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病気の子どもたちに「楽しい」を届ける コロナ禍で見つけた新しい支援

2021.04.01 

画面

 

小児がんや医療的ケアが必要な子どもと若年成年、またその家族が安心して過ごせる場所づくりに取り組んでいるNPO法人チャイルド・ケモ・ハウス。兵庫県で、自宅と病院の中間的な施設「チャイルド・ケモ・ハウス」を運営しています。

 

「チャイルド・ケモ・ハウス」は、このコロナ禍で失われそうになった支援をオンラインと居場所づくりで継続させてきました。今回、「みてね基金」は、これまで圧倒的な行動力で思いを形にしてきた活動のこの新たなチャレンジに期待を込めて、「みてね基金」の第一期助成先団体として採択を決めました。

 

「チャイルド・ケモ・ハウス」の副理事長である田村亜紀子さん、保健師の二階堂さん、臨床心理士の川井さんにお話をうかがいました。

 

※こちらは、「みてね基金」掲載記事からの転載です。NPO法人ETIC.は、みてね基金に運営協力をしています。

患者家族としての疑問から始まった活動

 

「治療で入院している子どもは、どうしてこんなに我慢をしなければならないのだろう。」

 

これは副理事長の田村さん自身が15年前に抱いた疑問です。田村さんは、田村さんのお子さまが小児がんで長期入院していた際、同じ経験をもつ保護者や子どもたちとの交流に励まされながらも、生活の制限を余儀なくされる子どもたちの環境を何とかしたいと思っていました。感染対策が必須の環境で、きょうだいともなかなか会えず、家族そろってのコミュニケーションが取りにくい、自由に大声を出せないなど我慢が必要。その状況を変えたい思いから動いた田村さん。そんな田村さんに共感した患者家族や医師などの力も借りながら、「NPO法人チャイルド・ケモ・ハウス」を設立。7年後の2013年には、治療中の子どもと一緒に家族が滞在できる施設「チャイルド・ケモ・ハウス」が完成しました。

 

「チャイルド・ケモ・ハウス」は、自宅のような雰囲気の中で、医療者がすぐそばにいながら療養できる施設です。主な治療は提携先の病院で受けますが、子どもたちはここで保護者やきょうだいとともに過ごしています。

 

19戸ある個室にはキッチンやきょうだいと思い切り遊べる空間などがあり、毎日の食事は基本的に家族が作ります。また、各個室には屋外から家族が出入りできる扉も。もともとウイルス感染を起こさない環境づくりをしていたため、コロナ禍でも、子どもたちが自由に遊べるプレイルーム以外は大きな制限を設ける必要もなく、子どもたちは家族と日常を送れているそうです。

 

01-内観room17

 

room05畳

 

オンラインしかない。でも難しい。どうすれば?

 

新型コロナウイルス感染症拡大で田村さんたちが緊急支援の必要性を感じたのは、6年前から委託事業の自立支援で関わっている在宅療養中の子どもやその家族がきっかけでした。2020年2月27日に要請が出された一斉休校により、学校内にある支援学級や支援学校が休校に。感染の不安から訪問看護を断られる家族も出てくるなど、支援を受ける機会を失い、自宅に親子だけで閉じこもるような状態になったのです。現場で対応していた二階堂さんや川井さんたちは、子どもと保護者のストレスが日々増していくのを肌で感じたと言います。

 

「一日でも早くなんとかしなければ。とにかくお互いの顔が見える機会を作りたい。」

 

こうして2020年5月、スタートしたのがオンライン支援です。内容は、参加型イベントと相談支援。「感染防止のためにもオンラインが最も有効。でも実際には難しい。どうすればいいのだろう」。この悩みから始まった取り組みでした。誰よりも慎重だったという川井さんは話します。

 

「オンライン支援を始めるといっても、ご家庭によっては難しいところもあります。たとえば、座ってパソコンの画面を見られるお子さんだけではなく、ベッドで寝たままのお子さんもいます。相談の内容、家庭の様子もそれぞれ違うため、直接会って支援する時のようにニーズが細やかに読み取れないかもしれない。その状態で満足してもらえるものが実現できるだろうかと悩みました。」

