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人と不動産の幸せな関係をつくりたい。「ホームインスペクション」先駆けのさくら事務所が描く未来とは

2022.02.22 

地形、地質、気象などの条件から、災害が発生しやすいといわれている日本。近年では、全国各地で地震、豪雨による水害などが増え、地盤沈下や住居の浸水など住宅への災害リスクが年々高まりをみせています。

 

マンションに関しても、少子高齢化を大きな背景に管理組合の業務が困難になり、新しい事業モデルをつくることが求められるなど、不動産を取り巻く課題が複雑化しています。

 

こうした不動産にかかわる課題を、生活者の視点に立って解決するために不動産や建築の専門家をコーディネートし、事業をつくっているのが株式会社さくら事務所です。

 

専門家の立場から住宅を診断する「ホームインスペクション」を国内でいち早く始め、最近では、マンション管理の課題解決のためのサービス、災害リスクから生活者を守るコンサルティングなど、複数の事業を展開しています。

 

事業のベースにあるのは、「依頼者の声」と専門家たちの「課題感」。「不動産業界の古い価値観や課題を解消したい」と話す代表の大西 倫加(おおにし・のりか)さんに、20年かけて切り拓いてきた事業への思いや、つくりたい未来について伺いました。

 

【1】大西

大西 倫加(おおにし・のりか)さん/株式会社さくら事務所 代表取締役社長

広告・マーケティング会社などを経て、2003年さくら事務所参画。広報室を立ち上げ、マーケティングPR全般を行う。2011年取締役に就任し、経営企画を担当。2013年1月に代表取締役就任。

2008年にはNPO法人 日本ホームインスペクターズ協会の設立から携わり、同協会理事に就任。10年間理事を務め、2019年に退任。2018年、らくだ不動産株式会社設立。代表取締役社長就任。2021年、だいち災害リスク研究所設立。副所長就任。不動産・建築業界を専門とするPRコンサルティング、書籍企画・ライティングなども行っている。

 

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分断されやすい不動産業界の役割をつなぐ

 

「住宅の売買を考えた時、不動産会社に相談する人が多いと思います。でも、訪ねた会社がなんでも知っているとは限らないんです」

 

不動産業界に対して、さくら事務所が抱いてきた課題を大西さんはこう話します。

 

「不動産には様々な専門分野があって、それぞれ専門性が高いため、縦割りになりがちです。つまり横の連携が取りにくいんです。不動産会社によって、また建築士によっても得手不得手があり、見極めも偏ってしまうため、ご依頼者にとっては情報や選択肢の幅に差が出てしまいます。

 

たとえば、一般的に、駅から徒歩5分の住宅は多数ありますが、いくつかの条件をクリアすればその地域においてはほぼ同じ価値とみなされることが多いのが現状です。本来、住宅のコンディションや管理の質などで個別の住宅の価値は違ってくるのに、です。それをしっかりと見極める力が、ご依頼者は致し方なくともプロである不動産会社にも不足している。

 

不動産業界にいてそのことに問題意識をもった創業者の長嶋 修(ながしま・おさむ)は、不動産や建築の専門家同士をつなげることで、中立的な立場で住宅の状態を判断し、ご依頼者に正しい情報を提供するために、約20年前、ホームインスペクション事業を始めました」

 

【2】ホームインスペクション (1)

仕事風景の写真(ホームインスペクション関連)

 

ホームインスペクションとは、住宅に詳しい建築士などの専門家が、住宅のコンディションを調べ、劣化状況や欠陥の有無、改修すべき箇所などを見極め、依頼者にアドバイスを行う専門業務。「もしお客さんが気づいていない不具合が見つかって契約が壊れたら困る」と、当時は不動産業界から強い反発もあったものの、地道に事業を継続することで時代の流れとともに浸透していったそう。2018年には、宅地建物取引業法の改正によって、中古住宅取引の際にはインスペクションの実施有無の説明が義務化されました。

 

