発達障害に特化した就労支援を5年前から行い、業界のパイオニアとして急成長を遂げている株式会社Kaien(以下Kaien)。今回は、その成長を支える人材育成と、健全な組織作りについて、同代表取締役の鈴木慶太さんにお話を伺いました。
写真:元NHKのアナウンサーで、MBA留学、そして起業と異色のキャリアを築かれてきた鈴木さん。語られる言葉は誠実で潔く、人材育成や組織作りに対する真摯な思いが伝わってきました。
「答えがない」問題に向き合える、軸がブレない人材が欲しい
田村:まず、どうしてDRIVEを利用しようと思われたのですか?
鈴木:当社は、自社のホームページや福祉系の求人情報などでも人材を募集していますが、 DRIVEを経由すれば、他チャネルとは異なる層の人材が当社に関心を持ってくれるのでは、と考えて掲載をお願いしました。
田村:求人にあたって、何か特徴的な選考基準は設けていらっしゃるのでしょうか?
鈴木:特別なことはありません。もちろん発達障害に対する関心は必要ですが、入社の段階で福祉や医療の専門家である必要はありません。それよりも、ある職場で自分たちが就労支援をする発達障害の方が働いた場合、どのような化学反応が起こり得るかを想像できることが重要だと考えています。
田村:化学反応とはどういうことですか?
鈴木:例えば製造業の職場であれば、そこで何を製造していて、社員にはどのようなスキルや適性を求められるのか、といった前提を把握した上で、自分たちが支援する方がそこで働く場合に、どのような状況が起こり得て、何に気を付ければ解決できるのか、を想像し助言してあげられることが大切だと思っています。
田村:社会に対しての広い理解が必要なのですね。
鈴木:そうです。また、Kaienは株式会社ですので、経営的な感覚も必要です。資本主義と福祉、両方への関心と理解が求められます。
田村:他にはどのような点を見ていらっしゃいますか?
鈴木:ベンチャー企業であるが故、当社の直面する問題は「答がない」ものであることが多々あります。従って、これまで経験したことがない未知のものへの対応や、粘り強く取り組み決して諦めない泥臭さといった気質があるかは見ています。後は、軸がブレないこと。
田村:それはどういう点で分かるのですか?
鈴木:一つの視点は、これまでの生き方です。僕自身、NHKアナウンサー、MBA留学、起業、と多様なキャリアを歩んできました。しかし、これは自分の考え方の軸が二転三転したのではなく、それぞれの転機において、自分なりの軸に基づいて決断してきたものであり、僕の中では一貫性を持って語ることができます。逆に、自分自身の軸がなく、自ら考え決断できない人にとっては、うちは難しい職場かもしれませんね。
多様な人材をまとめる秘訣は、2泊3日の合宿
田村:どのようなキャリアの方が転職してくるのですか?
鈴木:医療関係、福祉関係の方が多いですが、その他にも行政、教育、ITなど様々です。年齢も20歳から70歳までと幅広い方が働いています。組織を強くするには多様であればあるほど良いと、僕は思っています。
田村:多様な人材をチームとしてまとめる為に、どのような取り組みをされていますか?
鈴木:年に2回の合宿と、月に1度昼間に全体ミーティングを実施しています。
田村:なぜ合宿を行うようになったのですか?
鈴木:今でこそ言えますが、設立当初は多様な人材が一向にまとまらず、空中分解しかけた時期がありました。その時に、スタッフの一人から「貴方がこのチームをまとめるには、合宿でもやらないと無理だ。」と厳しい言葉を貰ったことがきっかけです。それから年に2回、2泊3日の日程で、個々人が持つカウンセリングや就業支援の経験をチーム内で共有し、より改善していく為のフラットな意見交換の場を設けたり、「自分が社長になったらどうするか」といった大局観をもって日々の業務を見つめなおしてみたりしています。
田村:合宿は全員参加ですか?
鈴木:スタッフの中には親の介護や、子育てで家を長く空けられない方もいるので、全員参加ではありません。ただし、合宿に不参加だった方も、月に1度昼間に行われる全体ミーティングで出来る限り意見交換をするよう努めています。それ以外は、週日に懇親会等を開催することもありません。
田村:他のソーシャルベンチャーの中には、懇親会等でチームの結束を強め、モチベーションを高めようとするところもありますが。 鈴木:当社は違いますね。でも、僕はプロフェッショナルとしてある程度距離感があった方が良いのではないかとも思っています。
仕事のモチベーションは仕事
田村:では、スタッフの方は、どのようにして仕事のモチベーションを保っているのでしょか?
