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ローカルベンチャー施策に取り組む自治体の変化と可能性。西粟倉、厚真、雲南、気仙沼のこれまでとこれから~ローカルリーダーズミーティング2023レポート(2)

2023.08.28 

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7月8~9日の週末、宮城県気仙沼市で「ローカルリーダーズミーティング2023」(以下LLM2023)が開催されました。ローカルベンチャー協議会が主催し、NPO法人ETIC.が事務局となったこのシンポジウムには、全国からローカルベンチャー(地域資源を活用した事業家)、自治体、中間支援組織、さらに首都圏の大企業などから約160名が参加。フィールドワークや分科会、さらに若手起業家によるピッチ(プレゼンテーション)などを通して有意義な意見交換・ネットワーキングを行いました。

 

表紙

 

本稿では、基調セッションに続いて行われた8つの分科会のうち、ローカルベンチャー協議会の幹事自治体が登壇した「ローカルベンチャー施策に取り組む自治体の変化と可能性」の内容を要約してお届けします。2016年から始まったローカルベンチャー推進事業は第1期(5年)を終え、現在は第2期の折り返し地点。この間、参画地域に起きた変化および現在の課題と将来について、各自治体職員がプレゼンテーションを行いました。

 

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100億×1社より1億×100社。林業を起点とした「元祖」ローカルベンチャー育成の取組み ~岡山県西粟倉村(萩原勇一 氏 岡山県西粟倉村役場 産業観光課長)

 

西粟倉1

 

西粟倉村は人口1300人余りの小さな村だ。面積の9割以上を森林が占める。そんな村で地方創生の取組みを進めてきた。キモとなる事業は3つある。適切に管理された森林を守る「百年の森林(もり)」構想に基づく事業、木材を利用した再生可能エネルギー事業、そしてローカルベンチャー(以下、LV)事業だ。最初の目的は「仕事をつくる」ことだったが、企業誘致の方向には行かなかった。100億円の企業1社よりも1億円のLVを100社つくるほうがいい。域内生産は同額でも、より多様性・柔軟性のある取組みをしようと考えてきた。

 

西粟倉2

 

起点となる「百年の森林」構想は2008年にスタートした。以来、間伐材の商品開発・マーケティングを中心に行ってきた。1次産業は原材料生産だが、材料として出荷しているうちは材料代の収入しかない。そこで林業の6次化を進め、地域内で最終商品化まで実装。木材の付加価値を約30倍にすることができた。「百年の森林構想に共感し、関わりたいという移住者が増えてきた。それらの人々を政策的に取り込むべく開始したのがLV事業だ。これまで53社が起業している。

 

私たちのLVの考え方はこうだ。人口減少、耕作放棄地の増加、空き家問題など地域課題はたくさんあるが、私たちが求めているのは、これらを「全国平均ライン」まで引き上げてくれる人、つまり課題解決のプレーヤーではない。むしろ、地域の現状をベースラインとしてそこに新たな価値を上乗せしてくれる人を増やしている。

 

その結果、もっと人口の多い隣接自治体らと比べて西粟倉村の人口の減り方がいちばん緩やかになっている。この15年間で342人が村へ移住し、現在も約7割が居住中。Iターン者は20~30代が多く、村の小学生4割、中学生の3割がIターン家族の子弟だ。日常生活に子どもの姿が見えるようになって地域の景色が変わってきた。また、LVが育つのを見て地元の人たちも「負けてられない」となってくる。

 

今後は、アグリフォレストリー(森林農業)、森林ツーリズムなども含めて山林自体が持つ資源価値をもっと引き出す事業を進めていきたい。そのためには、都市部の大企業などにもっと関わってもらう必要がある。そもそも私たちが目指すのは「持続可能な地域づくり」だ。それはつまり、西粟倉が西粟倉であり続け、そのまま次の世代に受け継いでいくこと。それが私たちのやっていることだ。

 

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萩原勇一 氏 西粟倉村(左)、小山敏史 氏 厚真町(右)

ハコモノ施策の限界から「想い」重視のLV育成開始。震災を経ても継続し、人口の社会増ふたたび ~北海道厚真町(小山敏史 氏 北海道厚真町役場)

 

厚真1

 

