遺品整理やゴミ屋敷清掃、片付けや害虫駆除。
生活するうえで当事者だけでは対応しきれない「お困りごと」を解決するために、専門業者とのマッチングサービスを展開するオコマリ株式会社の齊藤祐輔さん。
TSGエントリー時のビジネスアイデアからの事業転換や、自信のなさを乗り越えながら事業を発展させてきた経緯について伺いました。 若い人ほど起業すべきとの主張から飛び出した金言にも注目です。
齊藤 祐輔(さいとう・ゆうすけ)さん
オコマリ株式会社 代表取締役/TOKYO STARTUPGATEWAY2015ファイナリスト
立教大学法学部卒業。在学中にアメリカへの留学やカンボジアへの長期インターンを経験する。株式会社ユニクロに入社後、写真・イラスト・動画を販売するピクスタ株式会社へ転職。入社3ヶ月で海外事業のプロジェクトマネージャーに就任。就任中に海外での売上を最大35倍に。人生の目標は、『生まれた境遇で生ずる機会の格差をなくす』こと。インターネットという手段を用いて、個人が自身の価値を最大化できることを目指す。2015年6月に株式会社modecas(モードキャス)設立。
オコマリ株式会社 https://ocomari.com/
聞き手:栗原 吏紗(NPO法人ETIC.)
おじいちゃん子だったことがきっかけに、お困りごと解決のマッチングサービスを展開
――今、仕掛けている事業についてミッション・活動内容を教えてください。
「世の中のオコマリごとをテクノロジーで解決する」をミッションとして掲げ、「オコマリ」というサービスを展開しています。具体的には、遺品整理や片付け、ゴミ屋敷清掃などのサービスを展開する全国の専門業者と、お困りごとを抱えるユーザーさまをつなぐマッチングサービスです。
日本が1日に3,000人以上が亡くなる超高齢化社会に突入する中、残された遺族だけでは遺品整理が難しいというケースが増えています。ほとんどの方にとって遺品整理は身近でないため、業者選びは簡単ではありません。悪質な業者につかまってしまう事例も相次いでいることから、悲しい思いをする人が1人でも減らせるよう、サービスを展開しています。
すでに弊社では遺品整理を含め、7,000件以上の多種多様なお困りごと解決の実績があり、提携業者も全国で700を超えました(2024年3月現在)。最短で翌日や翌々日の手配が可能な点や、弊社独自の料金プランで安くサービス提供可能な点、独自に提携した優良業者がお悩みを解決するという点でご好評をいただいています。
――今の事業を始められた背景をお聞かせください。
これまで「遺品整理ドットコム」というサービスを運営しており、その中で高齢者関連のサービスに需要があると見込んだことと、私自身がおじいちゃん子で高齢者の方々に思い入れがあったことがきっかけでした。
そこからサービス開発を行い、現在のお困りごと解決サービスの形になりました。
――事業を進める中でぶつかった壁や大きな課題はありましたか?
TOKYO STARTUP GATEWAY(以下、TSG)出場時は、ミュージックビデオ制作アプリやモデル向けマッチングサービスの提供をおこなっていましたが、いずれのサービスも軌道に乗せるのが難しく、大きく事業転換することにしました。
遺品整理ドットコムについてはローンチ直後からご依頼をいただけていたので、派生サービスの開発に取り組むのがベストだと感じました。
――起業を辞めようとは思いませんでしたか?
私はVC(ベンチャー・キャピタル)から資金調達をしていたので、辞めるという選択肢はありませんでした。お金を返さなければならない以上逃げ道はなく、事業がうまくいくまでやらざるを得ない状況でした。
自信がなくてもやるしかない。自分の価値を高めながら、事業も成長させていく
――起業当時は自分に自信がなかったと伺いました。自信が持てない中、どのように事業を進めていったのでしょうか?
私はエンジニアではないので、アプリ開発やWEBサイト制作の際に必要なスキルや知識がありませんでした。「何ができる人なのですか?」と聞かれても即答できず、もどかしい思いをしていました。
そのため、チームメンバーを増やすと同時に、私自身ができることも増やしていきました。社長である以上、何でもできるようになるしかなかったんです。
当時の私は気がついていませんでしたが、実力が重視される社会の中で自分自身の価値を高めることができていなかったことが、自信のなさや焦りにつながっていたのだと思います。
――自分自身の価値を高めるとは具体的にどういうことでしょうか?
