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任期終了後はどうする?起業を目指し、北海道八雲町で活動中の地域おこし協力隊員が語る、「出口」の見つけ方

2024.04.13 

都市部から過疎地域等に移住し、様々な活動に従事する「地域おこし協力隊」。総務省の発表によると、2022年度に活動した協力隊員は6,447人となり、過去最高となりました。しかしながら、長くても3年間と任期が決まっている協力隊員にとって、任期終了後も活動地に定住できるかというのは不安要素の1つです。

 

今回は、そんな多くの協力隊が抱える悩みと向き合いながら、北海道道南エリアでの地域おこし協力隊ネットワークを結成するなど、着任地域での仕事づくりへ向けたアクションを続けている北海道八雲町(やくもちょう)の地域おこし協力隊員・藤谷周平さんにお話を伺いました。

この記事は、【特集「自分らしさ」×「ローカル」で、生き方のような仕事をつくる】の連載として、地域に特化した6ヶ月間の起業家育成・事業構想支援プログラム「ローカルベンチャーラボ」を受講したプログラム修了生の事業を紹介しています。

藤谷 周平(ふじや・しゅうへい)さん

北海道八雲町 地域おこし協力隊員/ローカルベンチャーラボ7期生

北海道札幌市出身。高崎経済大学地域政策学部卒業後、4年間東京の民間企業に勤め、2021年12月より北海道八雲町の地域おこし協力隊に着任。廃校をコワーキングスペース兼キャンプ場としてリノベーションした「ぺコレラ学舎」の運営等に取り組む。

コロナ禍での長期に及ぶリモートワークが生き方を見直すきっかけに。起業準備のための選択肢として浮かんだ地域おこし協力隊

 

大学進学を機に道外で生活することになった藤谷さんでしたが、元々北海道が好きだったため、いずれはUターンしたいと考えていました。物産展で北海道の人気ぶりを目の当たりにするなど、外に出たことで北海道のポテンシャルの高さを感じる機会も増えたそうです。

 

また、大学では観光によるまちづくりを学んでいたため、全国各地の事例や地域おこし協力隊について知る機会にも恵まれました。とは言え、当時は協力隊制度が始まってまだ5~6年目という時期で、大学卒業後すぐに着任するのはハードルが高く、民間のまちづくり会社でも新卒の求人は出されていないという状況でした。そこでまずは社会人として経験を積もうと、東京で営業専門の企業に就職することを選びます。

 

全国の中小企業を回り、求人や広告営業の支援をすることにやりがいを感じていた藤谷さんでしたが、コロナ禍に突入すると状況は一変。ワンルームの狭い部屋で、オンオフの切り替えもままならないリモートワークが続いたことが、このまま東京での生活を続けるべきか見直すきっかけとなりました。

 

「社会人経験もある程度積んだし、今なら戻れるかも……と考えていたときに、ふと思い出したのが協力隊制度です。将来的にはUターンしたいと思っていたので、それまでも移住フェアに参加するなど、情報収集はしていました。集めた情報を振り返ってみて、『協力隊ってアリだな』と思えました。

 

というのも、就活していた頃から漠然と、『いずれ起業したい、自分の城を持ちたい』という思いがあったからなんです。何事も自分で決めたいタイプなので、雇われて働き続けることは合わないかもしれないと思っていました。

 

いきなり移住して起業というのはハードルが高いですが、協力隊なら毎月一定の収入がありますし、身分が保証されているので地域の方にも受け入れられやすいんじゃないかと考えました。近い将来、自分でやりたいことを選べるようになるために選んだのが協力隊です」

 

渡島半島の北部に位置する北海道八雲町。函館市と室蘭市の中間にあり、東西が海に面している

 

そんな中、廃校活用に従事する隊員を募集していたのが八雲町でした。当時はまだ最初期のリノベーションが完了したばかり。キャンプ場やコワーキングスペースとしての活用など、ある程度の方向性はあったものの、具体的なことはまだ何も決まっていないという状況が、藤谷さんの「自分で決めたい!」というマインドに響き、着任の決め手となりました。

