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NPO・ソーシャルベンチャーに転職する時にぶつかる3つの壁

2013.07.16 

「NPOではたらく!」

あなたの心にその考えが浮かんだ時、いつも同時に浮かんでくる「壁」があるんじゃないでしょうか?

現在NPOで働いている僕自身もそうでしたし、周囲のビジネスセクターからの転職組と話をしていても、その「壁」は結構誰にも共通していることが多いようです。

今回はNPOやソーシャル・ベンチャーに転職する時にぶつかる3つの「壁」と、それらとの向き合い方を、経験からお伝えしていきたいと思います。 NPO・ソーシャルベンチャーに転職する時にぶつかる3つの壁1

1. 「収入不安」の壁

「NPO/ソーシャルセクターは給与水準が低い…」

これが結構大きな「壁」になって、一歩を踏み出せない人たちがかなり多いのではないでしょうか。僕自身が転職を考えた時は、これが最大の課題でした。

年収が半減しますし、結婚して2ヶ月しか経っていなかったですし…(苦笑) 実際はどうなのか?いくつかの調査結果を見てみましょう。 chart1   20代-40代のNPO・NGOスタッフの基本給 なお、2010年に実施された愛知県の調査結果では、NPO正規職員の年収の中央値は265万円となっています。

様々なデータがあるので、明確に定義するのは難しいのですが、どうやら、年収200〜300万円が業界全体のボリュームゾーンのようです。経験的にも感覚的にも、正しい気がします。都市部でこれだと一人暮らしはなんとかできるけど、家族を養うには工夫しないと、、という状況ですね。

でも、最近、それなりの給与水準を支給していたり、しようとしている団体が増えています。実際に年収1,000万円以上の方もいますし、年収2,000万円を本気で目指している団体もあります。そこまでいかないにしても、平均年収350万円とか450万円という団体はいくつもあります。

間違いなく、今後もNPO業界の給与水準は上がっていく傾向になるでしょう。ただ、完全に企業並みになるかというと、それは難しいのではないかと個人的には思っています。NPOで年収1,000万円もらっている方も企業から転職してこられた方ですが、その方は前職で年収2,000万円以上の待遇でもおかしくない方だったりします。

他にもビジネスセクターにいたら、間違いなく年収は高かっただろうというNPOスタッフはたくさんいます。もちろん、実際にはやってみないと分かりませんが。

では、この「収入不安」の壁にどう向き合うのか? 一つは、「お金との関係」を見直す機会として捉えることです。

自分と家族にとって本当に大切なもの(支出)は何なのかを転職当初は真剣に考えました。iPhoneの家計アプリで毎月の支出を詳細に把握して削っていきました。知り合いの中には、都市部から郊外に引越したり、車を手放して自転車に代えたり、お弁当をつくるようになったり、という人たちもいます。でも、どれも実は「苦」じゃないんですよね。「不便」にはなるかもしれませんが、「苦」になることはほとんどないということに気づくんです。

もう一つの方法は、壁に向き合うんじゃなくて、ぶち壊す感じです。つまり単純に「収入」を増やすということ。これには色々な工夫や方法があります。結論、なんとでもなります。皆さん気になるところだと思いますので、これについては次回詳しく取り上げたいと思います。 NPO・ソーシャルベンチャーに転職する時にぶつかる3つの壁2

2. 「キャリア不安」の壁

「社会に貢献したい」という強い想いを持って飛び込みたいものの、その想いだけで続けることができるんだろうか?続けられなかった時に、またビジネスセクターに戻ることができなかったらどうしよう…履歴書にNPOって書いたら怪しいと思われそうだしな…という方も多いのではないでしょうか?

まず、NPOで働く仲間と話していると、「社会貢献(ミッション達成)」のみをモチベーション源にしている人は決して多くないです。もちろん、それは大事なモチベーション源のひとつですし、創業者や団体代表クラスの方は、それだけをモチベーションにしている人もいます。

でも、例えば、子ども支援をしている団体職員の全員が毎日子どもと接しているわけではないし、環境保護や動物保護をしている団体だって同じです。そういった人たちが日々それだけをモチベーションにするのはかなり難しいことです。

なので、働き続けるためには、自分のモチベーション源を一つでも多く知っておくことが大事です。例えば、僕の場合は、「社会貢献」「成長」「仲間との一体感」「尊敬できる人との出会い」などがそうです。

「社会貢献」だけでは保てない時は、尊敬できる人とご飯を食べに行ったり、ひたすら仲間とディスカッションしてモチベーションを高め直したりしています。

また、皆さんは「Teach for America」という団体は御存知ですか?1990年に設立されたアメリカの教育系NPOです。アメリカの人気就職ランキングでGoogleやAppleをおさえて1位になったことがあるだけでなく、Teach for Americaの出身者、は一流企業が取り合うほどの人気ぶりです。

そして、日本にも「Teach for JAPAN」という団体ができました。 日本でも、今すぐにというわけにはいかないと思いますが、今後そういった状況になる可能性はあると思います。ビジネスセクターからNPOやソーシャルベンチャーへの流入は増えて来ています。

