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「拡張移転は成長の証」というオフィス一様論の崩壊―ヒトカラメディア高井さんに聞く、これからの「都市」と「地方」

2020.07.28 

新型コロナウイルスは、新しい生活様式への転換を迫るだけでなく、働き方や人々の意識、世界観を変えるような影響を及ぼしつつあります。見通しがつきにくい、変化も激しい環境において組織のトップである経営者はどんな思いでこの状況を見つめているのでしょうか。

 

意外と語られていない「経営者のあたまのなか」を解剖してみようと立ち上がった本企画。第4弾は『「都市」と「地方」の「働く」と「暮らす」をもっとオモシロくする』をミッションに掲げる、株式会社ヒトカラメディアの高井淳一郎さんのケースをお届けします。

 

※本記事の掲載情報は、取材を実施した2020年06月11日現在のものです。

高井さんインタビュー画像

高井淳一郎(たかい・じゅんいちろう)/株式会社ヒトカラメディア 代表取締役

1985年生まれ、岐阜出身。意志を持って生きる人やその熱源を増やすべく、2013年5月に株式会社ヒトカラメディアを設立。影響の大きい「働く」というテーマを軸に、企業の成長や地域の持続的な課題解決を後押しする「場づくり」を展開、オフィス移転や遊休施設に関わる多数のプロジェクトを手掛ける。時には自分たちも実践者となったり並走していくスタイルを大切にしている。

 

クライアントのオフィス移転ニーズが大きく変化。95%拡張移転で考えていたのが、90%が縮小移転へ

 

――コロナショックはどんなインパクトがありましたか。

 

「経営者のあたまなのなか」第一回のクロスフィールズ小沼さんの記事、読みました。だいぶ赤裸々な感じでしたね(笑)。私たちも、会社としての打撃は大きくありました。自分たちはオフィス移転のお手伝いが主力の事業です。オフィス移転は大きな意志決定です。事業がどのようになるのか、働き方がどう変わっていくのかが見えない中で、オフィスの要件が決められないという人が増えました。お客様もほとんど動けない。5月には話が進んでいた案件の6割がペンディングになりました。

 

クライアントのニーズも大きく変化しています。これまで移転相談のほとんどが拡張移転でしたが、今では逆転して全案件の9割ほどが縮小移転の相談になっています。オフィスに対する要件の考え方も、いまは「拡張移転は成長の証」というオフィス一様論が崩壊した感じで、ポジティブな縮小移転という話も出てきています。それはどういうことなのか、何を要件として押さえればいいのか、誰も答えがない中で模索していたのが、4月5月といった感じでした。

 

あと、都市から地方へなど、オフィスの分散化がもっと起きるかと思ったのですが、意外に起きていない。地方とまではいかず、これまで山手線の内側だったのが、オフィスの規模も縮小して、通勤に30分かかるけど外側でもいいという方々が少しずつ増えています。

 

スクリーンショット 2020-07-16 14.36.58

ヒトカラメディアWEBサイト

 

行政の企業誘致ニーズの高まり。移住する個人の増加も

 

――分散化という意味では、ヒトカラメディアさんは自身も長野県や徳島県にサテライトオフィスを持っていたり、島根県雲南市とも地域連携協定を結ばれたりと、都市と地方の関わりにも積極的に取り組まれてきていますが、何かそうした領域でのニーズの変化とかは感じていますか?

 

行政の方からお話の機会を頂くことが多く、地域側でいうと、このタイミングで企業誘致できないかということに火がついている感じです。BCP(事業継続計画)関連で、という声が明確に増えている。一方、企業からは「地方に拠点を構えたい」という具体的な声はまだあがっていない。イメージがまだできない感じです。

 

働く側よりも、暮らし側の方が先に来ている感じがしますね。軽井沢の移住相談とかも増えているようです。私も軽井沢への二地域居住も考えていて、1週間ほどお試し移住をやってみました。鎌倉の方に移住を考え始めた経営者友達もいたり、オフィスよりもそっちの方が顕著な感じがします。動きやすい経営者個人が移住し始めるケースが多いかも知れない。それがひとつの働く側のいいきっかけになる気がします。

 

徳島サテライトオフィス

徳島県のサテライトオフィス写真

 

――高井さん個人に与えたインパクトはありましたか。

 

焦りですかね。先行きが見えない不安というのももちろんあるけれども、それは日常茶飯事だと思っているので、そこまで気にはしていません。『「都市」と「地方」の「働く」と「暮らす」をもっとオモシロくする』と、ずっと言ってきました。それを、みんな言うようになってきた。ずっと僕らが大切にしてきたことをみんな言うようになってきちゃったんですよね(笑)。

 

もう少し段取りがあって、徐々に変化していく……というのを自分たちは想定していたんですが。でも、やり方を変えなきゃということへの踏ん切りがついた、という意味で良かったところもあります。粗いやり方もあるけれど、同時並行で一気にやっちゃうというのを取らざるを得ない。

 

二足飛びぐらいでアップデートを掛けたいなというのを、最近ひたすら感じています。このままじりじりいけば死にかねないというのを、使命感も含めて「やってやるか!」という感じです。

 

――時代がまったなしになってきた感じは強いですよね。焦りという感じもわかります。

 

まず来週(6/15)からスタッフが島根県雲南市に常駐で入ります。雲南市の木次(きすき)に地元の人たちと作った会社があり、そこに出向という形で入ります。さらにもう1名が、7月から雲南市役所に地域おこし企業人として入らせてもらい、雲南市の情報発信を一緒にやらせてもらうことになりました。本社もある電鉄さんとのご縁で下北沢に移転することになりました。沿線のまちづくりの実験もここでやっていきます。全て同時並行でやっていきます。

 

雲南市との協定締結時

地域連携協定締結の時の写真

 

オフィス移転だけでなく、地域の皆さんと一緒に企画や人材育成も手掛けたい

 

――これから、『「都市」と「地方」の「働く」と「暮らす」をもっとオモシロくする』をどのように仕掛けていきたいですか?

