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「新卒でリコーへ入社、国際NGOを経て、再びリコーで社会課題の解決に取り組む」 株式会社リコー社会環境室CSRグループ 赤堀久美子さん

2015.01.13 

ビジネスセクターとソーシャルセクター双方の経験を活かし、社会課題の解決と企業の成長の両立を目指して仕事をされている株式会社リコーの赤堀久美子さんにお話を伺いました。

赤堀さんは大学卒業後、リコーに就職。デジタルカメラの海外販売の業務に5年間従事されますが、元々関心のあった途上国の発展に関わる仕事を希望してNGOに転職されます。2人のお子さんを出産後、リコーに復職し、現在はCSR部門にて社会課題の解決と企業の成長の両立を目指すプロジェクトの企画・実施の仕事をされています。

学生時代に途上国の発展に関心を持ったことが原点

小川:現在赤堀さんはリコーさんのCSR部門で仕事をされているわけですが、まずは、そこに至るまでのキャリアについてお伺いしたいと思います。

 

赤堀:大学時代から途上国の発展に関心があり、いつかその分野で仕事をしたいと思っていましたが、まずは企業での経験をと考え、リコーに就職しました。

約5年間、デジタルカメラの海外販売に携わった後、途上国に関わるならまず草の根で支援をする現場からとNGOに転職し、イラクやアフガニスタンの復興支援に関わる仕事を5年半行いました。 その間、NGOの課題を感じ、結婚、出産、子育てをする中で、現場になかなか行くことが出来なかったこともあり、企業の立場から、NGOの基盤強化や途上国に関われることもあるのではと思い、CSR部門を目指して転職活動をし、再度リコーに入りました。

 

小川:特異なキャリアですよね。非常に興味深いです。大学時代に途上国の発展に関心があったということなのですが、そもそものきっかけは何だったのでしょうか?

 

赤堀:高校時代、国際政治に興味を持ったことがきっかけです。時代背景として、中学から高校にかけて、冷戦の終結、ベルリンの壁の崩壊、ソ連崩壊、ユーゴスラビア紛争、湾岸戦争などが起こりました。 政治経済に詳しい先生がいたこともあり、世界史や政治経済を勉強する過程で国際政治に関心を持つようになったのだと思います。

大学では、国際政治を専攻し、色々な国を旅行する中で、南北問題や途上国の開発に関心を持つようになりました。

 

小川:なるほど。そういった時代背景があったわけですね。政治経済に詳しい先生に出会われたことも大きかったのではと推測します。将来的に途上国の発展の分野で働きたいと思いつつ、まずは企業での経験をということでリコーさんに就職されたわけですが、では、リコーさんを選択された理由をお聞かせください。

 

赤堀:理由は2つあります1つは海外に支店や工場を多く持つメーカーで働きたいと思ったことです。メーカーには、関心のあった途上国の経済に直接投資をする役割もあると思い、グローバル企業でありメーカーであるリコーを選択しました。

もう1つの理由としては、リコーは採用に携わる人たちの印象が良かったことです。説明会や面接の雰囲気も良かったし、いくつかのメーカーを受け、面接官に女性が出てきたのはリコーだけでした。

 

小川:良く理解出来ました。ありがとうございます。ではリコーさんに入ってからNGOに転職するまでの間、どういった仕事をされていたのですか?

 

赤堀:約5年、デジタルカメラの海外販売部門で、物流や販売促進、商品立ち上げなどに携わりました。

デジタルカメラの海外部門は、小さな組織で、新人時代から色々と仕事を任せて貰えたのが非常に良い経験になりました。研修時には秋葉原や名古屋、福岡などの電気屋さんの店頭で、販売員もしましたし、台湾の工場から海外拠点への出荷手配を任され、生産から物流、在庫管理の流れを学ぶこともできました。

2年目以降は、海外向けの商品の発売準備やカタログ・WEBサイトの製作などに関わり、ドイツで行なわれるカメラショーのブースをお手伝いしたり、アメリカの業務向けのカメラの販売立ち上げに携わったりもしました。設計、開発、企画、販売に携わる方々と一緒に、商品を送り出す仕事をするのが、非常に楽しかったです。

色々な海外拠点の方とカタログなどの販促物を作る仕事をする中で、本部としての意図を伝えつつ、各国の現場の要望を聞きつつ、最終的にカタログを作り上げることが出来たのは、非常に良い経験となりました。自分とは異なった価値観やバックグランドを持つ人たちと一緒に仕事を進める経験をしたことは、結果としてNGOの仕事にも活かされることになったと思います。

NGOの海外活動拠点へ

小川:5年間リコーさんで働かれてNGOのJEN(特定非営利活動法人ジェン)さんに転職されたわけですが、何が契機となったのでしょうか?

