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「雲南だからできた」で終わらせない。必要なところに広げていける地域看護のモデルを作りたい―コミュニティケア中澤ちひろさん

2023.07.13 

訪問看護ステーションとは、保健師または看護師が管理者となって運営する事業所で、利用者の主治医の指示によりサービスを提供する、地域に開かれ独立した事業所です。現在、全国に約14,000ヵ所(2022年時点)ありますが(一般社団法人全国訪問看護事業協会)、中山間地域の訪問看護ステーションは、市場規模が小さい上に1軒1軒の距離が遠く、訪問効率が悪いため経営が難しいと言われています。

 

今回ご紹介するのは、まさに中山間地域の島根県雲南市で、2015年から訪問看護事業を経営する中澤ちひろさんです。人も地域も健康で幸せになれるようなケアを実践したいと、たくさんの幸せな瞬間をプロデュースすることを理念に掲げる中澤さんの考え方に迫ります。

 

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中澤ちひろ(なかざわ・ちひろ)さん

株式会社 Community Care 代表取締役/ローカルベンチャーラボ1期生

神奈川県相模原市出身。日本赤十字看護大学卒業後、国内外で病棟看護や在宅医療に関わる。2015年に地域活性を手掛けるNPO法人おっちラボから派生する形で訪問看護事業を立ち上げ、2016年に株式会社 Community Careとして法人化。暮らしの身近な場所で看護活動する人材を育てるCommunity Nurse Company株式会社の共同創業者兼顧問の他、公益財団法人うんなんコミュニティ財団の理事等を務める。

カンボジアでの国際ボランティアの経験が事業を構築する力の原点に

 

中学時代、入院した伯母のお見舞いに行ったところ、ずっとごめんねと泣きながら謝っていた姿に少なからずショックを受けたという中澤さん。その後、「今日の最大の病は癩でも結核でもなく、自分は誰からも必要とされていないと感じることである」というマザーテレサの言葉に触れ、病気になっても自分を肯定できるような助けになれたらと、看護師を志し、日本赤十字看護大学に進学します。

 

「実は大学はサークルで選びました。看護師を目指すきっかけになったのがマザーテレサの言葉だったので、医療資源が乏しい中でどうやって人の健康や幸せに関わる活動ができるのか、関心があったんです。自分の知らない世界を感じてみたいという思いもありましたし、看護を学びながら国際ボランティアサークル(以下NACEF)で活動できるというのが進学の決め手でした」

 

NACEF(ナセフ)では現地NGOと連携してカンボジアの孤児院を訪問し、衛生活動や行事のサポート等に取り組みました。しかし中澤さんが代表を務めていた3年生の頃、活動は存続の危機を迎えます。

 

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NACEF時代のカンボジアでの活動の様子

 

「先輩達と同様の活動を始めようとしていた矢先に、現地NGOの代表をしていた日本人の方が交通事故で亡くなってしまったんです。現地の人の立場になって考えるという姿勢が徹底していて、幸せとは何か、いつも私達自身に考えさせてくれていました。地域に根ざした活動をするために、カンボジアで僧侶にまでなられていて、本当に尊敬していた方でした」

 

現地とのつながりが途絶える中、中澤さんは今後NACEFの活動をどうしていくかの決断を迫られます。

 

「孤児院への支援が回らなくなって、子ども達も別々の孤児院に移されてしまいました。先輩達は『無理して活動を続けなくてもいいよ』と言ってくれたんですが、代表の方の追悼会で、ある方が『志を持つことが大事。志があれば活動は続いていくし、今の活動が点でも、つながって線になっていくよ』と声をかけてくださったことは励みになりました。

 

それからメンバーで自分達に何ができるのか、とことん話し合いました。寄付を募って送金するといった案も出たんですが、お金は有限だし、それよりも継続して子ども達の成長を見守る存在自体に価値があるんじゃないかという結論になって……まさに1から自分達の活動を構築し直す体験だったので、印象に残っています」

 

お話を伺って、NACEFでの経験は訪問看護事業を立ち上げる上でも中澤さんの糧となっているように感じました。

主体性を持てるサポート体制で、雲南での訪問看護事業が立ち上がる

 

大学卒業後は地元の病院に3年半程勤務した後、終末期医療が発達しているオーストラリアでも1年間介護現場を経験します。

 

そして帰国後は、全く違う環境に身を置いて幅広く日本の医療の現場を知りたいと、広島で特定非営利活動法人GLOWが主催する地域医療研修に参加。1年半の研修期間中は、訪問看護や在宅医療の現場に出たり、JICAの母子保健プロジェクトで再びカンボジアと関わったりと、多様な経験を積まれました。

 

「カンボジアのプロジェクトでは、専門家のみなさんが実践モデルを作り、他の地域や現場にも広がるよう制度や法律に反映させるということをやっていたんですが、それがうまくできているところは成功しているんだなと感じました。いい仕組みを作ることの大切さを感じましたし、現場と仕組みをつなげられるような人材になりたいと思いました」

 

研修期間を終え、学んだことを地域に還元したいと考えていたときに訪れたのが、島根県雲南市です。知人の紹介で、当時特定非営利活動法人おっちラボの代表をしながらコミュニティナース活動の普及に取り組む矢田明子さんと出会い、コミュニティナースの存在を知ったといいます。

 

「雲南でコミュニティナースに関わる人達が本当に多様で、すごくワクワクしました。自分もこういうことをやってみたかったんだと腑に落ちたというか、自らコミュニティナースを名乗って実践してるのがすごいな、面白いな、と素直に思えました。

 