千歳空港から近い厚真町は約人口4300人の町だ。私たちは2006年から定住化施策を本格的にやってきた。分譲地開発や子育て支援住宅・認定こども園の整備などいろいろな手は打ってきたが、こうしたハード整備は財政負担が大きい。移住してくれても町外で働く人が多く、地域経済への効果は限定的だった。また、地域おこし協力隊制度も活用してきたが、農業支援員を除くミッション型(観光・特産品・教育など)の定住率は40%以下。明らかに移住者のニーズと町の提案がマッチしていなかった。

 

そこで2016年に始めたのがローカルベンチャー(LV)スクールだ。あくまでも「人」と「想い」を起点とし、「厚真であなたの夢を叶えてください」という起業家育成プログラムだ(起業型地域おこし協力隊制度を利用)。当時の役場担当者と中間支援組織の株式会社エーゼロとで立ち上げた。このLVスクール卒業生がいま、馬搬や貿易、製材など様々な分野で活躍しており、波及効果ももたらしている。

 

厚真2

 

人口動態については、2014年から5年連続で社会増減がプラスだったが、そこへ2018年9月の北海道胆振東部地震が起きた。一気に200人以上減り、主な移住定住施策はすべてストップした。しかし、それでもLVスクールだけは止めなかった。LV協議会の支援ももらいつつ、復興支援ではなく「厚真であなたの夢を叶えよう」というPRで採用を継続。その結果、令和2(2020)年から再び社会増に転じている。その多くは協力隊であり、現時点では39名が現役として活動中だ。

 

新たな2つの兆しがある。ひとつは、林業を核として人が人を呼ぶ好循環が起きつつあること。地元の林業プレーヤーが中心となり、その周囲にコミュニティができ始めている。もうひとつは、域外の大手企業の参入だ。地域活性化起業人(企業人材派遣制度)を通じて次世代型畜産も始まっている。

 

こうして特徴的な産業は興りつつあるが、まだまだボリュームが足りない、というのが現在の課題認識だ。「やりたいことがある」多様な人を引き寄せつつ、企業参入、ネットワーク化、デジタル化を進め、あらたな産業を生み出したい。もちろん、そのための資金調達システムの確立も必要だ。これからステージが変わると感じている。気仙沼と同様、自然災害の恐ろしさを経験した厚真町だが、これからも私たちは山と海、自然とともに生きていく。

子ども・若者から大人・企業まで。社会課題解決へのチャレンジの連鎖で持続可能なまちづくり~島根県雲南市(岡晴信 氏 株式会社竹中工務店 まちづくり戦略室 兼 新規事業推進グループ シニアチーフエキスパート/島根県雲南市 政策企画部)

 

雲南1

 

山陰の中山間地に位置する雲南市は、東京23区と同じ広さで人口は3.6万人。平成16(2004)年に6町村が合併して誕生した。日本全体の25年先を行く人口減少と高齢化に対処するため、合併と同時に地域自主組織づくりが始まったことが特徴だ。(編集注 : 地域自主組織は自治会や町内会、消防団や営農組織など様々な組織を概ね小学校単位 [公民館区]で再編した組織。市民同士が連携して地域課題を自ら解決し、地域づくりを実践する「小規模多機能自治」の先行事例として知られる)

 

市内に30あるこの地域自主組織をベースに、地域課題解決へのチャレンジの連鎖を生み出す「ソーシャルチャレンジ」が2019年から始まった。子ども、若者から大人、企業まで様々な階層でチャレンジを創出し、これらの連携によって持続可能なまちづくりを目指すのが「雲南ソーシャルチャレンジバレー」構想だ。

 

雲南2

 

この中で「若者チャレンジ」は、「幸雲南塾」という若手人材の掘り起こし・起業支援事業を中心に取り組み、2011年以降54の事業が誕生している。代表例としてはコミュニティナース、おっちラボ(中間支援組織)、ショッピングリハビリ(介護予防×買い物支援)など。これまではソーシャルな領域が多かったが、最近は多様化しており、特に食に関するものも増えてきた。

 

また、市内に大学がないなら逆に呼び込んでしまえという発想で、雲南コミュニティキャンパスというチャレンジの仕組みをつくり、これまでに全国から約460名の大学生が参加している。さらに、首都圏で働く雲南出身の若手社会人交流会を開催。東京に「雲南コミュニティ」を創出し、関係人口拡大とともに人材環流のきっかけづくりをしている。実際に、優秀な人材が地元に戻ってチャレンジしたいという動きが出始めている。