 

赤堀:もともと、数年でやめて途上国に関わる仕事をと思って入社したので、次は何をしようかというのは、常に考えていました。大学院への進学とか、資格を取ることも検討しましたが、最終的にはNGOで働くことに関心を持つようになりました。 興味のあった紛争後の復興支援や難民支援を行なうNGOの報告会や国際協力フェスティバル(現グローバルフェスタ)に参加して働く方のお話を聞いたり、NGO関連の本を読んだりして、まずは「インターン」をやってみようということで、JENに応募しました。

 

小川:そういった経緯があったのですね。赤堀さんは明確な目標をお持ちで、次は何をしようか、次は何がベストかを常に考えつつ、具体的な行動に移しながら徐々にご自分のやりたいことを絞ってらっしゃる、そんな印象を持ちました。

では、次にNGOでのお仕事について詳しく教えてください。大学生や20代の方でNGOの仕事に興味を持つ方が増えていると聞いていますので、参考になると思います。

 

赤堀:当時のJENのインターンは、広報、資金調達からプログラム支援まで何でもありの業務でしたので、数ヶ月で様々な経験をさせて貰って、非常に勉強になりました。

インターンを始めたのがちょうど2003年のイラク戦争始まった時だったので、イラク支援の立ち上げに携わり、そのまま現地の事務所立ち上げのため、準職員の扱いで駐在に行くことになりました。

現地では、ユニセフの資金を得て、学校修復の事業に携わりました。新しい事務所、事業の立ち上げのために、事務所探し、職員探し、事業地の調査、国連機関・政府、他NGOとの調整、修復のための業者選定などを行いました。 爆弾や銃の跡だらけだった学校の校舎が修復され、先生や子どもたちが、笑顔で学校に通えるようになったことが、何より嬉しいことでした。治安が悪化したので、4ヶ月の滞在で帰国しました。

戻ってからは、正職員として、東京の本部で、イラクやアフガニスタン、度々起きた自然災害の緊急支援の事業担当の仕事をしていました。主には、現地プロジェクトの進捗管理や資金確保のための申請書・報告書作成などです。

 

小川:文字通り何でもありの業務内容ですね。イラクに駐在してNGOの仕事をされたことは、現在の赤堀さんにどういった影響を与えていますか?

 

赤堀:色々な価値観に大きな影響を与えています。イラクのバグダッドに駐在を始めてから、どんどん治安が悪くなって、自由に外にも出られなくなり、その中でリスクを考えながら仕事をした経験や、国連ビルの爆破や日本の大使館員の方がなくなる事件が身近に起きたこと、帰国直後に自衛隊が派遣されたことにより、あらためて平和の重要性や日本の立ち位置・国際貢献について考えました。

イスラム社会での生活は、違った視点で物事を考えるきっかけにもなり、仕事だけでなく、情報の捉え方、政治に対する考え方を含め、大きな影響を受けたと思っています。

 

小川:NGOで働いてみての感想は如何でしょう?大企業で働くこととの違いとかはありましたか?

 

赤堀:そうですね、NGOの仕事は働くことの意義がわかりやすかったです。結果が目に見えてわかりやすいのでやりがいもあり、モチベーションが高い人が集まっていたので、仕事の環境としては非常に恵まれていたと思います。

「誰かの役に立つ」という仕事の原動力、やりがい、同じことを目指す仲間といったものが自分にとって大事なのだと、あらためて認識することが出来たと思います。

 

小川:なるほど、NGOで働くことで仕事の原点をあらためて認識されたということですね。では、逆にリコーさんでのどのようなスキルや経験がNGOでの仕事に活かされたとお考えですか?

 

赤堀:リコーで仕事をしていた経験は、全て役に立ったと思っています。一般的なビジネススキル、物流・海外拠点とのやりとり、広報・宣伝の経験、新しいことへチャレンジするマインドなど、そのまま、NGOの仕事でも使えるものだったと思います。

NGO業界は、大学院で開発関係の専門の勉強をした方々が多いので、私のような学部卒は専門スキルでは、それほど役立てることはないのですが、企業での経験は、フルに活かすことができたと思っています。

将来NGOで仕事をしたいと思っている学生さんにアドバイスをするとしたら、いきなりNGOで働くというよりは、まずは企業でビジネスの経験をしてからNGOを目指す方が即戦力として活躍できるのではないかと思います。 イラクでのJENスタッフとのミーティング

イラクでのJENスタッフとのミーティング

CSR部門での仕事を希望しリコーへ復職

小川:NGOを辞めて、リコーさんに転職しようと思ったのは何故ですか?

