TOP > ワークスタイル > サポーターからリーダーへ。時代に合わせて変わるコーディネーターのキャリア論【チャレンジ・コミュニティ20周年記念(4)】

#ワークスタイル

サポーターからリーダーへ。時代に合わせて変わるコーディネーターのキャリア論【チャレンジ・コミュニティ20周年記念(4)】

2025.03.13 

1997年に日本初の「長期実践型インターンシップ」を開始したNPO法人ETIC.(エティック)は、2004年から日本全国に挑戦の生態系をつくることをミッションに、全国のコーディネート団体と一緒に「チャレンジ・コミュニティ・プロジェクト」(以下、チャレコミ)をスタートさせました。

このネットワークは「成長意欲のある若者」と「本気で新規事業に挑みたい中小企業やベンチャー企業」を、インターンシップや副業の実践型プロジェクトでつなぎ、地域の中で挑戦が生まれやすい生態系を築く仲間として全国に広がっています。

チャレコミは2024年に20周年を迎え、これまでの感謝を伝えるために「地域コーディネーターサミット2024」を開催しました。

本記事では、当日(2024年11月9日)のトークセッション「コーディネーターのキャリア論〜コーディネーターのスキルはキャリアでどう活かせる?〜」から編集してお届けします。

 

地域でのチャレンジを生み出す上で欠かせない、「コーディネーター」という存在。多様なスキルが求められることから、さまざまなキャリアを歩める可能性があります。

 

本セッションでは、コーディネーターを経て、バラエティに富んだキャリアを築いているゲストをお呼びし、キャリアの中で得られること、その先に描けることを考えます。コーディネーターに興味がある方や若手コーディネーターの方、これからどうキャリアを築いていくか迷っている方は一緒に考えていきましょう。

 

<登壇者>

西尾 陽平(にしお ようへい)さん サイボウズ株式会社 広島オフィス所長

1989年生まれ。2012年に故郷の奈良でNPO法人ならゆうしを設立。大学生と中小企業を新規プロジェクトでつなぐ実践型インターンシップ事業等に取り組む。2017年からはサイボウズ株式会社で勤務し、クラウドサービスを通じたチームワークあふれる社会の実現をめざす。2016年からは帝塚山大学で非常勤講師も務めた。修士(政策科学)。

 

島田 勝彰(しまだ かつあき)さん 合同会社ハピオブ 代表社員兼CEO / 富山ビジネス専門学校校長

1987年生まれ。富山県出身。富山大学人間発達科学部(現教育学部)卒業後、同大学職員としてキャリア支援業務に従事。2013年に「AtionOne合同会社」を設立し起業。創業10年を期に社名を「合同会社ハピオブ」に変更し、代表社員兼CEOに就任。また、富山ビジネス専門学校校長でもあり経営者と校長先生という二足の草鞋で日々奮闘中。座右の銘は「選択を正解する」。

 

岩本 華奈(いわもと かな)さん 合同会社気仙沼の人事部 コーディネーター

千葉県出身。大学時代に宮城県丸森町と石川県七尾市にて、長期間の実践型インターンシップに参加。そこでの経験から、地方中小企業の人事課題に関わりたいという想いを持つようになる。大学卒業後、宮城県気仙沼市の株式会社菅原工業に入社、気仙沼市に移住。入社後は人事部の立ち上げを行い、新卒・中途採用活動などを中心に担当。2023年より、合同会社気仙沼の人事部のコーディネーターを兼任。2024年より宮城県丸森町の地域おこし協力隊としても活動中。

 

※役職や肩書は登壇当時のものです。※記事中敬称略。

 

コーディネーターのスキルは他の領域でも活かせるのか?