 

「企業チャレンジ」とは企業との協業で社会課題解決にチャレンジし、社会実装まで目指す取り組みだ。私自身も所属は竹中工務店だが、2019年4月から雲南市役所に出向している。私以外にも現在3名が地域活性化起業人として都市部企業から出向し、ソーシャルチャレンジ特命官を務めている。さらにヤマハ発動機やヒトカラメディア、LIFULLや日本郵政など様々な企業との協業が始まっている。

 

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岡晴信 氏 株式会社竹中工務店 /雲南市(右から3人目)

 

3.11を転機に「人材育成」を基本としたまちづくりへ。市民が主役の「豊かなローカル」を目指して~宮城県気仙沼市(小野寺憲一 氏 宮城県気仙沼市 震災復興・企画部 部長)、成宮崇史 氏 NPO法人底上げ 理事・事務局長/気仙沼まち大学運営協議会 チーフコーディネーター)

 

気仙沼市にとって転機はやはり東日本大震災だった。真の復興とはなにかを考えたとき、「社会課題の解決なくして真の復興なし」という結論に至った。社会課題の解決とは、まさにまちづくりそのものだ。復興事業を続けるさなか、2015年から地方創生が始まったが、それも「まちづくり」と考えれば、復興事業と地方創生は同じ線上にある。

 

気仙沼1

 

一方、市民の「復興感」という点では、阪神淡路大震災の神戸市の例のように、「人口の回復」をバロメーターにすることはできない。人口という指標ではなく、社会課題の解決に加え、震災前にはなかった新しいものができたり、新しいチャレンジが生まれたりすることで、人々が未来に対する「わくわく感」を持ち、復興感を醸成することができるのではないかと考えた。

 

この中でも特に力を注いできたのは新たなチャレンジを生み出す仕組み作りだった。基本に置いたのが「人材育成」だ。人口減少や高齢化、若者の仕事の少なさなどの社会課題は3.11以前から存在し、みな分かっているのに変えられない状態。行政は待ちの姿勢、企業は事業で手いっぱい。NPOも市民団体もリソース不足。お互い「誰かがやってくれるだろう」という依存心が蔓延していた。

 

そこへ大震災が起きて危機感が高まった。このままでは気仙沼は消滅する。立派な復興計画があっても人々のマインドと関係性が変わらなければ、現実は何も変わらない。そこで達したシンプルな結論は「人」を中心にまちを作り直すこと。行政の平等原則を超えてでも、やる気のある人に手を挙げてもらう。

 

まず、外部有志の手を借りてリーダー塾を開始。これが地元の経営者たちが自分の脚で立つ決意をする場となり、同時に問題に対する共通の認識が生まれた。そこから、観光と水産業を軸とした事業創出に取り組み、高付加価値の仕事をつくって人を呼び戻そうという動きが始まった。実際に、海中での貯蔵酒づくりや海の体験ツアー、埋もれた水産資源を使った化粧品など、世界の市場に目を向けた挑戦も生まれている。

 

気仙沼3

 

また、市民の主体性を育むもうひとつの施策として女性やシニア、高校生などを対象に「自分たちのまちをどうしたいか」を議論する場をつくった。さらにNPOや市民団体同士が連携して、子育てや介護なども含む、地域の課題を自分たちで解決していく機運を生み出した。こうして、ミニ東京・ミニ仙台ではなく「世界とつながった『顔の見える』地方のまち」を目指し、全セクターがベクトルを合わせてきた。

 

いまは、人材育成に加えチャレンジを生み出すための様々な環境の整備というフェーズに来ている。LV推進事業の第1期のフォーカスは人材育成だけだったが、第2期では、人材育成を中心におきながらデジタル化サポートやビジネスサポート(悩み相談)、外国人の支援、まちづくり協議会の支援など、地域で活動する市民全体のチャレンジを応援する仕組みを構築中だ。

 

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LV協議会の事業の中の「ローカルベンチャーラボ(起業支援プログラム)」や「企業×地域共創ラボ」も活用してチャレンジを生み出す環境づくりを進め、その結果、気仙沼は「何かが起きそう・起こせそうなまち」という、「わくわく」する空気感が生まれている。

 