 

赤堀:日本の本部で働く間に、2度の出産を経験し、育児をしつつ、現場に行くことが難しい中で、次のキャリアが見えなかったというのが1つの理由で、2人の子どもを育てながら、東京で生活するのに、NGOの給料では厳しいというのがもう1つの理由でした。

次のキャリアを考えた時に、企業を選んだ背景には、基盤の弱い日本のNGOは資金を得ないとプロジェクトが回せないため、自転車操業的な感じが否めないのですが、企業のリソースを活用することで、別のアプローチでインパクトのある社会貢献ができるのではないかと思ったのです。

また、日本では、NGOの認知度がまだまだ低く、途上国に関心を持つ人も少ないので、企業という、この分野に関わらない人がたくさんいるところで、社会貢献の仕事をすることで、少しでも、途上国や広く社会に関心を持つ人が増え、NGOやNPOなどへの認知度が上がれば良いとの想いもありました。

 

小川:切実な理由ですね。リコーさんに転職されて現在はどういったお仕事をされているのでしょう?

 

赤堀:メインの担当は、社会課題の解決と企業の成長の両立を目指すプロジェクトを企画・実施することです。リコーでは「価値創造CSR」と呼んでいます。

たとえば、インドではセーブ・ザ・チルドレンと協働して、学校でデジタルコンテンツとプロジェクターを活用しながら教育の質の改善を支援しつつ、リコーとしての新たな教育サービス事業の創出を目指すプロジェクトを実施しています。

先月、現地でプロジェクトをおこなっている学校を訪問したのですが、子どもたちが目を輝かせながらプロジェクターの画面に見入り、楽しそうに授業に参加している様子を見ることができました。

また、インドの別の州では、農村部の起業家を育成・支援しながら、リコーのビジネスになるアイディアを探索するプロジェクトも5年ほど担当しています。

その他にも、新入社員研修に東北での社会貢献実習を組み込んだり、途上国に人材を派遣する研修プログラムをサポートしたり、最近では人事部門と仕事をする機会も増えています。 セーブ・ザ・チルドレンと実施するインド教育支援の学校で

セーブ・ザ・チルドレンと実施するインド教育支援の学校で

小川:非常に有意義な仕事をされていますね。そういう仕事をしてみたいと思っている人は多いと思います。経済的価値と社会的価値の両立を目指しているわけですね。 現在の仕事に、NGOでの経験がどのように活かされているとお考えですか?

 

赤堀:企業とNGOの連携を考える際、双方に価値があるプロジェクトになるように考える必要があるのですが、CSR部門の仕事は、事業部門とNGOの仲介役・調整役なので、双方の経験、視点を持っていることは、非常に大きいと思っています。

また、NGO時代に培ったネットワーク、NGOへの知見は、新たなプロジェクト企画時やパートナーを探す際の財産となっています。

 

小川:それは大きな財産ですね。では、答えにくい質問かもしれませんが、所属しているリコーさん対する率直な思いを教えて頂けますか?

 

赤堀:「前職はNGO」、「一度リコーを退職している」という話をすると、他社の方から「良い会社ですね」とよく言われるので、良い会社なのだと思います。

また、社会課題の解決を目指す事業の取り組みという視点に関しても、「ぜひやりたい!」と共感してくれる社員が少なからずいて、社内で提案し、実施できる風土があることも、良いところだと思います。

NGOの職員は、モチベーションも高く、前向きに仕事をしている人が多かったので、リコーに戻ったらどうかと心配したこともあったのですが、CSR部門のメンバーはNGO並みのモチベーションで仕事をしているので、非常に仕事にも取り組みやすいです。 取材を受ける赤堀さん

取材を受ける赤堀さん

小川:客観的に見てリコーさんは良い会社だと思います。一度退職した方を受け入れる懐の広さを感じますし、事業として社会課題の解決に本気で取り組んでいこうという意志も感じます。

では、最後に今後取り組んでいきたいこと、目指していることなどを教えてください。

 

赤堀:仕事としては、事業部門との連携を更に強化し、事業部のメリットが社内でも認められるような事例を、もっと生み出していきたいと思っています。

それと同時に、NGOとの連携には、色々な価値があるということを、社内外の多くの方に理解してもらえるように、実践&発信もしていきたいです。

個人的には、ソーシャルセクターとビジネスセクターの人材が、行き来するのが当たり前の社会になると良いなと思っており、その方向性もどんどん後押ししていきたいと思っています。

 

小川:素晴らしいですね。わたし個人としても非常に共感するので応援させて頂きます。赤堀さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

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この記事を書いたユーザー
小川 宏

小川 宏

小川宏事務所 代表。1963年山口県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東芝入社。オフィス機器の法人営業部長時代にカンパニー社長表彰。2008年1月より法人営業のスキルを活かし、ルーム・トゥ・リード東京チャプターのファンドレイザーとして活動を開始。2011年8月より共同リーダー。2014年5月よりフリーランスのファンドレイザーとして、NPO向けにファンドレイジングに関する支援を行っている。立教大学社会デザイン研究所 研究員。 ブログ:http://probono-ogawa.com/

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