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「すべての子どもが育ちやすい社会を目指して」NPO法人3keys代表理事・森山誉恵さん

2015.10.11 824view 

児童養護施設などで暮らす子どもの数は2013年2月時点で、4万8000人に上る(厚生労働省まとめ)。

子どもたちが施設で生活するようになる事情はさまざまだが、大きな要因の一つは、家庭の貧困とされる。中でも、離婚や死別により1人で子どもを育てるしかない状況に置かれたひとり親家庭は厳しく、母子家庭の66%、父子家庭の約20%は貧困状態にある(阿部彩「子どもの貧困」より)。

こうした貧困が、親が子どもと過ごす時間の減少、学力低下、さらには虐待、育児放棄へとつながる可能性が少なくない。その結果、多くの子どもたちが親元を離れ、養護施設で育つことになる。

この現実を前に、どんな環境で生まれ育っても自立できるように、児童養護施設などに学習ボランティアを派遣し、子どもたちの勉強を支援しているのが「NPO法人3keys」だ。学習支援だけでなく、貧困や虐待、地域のつながりの希薄化など、背景にある問題を周知する啓発活動にも力を入れている。子どもの理解者や見守る大人を増やすことで、子どもの権利が保障される社会を推進しようという取り組みだ。

設立のきっかけは、代表理事の森山誉恵さんが大学2年のときにボランティアとして児童養護施設の中学生に勉強を教えたこと。そのときまで施設の存在すら知らなかった森山さんにとって、10代前半ですでに人生を悲観的に見ていた女子中学生との出会いは、大きな衝撃だった。

森山誉恵さん

森山誉恵さん

「児童養護施設って、何?」

森山さんは、3歳から14歳までを母の故郷、韓国ソウルで過ごした。母が教育熱心で小学1年から英語を学び、日韓英の3か国語を身につけた。都立国際高校は進学校だが、自由でユニークな校風。歌や服飾など秀でた才能を持つ人に囲まれて、自分の強みは勉強だと思わされた。生徒会長もやったが、「生真面目はイヤ」と髪を染め、焼いた肌、濃い化粧に付けまつ毛というギャルの格好で、大学受験に臨んだ。

慶応義塾大学に入学すると学生のための国際ビジネスコンテストを運営するサークルに入り、そこで「社会起業家」という言葉と出会った。日頃の問題意識がビジネスと結びつく。今まで恵まれて育った自分が誰かの役にたてられるかも、ということにワクワクした。日本社会で最も希薄化しているのは人とのつながりや教育なのではと思い、2年生の後期からはボランティア活動や教育系のイベントに関わり始めた。

小学生の補習教室運営

指導風景

そんなとき、ボランティア情報サイトを見ていて、「児童養護施設」という文字が目に留まった。「孤児院?」。調べると、全国で3万人超が児童養護施設で暮らしているなど、驚きのデータが出てきた。「子どもは親か親戚と一緒にいるんじゃないの?」

どんな場所なのかも、受け入れてもらえるかも分からない。悩んだ末に電話をし、都内の自宅から15分ほどの場所にある施設に、恐る恐る足を運んだ。すると10分もしないうちに「この子の数学を見てください」と頼まれた。中学2年の男勝りな女の子。「オレ、勉強できないから。帰っていいよ」。衝撃的な出会いだった。

はじめて知った子どもたちの現実

翌週、中1の問題集を持って行ったが、まったく理解できていない。後から小1?2の足し算や引き算レベルからつまずきが多いことがわかった。1人で5、6人の子どもを担当する施設のスタッフは食事や入浴などの日常生活のお世話で手いっぱい。その子も勉強まで見てもらえず、分からないまま中2になっていた。

それ以上にショックだったのは、その子の口をついて出てくる言葉の数々。「高校行ってもどうせやめるし」という諦め。「オレ、税金で生きてるんだよ」という淡々とした言葉。「ボランティアなんて恵まれてるね」という、答えに窮する問いかけ。鋭い言葉が次々と突きつけられた。

登録会風景

登録会風景

森山さんは、考えさせられた。彼女の問いにきちんと答えたい、悲観的にならないでほしいと思い、施設を出たあとの進路や進学後の可能性などを調べた。そして調べるほどに、施設で育った子どもたちの自立の難しさを知った。施設にいる高校生の中退率の高さや大学進学率の低さ。そして、中卒の子はほとんどが正社員ではなくアルバイトで就労している現実――。その子が悲観的になるのはそれが現実だからだと知って、かける言葉が見つからなくなってしまった。

ボランティア面接・面談風景

ボランティア面接・面談風景

彼女のことを考える時間が増え、ボランティアにのめり込んでいった。無事、彼女を高校に送り出したあとも、他の中学生を引き続き担当した。一人っ子の森山さんにとって、慕ってくれる子どもたちが、弟や妹のようにかわいく思えたことも続けられた一つの理由だ。

子どもとの関係が深くなるにつれ、現状の理不尽さに対する憤りが湧き上がった。施設の子に能力や努力の差はそんなに感じられない。現在の学力が低くてもむしろ自分よりも一生懸命生きている。なのに、生まれ育った環境が違うだけで、進路やキャリアにこんなにも差が出てくるなんて――。「なんとかしたい」という衝動が募った。

