開幕まで150日をきった東京オリンピック・パラリンピック。
「スポーツには世界と未来を変える力がある。」という大会ビジョンのもと、基本コンセプトの一つに「多様性と調和」が掲げられ、「人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治、障がいの有無など、あらゆる面での違いを肯定し、自然に受け入れ、互いに認め合うことで社会は進歩。東京2020大会を、世界中の人々が多様性と調和の重要性を改めて認識し、共生社会をはぐくむ契機となるような大会とする。」と述べられています。(*)
(*)東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のWEBより抜粋
https://tokyo2020.org/jp/games/vision/
さて今回はそんな中、車いすバスケットボール(以下、車いすバスケ)の活動を通じて障がい者と健常者が共に生きる社会の実現を目指す岡田美優さんにインタビューを実施しました。
大学時代に障がい者スポーツ先進国のドイツに留学し、その最新状況を目の当たりにした岡田さん。現在は、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科でスポーツ経営学を専攻しながら、車いすバスケチームのスタッフとしても活動を続け、研究と現場の両方から障がい者や障がい者スポーツが抱える課題の解決に向けた取り組みを行なっていらっしゃいます。
特別支援学校の教員を務めるご両親の元に生まれ、子どもの頃から障がいのある人々と関わってきた岡田さんに、現在の活動やドイツ留学の様子、そしてご自身の想いや未来への展望などについて語っていただきました。
聞き手:NPO法人ETIC.コーディネーター 保田亮太
岡田美優さんプロフィール
早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士2年(2020年4月からは同大学大学院の博士課程に進学予定)。スポーツ経営学を専攻し、ビジネスの切り口から障がい者スポーツの課題解決に向けた研究を行う。車いすバスケチームのスタッフとして現場でも活動を行い、障がいのある人もない人もスポーツの力で自分らしく居られる世界を目指す。神奈川県出身。12年間ハンドボールを続けておりスポーツが大好き。大学4年間は福島で過ごし、スノボ・温泉巡り・川飛び込みなどで自然と共にのびのび成長してきた。好きな食べ物はカレー・さば・こしあん。
研究と現場の両方から、障がい者スポーツの課題解決を目指して
ーーまずはじめに現在のご活動についてお伺いさせてください。
岡田: 障がい者スポーツの課題解決をしていきたいという想いのもと、研究と現場の両方からアプローチしています。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科でスポーツ経営学を専攻し研究を行ないながら、車いすバスケチームにも所属しスタッフとして活動を続けています。障がい者や障がい者スポーツの課題に直面することが多く、どれも解決していきたいと強くおもっています。
ーーそれぞれの課題には、どのようなものがあるのでしょうか?
岡田: 障がい者の課題として、日本では障がい者に対する固定観念や心理的なバリアがまだまだ存在することを感じています。車いすバスケの選手と会話をする中で、電車内で乗客から舌打ちされてしまった、タクシーの乗車拒否をされてしまったという事実があることを知りました。日本では、施設の入り口のスロープやエレベーターの設備などハード面でのバリアフリー化は進んでいますが、障がい・多様性に対する理解といったソフト面でのバリアフリー化は諸外国と比べてまだまだ進んでいないことを実感しています。
障がい者スポーツの課題としては、たとえば障がい者スポーツ自体の裾野が広がりきっていないこともあり社会全般からの認知がまだ足りていないということがあると感じています。車いすバスケのチームが一般開放されている体育館を借りられなかったというケースもあります。障がい者専用のスポーツ施設も存在するのですが、そこでは社会や地域住民とのつながりが断たれてしまうことも課題に感じています。
ーー研究では具体的に何をされていらっしゃいますか?
岡田: 健常者を対象に、障がい者スポーツの認知拡大を目的とした車いすバスケの体験イベントを実施し、それが参加者にどういう影響を与えているのかを調査しています。さらに経営学や事業評価研究の視点から、イベントが目指している目的を果たせているのか、望ましい効果が出ているのかを明らかにしています。研究のテーマは現場でのヒアリングや、スポーツ庁や文部科学省が出している統計データから着想を得ており、障がい者スポーツのあらゆる課題に対して自分が何に興味を持って、何から解決していくといいのかを常に考えています。
ーー現場では具体的に何をされていらっしゃいますか?
岡田: 車いすバスケチームのスタッフとしての活動や、障がい者スポーツ普及のための個人での活動も続けています。チームでの活動としては練習中のサポート、試合中のゲーム分析、チームのSNSメディア運用などを行なっています。練習後は選手とご飯を食べに行くなど日常も共に過ごしています。個人での活動としては、健常者向けの車いすバスケの体験イベントや、スポーツ×社会課題解決をテーマにしたイベントを主催しています。
ーー研究と現場を両立させる中で気づきは何かありましたか?