「さくら事務所のホームインスペクションは、個人のご依頼者さまが全体の9割近くを占めています。私たちは、住宅のかかりつけ医として、本当にご依頼者の役に立つものが提供できているか評判や信頼を積み上げることを意識しながら事業を推進してきました。今、ホームインスペクションは、20年前には想像もできないくらい広がりをみせていて、本当に嬉しく思います」

災害リスクの診断も。依頼者にとって盲点のない状況をつくる

 

さくら事務所には、日々、多くの依頼者から相談が寄せられると大西さんは言います。その内容は、不動産を買いたい、売りたい、投資したいなど。また、住宅についてのトラブルの悩みの相談にものるなど、とても幅広く、一つひとつは繊細です。

 

「こうしたご依頼者の声から、知識としてあまり知られていないこと、困っているけれど言語化できないものなど、さまざまな要望の形がみえてきます。この時の気づきが、新しい事業をつくるきっかけになっています」

 

2021年1月には、防災と安全性の高い土地選び・住宅づくりを広める「だいち災害リスク研究所」を設立。防災のコンサルティング事業を始めました。

 

主なサービスは、台風や大雨、地震など知りたい場所の自然災害リスクを把握し、情報を提供する「災害リスクカルテ」。行政等が出す災害リスク情報はメッシュが荒く、これまで、消費者は、特定の住所の災害リスクを知ることは困難でした。また、そこに建つ建物の情報まで加味したトータルの災害リスク情報などはまったくといっていいほど提供されていないのが現状です。

 

そこで、今回、さくら事務所では、専門家のネットワークを活かして土地・建物の総合的なリスクのコンサルティングを実現。個人の住宅と分譲マンション管理組合に対し、知りたい場所、住まいがある立地の災害リスクをピンポイントに診断しています。

 

【3】業務中 (災害リスクについてオンラインでコンサルティングします)

業務風景。災害リスクについてオンラインでコンサルティングをしている

 

「さくら事務所の仲間として一緒に仕事をしてくれる専門家は、新築、一戸建て、マンション、中古物件やリフォームなどそれぞれに詳しい建築士、マンション管理に精通したマンション管理士、地質や地盤の専門家など多種多様です。さくら事務所では普段から、それぞれの専門領域の知識を活かしながら、自分の得意分野を超え専門性を広げる挑戦を行ってきました。

 

災害リスクカルテではそれが活かされて形になり、これまで分断されてきた各種情報を複数専門家がトータルアドバイスできるようになっています。広い視点を強みに、多面的なコンサルティングサービスをご提供しています」

 

さくら事務所の理念は、「人と不動産のより幸せな関係を追求し、豊かで美しい社会を次世代に手渡すこと」。次世代が不動産と関わる時に、時代に合わない慣習や仕組みをなくし、代わりに便利を超えてより豊かに、幸せになれる仕組みをつくることを目指しています。

 

「私たちは、“五方よし”を経営方針に取り入れています。近江商人の三方よしがもとになっていますが、まずご依頼者、そして、さくら事務所自体も持続可能であること、そこで働く自分も幸せで仕事に誇りが持てること、業界、社会にとってよい効果をもたらすことを軸にしています。社会にグッドインパクトをつくるために、10年後、私たちが介在したことで市場が必ず良くなると確信できる領域に事業展開し、人と不動産のより幸せな関係という成果指標を追求しています」

10年前から組織をフルフラット化。のびのびと活躍してほしい

 

「さくら事務所の専門家たちは、『偏愛な人』ばかりなんです」と大西さん。休日も建物のタイルを飽きずに見ていたり、地層を見たり、パートナーと散歩をしながら建物コンディションを勝手にチェックしていたり。「みなさん、不動産建築への思いが強く、偏愛ぶりを仕事で発揮してくれるんです」。

 

こうした多様な得意分野を持つ専門家たちや、彼らを支える基盤をつくるさくら事務所のメンバーたちが、みんなのびのびと仕事ができるようにするにはどうしたらいいのか。大西さんは、2013年に代表に就任した当時から、組織改革を推進し、職場をフルフラット化したそうです。マネージャーといった管理職はなく、メンバーそれぞれが自律して働いています。副業、兼業、リモートワークといった、ここ数年で広がり始めた働き方も当時から取り組みを進めてきました。