とっさの一言が、道を決めた

大学3年の4月、SNSで学生仲間6人を集め、児童養護施設に学習ボランティアを派遣する学生団体「3keys」を立ち上げた。団体名の三つのkeyは「きっかけ・きづき・きぼう」の意味。企画書を作って施設に飛び込み営業し、説明会を開いてボランティアを集めた。その年は3施設が利用してくれ、日々の勉強や夏休みの宿題の手伝いなどに人を派遣した。

だが、次第に交通費や資料の印刷代など経費がかさみ、自腹では負担できなくなる。忙しくなって前のようにアルバイトもできない。そこで考えたのが、助成金の活用だった。

セミナー開催様子

セミナー開催の様子

大学3年の2009年8月、40万円の助成金が出るNEC社会起業塾に応募した。そのとき、窓口となるETIC.の担当者にこう言われた。「企業から支援を受けるということは、事業の継続が前提。就職しないで起業することが確定していないと起業塾には参加できないけど、就職はどうする? やめる? やめない?」

実は、インターン先の企業からお誘いを受けていたが、電話口で詰め寄られ、とっさに答えていた。「じゃあ、やめます!」。口に出したら、気持ちがスッキリした。そのとき、すでに相談してくれている施設は6施設に増えていた。「大学生でもここまでできたんだから、もっとやれることはあるはず」。迷いなく進み始めた。

「自信がついた」子どもたちの声が力に

大学4年で留年し卒業が半年遅れたが、2011年5月、在学中のままNPO法人化。利用してくれる施設は施設同士のネットワークで増えていき、12年度には16施設、13年度には20施設になった。「苦手だった英語が読めるようになり、自信につながった」「よく話も聞いてくれ勉強も分かりやすかった」。子どもたちの声が、力になった。施設の中で勉強することや、進学することが選択肢の一つになってきたこともうれしかった。

セミナー開催の様子

セミナー開催の様子

一方で、学習支援活動は施設や子どもたちといった受益者側が、利用費を支払えないという側面がある。活動を支えているのは、共感してくれた企業や個人からの寄付。そして、無償で参加してくれた600人を超える学習ボランティアだ。現場で何かトラブルが起きるたびに研修プログラムに反映させ、改良を繰り返してきた。

最初は児童養護施設への学習支援から始まったが、活動はどんどん広がっている。問題は、貧困や虐待はもちろん、地域社会のつながりの希薄化や核家族より子育ての責任が親に重くのしかかっていること、ワークライフバランスの問題など多岐にわたる。13年からは、自分たちからそれを発信するために、外部講師を招いての講演会やセミナーにも取り組み始めた。

現場に入って活動してきたなかで、新たな課題も見えてきた。いま児童養護施設は、より小さい規模のグループホーム化や里親の推進など、より家庭に近い環境へという政策が進められている。そうなると、サポートが必要な子どもが各所に散って見えにくくなり、埋もれていく可能性がある。3keysではそうなったときの発見機能を備えるために、学校や保育園との連携、さらには中高生のたまり場となりやすいショッピングモールなどとの連携も摸索している。学習支援だけでなく、相談機能も必要だと考えている。

原点からのエール

最初に勉強を教えた女の子とは、今でもつながっている。「『あのとき、あんなにボロクソ言われてよく続けたよね』『根性あるよね』って言われるんですよ(笑)。彼女が私に厳しい現状を突きつけてくれたから、今があると思っています。それくらいその子も厳しい現状と向き合っていたんだと思います」。懐かしそうに語る。3keysをはじめるきっかけとなった彼女との出会い。ときに彼女が送ってくれる「よくやってるね」「なんだかんだえらいよね」というメールが、森山さんに原点を思い出させてくれている。

「問題の大きさに比べると、自分たちがやっていることはまだまだ。だけど、一つひとつ問題を解決していこうと思っています」。その瞳は、しっかりと前だけを見つめている。

※この記事は、2015年02月18日にヨミウリオンラインに掲載されたものです。

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NPO法人3keys代表理事/森山誉恵

1987年、東京都出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒。大学時代、児童養護施設で学習ボランティアを始める。在学中の2009年4月、学生団体3keysを設立し、翌年、内閣府・地域社会雇用創造事業交付金事業に採択される。11年5月にNPO法人化。同年、社会貢献者表彰を受賞。2011年度花王社会起業塾メンバー、2009年度NEC社会起業塾特別メンバー、イノベーショングラント第4期フェロー。

この記事を書いたユーザー

平地 紘子

平地 紘子

1976年生まれ。上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中、メキシコのストリートチルドレンの施設に押しかけ、ボランティア。「現場」に惹かれて毎日新聞社に入社し、事件事故・災害から、公共事業・米軍基地問題、行政・選挙、高校野球まで幅広く取材。夫の転勤で3年間を過ごしたアメリカでヨガに魅了され、ヨガティーチャーとして帰国。現在はヨガティーチャー、時々、フリーライターとして働いている。2児の母。http://www.hirokohirachi.com

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