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「ブロックチェーン」による社会課題解決―ガーナでの土地登記や英国におけるダイヤモンドの盗難防止

2016.10.17 

最近バズワード化しつつある「ブロックチェーン」。この単語を目にして多くの人はビットコインを思い浮かべるかもしれない。だが、ブロックチェーンの可能性は金融取引だけではない。ブロックチェーンは社会課題解決のフロンティアを広げる鍵となるテクノロジーでもあるのだ。今回はブロックチェーンの簡単な概要と、ガーナやイギリスにおけるソーシャルビジネスへの応用事例を紹介する。

 

ブロックチェーンの優位性「安全性」「透明性」「低コスト」

 

そもそも、ブロックチェーンとビットコインが同じものだと考えている人も多いかもしれない。ブロックチェーンは技術、ビットコインはその技術をベースにして作られた通貨だ。そこでまずはブロックチェーンの仕組みを簡単に説明しよう。

 

 

 

ブロックチェーンの交換モデルとその特徴(筆者作成)

ブロックチェーンの交換モデルとその特徴(筆者作成)

 

ブロックチェーンを一言で説明すると、「中央に管理者を置かない分散型台帳技術」だと言われている。ネットワークに参加しているコンピュータにすべての取引記録が分散して保存される。それによって、データの改ざんを極めて困難にする。といってもイメージがわかりづらいので、例えとして飛行機のロストバゲージを想像してほしい。私たちは飛行機から降りた後に自分の荷物が紛失したことを知る。それがなぜ紛失したのか、今どこにあるのかといった情報は航空会社しか見ることができないので、自分が使った航空会社の窓口の言葉を信じるしかない。たとえ窓口の人が嘘をついていたとしても、だ。

 

 

ブロックチェーンはそういった取引に関する不透明性、集権性を解決する技術だ。ブロックチェーンは「AさんからBさんに商品Cを送りました」という取引の記録を「ブロック」と呼ばれる記録の塊の中に暗号化して格納する。ブロックの中には他のたくさんの人が行った過去の取引記録が一緒に入っており、ネットワークに参加するコンピュータに分散して保存されている。だから、先の例で言うと、ロストバゲージが起きたとき、航空会社を介さなくても正しい情報を手に入れることができるようになるのだ。しかも低コストに。

 

 

このような技術によって、安全で透明性の高い取引を安価に行うことができる。その価値を活かして、送金コストや決済コストを大幅に下げることができる金融商品として誕生したのがビットコインだが、その価値を活かせる領域は他にもあり、その開拓が最近進んできている。

 

土地登記の透明性・公平性を高める in アフリカ

 

ガーナでは土地登記をブロックチェーンによって行う試みが始まっている。現地では78%の土地が登記されておらず、土地の所有権をめぐる争い事が後を絶えない。ガーナ政府はこの問題に17年もの間取り組んでいるものの、成果は出ていない。それは各地域やパブリックセクターで汚職や縁故主義などが蔓延しており、なかなか改善が進まないためだ。

 

 

ダイヤモント採掘の現場(Wikipedia commonsより)

ダイヤモント採掘の現場(Wikipedia commonsより)

そこで、現地NPOであるBitlandはブロックチェーンを活用した登記システムを開発した。GPS情報や衛星写真、登記書類などのデータをブロックチェーンと結びつけることで、ある土地が誰のもので誰からもらったかなどを記録する事ができ、その情報は公共情報としてすべての人が閲覧できる。これにより、悪意を持つ人による改ざんや不当な取引を防ぐことが可能になるのだ。

 

Bitlandの登記情報閲覧画面(BitlandのWEBサイトより)

Bitlandの登記情報閲覧画面(BitlandのWEBサイトより)

土地が保証されるということは想像以上に大きなインパクトを持つ。土地の所有者が公式に認められることで、その所有者はその土地を担保にお金を借りやすくなり、それを元手に携帯サービスなど多様なサービスを享受したり、ビジネスをはじめたりすることができるからだ。

 

2016年1月にスタートしたこの組織は現在28のコミュニティでプロジェクトを行っており、さらにガーナの主要都市であるKumasi(人口200万人)でも10月にスタートする予定だ。今後は、同様の問題を抱えたインドや他のアフリカ地域への展開も進めている。

 

 

ブラッド・ダイヤモンドを発見し、流通を防ぐ in 英国

 

ダイヤモンドの盗難や「ブラッド・ダイヤモンド」、別名「紛争ダイヤモンド」の問題もブロックチェーンによって解決されるかもしれない。

 

ダイヤモンドのブラックマーケットは大きく、例えばイギリスの保険会社はダイヤモンドの盗難による補償として、毎年20億ポンド近く払っている。また、「ブラッド・ダイヤモンド」と呼ばれる、紛争の収入源確保のために反政府組織などによって紛争地域で採掘されたダイヤモンドの数は減少しつつあるものの、それでも毎年約7200万ドルも流通している。

 

イギリスには健全な流通経路で採掘・流通したダイヤモンドであることを評価・認証する機関が存在し、証明書を発行している。しかしその機関の汚職事件が起こっているとともに、その結果データはほとんど公開されていない。さらにEC(オンライン取引)の発展により、違法なダイヤモンドを売りやすくなっている。仮に流通時に見つけたとしても、跡を辿り、犯人を見つけることは困難だ。

 

 

 

WEB上で最近の取引情報を閲覧できる(EverledgerのWEBサイトより)

WEB上で最近の取引情報を閲覧できる(EverledgerのWEBサイトより)

 

そこでイギリスのベンチャーEverledgerは、ブロックチェーンを活用した認証の仕組みを開発した。公正な認証機関がダイヤモンドの検査を行い、通過したものに対して認証IDを発行し、それとカラット数や重さなど、ダイヤモンドを特定する情報をブロックチェーンに結びつける。ブロックチェーンにデータが入っているため、改ざんができず、また、どのような経路で過去に取引されたかが記録される。その取引記録を見るためのAPI(プログラム)は公開されており、保険会社や小売業者をはじめ、個人も確認して販売、購入をすることができる。

 

2015年にスタートしたEverledgerでは現在、980,000のダイヤモンドが登録されており、HP上では現在どのような取引が発生したかを見ることができる。今後、ダイヤモンドだけでなく、様々な高級商品などへの対応も計画している。

 

 

まだまだ広がる可能性のあるブロックチェーン

 

今回紹介した2つの組織は一例に過ぎないが、その他の組織も1~2年以内にできた新興企業だ。その背景には2015年7月にEthereumというブロックチェーン技術を活用したサービスを作るベースとなるオープンプラットフォームがリリースされ、開発者がサービスを開発しやすくなったことがある。今後も新しいサービスが次々と出てくることが予想され、動向を注目していくべきテクノロジーだ。

この記事を書いたユーザー
青木 佑真

青木 佑真

1992年生まれ。慶應義塾大学商学部卒。大学時代にNPO法人ETIC.にて2年間インターン生として参画。社会起業塾や社会起業家向け融資プロジェクトの運営などに携わる。現在は日系SIerの営業として働くかたわら、会社員ができるソーシャルビジネスの形を模索中。

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