経営コンサルティング会社勤務後、2009年より、NPO法人かものはしプロジェクトの日本事業統括ディレクターとして資金調達などのバックオフィス業務を一手に担い、国内屈指の強力なファンドレイジング・チームを育成・運営してきた山元圭太さん(31)。
また同時に、前職である経営コンサルティングやNPOで培った知見を活かし、NPOマネジメントラボの代表として様々なNPOのファンドレイジングや組織マネジメントをはじめとする経営課題の解決に携わっています。
今回は、「NPOへのハッピーな転職」を実現するために何を準備しておくべきか。また、ビジネスセクターからNPOセクターに転職して飛び込んだ背景に何があったのかについて、代々木の焼肉定食屋にて、山元さんにお話を伺いました。
写真:社会起業家の相談に乗る山元さん
■NPOに転職する前に、まずはボランティアやプロボノから始めてみる!
石川:DRIVEという、ソーシャルベンチャー求人サイトを運営しているんですが、そうすると「NPOではたらきたい、けど実態をよくしらないので勇気がいる」というコメントをいただくことがあります。山元さんご自身の経験から、何かアドバイスいただけませんか?
山元:僕の場合はいきなり両足もろともNPOセクターに突っ込んでしまったのですが、運良くうまくいきました。だから、僕自身の経験はあまり役に立たないかもしれません。転職する際は、仕事内容もはっきりわからなかったし、自分が価値を発揮できるかもわからなかった。組織風土とか、そういうところも適応できるかな、と思いながらのチャレンジでした。たまたま僕は、多くの部分で適応できたということだと思います。
ですから、僕のオススメは、まずは何らかの機会をつかんで片足だけ突っ込んでみて、その組織がどういう文化で、どんな人間関係があって、どんな仕事や成果が期待されているのか、といったことを実際に体験して確認することですね。
石川:少しかじってみることから始める、ということですね。
山元:イベントに顔を出してみるとか、何らかのボランティア、インターンシップからはじめるのがいいと思います。もし機会があればプロボノとしても参加してみて、もっと業務や成果にコミットしてみる。かものはしの場合、最近は「アソシエイト(社会人インターン生)」を受け入れ始めたのですが、意外と希望者が多くて驚いています。転職する人が組織を理解することも大事ですが、組織のほうがその人を理解することもすごく大切ですね。
石川:山元さんの場合は、プロボノをしたわけでもなく、いきなりかものはしプロジェクトに参画されたわけですよね。フォロワー(スタッフ)として既存のNPOに転職するケースは現在でも稀だと思うのですが、どうしてそうなったのですか?
山元:海外ボランティア活動をしていた学生時代から、ずっとNPOの世界で働くと決めていたから、というのが大きいですね。だから、迷いや悩みもたくさんありましたが、最後は「えいやっ!」ですね。
僕が転職したのは、プロボノという言葉が世に出回るよりも前だったし、そういう機会そのものが、それほど多くありませんでした。今だったら、絶対転職する前に関心あるNPOでプロボノやってみるでしょうけど。まあ、前職中に実際にそんな時間があったのかという別の問題はありますが…(笑)
写真:コンサルタント時代の山元さん。 人材育成・組織活性化の課題解決が得意領域だったそうです。
■PDCAをまわして、キャリアの仮説検証を深める
石川:お話を伺っていると、山元さんはかなり意図的にキャリアを構築しているように思われます。ぜひ、そのあたりに踏み込んでお話を伺ってみたいのですが。
山元:前職で人事もやっていましたので、「キャリア」については、色々と勉強しました。自費でキャリアカウンセラーの資格も取得しました。その中で、万能なキャリアプランニングの方法はないんだ、っていうことに気づいたんですよね。でも、もしあるとすれば、それはPDCAをまわすということかもしれません。考えて、やってみるということですね。漫然と転職を繰り返すのではなくて、仮説検証を深めていくということです。
石川:ご自身を振り返ってみて、どのようにPDCAをまわしてこられたんですか?