岡田: 現場の課題を解決しようとした時に、現場のみの視点で事象を捉えると、本当にその課題は解決すべきものなのか、解決方法は適切なのか、といった判断が冷静に取れないことがありました。ただ、研究だけだと机上の空論になってしまう恐れもあります。両方の立場にいることで、いま取り組むべき課題について仮説をしっかりと立てられることに気づきました。
岡田さんが主催した車いすバスケの体験イベント内で実施した 5対5のミニゲームの様子
岡田さんが主催した車いすバスケの体験イベント参加者との集合写真(後列右端:岡田さん)
岡田さんが主催したスポーツ×社会課題解決がテーマのイベントにご自身も登壇
障がい者スポーツ先進国ドイツで実感した居心地のよさ
ーー障がい者スポーツに関わるきっかけは何でしたか?
岡田: 特別支援学校の教員を目指していた大学3年生の頃、私自身スポーツが好きだったことや教授の勧めもあり、障がい者スポーツ指導員の資格をとったことがきっかけでした。資格取得の研修の一環で、人生で初めて車いすに乗る経験をしました。予想以上にアクティブに動ける車いすを操作するのが面白く魅力的で、車いすスポーツに興味を持ったことをいまでも鮮明に覚えています。
大学4年生になるとき、障がい者スポーツについてもっと勉強したい、課題をなんとか解決したい、自分自身もさらに成長したいとおもうようになりました。そんなときにトビタテ!留学JAPAN(*)を知り、障がい者スポーツ先進国であるドイツに留学できるチャンスを掴みました。そして現地で偶然出会ったのが車いすバスケでした。
(*)意欲と能力ある全ての日本の若者が、海外留学に自ら一歩を踏み出す機運を醸成することを目的として、2013年10月より開始した留学促進キャンペーン(https://tobitate.mext.go.jp/about/)
ーードイツ留学では何をしていたのでしょうか?
岡田: ドイツに滞在していた1年間、ドイツの車いすスポーツ連盟にインターン生として所属していました。地域における障がい者スポーツクラブの活動調査、健常者に向けた障がい者スポーツの普及活動や、障がい者スポーツ指導者を養成するプログラムのサポートなどを行なっていました。ドイツではどの街へ行っても障がい者スポーツのクラブを見つけることができました。障がい者であっても一般市民向けの体育館や学校施設を利用できるところが日本とは大きく違うとおもいました。
インターン活動のほかに自分の趣味として車いすバスケもしました。留学中に住んでいた家の近くにたまたま車いすバスケのクラブがあったので、興味本位で見学したのが参加のきっかけでした。いきなり現れた部外者の私に対し、クラブのメンバーは「せっかく来たんだから、車いすに乗って一緒にバスケしようよ!」とすぐに私を受け入れてくれました。それ以来、毎週クラブに通って車いすバスケをしていました。
ドイツでは健常者も当たり前に障がい者スポーツクラブに参加できる上に、体育館に車いすが用意してある場合が多いので、参加のハードルがかなり低かったです。私が留学中車いすバスケをずっと続けられたのはそんな環境のおかげですね。それに、車いすバスケのことを全然知らない人が来たとしても歓迎する雰囲気がクラブにあって、居心地がよく、ずっとここに居たいとおもえる環境でした。
ーー居心地のよさはどのようにして生まれていると感じましたか?
岡田: ドイツの特徴として、隣接する国が多く、様々な国籍の人や多くの移民が住んでいます。そのため、違いがあるのが当たり前になっていて、もはや男女や国籍、障がいの有無などのあらゆる境界を感じさせない雰囲気がありました。ですので私が訪問した車いすバスケクラブのように、新しい人や違う人がコミュニティに入って来てもすぐに受け入れてくれたのかなとおもっています。変なしきたりやルールなども感じさせず、みんなとフラットにすぐに打ち解けることができ、変化に柔軟な国であるようにも感じました。
ーーフラットであることが居心地よいと感じる岡田さんの感性はどこからくるのでしょうか?