地域医療に携わる中で、他の分野の人たちともっともっと協働しなくてはという思いが強くなっていたのですが、医療活動の領域を超えて、まちづくりの一環として取り組まれている。様々な分野の地域の人達や、民間、行政、多くの人の熱量が感じられて、医療現場だけで完結させないようなモデルをここで作ってみたいと思ったんです」

 

中澤さんはおっちラボのインターン生として、思いを同じくする看護師2人と一緒に訪問看護事業を立ち上げます。その場その場での判断が問われる訪問看護師はベテランの仕事とされ、全国の平均年齢は47歳でした。一方当時の中澤さん達は29歳。しかも利用者が少なく、移動距離も長い中山間地域で経営が成り立つのかと不安視する声もありました。こうした状況の中、矢田さんをはじめ医療関係者や行政から様々なサポートを受け、徐々に事業が形になっていったと言います。

 

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株式会社 Community Care立ち上げメンバー

 

「3人ともIターンなので、地域のことを全く知らなかったんですが、たくさんの地域の方とつないでいただきました。訪問看護事業に詳しい人、町の仕組みに詳しい人など、各方面に応援者を作ってくださったのは本当に大きいですね。

 

つなげるだけでなく、一緒に企画を考えたり、壁打ち相手になってもらったりといった伴走支援も非常にありがたかったです。困ったときにはいつでも手を差し伸べてくれるんだけど、私達に主体的にやらせてくれる。そんな絶妙な距離感でサポートしていただきました。

 

特に、主体性を持たせてくれたというのは大切なことだと感じています。町全体の課題でしたし、若い人達に任せるよりもっと堅実な解決策だって検討できたかもしれません。それでも志を持っている人、貢献したいと思っている人を前に立たせて応援してくれた。

 

サポートする側にもそれなりの覚悟がいりますが、そうしないとせっかく灯った火が消えていってしまうので、どれだけ主体性を持ち続けられるかという観点での支援が必要なのだと思います」

 

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訪問看護中の様子

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身近な存在になるために、体のことを考えるきっかけに体験コーナーなど地域のお祭りでもブースを設置

 

プレイヤーからマネージャーへ。新たな環境に身を置くことで意識をアップデート

 

雲南で訪問看護事業を立ち上げたことで、暮らしの中での看護活動のあり方について様々な視点から学び、さらに考えを深めたいと考えた中澤さんは、創業2年目に1期生としてローカルベンチャーラボを受講します。ラボではどのような学びがあったのか教えていただきました。

 

「ちょうど産休中だったということもあり、様々な角度から問いに向き合うことができました。雲南市には中間支援組織であるおっちラボもありましたし、それまでもやれていると思っていましたが、地域を越えて多様な分野の人達と出会うことで、再度向き合えたという感じです。

 

各地で挑戦している人とのつながりができたことで、単純にモチベーションも上がりました。日本全体で考えたとき、違う分野からとらえたときで、それぞれいろいろな解決方法があることに気付けましたし、視野を広げるきっかけになったと思っています」

 

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ローカルベンチャーラボ1期生の集合写真

 

2015年に訪問看護事業をスタートし、2016年に株式会社 Community Care(コミュニティ ケア)として法人化してから7年。今ではスタッフも20人に増え、今後組織をどのように発展させていくかを考えるフェーズに入ってきました。コミュニティナースの育成等、看護師として現場に立つのではなく、組織作りやビジョンを検討する経営者としての役割が求められるようになり、中澤さん自身にはどのような変化があったのでしょうか。

 

「自分は未来に向けた動きを作っていかなければならないんだと自覚できたのは本当に最近です。

明確なきっかけがあったわけではないんですが、現場を任せられる仲間が増えたことで、『次は何しなきゃいけないんだっけ?』と日々自分に問うようになりました。現場を知っているからこそ現場に入り込みたくなるんですけど、仲間に任せていかないと組織として成長できないと感じるようになりました。

 

自分自身、経営者としての動きができていなかったので、変化を起こさなきゃというのはすごく感じました。『経営者になるには経営者になるのが一番』という方もいますがまさにその通りで、経営者の方と交流したり、声をかけられた役目はひとまず引き受けてみたり、自分が関わる人や環境を意識的に変えるということを心がけています。

 

また、新しい役割にチャレンジするときは、どんな観点で関わればいいのか勉強しないといけませんし、責任もあるので、お声かけいただいたものは現状に甘んじることなくやってみようと。今までと違う動きをするのは寂しさや不安もありますが、『ここで飛び込んだら次の出会いにつながるはず!それが会社や一緒にやってくれている仲間のためにもなるはず!』と、チャレンジしています」

 

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コミュニティナースの活動の中では、多世代の交流が生まれています

「雲南だからできた」で終わらせない。必要なところに広げていけるモデル作りを

 

それでは最後に、今後の展望や、地域での事業づくりに挑戦したいと思っている方への応援メッセージをお聞かせください。

 

「雲南だからできた事業になってしまうと再現性がないし、いいモデルを作って広げていきたいという思いがあるので、必要とされる地域に展開していくというのが今後の課題だと思っています。

 

地域に飛び込んでみたい、やってみたいと思えること自体、すごいことですよね。思っている状態から実際に行動にまで移せる人は本当に少ないと思うんですが、やってみることでどんどん次の可能性が広がっていくと思うので、ぜひ一緒に挑戦していきましょう!」

 

中澤さんも受講されていた「ローカルベンチャーラボ」は、地域に特化した6ヶ月間の起業家育成・事業構想支援プログラムです。例年3~4月に受講生を募集していますので、気になった方はぜひ公式サイトをご覧ください。

 

▽ローカルベンチャーラボ公式サイト▽

https://localventures.jp/localventurelab

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この記事を書いたユーザー
茨木いずみ

茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。

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