2024年元日に起きた能登半島地震から9ヵ月が経ちました。ボランティアの受け入れ体制づくりが急務の課題だった初期の大きな壁を超えて、現在、能登での活動は、日本各地から集まるボランティアが現地の人たちと一緒に前へと進めています。
2024年9月能登豪雨後の輪島市での支援の様子
東日本大震災をきっかけに始まったエティックの「右腕プログラム」でも、各地から右腕となる人材が能登に派遣され、リーダーの右腕となって活動をしています。
今回、右腕プログラムを活用して、今年3月から約5ヵ月、能登の支援活動に参画した斉藤雄大(さいとう ゆうだい)さんのインタビューをご紹介します。斉藤さんは、現在、静岡県に拠点を置くNPO法人ESUNE(エスネ)副代表理事として、地域の企業・団体・学校と連携したまちづくり事業を行っています。あわせて、今年8月には、七尾市の株式会社御祓川(みそぎがわ)に入社しました。現在、静岡と能登での各事業推進、また能登の災害支援活動に携わっています。
斉藤さんが右腕として能登の現場で注力したと話す、「能登と静岡をつないで、平時からの災害支援体制づくりを強化する」ための動きについてお聞きしました。
※記事の内容は、2024年8月22日取材時点のものです。
※記事中敬称略。
聞き手 : 瀬沼希望、たかなしまき(NPO法人ETIC.)
能登の現場経験を、静岡の将来に活かしたい
――斉藤さんが右腕プログラムで能登の活動に参画した理由を教えてください。
斉藤 : 一番は、能登の活動で経験したことを、地元・静岡県の今後に活かしたいと思ったからです。僕が生まれたときから暮らしている静岡県は、将来的に大地震が起きる可能性が高いと以前からいわれてきました。
将来への危機感を持っていたとき、ESUNEで行っているふるさと兼業の取り組みで、昨年10月、能登を視察することになったんです。ESUNEのある静岡県の伊豆半島と能登の地形が少し似ていることもあって、静岡で万が一災害が起こった場合、ESUNEが中間支援組織としての機能をどうすれば迅速に働かせられるのか、能登で身体を動かしながら経験したいと思うようになりました。
10月の視察から約2ヵ月後に能登で震災が起こり、視察で行った場所が被災したと知って、心に引っかかるものを感じるようになりました。振り返ると、それが今につながる能登での行動力が生まれた大きなきっかけだと思います。その後は、静岡から今すぐには行けなくても、遠方からでも何かできることはないかと情報収集していました。
そんなとき、ESUNEを通して災害支援基金プロジェクト(SSF)が関わる能登の情報共有会議に参加させてもらい、そこで右腕プログラムのことを紹介してもらったんです。
すぐESUNEの代表理事に「右腕として能登に行きたい」と相談しました。代表理事は、静岡のコミュニティ財団の理事を担っていることもあって、「今後、静岡で災害支援の体制をつくるうえでも、能登での経験はプラスになるはず」と言ってくれ、応募しました。
派遣先は、輪島市の三井(みい)地区にあるのと復耕ラボに決まったのですが、実際、能登に入ったときは、たくさんの建物が倒壊している様子を見て衝撃を受けましたね。
環境を知る情報収集から始めて、2ヵ月でボランティア150名の受け入れ体制を整備
――輪島市では、いつ頃から、どんな活動をしていましたか?
斉藤 : 3月中旬頃にまず輪島市の三井地区に入り、その後、のと復耕ラボの右腕として、7月末頃まで能登と静岡を行ったり来たりしながら活動していました。
活動内容は時期によって異なるのですが、3月は環境を知るリサーチを10日間くらい行いました。あの頃は、炊き出しや物資支援など第一段階の支援は落ち着いていたものの、まだ水道が止まっているような状況で、日常生活を送ろうとするだけでも大変でした。生活環境として圧倒的に不十分さが目立つ中で、人が最低限の生活をするために必要な設備や資源は何なのかを調べていきました。例えば、「空港の近くにオンラインミーティングができる場所がある」「コインランドリーがこの場所にあるらしい」といった情報を集めていきました。3月は、結局、そういった情報収集くらいしかできないまま静岡に帰りましたね。
能登での現状や活動について情報共有する斉藤さん(中央右)
斉藤 : でも、4月は右腕メンバーの仲間が増えていたことで、活動が大きく進みました。地域外メンバーやボランティアの方と一緒に、ボランティア拠点の運営、ボランティア活動のニーズ調査、地域に必要な支援とボランティアとをつなぐマッチングの仕組みづくりと体制強化を行っていきました。現地の団体と連携しながらメンバー全員でとにかく頭を働かせながら手を動かすことで、4月を終える頃にはボランティアの受け入れ体制もほぼ整って、5月の連休にはボランティア150人が活動する拠点として稼働させることができました。
――ボランティアの受け入れ体制をつくるうえで、どんなことを重視しましたか?