山元:僕は大学生の時、ずっとNGO職員として海外で働きたいと思っていました。国連職員とか、海外駐在員といった仕事に憧れていたんです。でも、調べてみたら英語の必要レベルが僕にとってはとても高く、そこに至るまでにかなり時間がかかることがわかった。加えて、開発や支援についての専門知識も、相当高いものが求められる。
「自分にできることや、やりたいことは何か」ということをもう1度考えて、それがファンドレイジングやマネジメントだったんです。そこに絞って、経営コンサルティング会社に入りました。
石川:ファンドレイジングに、着目したきっかけは何だったんですか。
山元:「駐在員になりたい!」と思っていろんなNPO・NGOのインターンシップに一年間くらい関わってみて、気づいたことがあったんです。それは、お金がまったくまわっていない、ということでした。働いている人たちはいい人ばかりだし、ミッションも素晴らしいのに、みんな困窮していてつらそうで。学生の自分からみても、非効率なワークフローが多かったり、ミッションと日々の仕事のつながりが不明瞭だったりしたんです。だから、マネジメントや資金調達がプロフェッショナルに出来る人がいたらいいなあと思っていました。
石川:既にその頃から、PDCAが回り始めていたんですね。
山元:今思えば、というところはありますけど。その時からずっと僕は、自分の意志はいったん横において、社会の中で、自分がどこにいると最大限活きるのか、ということを考えていました。駐在員になりたいとしたら、英語をもっと勉強して、大学院で開発を学んで、行列ができている駐在員予備軍の列の最後尾に並ぶわけです。でも、そこには自分より出来る人が既にたくさんいるわけで、何か違うなあと。だったら、予備軍がいなくてニーズがあるNPOの資金調達やマネジメントのプロになりたいと思いました。
石川:一隅を照らす精神ですね。しかし、NPOのマネジメントがそれほど声高に言われていなかった時代に、現場でそれを感じたというのは示唆深いですね。
山元:商業高校を卒業し、商学部だったので、そういうのが好きだったんでしょうね。就職活動の時期には、「NPOのコンサルタントになりたい!」と言っていました。経営コンサルティング会社に入ってからも入社挨拶で「3年でやめて、NPOのコンサルタントになります!」って宣言していました。(笑)
石川:すごい新入社員ですね。(笑)
山元:結局、3年やってみて「まだだ!」と感じて、チームを率いてリーダーとして成果を出すことができるようになる5年目まで働きました。この時点でようやく、会社の外に出てやっていける自信が少しはつきましたが、取り組むテーマにはかなり迷いました。国際協力から、コミュニティ・ビジネス、環境までいろんな分野があるし。僕は地元が滋賀で、大好きだったこともあって、ETIC.のプログラムに参加して、コミュニティ・ビジネスに関わってみたこともあります。
結果として、今これに取り組むのはちょっと違うな、という感覚があり、その時は「これを仕事にしよう!」とはなりませんでした。これからどうなるかは分かりませんが。
写真:インドにて、かものはしプロジェクトの3人の代表と山元さん
■ミッションに共感し、同世代がリードする「かものはしプロジェクト」へ
石川:ここでも、まずやってみて、試したんですね。それで心の声を聞いたと。どうしてかものはしにたどり着いたんですか?
山元:いくつかありますが、まずはミッションにとても共感したということがあります。僕のこだわりとして、自分自身がそうだったように、「すべての子どもが幸福な子ども時代を過ごせたらいいな」というものがあります。
かものはしのミッションも、児童買春問題の解決なんだけど、実はその先があるんです。「より多くの子どもや若者達が未来への希望を持って生きられる世界を実現させることを目的とする」と。
石川:根源的なミッションへの共感があったんですね。
山元:そうですね。あとは、同世代のメンバーがかものはしの経営をリードしているということもすごく刺激的でした。3名の共同代表は、皆同い年なんです。加えて言えば、早いうちから経営の根幹に携われるチャンスがあったということもあります。
仮に有名大手NGOだったら戦略レベルでファンドレイジングやマネジメントに携わるまでに、ものすごく時間がかかりそうですから。後は、ちゃんと給与をいただけるところということかな。なにせ結婚直後でしたから。(笑)
石川:すごいタイミングで転職されましたね。(笑)ちなみに、どうしてコンサルタントとしての独立ではなく、事業NPOを選んだのですか?
