#ローカルベンチャー
オフグリッド型蒸留所、アジアが注目する超高齢化社会・日本の健康づくり…。世界を目指すローカル発の事業特集!―ローカルリーダーズミーティング2023レポート(8)
2023.10.26
7月8~9日の週末、宮城県気仙沼市で「ローカルリーダーズミーティング2023」(以下LLM2023)が開催されました。
ローカルベンチャー協議会が主催し、NPO法人ETIC.が事務局となったこのシンポジウムには、全国からローカルベンチャー(地域資源を活用した事業家)、自治体、中間支援組織、さらに首都圏の大企業などから約160名が参加。気仙沼市内でのフィールドワークや分科会、さらに若手起業家等によるピッチ(プレゼンテーション)などを通して有意義な意見交換・ネットワーキングを行いました。
本稿では、「ローカルベンチャー×グローバル」をテーマとした5人のピッチの内容を2本に分けてレポートします。後編となる今回は、環境に配慮した蒸留酒事業やコミュニティナースのアジア展開など、地域から世界へ向けて発信したい事業に携わっている2人の起業家の声をご紹介します。
前編はこちら
>> 外国人観光客も取り込むホームステイ体験、世界の磯焼け問題への挑戦、防災教育を海外へ…グローバルな視点をもったローカル起業家3人が語る!―ローカルリーダーズミーティング2023レポート(7)
地域に眠る豊かな未利用資源をフル活用 ! オフグリッド型蒸留所で福島を世界に発信
大島草太(おおしま・そうた)さん / 株式会社Kokage 代表取締役・ローカルベンチャーラボ7期生
1996年生まれ。栃木県出身、福島大学卒。在学中に「Kokage Kitchen」を開業、クラウドファンディングで入手した移動販売車で事業開始。大学4年次に地域おこし協力隊を経験し福島県田村市都路地区に移住。循環がキーワードのクラフトビール会社「株式会社ホップジャパン」に醸造士として携わる。現在は高校生や大学生と共に立ち上げたフルーツハーブティーブランド「Tea & Things」を運営する他、「株式会社Kokage」を設立し、活動の幅を広げている。新規事業として福島県川内村にてオフグリッドで行う蒸留所の立ち上げを計画中。
Instagram(Kokage Kitchen) : https://www.instagram.com/kokage_kitchen/
Instagram(蒸留所) : https://www.instagram.com/naturadistill/
僕は大学進学を機に福島へやってきました。在学中は1年間休学してカナダで働いた後、大学3年生のときに帰国し、個人事業主として「Kokage Kitchen」を開業。そのまま福島県田村市で地域おこし協力隊になり、最近までビール会社で働いていました。
昨年末にキッチンカーで営業していた「Kokage Kitchen」を法人化して「株式会社Kokage(以下、Kokage)」を立ち上げ、若者が挑戦し続けられる地域づくりと、未利用資源を活用した地域の魅力づくりをミッションに活動しています。
Kokageでは、福島県内の高校生・大学生と協働したハーブティーの開発や、川内村でオフグリッド型(電力を自給自足している状態)の蒸留所の立ち上げに取り組んでいます。これらは全て、地域の未利用資源を活用した事業です。福島から世界へ向けて、ソーシャルインパクトを起こせたらと思っています。
事業を立ち上げるに至った背景には、3つの思いがあります。1つ目は、カナダで働いていたときの体験です。2015年当時は、2011年の福島第一原発の事故による風評被害がまだ根強く、福島のマイナスイメージをゼロではなくプラスに変えたいと思いました。
2つ目は、地域資源を活用したいという思いです。僕が活動している地域は、元々山の資源が豊かで、生活用水に地下水が使われているエリアです。松の新芽も、お酒にするといい香りがつきます。地元の方は何もないと言いますが、僕からしたら「こんなにいいものがあるじゃん!」という地域です。