鈴木:仕事そのものから得ていると思います。他社と異なる創造的な取組みで成果を上げているという自負。社会を変革しているというやりがい。利用者の方々からのフィードバック。それらが全てモチベーションに繋がっています。
田村:スタッフの方自身も成長意欲が旺盛なのですね。
鈴木:就労支援を行う仕事ということもあり、まず自分たちが職業人として一流であるべきだと考えています。従って小さなミスであっても互いに注意し合い、成長に繋げる機会とするよう心掛けています。
田村:チーム全員が信頼しあっている環境だからこそ出来るのですね。
鈴木:今のスタッフには出来るだけ長く働いて貰いたいのですが、もし別のキャリアアップの機会があれば是非応援したいと思っています。その時に「Kaienの卒業生は、軸とプロ意識、粘り強さを備えていて、どんな業務でも任せられる」と言われるような人材を育成・輩出することができたらと思っています。
「残業は10時間」長期的な発展は、健全な働き方から
田村:スタッフの方の成長をどのように把握・評価されていますか?
鈴木:全てのスタッフに対し、半年に一度の面談を実施しています。それ以外では(前述の通り)普段から小さなことでもフィードバックし合うようにしています。
田村:具体的にはどのようにフィードバックされるのですか?
鈴木:例えば、メールの送受信も個人間のやりとりだけで完結させずに、チーム員で共有することでフィードバックの機会を創出しています。ただし、「ミス」という結果だけを見て否定するのではなく、「ミス」するに至ったプロセスと次にどのように活かすかという点を重要視しています。「ミス」をした人の軸はブレていなかったか?時間当たりで見て妥当なパフォーマンスを発揮できていたのか?をチェックすることで、その人が「健全に」働けているかが分かります。
田村:健全かどうかを見ていらっしゃるのは面白いですね。
鈴木:当社は「心身ともに健康である」ということを大切にしており、そのために業務では、限られた時間の中で最高のパフォーマンスを発揮し、私生活では、心と体の休息を取る。このバランスを保つように心掛けています。
田村:残業をされる方はいますか?
鈴木:なるべくしないように、かなり口うるさく言っています。多くても月に10時間程度です。
田村:ソーシャルベンチャーやNPOの分野では「好きなことの為であれば長時間労働もやむなし」という雰囲気もありますが、すごくいいことだと思います。人を支援する人間が、不健康・不安定であるのはよくないですからね。
鈴木:短いサイクルで人を使い回し、その場をしのぐだけなら良いかもしれませんが、組織の長期的な発展を目指すのであれば、スタッフの健全な成長はとても重要なことだと思っています。
ストーリーを伝える努力をしないのは、甘えである
田村:採用活動中の他のソーシャルベンチャーやNPOに向けて、アドバイスをお願いします。
鈴木:採用活動で僕が気を付けているのは、?Why(なぜ)?How(どのように)?What(何を)をストーリーとして伝えることです。例えば自動車メーカーであれば、?何を→車を作る、ことは知られているけれど、?なぜ?どのように生産されているのかは余り知られていない。
一方、ソーシャルベンチャーやNPOでは、?なぜ→社会の為、という部分にフォーカスが当たりがちだけれど、?どのように?何をしているのか、の部分を伝えきれていないところが多いと思います。
田村:ソーシャルベンチャーやNPOは、なぜ、に対して強い想いがある人の集まりですからね。
鈴木:そうです。しかしそこに留まって、どのように何をするのかを具体的に伝える努力をしないのは、甘えだと思うのです。仮説でも構わないので、ストーリーをきちんと伝えないと人は集まってくれません。
田村:DRIVE でもKaienさんの求人記事は、具体的な募集要件を書いて頂きました。
鈴木:業務内容も給与も具体的に伝えるように心掛けています。以前何かで読んで共感したのは、「経営者は、社会貢献に関心のある若者を低賃金で活用できることに甘えてはいけない」ということです。 経営が苦しい場合であっても、共に働く仲間に対しては、どれくらい苦しいのか状況を伝えて、その中で出来る限りの給与を支払うべきだと思います。したがって、「応相談」という要件は、こちらの軸を示しておらず、誠実とは言い難いと思います。
田村:一流の人材に来てもらう為には、給与面での誠実さも必要であると。
鈴木:そうです。最後に、本当に欲しい人材を採用したい場合、「今、この部分が足りない」というパーツ集め的なアプローチではなく、「将来、こんな可能性を広げたい」というような長期的な視野に立ったアプローチを行うことを、僕自身は心掛けています。
田村:本日は、組織の持続的発展という観点から見たソーシャルベンチャー採用の在り方について、非常に貴重なお話を伺うことができました。ありがとうございました。 現在、株式会社Kaienではメンバーを募集しています!詳しくは以下のボタンから。
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聞き手/田村真菜
1988年生まれ、国際基督教大学卒。12歳まで義務教育を受けずに育ち、芸能活動や野宿での日本一周を通して、社会をサバイブする術を子ども時代に習得。大学在学時は、ポータルサイトのニュース編集者を務める傍ら、日本ジャーナリスト教育センターの立ち上げに従事。311後にNPO法人ETIC.に参画し、震災復興事業の情報発信や事務局などを担当。趣味は、鹿の解体や狩猟と、霊性・シャーマニズムの探究および実践。
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