他人にはできないことに取り組むことを通して、「自分へのニーズを高めていく」ことだと考えています。この点については、かけた時間だけが解決するものではないと考えていて、どれだけ具体的な結果を出せるかにかかっていると思います。
――過去の自分へアドバイスするとしたら?
3つあります。
ひとつ目は、会社員をしながら起業をしたほうが良いということ。収入の基盤がある状態であれば、失敗しやすくなるためです。これはメンタル面の安定にもつながります。
ふたつ目は、すぐに資金調達をせず、自己資金を集めてスモールスタートした方が良いということです。私の場合はVCから資金調達をしていたので、背水の陣となってしまいましたが、可能であれば、事業がある程度軌道に乗ってから資金調達した方がベターだったと思います。
最後は、プログラミングを学ぶべきだということです。プログラミングは外注すると費用が高額になるので、特に事業に必要な部分は自分である程度自ら構築できた方が、ビジネスを前に進めやすくなると痛感しました。
資本主義の真髄を知ることができる起業には、若い人ほどチャレンジして欲しい
――起業してよかったことはなんですか?
2つあります。
ひとつ目は、資本主義の真骨頂を知ることができた点です。身も蓋もない言い方ですが、資本主義社会で戦っていく限り、最終的に「すべてはお金」に帰結します。
私は親が公務員だったこともあり、サラリーマン時代にはこのことを実感として理解していませんでした。いくら書籍やYouTubeなどで学んでも、こればかりは起業してみないと分かりません。
その点、起業してはじめて見える世界を知ることができたのは、起業して本当によかったことだと思っています。
ふたつ目ですが、純粋に社長業がとても楽しいということに尽きます。事業の方向性や取り組むことなどをすべて自分で決められますし、様々な方に出会えます。
特に1人社長はとても大変ですが、なんでも自分でやらなければならないがゆえにスキルが身につきます。また、従業員を雇用することには責任も伴いますが、仲間の人生を背負うということにもやりがいを感じています。
起業して数年が経てば、事業を売却したり畳んだりすることもあると思います。しかし、社長業で培ったスキルは、どんな会社のどのポジションでも活きるでしょう。
そういう観点から、学生をはじめとする若い人には積極的に起業をおすすめしたいです。
起業家仲間と共に過ごす時間がこれほど大事だとは思いませんでした
――TOKYO STARTUP GATEWAYは齊藤さんにとって、どんな価値がありましたか。
『良い仲間たちと出会えたこと』です。
会場ではTSGに出場した仲間とのつながりが生まれ、嬉しさや辛さを共有できるようになりました。
それまでは孤独に考え、行動していたことが多かったのですが、仲間ができたことで気が楽になり、前を向きやすくなれたのだと思います。
プライベートにおいても、起業家仲間と遊びに行ったりするのは、気軽に不安・不満を相談できるという点で本当に大切だと感じています。
――これから起業を考えている方に向けて、メッセージをお願いいたします。
「起業に興味あります!」という話をたくさん聞くことはあるのですが、「実際に起業しました!」という方は多くありません。それは20代でも30代でも変わりません。
しかし、私は若い人ほど起業するべきだと思っていて、とくに学生の方にはぜひ起業に挑戦してもらいたいです。学生の場合は、起業したこと自体が価値になり、就職活動で有利になるかもしれません。
また、決算書をはじめとする事業関連書類を読めるようになれば、業界の構造や利益を生む方法が分かります。就職先を選ぶ上でもこの観点は有効で、起業という形で社会に身を置くことには価値があると考えています。
そして、これまで『起業は手段』だと思っていたのですが、もう目的になっても良いと思うようになりました。
起業すれば、「アクションを起こさなければ」と思うようになります。起業するにはお金が最低でも20万円ほどかかります。自分でなけなしのお金を出した以上、何かに取り組まずにはいられない状況に追い込むイメージです。
やってみて、失敗してもいい。
その失敗を二度と繰り返さなければいい。
ただそれだけです。
どんどん失敗をしながら、成長していってほしいと思います。
「TOKYO STARTUP GATEWAY」に関する記事はこちらからもお読みいただけます。
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