一方で、規格外フルーツの廃棄という課題もあります。蒸留酒造りは、こういった廃棄されてしまうフルーツの活用につながります。Kokageの事業は、人間と自然の関係を問い直すということがベースにある、豊かな里山があるからこそできる事業です。
3つ目は、仲間の存在です。蒸留所の立ち上げ経験があるワイナリーの醸造責任者やブレンダーが、同じ地域で活動しています。信頼できる仲間と一緒に、世界で唯一の挑戦をこの福島から発信していくというワクワク感が、今回の蒸留酒事業につながりました。
蒸留酒は様々な製造方法がありますが、私たちの蒸留所では無味無臭に近いアルコール(ベーススピリッツ)にいろいろなものを漬け込むところから始まります。フルーツやハーブを1種類ごとに漬け込んで蒸留し、ブレンドすることで完成します。この工程を、木質バイオマスや蒸気ボイラー、ソーラー発電を使い、完全にオフグリッドで電力会社に頼らず行います。このやり方は世界でも類を見ないものです。
私たちの蒸留所は、地域内の資源、自然や文化、生産者の思いといったストーリーを、地域外の協力者や顧客と「共に編む」こと、そして必要なエネルギーは全て再生可能なものを使い、フルーツ王国福島ならではの果物や森林資源を活用するという、「自然の恩恵を詰め込む」ということをコンセプトにしています。
蒸留酒事業は2024年中の販売開始を目指していますが、その先は海外輸出なども考えており、夢は尽きません。蒸留所は試飲だけでなく、ワークショップができる交流スペースも備え、お酒を飲まない方にとっても居心地のいい、地域に開かれた場所にしていきたいと思っています。
僕はカルチャーを作るということを大事にしています。事業に関わってくれる高校生や大学生の他、県外の協力者も巻き込みながら世界に誇れる福島をつくっていきたいので、蒸留所ができたらぜひ遊びに来てください。
ローカルとグローバルはダイレクトにつながれる。国際会議への参加で得た知見をシェア
古林拓也 (ふるばやし・たくや)さん /ふるばやしローカルデザイン事務所代表・ローカルベンチャーラボ2期生
大学院卒業後、情報通信企業へ入社し法人向け国際サービスの提供に従事。2018年4月、新潟県村上市にて地域商社を設立。地域商社事業、田舎体験型旅館事業の経営を通じ、地域の豊かな「価値」を発信。2023年2月、京都府京田辺市にて家業(小売業)を継承。地場の中小企業の第二創業に取り組む。また、個人事業主として社会起業を支援し、ローカルイノベーション・ソーシャルイノベーションの実現と社会実装に取り組む。にいがた産業創造機構主催「新潟起業チャレンジ」優秀賞。修士(工学)、経営学修士(専門職)MBA、米国PMP®︎資格取得。特定非営利活動法人都岐沙羅パートナーズセンター理事、特定非営利活動法人村上ohanaネット理事、あらかわ地区まちづくり協議会理事、越後村上物産会理事、村上岩船定住自立圏共生ビジョン審議会委員を歴任。
私はコミュニティの力を信じている人間です。その根底には新潟での原体験があります。私は、地域に特化した6ヶ月間の起業家育成プログラム「ローカルベンチャーラボ」への参加を経て、2018年に新潟県村上市で地域商社「いろむすび山菜屋」を創業しました。天然山菜を活かした事業で、地域のお母さん方と一緒に「かかさんの山菜」を販売していました。
5年間順調に経営を進めていたのですが、昨年(2022年)豪雨水害に遭い、商品の全廃棄という経営危機に見舞われます。さらに、ほぼ同じタイミングで京都の父親に血液のがんが見つかり、家業の経営危機にも襲われました。
途方に暮れていたときに力をくれたのが、駆けつけてくれたボランティアのみなさんです。心の底からエンパワーメントを受け、もう1度山菜を届けたい、実家の父親にも報いたいという、欲張りな2つの願いを果たすことができました。まさにコミュニティの力に生かされた思いです。だからこそ今日は、ローカルベンチャーコミュニティのみなさんに還元できる話をしたいと思います。