 

ここ1週間ぐらいで、急に言語化が進んできた感じがあって、まだ人に整理してお話できるか分からないのですが、ヒトカラメディアは、これまで「状況づくり」をしていきたいと考えてきた会社です。

 

例えばオフィス移転は、それを単体で終わらせるのではなく、自分たちがどうありたいかを考える機会になります。ミッション、ビジョンを浸透させるプログラムを通じて企業と社員の関係性の進化に昇華できるといい。オフィス移転をきっかけに所属する社内のコミュニティとのつながりを深めたり、さらに地域単位、街単位につなげていくことで、単発で終わらせない、緩やかな集合体にできる気がしています。その全体像を作ることを凄くやりたい。オフィス移転はその粒感のひとつに過ぎません。

 

――私たち(NPO法人ETIC.)が大切にしている考え方と、凄く近いなと思いました。様々なプログラムをやっていますが、それはひとつのきっかけに過ぎなくて、その結果、コミュニティ全体にどんな熱量や影響を拡げていけるのかを大切に考えています。

 

ヒトカラメディアはオフィス移転などのプロジェクトベースでスタートして、そこからお節介していろいろやってきました。それをもっと上のレイヤーからやるのもありだよね、というのを覚悟した所もあります。つまり、オフィス移転だけでなく、アクセラレータープログラム(大手企業・自治体によるスタートアップへの支援)をアップデートするとか。新規事業担当者とスタートアップのチームアップをどうやっていくかとか、電鉄さんと一緒に、まちのあり方を考えていくとか。企画をかく仕事を受けながら、人を育てることをやっていきたい。それらをごちゃ混ぜにやっていきたいと思っています。

 

地域の皆さんとも、そんなレイヤーから一緒に考えていきたいと思っています。コロナ禍で地域の課題感がどう変化しているのかがつかみ切れていない所もあるので、そこも含めてキャッチアップしながら考えていきたいと思っています。

 

雲南ワークショップ

雲南市内でのワークショップの様子

 

――地域の方々と一緒に考えたい企画がありましたらお聞かせください。

 

1つ目が、雲南市での体験からの着想が強いですが、自社の枠組みを超えた社会課題解決型リーダーシップの育成。分かりやすくいうと、雲南市に出向している竹中工務店の岡さん(地域おこし企業人として2019年4月1日より着任)のような方。自社のアセットと社会課題の中でチャレンジするビジネスパーソンを増やしていきたいと思っています。都市部の事業だと社会課題についての実感がわく機会がなく、フィードバックがわかりやすく返ってこないので、課題解決に取り組んでいる地域に鍵があるのではないかと考えています。

 

都内で普段やっているオフィス移転の際に、自社の事業ってなんだっけということを考えていただくワークショップをしていますが、会社の中でのリーダーシップというよりは、舞台を地域側に持ちながら、そこでなにかしら「コト」を起こすためのリーダーシップをつけられないかと妄想しています。

 

2つめは、カオスの中から化学反応が生まれる地域の拠点づくりです。雲南市で生み出そうとしている拠点は、何と言っていいか分からない施設になってきています。僕らが進めていく中で、地域が持っている「点」や、地域の外から新しくやってくる「点」をどう繋げながら「面」にしていくのか、というのが狙っている部分になる。シンプルに遊休施設や空き家の回収にもなりますが、単なるコワーキングやシェアオフィスに留めず、ごった煮の目的を持ちながらもしっかりした機能を持った施設のプロデュースをやれないかと思っています。私たちは、できあがるまでのプロセスの設計もできるし、人の巻き込みも含めてトータルでプロデュースできます。そうした拠点づくりを、1つ目のリーダーシップ研修とも絡めながら、地域側では展開してみたいと思っています。

 

雲南拠点イメージ

雲南市の拠点イメージ図

 

――雲南市との出会いから発想が広がっていっていますね。いままではこうした地域との関わりは自然発生的にされてきたように感じていますが、今後の展開はどのように考えていますか?

 

答えが見えているわけではないのですが、自分たちの感じていることは他の会社さんに応用できることがあると思っています。流れの中ではなく、自治体さんとの連携の中で拡げ方を加速できないかと考えています。

 

エリア内での気運づくりがうまくいっている地域は増えていると思いますが、都市側の企業と同じ目的で「一緒にやりましょう」となるための接点づくりはこれからだと思います。もう二ひねりぐらいは必要ですかね。企業のアクセラレーションを地域に接続させたいし、いい塩梅で世の中に出せたら乗っかってくる企業はいるかもしれない。企業を動かせたらインパクトが大きいので、ベンチャーや中堅企業も絡められたら面白いと思っています。

 

――地域にも入り込みながら、オフィス移転を通じて都市部企業の変革にも向き合ってこられたヒトカラメディアさんだからこそ担える、新たな役割の進化の可能性を感じました。今日はありがとうございました。

 

 

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