次は、NPO/ソーシャルセクターからビジネスセクターへの流入も増えればいいなと思います。もっと人材の流動化が進めば、セクター間の連携が強化され、イノベーションが生まれやすくなります。 今はまだ、一部の「磨かれた人」たちだけがそういった流れに乗って、活躍できている状態です。

「自分にはやっぱり無理か…」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。もしそういったキャリアを望むのであれば、諦める必要は全くありません。誰でも自分を磨いて「磨かれた人」になれると思います。そのことについても、今後書けたらと思います。 NPO・ソーシャルベンチャーに転職する時にぶつかる3つの壁3

3..「貢献不安」の壁

これには、「自分なんかで役に立てることがあるのかな…」という壁に転職前にぶつかる方と「大丈夫でしょ!と思って入ったけど、全然思うように成果が出せなくてまずい…」という壁に転職後にぶつかる方の2つに分かれると思います。

前者の方については、「とにかく試しちゃいましょう!」と思います。以前、僕が偶然Facebookで流したETIC.のコミュニティビジネス・プログラムの告知を見て、友人が短期の地域留学に参加しました。

前から地域の伝統工芸技術に関心があったそうです。プログラムの終了後、数カ月して彼は会社を退職しました。でも、すぐには地域に行きませんでした。短期間だったかもしれないけど現場を体験して、今の自分に何が足りないのかが分かったそうです。なので、その不足しているものを得るために別の仕事に就きました。

分からないから不安なのであって、分かってしまえば不安ではなく「課題」に変わります。

後者の方については、実績も自信もある優秀なビジネスパーソンだった方であるほど陥りがちです。まず、転職した直後から目に見えて大きな成果が出ることなんて稀です。組織構造、人間関係、業務フローなどに慣れるのに半年はかかると最初から思っていたほうが、転職者側も組織側も精神衛生上良いと思います。もちろん、いかにそれを早期化するかという努力は双方ともにすべきですが。

そして、ビジネスセクターとNPO/ソーシャルセクターとの違いに適応できていないことも原因です。例えば、多くのNPOは往々にして、いろんなことが整っておらず(というように見えることが多く)、転職者はフラストレーションを溜めてしまいがちです。

1つは単純に組織の成熟度の問題で、「NPO法人」が日本に誕生してまだ20年も経ってないから、企業に比べるといろいろと整ってないのは当然です。これはある程度は諦めた上で、「自分の身は自分で守る」と考えることが、精神衛生上良いと僕は思うことにしました。おかげで労務などに前職より詳しくなりました。(笑)

もう1つは、NPOならではの「柔軟性」が、「曖昧」とか「いい加減」に見えてしまうという「誤解」から来るものじゃないかと思います。例えば、中長期ビジョン・戦略や意思決定、予算管理などです。 なお、たぶん世の中の多くの人が思っている以上に、しっかりとビジョン・戦略・意思決定フロー・予算を作成しているNPOはあります。僕自身も転職した当時はおどろきました。

でも、なぜ最初はそう見えちゃうのか? NPOは各団体の「ミッション」や「ビジョン」達成のために動いています。そのためなら、良い意味で手段を選ばないし、規則や枠を平気で飛び越えていきます。それが「いい加減」に見えることもあるんだろうと思います。

まずは、「いい加減」や「曖昧」だと思い、フラストレーションになりそうな時は、それを幹部陣に遠慮無くポジティブな形で伝えることが大切だと思います。意外とそうじゃないことが多いし、そうであったとしても納得の行く背景があるかもしれません。どちらにしても「グレーゾーンの海」を主体性もって泳ぎきる強さが必要です。そして、幹部陣は自分が思っている以上に丁寧に繰り返し説明することを努力すべきだと思います。

他にも、NPOならではの多様な人間関係も最初は混乱しがちです。この話もかなりおもしろいですし、言いたいこともたくさんあるので、また書けたらいいなと思います。

他にもいろんな「壁」がありますが、これまで考えてきたように、それらへの向き合い方や乗り越え方がないわけではありません。結局は、自分次第です。ソーシャルセクターはまだまだ未開の地です。

だからこそ、「自分が切り拓いてやろう」というマインドがなければつらいかもしれません。ただ、そういったマインドがない人に「社会を変える」ことはできないのではないでしょうか。「壁」と正面から向き合い、「やってみるか」と思える人にとってはおもしろい場所ですよ。

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山元 圭太

合同会社喜代七 代表 / 株式会社 Seventh Generation Project 取締役 / NPO法人日本ファンドレイジング協会 理事 / NPO法人ソーシャルバリュージャパン 理事 / 島根県雲南市 地方創生アドバイザー / 1982年滋賀県草津市生まれ、同志社大学商学部卒。経営コンサルティングファームで経営コンサルタントとして5年NPO法人かものはしプロジェクトでファンドレイジング担当ディレクターとし5年半のキャリアを経て、非営利組織コンサルタントとして独立。2015年10月に株式会社PubliCoを創業。2018年3月に故郷の滋賀県草津市で合同会社喜代七を創業。2018年12月に株式会社Seventh Generation Projectを創業。