岩本 : コーディネーターは「何でも屋さん」と呼ばれることもあり、幅広いスキルが求められます。今回は、コーディネーターとしての成長だけでなく、他の領域でスキルを活かす可能性や、ロールモデルの存在、キャリアステップ、培ったスキルがキャリア形成にどう役に立つのか、その価値についても考えていきたいと思います。これらが見えてくることで、コーディネーターを目指す人が増えるきっかけになるかもしれません。

 

左 : 西尾陽平さん。右 : 島田勝彰さん

 

西尾 : 最初の転職のときは、「コーディネーターとしてのスキルが活かせるシーンって少ないな」と悩んでいましたが、年齢を重ねるうちにコーディネーターのスキルを活かせる部分があると感じるようになりました。少ないかもしれませんが、お伝えできることがあればと思います。

 

島田 : 今、こういったポジションで働けているのは、コーディネートのスキルがあってこそだと感じています。長い人生において、誰にでもキャリアチェンジするタイミングは必ず来ますし、そのときにコーディネーターとしての学びは絶対に活きると、この年齢になって分かりつつあります。それをお伝えしていきたいですね。

コーディネーターの存在意義が高まっている。部活のマネージャーからチームのリーダーへ

島田 : 昔「コーディネーターってなんですか?」とエティックに聞いたことがあります。でも教えてくれないんですよ(笑)。僕は言語化したくてモヤモヤしていましたが、今は教えてくれなかった理由がすごくわかる。定義がないんです。これだけ世の中ではいろんな物事を調べられるようになったのに、分からないものに対してこれだけの人を集められることこそがコーディネーターではないかと、最近はそう思ってます。

 

岩本 : 正解がないからこそ自分で見つけていかなければなりませんが、腑に落ちるまでにどのような経験ができたらいいでしょうか?

 

島田 : そこで僕が取った手段は、「コーディネート」というスキルと「コーディネーター」という職業を分けることです。

「コーディネーターになりたくてなったのか?」と聞かれると、「違う」と答えます。でも、「コーディネートのスキルを使って仕事をしてますか?」と聞かれたら、「はい」と答えます。「コーディネーターですか?」と聞かれると、「僕の生き方がたまたま皆さんにはコーディネーターに見えるだけで、その意識はあまりありません」みたいな感覚になります。

 

 

西尾 : コーディネートの仕事はしていたけれど、どちらかといえば起業家だと思っていました。今は規模の大きな会社にいるのですが、さまざまな部署があります。言語が違う部署とコミュニケーションをとりながら一つのプロジェクトを推進していくことは、結局「コーディネート」なんですよね。なので、やっていることは一緒かなと思います。

 

島田 : 最近はコーディネーターの存在意義がグレードアップしたと感じています。当時は本当に補助的な役割が大きくて、どちらかというと、リーダーにはなれないけどサポーターになりたい人がコーディネーターを選ぶような位置付け。昔でいう部活のマネージャー的な存在だったのに、今ではリーダーシップの中にコーディネーターの要素がすごく求められるようになりました。コーディネーターという立ち位置が、リーダーのポジションに格上げされたように感じます。

 

西尾 : 自分がIT企業の仕事をしていても思うんですけど、コーディネートスキルが必要なんですよ。すごく時代が変わったなと思います。

どんな経験を踏まえてコーディネーターになるべき?

西尾 : コーディネーターとして受け入れ企業さんと目線を合わせるときに、「起業した経験」はすごく有効だったなと感じていました。自分自身がチャレンジャーであって、同じ目線を持っていないと信頼を勝ち取れないんですよね。スキルよりも経験をしていることの方が、ある意味すごく良かったです。

 

当時、奈良県で、とある小売店が移動スーパーを運営していました。そのスーパーの店長を学生インターン生に任せるというのが、当時立ち上げられたプロジェクトです。その企業の社長は、先代の社長が急逝されたのを機に地元に戻り、家業のスーパーを継いだ方でした。

 

あるとき社長に「ちょっとドライブしましょう」と誘われて話していたところ、当時その会社で起きていたトラブルや、社長が抱えていたしんどいことを相談してくださったんです。そのシーンはよく覚えていて、すごく嬉しかったんですよね。

 