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小野寺憲一 氏 気仙沼市(一番右)、成宮崇史 氏 NPO法人底上げ(右から2人目)

 

LV推進事業の現在地と今後

 

■森山奈美 氏 株式会社御祓川 代表取締役(LV協議会第1期幹事自治体の石川県七尾市の中間支援組織)のコメント

ここまでの話を聞いていて、行政の担当者がこれほどの熱量で話せること、そこに価値があると感じた。七尾市がLV協議会(第1期)に参画した理由は、新しいベンチャーを興すよりも既存の企業をベンチャー化したいためだった。LVを優遇すると、それまでずっと地域を担ってきた地元の事業者が不公平感を持つこともある。今日お話しされた皆さんの地域におけるLV創出の取り組みを、これまでずっとやってきた地元企業へどう接続していくか。まさにそのフェーズに来ているのではないか。私の会社(御祓川)も地元の事業者が投資してくれてできた会社だ。既存企業が新事業を立ち上げるだけでなく、若者に「やってみろ」と新たな投資をしていく。それが次のステージに向かうということだと思う。

 

■石井重成 氏  青森大学 社会学部 准教授(LV協議会第1期幹事自治体の岩手県釜石市で、人口減少時代の持続可能なまちづくりを探求する「釜石市オープンシティ構想」を統括)のコメント

地方創生はあと少しで10年の節目を迎える。「まち・ひと・しごと総合戦略」は、もともと人口の東京一極集中の是正を目的に始まったが、いつの頃からか人の数や増減よりも、「ウェルビーイング」重視に変わってきたように思う。人口の維持や増加はそれ自体が目的ではない。そこにいる人たちが本当に幸せで自分らしく生きていける、その環境を作る手段として人口・経済政策がある、という原点に一周回って戻ってきた気がする。各地でLVを推進してきた結果、個人の充実感や幸せのあり方が多様化しているということは、私たちはその一周回った地方創生の先頭にいるのではないか。

 

物事が動くとき、運動と制度と理念が必要と言われる。LV協議会では、これまで運動はたくさんやってきた。その歩みを止めてはいけない。あとは制度と理念をどう研ぎ澄ませていくかだ。地域プラットフォームのあり方や資金の集め方など、仕組みづくりの上でもいろんな事例が出てきている。それらをLV協議会でまとめて全国へ還元していけば、真に社会を変えられるオルタナティブな選択肢がこの場から生まれていくと思う。

 

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森山奈美 氏 株式会社御祓川(右)、石井重成 氏 青森大学(左)

 

■2015年、LV協議会立ち上げを呼び掛けた西粟倉村より、産業観光課長・萩原勇一氏のコメント

現状は、各自治体で地域資源を生かした変化を起こす、というフェーズだと思う。将来は地域そのものが変わっていかなければならない。では、どう変わって、どうなりたいのか。各地域の特色は歴史も含めてバラバラであり、それは個性だ。それぞれ「自分たちはどうなりたいか」をしっかり考えてビジョンを持ち、そのための工夫をし、幸せになっていく。子どもたちが自分の地域を誇りに思えるようにしていく。全国一律ではなくても、そうやってウェルビーイングが達成されている地域が増えていけば、結果として東京一極集中も解消するのではないかと思う。

 


 

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>> 地方創生、次の10年に必要なものとは?キーパーソン4人が語る課題と展望 ~ 「分配文化」を「投資文化」へ〜

>> 目指すは地域発のスタートアップ・エコシステム。地方創生xデジタルが日本経済に必要な理由とは?〜ローカルリーダーズミーティング2022レポート(1)〜

 

<関連リンク>

>> ローカルリーダーズミーティング2023

https://initiative.localventures.jp/event/3142/

>> ローカルベンチャー協議会

https://initiative.localventures.jp/

 

 

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中川 雅美(良文工房)

福島市を拠点とするフリーのライター/コピーライター/広報アドバイザー/翻訳者。神奈川県出身。外資系企業で20年以上、翻訳・編集・広報・コーポレートブランディングの仕事に携わった後、2014~2017年、復興庁派遣職員として福島県浪江町役場にて広報支援。2017年4月よりフリーランス。企業などのオウンドメディア向けテキストコミュニケーションを中心に、「伝わる文章づくり」を追求。 ▷サイト「良文工房」https://ryobunkobo.com