 

「農業体験や漁業体験の受け入れもしていて、観光系の事業ができそうな点も魅力でした。近くにスーパーやコンビニ、総合病院がありつつ、車でちょっと行けば温泉や大自然に触れられるというところも後押しになりましたね。北海道の中では比較的寒さが厳しくないエリアですし、自分の条件に一番マッチしていたのが八雲町です」

「関わりしろ」を作ることが関係人口につながる。みんなで少しずつ作り上げてきた「ぺコレラ学舎」

 

藤谷さんは、廃校をリノベーションしたぺコレラ学舎の活用をミッションとして、2021年12月に協力隊員に着任しました。当時はオープンから2ヶ月弱で、まだほとんどお客さんが入っていないという状況の中、まず取り組んだのがプロモーションです。キャンプのまとめサイトに一つひとつ掲載依頼を出したり、イベントごとにプレスリリースを出したり。前職での経験を活かし、ワーケーションに関心のある企業への電話営業なども行いました。

 

「最初はメディアやSNSでの露出を増やすことに力を入れました。ぺコレラ学舎を一緒に運営しているメンバーの1人が八雲町出身だったので、その方にやりたいことがある地元の方や農家さんとつないでもらいました。小さくイベントを企画して、リリースを出して、できそうなものは継続して……と、少しずつ認知を広げていきました」

 

ぺコレラ学舎を運営する上で藤谷さんが意識していたのは、各地からやって来るボランティアの「関わりしろ」をデザインすることです。ペコレラ学舎を一緒に作ってくれる町内外の仲間を「ペコラー」と呼び、一緒に作業をする中で生まれてきたアイデアを、事業計画やビジョンに落とし込んでいきました。

 

「基礎工事や監修は大工さんなど業者の方にお願いして、火を起こせるスペース作りや校舎内のDIYなど、できるところはぺコラーのみなさんと一緒に自分達で作っています。『みんなでサウナを作ろう!』というように、共通の目的があることで地域の内外から関心のある人を集めやすくなりますし、手を動かしながらだとアイデアや交流も生まれやすくなるんです。

 

各地からボランティアにやって来る「ぺコラー」達

 

大学で家具づくりを学んだ人がブース型の半個室を作ってくれたり、良心的な価格でWebサイトを作ってくれる方が現れたり、これまで200人以上がボランティアで関わってくれました。ボランティアの平均滞在日数は4日程で、3割が2回以上来てくれているリピーターです。

 

自分達だけではアイデアの幅に限界があると思ったので、多様な経験を持った方たちに関わってもらえるような仕組み作りは当初から意識していました。学舎づくりを通して生まれたつながりが、今につながっていると思います」

任期終了後はどうする?共通の悩みから生まれた、道南地域おこし協力隊ネットワーク

 

藤谷さんはぺコレラ学舎の運営だけではなく、2023年5月に道南地域おこし協力隊ネットワークを立ち上げ、その代表も務めています。道南地域おこし協力隊ネットワークは、厚沢部町、木古内町、乙部町、森町といった道南エリアの地域おこし協力隊員をつなぐ組織で、Instagramでの情報発信、集落支援や商品開発等に関する勉強会、振興局と共催での研修などに取り組んでいます。

 

 

「ぺコレラ学舎の活動を通して八雲町が大好きになりましたし、協力隊の任期終了後も町に残りたいと思う一方で、どうやってその後の仕事をつくっていったらいいのかという悩みもありました。近隣で活動する協力隊メンバーも同じような不安を抱えていることを知り、気軽に相談できたり、悩みの共有ができる場があったらいいなと立ち上げたのが、道南地域おこし協力隊ネットワークです。

 