 

【4】業務中 (3)

株式会社さくら事務所メンバー

 

【5】業務中 (1)

 

「人がまだ自分でも気づいていない、使いこなせていない能力や可能性を爆発できる環境はどんな条件が必要なんだろうと考えたんです。もし自分だったら、自己裁量権が自由で、楽しくて面白くて、興味があることに集中できて、無駄なストレスのない肩の力が抜けた状態の時にスイッチが入るのでは?と思いました。

 

そういう状態の人たちの才能や個性が掛け合わされて、化学反応が起きる環境をつくりたいと思ったんです。自分の中のクリエイティビティが爆発した時に、遠慮なくそれを言い合えるためにも、役職をとっぱらって、アイデアをぶつけあえる環境をつくろうと組織改革を進めていきました」

 

この「DRIVEメディア」を運営するNPO法人ETIC.(エティック)も、昨年、組織をフルフラット化しました。10年以上前から取り組みを始めたとなるととても先進的ですが、難しい課題も多かったのではないでしょうか。

 

「組織改革を始めた頃は、これはフラットなのではなく管理が機能していないだけ、社長が社長の仕事をしていないなど厳しい声もありました。でも、若手社員が入社から見るみるうちに、のびやかに自分の能力を開花させていく姿を見ることができたんです。この方法でよかったのかなと思いました。今では当たり前の職場環境になっていますが、メンバーにも、専門家たちにも、自分の仕事に誇りを持ってスキルを深めてほしいと思っています」

 

【6】ホームインスペクション (2)

 

かかわる人たちが幸せを実感できる事業をつくる

 

大西さんが事業について語る中で、印象的な言葉がありました。

 

「私たちは、不動産業界の課題を解決していきたいという思いを強く持っていますが、決して課題解決のためだけに動いているわけではありません。より楽しく自分らしい道を生きていく方法を見出すことを大切にしたいと思っています。選択肢の一つとして、『自分たちはこの道がすごくユニークで希望そのものだと思うよ』という道を指し示めせるような事業をつくっていけたらいいですね」

 

大西さんは、人がより幸せになるための事業をつくる先に、どんな社会をみているのでしょうか。

 

【7】スタッフ (1)

 

「さくら事務所のミッションは、“人と不動産の幸せな関係をつくる”ことですが、いつどんなシチュエーションでも豊かで自分にとって理想的な暮らしができる不動産市場、取引の仕組みを目指しています。一戸建てを買っても、賃貸マンションに住んでも、または何度住み替えてどこへ行ったとしても、ストレスなく、その人が叶えたい幸せなライフスタイルや夢を手にすることが当たり前に享受できる、人と不動産の安心できる関係を形にしていきたいのです」

 

依頼者の側もサービスを提供する側も、しみじみ納得度や幸福度を高められるサービスを一人でも多くの人に届けること。「それが、私たちの豊かさにつながるんです」と大西さんは話します。

 

「私はこれからも事業を通して、ご依頼者とともに何かを夢中で偏愛するメンバーたちを応援したいです。まだまだ取り組みたい課題や挑戦があるので、仲間と一緒に、一つひとつ事業のクオリティを高めながら、人が幸せを感じられる不動産との関係を提案していきたいです」

 

※本記事は、求人サイト「DRIVEキャリア」に掲載された企業・団体様に、スタッフが取材して執筆しました。

 

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<参考>

内閣府 平成22年版 防災白書

http://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/h22/bousai2010/html/honbun/2b_1s_1_01.htm

国土交通省 住宅瑕疵担保履行法について

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/jutaku-kentiku.files/kashitanpocorner/rikouhou/index.html

国土交通省「インスペクション(既存住宅の点検・調査)」

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/jutaku-kentiku.files/kashitanpocorner/jigyousya/inspection.html

一般社団法人マンション管理業協会「中期事業計画2018-2022」の策定について

http://www.kanrikyo.or.jp/news/data/20180322_chuukihappyou.pdf

一般社団法人マンション管理業協会「マンション管理の現状と課題について」

https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001315023.pdf

 

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