 

川井様

 

それでも、孤立してしまうかもしれない親子を放っておけない。その思いと、まわりのスタッフからの「やってみよう」の声で一歩を踏み出します。

 

手探りの中で始めたのが、オンライン会議ツール「Zoom」を使って子どもたちとスタッフをつなぐ機会をつくることでした。参加型イベントのプログラム「ChaiTube(チャイチューブ)」の誕生です。企画を進めるにあたり、ボランティアスタッフだった元理科の先生に声をかけた川井さん。その先生が実験教室のワークショップを行っていたことを知り、オンラインで子どもたちに披露してもらうことを発案したのです。こうして、「ChaiTube」から実験教室を子どもたちに届けることになりました。

 

「対面の支援では、子どもたちに丁寧に寄り添うことを大切にしていますが、オンラインではまず見やすくてわかりやすいことが向いているのでは? と思ったんです。それに『ChaiTube』ではとにかく楽しんでほしい、お子さんとご家族にリラックスしてもらえたらと思いました。その元理科の先生ならそんな時間をつくってくれるはずと始めてみたら、すぐ人気コンテンツに。ベッドに横になったままのお子さんも、楽しめることが発見できました。実験教室は週1回開催していますが、うれしいことにその子はこれまでほぼ100%参加してくれています。」

 

実験教室

 

スタッフの楽しそうな姿がうれしい

 

「ChaiTube」ではこんなエピソードも生まれました。恒例の借り物競争をしていた時のこと。「伸びるものを持ってきてね」という進行役のスタッフのリクエストに合わせて、子どもたちは家の中にある伸びるものを探します。それをみんなで見せ合うところで、田村さんが突然、首を伸ばしながら「くびーっ」と一言。大盛り上がりする中で、特に一人の子がげらげらと大笑い。その子のお母さんは言ったそうです。「こんなに笑うのを見たのは初めてです。」

 

「親御さんから『スタッフさんが楽しそうにしているのがうれしい』という言葉をいただけるんです。普段の支援では聞けない言葉だなあとしみじみ思います。」

 

現在は、実験教室のほか、日本クリニクラウン協会のクラウンのみなさんと一緒に遊びと笑いを届ける時間、また大人も楽しめるフラダンスやヨガを各週1回のペースで開催。内容は各講師と毎週調整しながら、子どもたちと家族の状態にあわせて配信しています。さらに合同の誕生日会もオンラインで毎月行います。

 

誕生会

 

安心できる人や場所を自分で見つけられるように

 

コロナ禍では、オンライン支援とあわせて、自立支援の対象者の方が通えるオフラインの居場所づくりも始めました。目指したのは、そこに訪れた子どもと家族が安心して過ごせて、どんな小さなことも相談できる場所であること。

 

2度目の緊急事態宣言が発令されてからは運営を休止しましたが、ここに来るのを楽しみにしてくれる子がいるんです。自宅から居場所まで足を運び、私たちスタッフとたわいもない話をする。そんな時間がとても大事だと思っています。」

 

オンライン支援、居場所づくりあわせて、子どもも大人も、一人ひとりが安心して自分らしさを出せるようサポートしているそうです。「チャイルド・ケモ・ハウス」以外でも、自分で安心できる人、場所を見つけられるように。

 

「オンライン支援では、子どもたちやご家族との関りで新たな気づきがありました。通常の支援では、同行できる専門職のスタッフは数人に限られるのですが、オンラインは、経理スタッフなど参加したい人が参加できます。一度に何人もがその場でつながれます。」

 

オンラインの参加型イベント「ChaiTube」では、2020年12月に企業や病院の協力を得ながら対象を広げて拡大版も開催しました。その日行われた実験教室には、兵庫県、大阪府、愛知県など予想を超える25組以上から申し込みが集まりました。田村さんたちにはパソコンの画面越しに見えた、子どもたちの楽しむ様子が心に残っているそうです。自宅で家族そろって、病室スタッフに見守られながら、と大勢の人が同じ時間を共有していたのでした。

 