斉藤 : 拠点づくりの注力ポイントは場所や環境によって異なりますが、のと復耕ラボは、輪島市での地域のニーズとボランティアとのマッチング拠点としても機能していたことが特徴的だったと思います。
地域のニーズに合うマッチングを形にするためには、まずボランティアの方がどんな方なのかを知る必要があります。「どこから来たのか?」から始まって、一緒に囲炉裏を囲みながらご飯を食べ、お互いについて話す、コミュニケーションの時間を意識してつくっていました。その後、一人ひとりのことがある程度わかってから、それぞれ現地の活動に入ってもらっていました。
農家の作業をサポートするボランティアたち。斉藤さんがマッチングを担当した。「いい人にきてもらえた、と農家さんに喜んでもらえたのがうれしかったですね」(斉藤さん)
――なぜ、地域のニーズと支援をマッチングするためにボランティアの人となりを知ることが必要なのですか?
斉藤 : 危ない作業が多いからです。安全面を考慮しながら対応できると思えた方に、がれき撤去などをお願いしていました。それに、のと復耕ラボでは、子どもの居場所での見守り活動も行っていたので、活動の適性を見るためにもコミュニケーションを大切にしていました。
能登にも静岡にもプラスになる活動を
――能登での活動を静岡の災害支援体制づくりに活かすために、最もどんなことに力を入れましたか?
斉藤 : 能登にも静岡にもプラスになる動きができればと思っていました。だから、静岡に戻ったときの時間の使い方にも力を入れました。自分のような能登と静岡を行き来する動き方は珍しいので、自分が中心になって、能登での活動に関心のある方を集めて活動報告会を開いたり、報告会以外でも自分から話をしたり、ボランティア制度がある企業を探して能登での制度活用を提案したり、静岡で災害支援への意識が高まるような働きかけをしました。
静岡に戻った際、斉藤さんは積極的に能登での活動報告会を開いた
――斉藤さんのそういった働きかけもあって、のと復耕ラボは、静岡からボランティアがよく集まる拠点になったそうですね。
斉藤 : そうですね。現在、高速道路の無料化支援もあってボランティアも能登に入りやすいタイミングだと思います。また、僕自身、能登に知り合いが多いわけではないので、静岡から誰か一人でも能登に来てくれたらうれしいです。
斉藤さんは、右腕として活動期間中、自身の経験をもとに能登と静岡をつなぐことの可能性についても丁寧に情報提供していた
――のと復耕ラボでは、ボランティアとして活動に参画した人たちは、活動期間が終わってもみなさん関わり続けているとか。「また来ました」と戻ってくる人も多いそうですね。
斉藤 : のと復耕ラボでは、代表の山本さんを中心に、暮らしを楽しむことを大切にしているんです。みんなで一緒に食事を楽しんだり、宿泊拠点の屋外には企業から寄付されたテントサウナが常備されていたり、月1回くらいはみんなでバーベキューをしたり、地域の人たちと交流したり。ボランティアの方たちが活動以外で能登の時間を楽しめる場をつくっています。「被災地だから楽しいことはしない」ではなく、暮らしを楽しむ時間は、現地での活動を長く続けるためには大切だと思っています。
七尾市のまちづくり企業に転職。平時から災害支援体制を強化したい
――8月には七尾市の株式会社御祓川に就職されました。どんな経緯があったのですか?
斉藤 : 御祓川とは、もともとESUNEと事業を通して関わりがあって、御祓川のまちづくり事業も知っていました。御祓川では、震災の前から地域金融機関と連携して始まった経営者同士の学び合いのコミュニティ運営や人や組織を支援する事業を行っていて、普段から地域の事業者同士の助け合いのような連携をつくっていることに興味を持っていたんです。
あとは単純に、右腕として5ヵ月の間、能登で活動していましたが、復興といえる活動に多くは携われていないと、やり残したような気持ちを抱えていました。「まだあと2、3年は能登にいて活動したい」と思ったんです。そんな自分の思いと御祓川で必要とされる役割がつながり、仕事として自分の経験やスキルを活かすことになりました。
――現在は、どこを拠点にどんな仕事をされていますか?
