「リーダー一人ひとりの変化が、社会のインパクトにつながっていく」。
こうした考えに基づき、NPO法人ETIC.(エティック)は、株式会社ウエイクアップ※と協力して、非営利組織やソーシャルベンチャーのリーダー層に、プロボノ(無償)でプロコーチによるエグゼクティブ・コーチングを提供しています。
※ウエイクアップは世界有数のコーチ養成機関であるCTIのプログラムを日本で展開しているCTIジャパンの運営会社です。
この取り組みは2020年から始まり、2022年度には12名のプロコーチが18名のリーダーに3ヶ月間・計6回のコーチングを提供しました。アンケートによると、77.8%の方が「コーチングを受けたことで自分自身にとって大きなインパクトを感じた」と回答しました。
今回は、コーチングを受けた経営者、リーダーたちの体験談を通じて、ソーシャルセクターのリーダーがコーチングを受けることの価値についてまとめます。
コーチングを受けたリーダー、コーチが集まって実施した完了セッションの様子 ※公開OK許可をもらった方のみ
周囲の期待への囚われに気づき、自分自身に立ち返る
ある子ども支援NPOの代表であるAさんは、他者の期待に沿って行動していた自分に気付き、本当に自分自身が望むことは何かを考えることができたと語ってくれました。
Aさん「社会的な事業をしている人は、世の中からいろんな期待をされたり、やったことが褒められたり、こういう行動をするべきだと思われる機会が多いと思います。私も、長年活動を続けてきた結果、『期待に応えなければ』『こう在らなければ』ということに力点を置いてしまっていることに気が付きました。コーチングを経て、改めて『自分』が大切にしていることを起点とするようになりました」
それを聞いて、別のNPOの代表のBさんも、同じような思いを共有してくれました。
Bさん「代表として、メンバーを始め、周りの期待にがんじがらめになっていたことに気付きました。コーチングを通して、『わたし自身がどんな思いをもってこの団体を立ち上げたのか』『どういう風に進もうとしているのか』に立ち戻ることができました」
活動を進めるうちに、期待されていることや、やったほうがいいことが積み重なり、いつの間にか自分を見失い、自分自身も疲弊し組織もギクシャクしてしまう。事業の成長とともにこうした経験をするリーダーは非常に多くいます。
AさんもBさんも、コーチングを通して自分の意識や状態に気付き、本来の目的や願いにつながり、自分はどうしたいのかを選択し直す機会になったことが伝わってきます。
似た経験をした別の団体の代表のCさんの体験談には、非営利組織のリーダーとして持続可能に走り続けるためにも、自分自身に向き合うことが必要だというメッセージが込められています。
Cさん「エネルギーをもって走り続けるためには、薪をくべる作業が必要なことに気づきました。厳しい社会問題に向き合うソーシャルセクターのリーダーの方々は、周りや社会をよく見ています。一方で、自分自身を見つめ直すことは苦手だったり、機会がない方が多いのではないでしょうか。コーチングを通して、自分にエネルギーを注いでいく経験は、私にとって必要な経験でした」
仲間に対する視点や行動の変化
コーチングの時間を使って自分自身の感情や状態に気づくことで、メンバーに対する視点や行動が変化したという話も多くありました。
Aさん「以前は、スタッフの報告に対しても、『これはもっとこうしてね』という指示・命令的なフィードバックで応答していました。一方で、コーチングを通して、現場で起こっていることがだんだん分からなくなっているという自分の恐れと、スタッフが報告してくれていることで見えるものがあることに気付きました。だったら指示・命令的なフィードバックよりも、まず感謝を伝えようとか、その上でスタッフと一緒に対策を作っていこうとか、自分の行動の選択肢が変わっていくという体験がありました」
ある団体の管理職であるDさんは、メンバーの立場から、コーチングの時間の意義を語ってくれました。