「この拡大版では、大きな病院が2軒、告知面で協力してくださったのですが、本来、外部の団体が病院とつながることは難しいのだそうです。コロナ禍で、面会制限が厳しく、入院中の子ども同士が遊ぶことも制限されている中で、少しでも楽しい時間を過ごしてほしいという思いで動いてくださったのでしょう。その根底には、治療中の子どもとその家族が人生をより良く過ごすQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の考えを尊重したいという思いがあるのだと考えています。活動を始めた15年前と比べると大きな変化の一つです。」

 

二階堂様

 

治療中の子どもも、きょうだいも対等に

 

「ChaiTube」には、治療中の子どもと一緒に、きょうだいも参加しています。子どもが入院すると、きょうだいへの接し方で悩む保護者が少なくありません。その中で、「チャイルド・ケモ・ハウス」では、治療中の子どもも、きょうだいも、一人の子どもとして接しながら、子ども自身が安全基地をその場につくれるように心を配ります。オンラインでも一人ひとりの名前を呼び、メッセージカードを送る時には、きょうだいの名前も必ず書くそうです。

 

「『あなたのことを思っているよ』と常に伝えることが大事だと思います。日本のきょうだい支援は、他国より遅れながらも少しずつ進んできました。きょうだいはいつもつらい思いをしているわけではなく、親に対してほんのちょっと甘えたい、一緒に遊びたい、そう思っているんです。そんな気持ちが自然に満たせる支援が広がるように、私たちは一人ひとりに寄り添っていきたいです。」

 

イメージ(田村・川井・二階堂)

 

大切にしたいことを大切にできる場をつくりたい

 

コロナ禍での緊急支援として始まったオンライン支援と居場所づくり。「特にオンライン支援については見切り発車だった」と田村さんは振り返ります。

 

「スタッフの人数も資金も限られ、親御さんたちの明確なニーズも見えない中で、孤立しがちな状況を何とか変えたいという思いだけで始めました。でも、『みてね基金』に採択されたことで、『このまま進んでいい』と後押しされているようにも感じ心強く継続することができました。」

 

さらに「ChaiTube」の拡大版は、「チャイルド・ケモ・ハウス」をこれまで知らなかった子どもとその家族とも広くつながる機会になっています。

 

「楽しい時間を過ごせるような支援もしていますが、私たちがいろいろな相談にお応えしていることも知っていただけたらと思っています。家族間のコミュニケーションがうまくいかない、以前通っていた学校の友達に会いたいなど、どんなことでも安心して相談してほしい。オンライン支援は緊急支援として始まりましたが、これからは対面の支援と合わせて続けていきたい。大切にしたいことを大切にできる場をつくっていきたいです。」

 

「『みてね』を使っている親御さんの中にも、お子さんが病気で入院されている方がいるかもしれません。他の子とどこか違うことで悩んでいる方がいるかもしれません。でも、『チャイルド・ケモ・ハウス』の活動を知ることで、『ひとりじゃない』と思ってもらえたらうれしいです。そして、『みてね』を楽しむことが、重い病気の子どもたちの支援や応援につながっています。そのことに感謝しています。」

 

田村

 

取材して感じたこと

 

とても和やかな雰囲気の中でお話をうかがった今回、田村さんと川井さん、二階堂さんのチームワークの良さに心地よさを感じました。それだけ日々、目の前の子どもとご家族のことを一緒に考え、動かれているのだろうとも思いました。制限がある生活を「仕方ない」と諦めるのではなく、思いを広げながら変えるための行動を重ねていく。みなさんが生み出す強さに私は元気をもらいました。これからも応援しています。

 


 

団体名

NPO法人チャイルド・ケモ・ハウス

申請事業名

重い病気の子どもと家族に対するオンライン支援と居場所づくり

申請事業概要

重い病気の子どものための遊び、また保護者の相談機会を提供することで家族の孤立化を防ぐ

 

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みてね基金新型コロナ
この記事を書いたユーザー
たかなし まき

たかなし まき

1971年愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科卒業後、地元の企業に就職。その後上京し、業界新聞社、編集プロダクション、美容出版社を経てフリーランスへ。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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