代表になったのはたまたまですが、道南エリアは協力隊の定着率が全国や北海道全体と比べて低いので、今いるメンバーの知識や経験を共有して、行政側の受け入れ体制などがさらに改善されていくと、僕自身にとっても後継の方にとってもプラスになると思っています」

 

ネットワークの活動の1つである「おむすびプロジェクト」。旬の食材を使ったおむすびで地域をPR

協力隊にこそ参加してほしい。自分・地域・事業の3軸で事業を構想する、ローカルベンチャーラボ

 

地域に特化した6ヶ月間の起業家育成・事業構想支援プログラム・ローカルベンチャーラボ(以下LVラボ)の7期生でもある藤谷さん。LVラボは、任期終了後のことを考えて動かなければならない協力隊員にとって、「今」必要なことをじっくり考える機会になったと振り返ります。

 

「フィールドワークや講座がためになったというのはもちろんですが、一番大きかったのは人とのつながりです。ちょうど道南地域おこし協力隊ネットワークを立ち上げて、法人化を目指しているタイミングでしたし、ぺコレラ学舎の方でも僕が事業計画書や財務関係の書類を作成していたので、経営者に近い考え方が必要でした。

 

これから事業をつくっていくというタイミングでメンターに出会えたのは本当によかったと思いますし、やっていることは違えど、同じ志をもった全国の仲間とつながれたことが心の支えになりました。LVラボでは、普段の活動ではなかなか得られないエネルギーや、視座の高さを感じられると思います。

 

協力隊向けの研修も、起業したい人向けのテーマ別研修など、充実してきてはいるんですが、やはり時間が限られているので、なぜ起業したいのかといった深掘りまでするのは難しい面があります。LVラボくらい深く自己分析できる機会はあまりないのではないでしょうか。

 

LVラボの事業構想セッションでは、自分・地域・事業の3つの軸から構想を具現化して何らかのアクションにつなげていくのですが、協力隊としての自分の出口を考えるときにも、この3つの軸は非常に大事だと感じました。現状の研修だと、1回でここまで伝えきるのは、時間的にもカリキュラム的にもコスト的にも難しいと思います。LVラボではそれができるので、協力隊こそ参加してほしいですね」

 

ラボでは、岡山県西粟倉村へのフィールドワークに参加

 

最後に、協力隊終了後の展望と、LVラボに参加してみたいという方へのメッセージをいただきました。

 

「任期終了後は八雲観光物産協会の事務局業務を担うことになったので、それをベースにしつつ、起業したいと思っています。引き続きぺコレラ学舎の運営に関わりながら、関係人口が行き交うことのできるプロジェクトづくりを継続していきたいです。また、八雲町を知ってもらうきっかけとしての観光事業という位置づけで、情報発信やプログラム作り、受入体制の強化に努めていきたいと考えています。

 

そのためにも拠点を持ちたいので、今厳しい状況にある商店街に、ぺコレラ学舎のようなみんなが集える場所を作りたいです。僕が事業をやることで、少しでもプラスの風を吹き込めたらうれしいですね。

 

それから、どんな体制になるかは協議中ですが、道南地域おこし協力隊ネットワークも法人化したいと思っています。やりたいことだらけですね(笑)。

 

任期終了後にどこでどうなっていきたいのか、自分だけで突き詰めて考えるのは難しいと思います。協力隊の周囲でメンタリングできる人材も不足しているので、出口で悩んでいるという方は、ぜひLVラボで道を切り拓いてほしいと思います」

 

藤谷さんが受講されていた「ローカルベンチャーラボ」では、例年3~4月に受講生を募集していますので、気になった方は公式サイトをご覧ください。

 

▽ローカルベンチャーラボ公式サイト▽

https://localventures.jp/localventurelab

 

▽X(旧Twitter)▽

https://twitter.com/LvSummit2020

 

▽Facebook▽

https://www.facebook.com/localventurelab

 

この記事を書いたユーザー
茨木いずみ

茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。

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