島田 : 僕は先ほどもお伝えした通り、自分の生き方がコーディネーター的な要素を持っているだけなんです。だから「人のため」とかかっこよく言われるけど、僕は単純に仮面ライダーが好きでヒーローになりたいだけだと思ってます。

 

「変身」とかやってた5歳の頃から、何も変わっていません。ヒーローに憧れていて、ヒーローのような生き方が自分にとって満足できる生き方かなと。たぶん皆さんの言うコーディネーターという働き方が、僕にとってはヒーローに近いんですよね。

 

岩本 : どうなりたいかよりも、どうありたいかというbeingの方なんですね。そのbeingは変わっていくものでもあると思いますが、その点はどうお考えですか?

 

島田 : 僕としては「見つけるもの」ですね。コーチングを学ぶ機会をいただいたときに、そう気付きました。20代ぐらいまでの人は、その原体験を大体持っていると思います。

 

根底にありたいものが存在していて、その上にプログラミングコードが乗り、いろんなプログラムで書き換えられています。それを自分の中でリセットして、最初のコードを見つけられたときに、新しいコードを書き加えられるようになるんですよね。

 

 

西尾 : キャリアを内省して掘り下げられる人はそれでいいと思います。「自分は何がやりたいんだっけ?」という人には二つ道筋があって、一つはご縁に流されて正解にたどり着くこと。もう一つはキャリアをマーケティングと捉えることです。

 

自分を商材だと考え、競合がいないこのポジションで尖ればキャリアが開ける、といったマーケティング的な発想を持ち、どのマーケットで自分という商材が、どうフォーカスされるかを考えることが大事かなと思います。

 

今は本業があってコーディネーターに転職するのが難しい人でも、副業という形でコーディネーターを始めてキャリアの幅を広げていくことは、マーケティング的な観点から見てもすごくいい発想です。自分という人材が、どのような市場価値なのかを考えると、キャリアを見つけやすいのではないでしょうか。

 

島田 : マーケットイン型キャリアとプロダクトアウト型キャリアの違いですね。

※マーケットイン型キャリア...市場のニーズに合わせて自分のスキルやキャリアを構築する方法。プロダクトアウト型キャリア...自分の得意分野や興味を中心にキャリアを築く方法

 

西尾 : 自分が得意な方で見つけていければいいと思います。

コーディネーターに向き不向きはあるのか?

西尾 : 一つだけお伝えしたいのは、相手のことを理解しようとする姿勢やリスペクトを持っていないと、コーディネーターの役割はたぶん務まらないということです。

 

島田 : まず、この場にいる人は全員向いていると思っています。本当に嫌いだったら、人は「無関心」という選択をします。興味があってここにいる。あとはスキルとして磨くか磨かないかだけの話ではないでしょうか。

 

岩本 : 勝手ながら勇気をもらいました。苦手だと感じていても、向いてるかどうかではなく、磨きたいかどうかで取り組めたらいいですよね。悩むことは悪くないということでしょうか?

 

島田 : 悩むことは悪くないですが、悩みが悩みのままで終わるのは良くありません。また、コーディネーターという職業の視点から考えても、悩んでいる人に解決案を提案する立場のコーディネーターが「悩んでいていいよ」と言っちゃうのは本当に正しいのでしょうか。それでお金がもらえるならいいけど、実際はそんなに甘くはないです。

 

苦悩しながらでも、相手がその悩みを解決できるように手を動かしているかどうかが、僕は重要だと思いますし、コーディネーターは相手が解決できるまで信じて向き合うことが必要だと感じます。

 

 

西尾 : コーディネーターとしてお金をもらっている以上はプロなので、品質はちゃんと保っておかないといけません。少しモチベーションの話からはズレますが、自分のスキルだけで稼ぐ経験は重要で、自分の価値をプロ化して、一定の品質を保つ姿勢を身に付けることは大切かなと思っています。

 

岩本 : プライベートとの線引きはどうされていますか?