岡田: 私の過去の経験からだとおもいます。指導者の資格をとって障がい者スポーツの現場で活動しようとしたときに、「障がい者スポーツのことを何も知らないのになんで来たんだ」と言わんばかりの雰囲気を感じてしまった経験があり、とてもショックでした。なぜ、ちょっと違う人や新しい人が入ってきたときに排除してしまうのだろうと、この環境に不満を持っていました。
それがドイツにはまったくなく、知らないからこそどんどん入って来てよという雰囲気や、来たい時に気軽に参加していいよという雰囲気があって、とてもいいなと率直におもいました。これからも理想を追い求めて熱意を持って活動を続けていこうとおもえたドイツ留学でした。
余談ですが、ドイツで得た経験とドイツ語のスキルのおかげで、留学から1年後にドイツで行われた車いすバスケの観戦ツアーの通訳・ガイドを務めさせてもらえたり、ドイツ人パラリンピック選手が日本に来日する際の通訳を務めさせてもらえたりと、活動の幅が一気に広がりました!
留学中に障がい者スポーツ教室や指導者養成プログラムに関わらせてくださった岡田さんの恩人お二人(左:岡田さん)
留学から1年後に通訳・ガイドで参加した車いすバスケ世界選手権観戦ツアーinハンブルク(中央:岡田さん)
この人たちと一緒に楽しく過ごせる世界が続きますように
ーー活動を続けてきた中で、いま現在、おもうことは何でしょうか?
岡田: 障がい者スポーツに関わり始めて数年は、障がい者スポーツの活動をずっと続けていくのか、私の一生をかけて関わっていきたいのか、ずっと悩んでいました。最初は「何かしてあげなきゃ」という義務感みたいなのが強かったからだとおもいます。しかし、車いすバスケチームの活動を始めて、選手から多くの事を学び、選手とお互いに支え合いながら共に成長し、様々な経験を経て、いま覚悟が決まりました。車いすバスケそして障がい者スポーツにこれからも関わっていきたいとおもいますし、障がい者スポーツの課題を解決する活動に取り組んでいきたいと強くおもうようになりました。
ーーその原動力は何でしょうか?
岡田: 障がい者スポーツの現場で活動していく中で、嫌な思いをしたり課題にぶつかることが多く、なんとかしたいという想いから来るのかもしれません。あとは、車いすバスケの選手と一緒に生活をする中で社会の課題に気づくことが多く、もっと選手が自分らしく居られる社会にしたいと強く考えるようになりました。
私はいつも車いすバスケの選手にお世話になっていて、進路やチームの悩みなど、なんでも話します。選手はどんな話でも全部聞いてくれて、一緒に頑張ろうと声をかけてくれます。お世話になっているこの人たちと一緒に楽しく過ごせる世界が続いていくといいなと心から願っています。
ーー日々の活動の中で、どんな時が大変だったり、嬉しかったりしますか?
岡田: 研究やデータ上での課題と現場で実際に起きている課題との乖離がある場合や、目の前にあまりにも課題が多すぎる場合などに、取り組む優先順位の付け方が難しく迷ってしまいます。取り組むべきことがあれば全部やりたいという思考になりがちで、選手と近いところにいるからこそ感情移入してしまい、研究者としての活動を続けていく上でバランスを取るのが難しいです。
研究成果を学会で発表する機会をいただいた時や、自分が企画したイベントを実施できた時はとても嬉しいです。イベントを通じて「楽しい」と声をかけてくださる人や笑顔でいてくださる人がいらっしゃる時は、その喜びは一段と大きいですし私自身もとても楽しいです。
ーー岡田さんにとって、楽しいとは何ですか?
岡田: ワクワクする感じです。新しい価値観を持つ人に出会ったり、選手から面白い話を聞けたりする時はとても楽しいです。そのため車いすバスケの大会などに行くとすぐにいろんな選手に話しかけちゃいます(笑)。そのようなコミュニケーションを続けていった結果、海外の代表選手や他のチーム・他のスポーツ種目の選手のみなさんともありがたいことに仲良くなることができ、新たな発見を得ています。
研究と現場との両立という観点で言うと、研究で言われている課題について現場の選手に聞いてみて、現状と一致していると面白いなと感じます。逆に現場から違う課題が出てくると研究の方に一旦持ち帰らなきゃとなりますが、どちらにしても、研究も現場も両方活きてくるのが楽しく、ワクワクします。
岡田さん(後列左)と仲良しの車いすバスケ韓国代表のお二人(前列)と、日韓通訳をしている岡田さんのご友人(後列右)
岡田さんと一番仲の良い選手の誕生日をサプライズで祝った時の様子。岡田さんのことをいつも応援してくださるそうです。
アメリカに留学されていた選手。いつも岡田さんに多くの学びや気づきを与えてくれて、悩みや相談事も親身に聞いてくださるそうです。
ワクワクすることを一緒にやりましょう!
ーー今後はどのようなことにチャレンジしていきたいですか?