みなさんにご紹介したいのは、コミュニティナース事業のアジア展開についてです。私は地域商社以外の仕事もしていて、コミュニティナースを様々な地域へ広げるべく、島根県雲南市を拠点に活動するコミュニティナースカンパニー株式会社(以下CNC)に参画しています。
コミュニティナースとは、病院ではなく地域の中の身近な場所で住民一人一人に寄り添い、健康な心と身体で楽しい毎日を送れるようサポートする存在です。コミュニティをベースとした健康増進・幸せづくりの取り組みを指します。
アジア展開の発端は、ジョンソン・エンド・ジョンソンさんとCNCとの打合せです。「来月(2023年6月)、AVPN (Asia Venture Philosophy Network) GlobalConference 2023という、アジア最大のフィランソロピー(企業が行う社会貢献活動)の国際大会に出る」というお話を聞き、CNC代表の矢田明子さんが「私も行きたい」とつぶやきました。招待枠が1つあると聞き、その場で約10日後に迫ったマレーシアでの国際カンファレンスへの参加を決断。社内決裁もすっ飛ばして、旅費は2人とも自腹です。
登壇の機会もいただき、急ピッチで矢田さんのプレゼンを準備します。ちなみに矢田さんも私も英語が流暢なわけではありません。私は元々グローバル畑が長かったので、経験とあらゆるAIを駆使し、英語でのプレゼンの雛型を作りました。今の時代は様々なツールがあるので、なんとでもなるんです(笑)。
こうしてAIの力をフル活用したプレゼンテーション動画が完成し、現地で矢田さん自身がプレゼンしました。矢田さんはすばらしい才能を発揮し、原稿丸読みにもかかわらず、人々のハートをがっちりつかみました。
国際大会では、アジア、特に中華圏で高齢化社会に対する強烈な課題認識が広がっていることを実感しました。公的なものだけではなく、コミュニティをベースとした健康実現に対する関心は非常に高く、その点がCNCの事業とマッチしたのだと思います。
登壇後は、多くの投資家やフィランソロピスト、同業の方からミーティングの依頼が殺到しました。特に某財団の東アジアシニアアドバイザーの方から、「事業ではなく、矢田さん自身の人となりを知りたい」と言われたことは印象に残っています。結局、この人は信ずるに値するかという点を見ているのだと思います。がっちり握手を交わし、現在は某財団様ともいいパートナーシップが結ばれつつあります。
矢田さんがあの打合せで「出たいです」と手を挙げた瞬間に、様々なものが偶発的につながり、アジア展開を模索するというところまで前進することができました。これを島根県雲南市発でやったという点にも大きな意義があると感じています。ローカルベンチャーが、ローカルらしくグローバルとつながるという事例を作ることができたからです。
日本は課題先進国です。社会課題を深く理解した現場の知見、課題に対するアプローチ、そして課題に取り組む人物の人となり・考え方・姿勢。これさえ揃っていれば、日本語しか話せなくても世界とつながることができるし、仕事ができると学びました。
これからもコミュニティの力を信じ、この事業を形にしていきたいと思っています。ローカルとグローバルな現場を往復しながらがんばっていきますので、応援よろしくお願いします。
今回のピッチは、ローカルベンチャーラボの受講生やOBOG、次世代を担う若手起業家や、ローカルベンチャー協議会の自治体が、今まさに課題を感じて取り組んでいることを紹介し、関心や同じ価値観をもつ参加者と交流することを目的に開催されました。
ローカルリーダーズミーティング2023では、全国の自治体や中間支援組織の参考になるような事例の紹介やディスカッションが多くなされましたので、気になる方は関連リンクよりまとめ記事をご覧ください。
<関連リンク>
>> ローカルベンチャー協議会
https://initiative.localventures.jp/
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