山元:ひとつは、社会のタイミングです。当時は十分な市場がみえず、NPOコンサルティングの収益性や事業性が描けなかったということがありますね。ふたつめは、自分について。これは前職からの学びでもありますが、現場を知ってコンサルティングに取り組みたい、という想いがあったからです。
石川:ファンドレイジング・セミナーなどで講演もされていますし、山元さんというとファンドレイザーというイメージを持っている人も多いかと思います。それがひとつの柱となってきたのは、いつごろからなのですか?
山元:かものはしに入って、3年目くらいですね。ファンドレイジングを進めていく中で、それに対する認識が少しずつ変わっていったんです。最初は単なる活動資金集めだと思っていました。それは正しいんですけど、それだけじゃないと思うような体験がたくさんありました。
例えば、寄付者の方々に「ありがとう」って言われることが多いんです。寄付をいただいているのはこっちなのに、御礼を言ってくださる。詳しく話を伺ってみると、「今までその問題に心を痛めていたんだけど、自分にできることが何か分からずにもどかしい想いをしていた。そんな時に自分にもできることを示してくれた。心がスッとしたよ。」と言われたこともあります。
そして、こういった方を増やすこと自体が自分たちが創りたいと思っている社会作りそのものになります。 問題解決につながっているし、関わった人から本当に喜んでもらえるし自分も成長できるし、いいことだらけじゃないかと。かものはしでは、ファンドレイジングのことを”フレンドレイジング(仲間集め)”と呼んでいたりします。世の中一般では、まだまだ「ファンドレイジング=お金集め」としか認識されていないことが残念で、その面白さを伝えたくてセミナーでお話させてもらっています。
写真:マネジメントラボ主催のセミナーにて。
普段からお会いする機会が多い山元さんではありますが、改めてお話を伺ってみると、「NPOではたらく」という新しいキャリアを切り拓く背景に、数多の挑戦と実験があったことが印象的でした。
今後、山元さんには「NPOではたらく」というテーマのもと、様々なトピックを寄稿していただく予定です。 NPOの仕事や、ファンドレイジングについてもっと知りたいという方には、NPO関係者が密かにチェックしている、山元さんのブログ「ヤマゲンメモ」がオススメです。
NPO法人かものはしプロジェクトは、定期的にイベントを実施しています。山元さんの言葉にもあった「まずはイベントや、ボランティアから関わってみること」にピンと来た方は、ぜひ足を運んでみてください。「アソシエイト」や「インターン生」も募集しています。
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NPOマネジメントラボ代表/山元圭太
日本ファンドレイジング協会 認定ファンドレイザー NPO法人かものはしプロジェクト 日本事業統括ディレクター(2009〜2014年) NPO法人国際協力NGOセンター(JANIC) 理事(2013〜2014年) 1982年滋賀県生まれ 同志社大学商学部卒。卒業後、経営コンサルティングファームで経営コンサルタントとして、5年間勤務の後、2009年4月にかものはしプロジェクトに入職。 日本部門の事業全般(ファンドレイジング・広報・経営管理)の統括を担当していた 「社会起業塾イニシアティブ(NEC社会起業塾) コーディネーター(2011〜2013年)」 「内閣府復興支援型地域社会雇用創造事業 みちのく起業 コーディネーター(2012年)」 として、日本各地のソーシャルベンチャーやNPOの支援も行なっていた。現在は、NPOマネジメントラボ代表として、「本当に社会を変えようとするチャンジメーカーの『想い』を『カタチ』にするお手伝い」をするために、キャパシティ・ビルディング支援や講演/セミナー、コーディネートを行っている。専門分野は、ファンドレイジング、ボランティアマネジメント、組織基盤強化、NPO経営戦略立案など。 NPOマネジメント・ファンドレイジング・キャリアをテーマにした、 Blog「ヤマゲンメモ」(http://yamagenmemo.blogspot.jp/)を執筆している。
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