岡田: いまワクワクして一番やりたいとおもっていることは、障がい者スポーツを最高にカッコよくして、東京オリンピック・パラリンピックの後も関わりたいとおもってもらえるスポーツにすることです。そのために、今はSNS等メディアを活用した障がい者スポーツの情報発信やイベントの企画を進めています。東京パラリンピックの際には、ドイツのパラリンピック新聞のプロジェクトに参画し、障がい者スポーツや障がい者アスリートの情報発信を行なうSNSを運用する予定です。
そして、3年後には日本初のプロ車いすバスケチームをつくります!そのために、いま取り組んでいる障がい者スポーツの活動を事業化し、東京オリンピック・パラリンピック以降も持続的に収益を上げる仕組みを作る必要があるなとおもっています。車いすバスケというコンテンツの魅力や選手の強みを活かした取り組みで、お金が入る仕組みをつくって、大好きな選手と大好きな車いすバスケの活動をずっと続けていきたいです。
また研究の方も、修士論文の内容についての学会発表も控えています。その後は修士課程で行なった研究をさらに発展させるため、博士課程に進学予定です。車いすバスケの普及活動も継続して、障がい者スポーツの裾野をもっと広げていきたいです。
ーー障がい者スポーツの裾野が広がった先、どんな未来を想像していますか?
岡田: 裾野が広がるというのは、障がい者スポーツを知らない人、これから始めてみたいという人が入って来やすい環境が広がっていくことだと考えています。一般の体育施設やみなさんが知っている会場で障がい者スポーツチームが当たり前に活動をしていて、そのことを地域の人も当たり前に知っていて、体育館に気軽に見に行くことができる。
そして障がい者スポーツを少しでもやってみたいとおもった時に、気軽に見学や体験ができる雰囲気も大切にしていきたいです。みんながフラットにすぐ打ち解けていって、ひとりひとりの居心地もよく、障がい者スポーツチームがどんどん大きくなったり増えたりする。そんな広がりが生まれたらいいなとおもいます。
障がい者スポーツで地域の人々が繋がり合い、障がいのある人もない人も誰でも当たり前に歓迎されていて、誰でも自分らしく居ることができる環境がある。そんな未来を生み出していきたいです。
ーー今後の活動について、いまどんなことを感じていますか?
岡田: 「障がい者スポーツをさらにオモシロいものに、さらにカッコいいものにしたい」「健常者やいろいろな人を障がい者スポーツの世界にどんどん巻き込んでいきたい」と、研究と現場の両方で活動を続けていく中で覚悟が決まりました。
そして私自身、興味の幅が広いため、障がい者スポーツという点では一貫していますが、いまやっている活動は多岐にわたっています。広報もチームの強化も通訳も選手へのインタビューも、どれも楽しく取り組んでいます。そのひとつひとつがちゃんと繋がっていくのだろうか、もしかしたら一貫性がないのではないかと感じてしまう瞬間も正直あるのですが(笑)、それでもそれぞれから得たものが繋がって、自分が一つとして成長していけるのかなと最近おもうようになりました。今後もひとつひとつの活動がいつか繋がると信じて、様々な活動に挑戦していきます。
ーー最後に、読者の方々にメッセージをお願いします。
岡田: いまの活動を続けて、自分らしく生きていきたいです。障がい者スポーツを、さらにオモシロく、さらにカッコよくしていきたいです。障がいのある人もない人もスポーツの力で、自分らしく居られることが当たり前の世界をつくりたいです。もしちょっとでも私の活動に興味を持っていただけたら、ぜひ一緒にワクワクすることをやりましょう!
これから、障がい者スポーツの普及活動を行なっていくにあたって、私にできることは限られていて、私には大した力もありません。もし私の思いに賛同してくださって、ご協力いただける方がいましたら、いつでもお気軽にご連絡いただけると嬉しいです!!!
・Facebook:https://www.facebook.com/miyuuokchan
・Instagram:https://www.instagram.com/0507miyu/
ーーありがとうございました。引き続き、心から応援しています!
<岡田さんに関する参考資料>
※それぞれURLをクリックすると別のサイトに飛びます
第14回:岡田 美優さん(多様性人材コース ・5期生)
https://tobitate-net.com/2019/07/05/post-3018/
【報告】第1回 トビタテ×スポーツイベント実施報告
https://tobitate-net.com/2019/07/24/post-3859/
【報告】トビタテ生∞Beyondミーティング開催しました!!
https://tobitate-net.com/2019/10/31/post-5387/
※本記事の掲載情報は2020年02月現在のものです。
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