募締め切り:2023年2月14日(火)

 

<団体概要>

団体名 : 一般財団法人Soil

設立者 : 久田哲史氏

目的 : ソーシャルインパクト志向の非営利スタートアップへの支援を行い、社会課題の解決を促進する、ことを目的とする。

事業内容 :

(1) 非営利スタートアップに対する助成   (2)その他この法人の目的を達成するために必要な事業

コンセプト :

(1)社会的インパクト  (2) 創業期の支援   (3)経済的ノーリターン   (4)テクノロジー重視   (5)最良のパートナー

想定している助成対象テーマ(一例) :

●貧困・格差  ●医療・介護・福祉  ●気候変動・環境  ●教育  ●農林水産  ●多様性  ●デジタルガバメント・地方自治  ●デジタルアイデンティティ・価値移転

初年度の助成予定 :

・Soil1000 : 助成金上限1000万円×3件

・Soil100 : 助成金上限100万円×10件

 

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財団社会貢献社会課題解決
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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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