 

西尾 : 起業したときは、プライベートがなくて全部ごちゃごちゃだったので、正直しんどかったかもしれません。でも、精神的には自由だったんですよね。いつどこで何をしようが、結局は自分の責任なので。しんどいけど自由でした。

 

島田 : 今は補完し合える関係性に感謝しています。プライベートの充実が仕事の充実にもなるので、「こっちは楽しいけど、こっちはつまらない」と下手に切り分けるよりも、互いに補完し合う関係が大事だと思います。

 

例えば、お客さんから食事に誘われることがよくありますが、僕は行くようにしています。それは、お客さんを「ただのお客さん」としてではなく、人生において有益な存在として捉えているからです。僕はむしろ、仕事とプライベートを切り分けず、それぞれが補完するように結び付けてきた方かもしれないですね。

人は決断した回数だけ成長する、それはコーディネーターも同じ

西尾 : エティックの伊藤淳司さんに言われたことで特に覚えているのが、「人は決断した回数だけ成長する」という言葉です。コーディネートの中でも、任されたことだけでなく、自分の意思決定を積み重ねることでどんどん成長していくんだ、といった話を聞きました。

 

僕の場合は手段が「起業」だったので、どういうミッションにするか、どういう法人格であるか、誰を採用してどういう事業を作るか、どう資金調達するかなど、全て自分で決める必要がありました。それを若い頃に経験できて良かったです。

 

島田 : 経験を積むと、自分がうまくやれそうなところがわかってきます。その結果、未知なところに飛び込まなくなるんですよ。でも、コーディネーターの仕事ではそこに飛び込まなきゃいけないこともある。富山に全く来たことのない学生が、インターンシップという形で急に1ヶ月前にやって来るわけですから、何が起こるかわからないと考えると、自分もちゃんと飛び込めるようにしておきたいなと常日頃思っています。

 

これからコーディネーターになる方へのメッセージ

島田 : コーディネーターになってください(笑)。自分の生き方を「コーディネート」という言葉で表現できるのは、僕はやっぱり好きです。定義はないので、自分がコーディネーターだと思えばそれでいいと思います。市役所の職員でも、NPOの職員でも、自営業でも構いません。自分で「コーディネーターになれた」と思えたら、それは自分の生き方が少し見つかった瞬間かなと。そういうコーディネーターになってもらえたら嬉しいです。

 

西尾 : 「決断した回数だけ成長する」というのは、人生において重要なフレーズだと思っています。個人的には、どんな状況であっても生きていく力を身につけることは、個人としてのキャリアを歩んでいくときに結構大切だと感じています。

 

今は本業がある方も、会社が無くなったり、急に転職することになっても生きていけるスキルを身につけることが大事かなと思います。どこであっても生きていける能力が詰まってるのは、たぶんコーディネートのスキルではないでしょうか。

 

岩本 : 今日、お二人の話を聞いて、コーディネーターのキャリアには「こう歩まなければいけない」といった道があるわけではなくて、結局は自分がどうしたいのか、何を磨きたいのか、どうありたいかという、自分の心にちゃんと向き合うことが大切なんだなと学びました。私も頑張って向き合っていきたいと思います。

 


 

<関連記事>

>> 地域コーディネーターサミットに関する記事

>> チャレンジ・コミュニティ・プロジェクトに関する記事

 

この記事を書いたユーザー
アバター画像

岡本 竜太

岐阜県高山市生まれ。横浜国立大学経営学部卒。 大学時代に参加したETIC.の地域プログラムやスペイン留学を経て、観光まちづくりに関心を持つ。2013年に石川県能登半島へ移住し、民間まちづくり会社「株式会社御祓川」にて、中小企業の事業・人材支援を行う社外人事部「能登の人事部」を立ち上げる。2019年からは地元・飛騨へUターンし、電子地域通貨のマーケティング、クラウドファンディングによる事業支援、財団法人の立ち上げなど金融系プロジェクトを軸に、インバウンドや教育など多様な地域プロジェクトに携わる。サッカーとBUMP OF CHICKENが好き。