Dさん「社会的な活動をする組織には、創業者の掲げた大きなビジョンに惹かれてメンバーが集まります。しかし、実は思っていることや見ているものが少しずつ違うということが起きやすい。その違いを合わせたり、力にしていくことは、結構大変です。コーチの力を借りながら、改めて自分の思いと、みんなの思いにどう向き合うかを立ち止まって考える時間は必要ではないでしょうか」
他の方からも、「自分が組織やメンバーの課題だと思うことについて、自分がどう感じているのか、どう見ているのか、そしてどうしたいのかを考えることで、自分の視点や行動が変わった」という意見がありました。リーダーの視点や選択肢の変化は個人的なものですが、リーダーだからこそ、それが組織全体の変化に繋がっていくエピソードです。
コーチが抱くリーダーへの願い
今回、プロボノコーチングには12名のコーチが参加しました。彼らはそれぞれ、自分のコーチングのスキルを社会活動の一助にしてほしいという願いや、コーチングがもっと社会に活用されることを望む思いを持って参加しています。振り返りの場では、実際にコーチングに関わったコーチ陣からも、思いが語られました。
原口裕美コーチ「コーチの視点から見ると、みなさんは非常に忙しいことがわかりました。多くの人が、やりたいことに向かうエネルギーや時間がないことにフラストレーションを感じているのではないでしょうか。私は、皆さんがやりたいことや実現したいことをやり続け、応援したいと思っています。しかし、やらなければならないことがたくさんある中で、いま何が一番重要で、優先順位が高いのか、何を後回しにするべきなのかを整理することが重要だと感じました。そこに何度もアクセスすることで、思いの実現のサポートができると思います」
伊藤貴子コーチ「リーダーの方々は、自分自身よりもメンバーや団体、そして社会全体に対してどうすれば良いのかという思考に集中しているように感じました。しかし、自分自身に深く意識を向けて『今の私は何に価値を置いているのか』といった本当の願いにアクセスするためには、自分自身に積み重なっている『ねばならない』に気づく必要があるのではないかと思います。1対1のコーチングで個人としての自分にアクセスすることで以前は問題だと思っていたことが問題ではなくなったり、どうすれば良いかをスムーズに思いついたりすることがあります。こうした変化を目の当たりにしました」
ウエイクアップ×エティック事務局メンバー
リーダーの変化が団体や活動に与える影響
ここまではリーダー個人に与える影響を見てきましたが、団体や活動にとってはどうなのでしょうか。
終了後のアンケートで、「今後の活動や団体のインパクトにつながるものだったか?」との質問に対しては、44.4%が「非常につながっている」、38.9%が「つながっている」との回答で、約8割の方が肯定的に捉えています。
例えば、以下のようなコメントが寄せられています。
「新しいフィルタで物事をみると、これまでになかった選択肢(経営判断といった長期的なものから、瞬間瞬間の他者とのコミュニケーション)が見えるようになった。これは、今後の活動や団体の未来を変えるインパクトがあると思いました」
「自分の在り方や人との向き合い方そのものの前提をふりかえり、無意識のうちに身につけていた固定観念や自動思考に気付いて、より生きやすい状態になることで、意思決定がクリアになった。自分の状態が整っていることが、法人の意思決定に大きな影響を与える」
先行きの見通しが立たない困難な状況下で、経営的な意思決定を行う場合、不安や恐れから行動したり、あるべき姿に基づいて選択をすることがあるかもしれません。このような状況に直面した場合、リーダーが自分自身に向き合い、自覚的に内省する時間を取ることは、より良い社会や団体を作り上げるための投資であり、スキルであると言えるでしょう。
非営利組織のリーダー対象「プロコーチによるエグゼクティブ・コーチング3か月間無償提供」は、2023年度も開催予定です。メルマガ「ソーシャルイノベーションセンターNEWS」でお知らせ致しますので、ぜひご登録をお願い致します。 >>ご登録はこちら
※プログラムの特性上、受け入れできる人数に限りがあります。ご了承くださいませ。
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