斉藤 : 七尾市と輪島市を拠点に、両方を行き来しながら、地域の事業者同士の支え合いの仕組みづくりと、大学生の滞在型インターンシップのコーディネート業務などを行っています。また、兼業的に、のと復耕ラボで持続可能な仕事づくりや古材レスキューの仕事、森林を活かした事業づくりなどに携わっています。
能登で活動をする大学生たち
――能登で経験したことを静岡での災害支援体制づくりに活かすために、今後、何か予定されていますか?
斉藤 : 今回、七尾市にある御祓川に転職しましたが、ESUNEの仕事も、副代表理事として引き続きリモートで行っています。静岡にも月1回くらい帰りながら、静岡が、いつか来る災害に対応できる地域にするための取り組みをしたいと思っています。
まずは、平時から災害支援体制を強くしていきたいです。なぜなら、能登の現場を経験する中で、平時からいろいろな立場の人がつながっていることの重要性を強く感じたんです。
のと復耕ラボ代表の山本亮さんは、もともと地域おこし協力隊として能登に入り、輪島市に移住された方です。山本さんは移住して以来、奥能登の多様なプレイヤーたちと丁寧につながりながら、事業を推進されてきました。右腕として山本さんと一緒に過ごす中で、そう実感する場面が何度もあったのです。
能登の未来につながる活動に関して会議をしている様子。中央下が山本亮さん
斉藤 : 「中心的な人たちとのつながりがより良く発展できる活動が広げられた」と、僕から見ても思うことができました。そのためには、やはり普段からいろいろな人とつながる、そんなハブのような機能を地域の中に複数もつことが、災害時に多様な力が発揮される強靭な土台をつくるはずと思えたのです。
だから、僕自身も静岡に帰ったときには、いろいろな人が集まる場をつくるなど、ネットワークづくりは続けていきたいです。
地域密着の職種が連携し、支え合える体制づくりを
――静岡でも人がつながりあえる場をつくること以外に、何か構想はありますか?
斉藤 : 今後、地域のニーズと、地域を応援したい人たちの支援を調整するコーディネーター的な役割がより必要とされると考えています。そこで、チャレコミの災害支援基金プロジェクト(SSF)を活用するなどして、地域に根差した職種の方たち、例えば信用金庫や新聞社、行政などが平時から連携できる仕組みをつくり、万が一災害が起きたときに助っ人としてすぐ現場に入れるようにできないか考えています。
なぜなら、もし災害が起きたとき、地域密着で仕事をしている職種の方たちは、普段から地域とつながっているからこそ、地域を守る役割も期待されがちです。実際、地域を守る資源がほかの職種以上に備わっている可能性があります。だから、地域密着の職種の方たちが平時から交流し、お互いが支え合い、助け合える体制ができれば、災害後のより安心できる環境づくりが可能になるのではないかと思っています。
――最後に、能登の活動に関わりたい人、右腕の活動に関心がある人へ何かメッセージをお願いします。
斉藤 : 「能登の役に立ちたい」という気持ちが募る方もいるかもしれませんが、焦らなくてもいいのかなと思っています。能登への関心は持ち続けつつ、自分の力が発揮できる形で関われるタイミングがきたら、そのとき現地に来たり、活動に携わったりすればいいのではないでしょうか。
能登で活動するボランティアたち。斉藤さん(中央右端)にとって、毎晩のように囲炉裏を囲んだ大切な仲間だ
斉藤 : 活動に対しても構えすぎる必要はありませんが、能登に来たことだけで満足するのではなく、その後も無理なく関わり続けられるといいですね。いつか、能登での経験が何かに活かせる、そんな関わり方ができると、現地の人たちも喜んでくれる気がします。
実際、能登に足を運んで来てくれて、「能登ってすごくいいところだな」と、自分の地域に帰ってくれる人が増えることが能登にとっても前向きな未来につながると思っています。
僕自身は、これからも能登と静岡をつなぎながら、それぞれ災害に強いまちになるための取り組みに関わりたいです。
斉藤さんが働いている七尾市・株式会社御祓川では新しい仲間を募集中です。ご関心ある方はのぞいてみてください。
株式会社御祓川⠀復興の“その先”を地域リーダーと描き、まちづくりを支えるコーディネーターを募集
チャレコミ防災チームでは災害時に中間支援組織同士が支え合う「災害支援会員制度」を実施しています。詳細は以下のURLをご覧ください。
https://saigaishienfund.etic.or.jp/coordinator
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エティックでは今後、中長期にわたる支援を続けていくための寄付を受け付けています。
SSF災害支援基金プロジェクト 能登半島地震緊急支援寄付
https://saigaishienfund.etic.or.jp/donate-noto
Yahoo!JAPANネット募金 令和6年1月能登半島地震地域コーディネーター支援募金(エティック)
https://donation.yahoo.co.jp/detail/5545002/
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