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地域との関係性を深めていく居場所の存在【居場所づくりは地域づくり(2)後編】

2024.12.04 

認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえと、NPO法人エティックは、居場所づくりと地域づくりの関係性を実践的に議論し検討するオンライン連続セミナー「居場所づくりは地域づくり―地域と居場所の新しい関係性を目指して」を開催しました(全7回)。

 

前編では、活動歴の長い団体からフレッシュな団体まで、地域社会にどのように入り込み、巻き込みながら活動を進めているか具体的な事例が紹介されました。後編では、実際に居場所づくりと地域づくりの関係についてチャレンジしていることや課題について議論しました。

 

<パネリスト>

竹内 祐子(たけうち ゆうこ)さん NPO法人新座子育てネットワーク 事務局長

伊藤 文弥(いとう ふみや)さん NPO法人つくばアグリチャレンジ(現 : NPO法人ユアフィールドつくば) 代表理事

守谷 克文(もりや かつふみ)さん NPO法人f.saloon 代表執行役

 

<モデレーター>

三島 理恵(みしま りえ)さん 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 理事

川島 菜穂(かわしま なほ) NPO法人エティック ソーシャルイノベーション事業部

 

※記事中敬称略。パネリストのプロフィール詳細は記事最下部に記載。

※イベントは、2022年12月に開催されました。本記事では当時の内容をもとに編集しています。

 

地域づくりにおける「居場所」の役割が多様化

川島 : ここからは、改めてそれぞれの活動がどんな視点(居場所づくりなのか、地域づくりなのか)で行われているのか、またその活動にあたってどんなことを大事にされているのか、活動のアイデンティティについてお話をお聞かせください。

 

伊藤 : 自分が取り組んでいることは「地域づくり」だと思っています。前編の議論でもお伝えしたように、障がいのある方が地域において分断されることなく「ご機嫌」に暮らしていくには「居場所(農園やグループホーム)」を離れても、違和感なくすごせる関係性を周囲とつくることが重要です。居場所とその外との違いを緩和していくことがわたしたちの活動であり、地域づくりだと思います。

 

ただ、お二人の話を聞いて思ったのは、場合によっては、自分が「居場所」だと思ったところが、実は相手にとっては居場所になっていない場合もあるということです。たとえば、学校は子どもにとって居場所になるはずが、子どもによって、そうはなっていない場合もある。わたしたちの活動にも同じことが言えると思います。利用する人にとって、居場所は多様なほうがいいのかもしれません。

 

守谷 : 居場所づくりか地域づくりかと聞かれるのなら、「地域づくり」をしていると感じています。INBaseは「子どもの放課後スペース」などの物理的な場所として完結するのではなく、学校でも家庭でもない、地域の大人との「斜めの関係」が築ける機会の提供をより重視しています。

 

家庭でも学校でもない関係性では、同質性が高くなかったり、ほどよい距離感があったりと窮屈に感じずに済むのではないでしょうか。子どもによっては、地域に暮らしてはいるものの、入り込めていないと感じている場合もあるでしょう。中高生が地域の大人と関わることで、地域への関心が高められ、地域づくりやわくわく感につながっていくと思います。

 

地域のわくわく感を増やすことが「地域づくり」のゴール:NPO法人f.saloon

 

竹内 : わたしたちの活動は、どちらかといえば「居場所づくり」をしていると思います。居場所をつくり、その中に地域の人たちが入ってきてくれることで、地域の人たちと子どもたちがつながっていくイメージです。

 

ただ、居場所での大人とのつながりや活動を通じて、子どもたちが「この地域が好きだ」「この地域を大切にしよう」と感じるなど、地域への愛着が広がっていく場合はあるでしょう。結果として、わたしたちの居場所づくりが地域づくりにつながると思います。

地域からの協力や理解を得るために欠かせない丁寧なアプローチ

竹内 : 居場所づくりにおいて、地域からの協力は欠かせません。丁寧に時間をかけて直接会ってご理解を得ていくことが重要です。地域へのアプローチには、定められたルールがあるかと思いますので、ひとつひとつを徹底することが必要でしょう。

 

また、協力を得る際の姿勢も重要です。わたしたちの場合は、一方的にこちらのやりたいことを「やってください」「一緒にやりましょう」とお願いするのではなく、まずは自分たちの活動へ「招待」をしました。

 

ある町内会のエリア内でイベントをするとき「活動を町内会の集会場を借りてやります。もしよかったら見に来てください」とお話をすると、「いい活動するね。チラシ貼るよ」と嬉しいお声かけをいただいたことがありました。活動を始めるにあたっては、全体をまとめた説明会ではなく、個別に1件1件、1人1人と向き合うことを大切にしています。

 

にいざ子どもの未来包括連携プロジェクトでの協力体制:NPO法人新座子育てネットワーク

 

守谷 : INBaseの活動を始めた当初は、地域の人たちからは何をしているかよくわからない部分があったかもしれません。ただし、活動を進めて協力を得ることで理解が徐々に広がったと思います。

 

中高生のやりたいことを実現するときには、地域の人にご協力をお願いしています。たとえば、作りたいものの工法だったり、音楽イベントなら音響だったり。中高生のやりたいことを実現するのには、地域の大人の力(専門分野)が必要です。こうした中高生の活動から地域との「関わりしろ」が広がり、活動への理解や次の協力にもつながっていくと思います。

 

また、わたし自身も町内の集まりに参加し、居場所の提供が町内の活動へいい影響があることを説明し、理解につなげていくよう努めています。徐々にですが、わたし個人への理解を通じて、活動への理解も少しずつ深まったと感じます。

 

伊藤 : 農場を運営している関係で、農地を借りている地主さんのお力添えをいただいております。土地を提供いただいているみなさんも、有効に活用したいというニーズがあったので、互いの想いが一致している部分は多かったです。活動のエリアが広くないこともあり、わたしたちへの活動への理解も比較的進みやすかったと思います。

 

また、障がい者への理解を深めるためには、地域の人との接点を複数もつことが重要で、野菜の定期購入もひとつの接点ではありますが、農園などのリアルな場も必要ですね。

多様な居場所が競合しても利用者にとっては選択肢を増やすことにつながる

川島 : 地域において多様な居場所が存在し、それぞれのミッションなどが違う中、団体同士で対立する場合もあるかもしれません。どのように居場所同士がつながり、面になって地域づくりをしていくのかご意見をいただけますでしょうか。

 

竹内 : 新座市内では、ボランティア参加者の方が新たにご自身でこども食堂を始めたりと活動の輪が徐々に広がりました。新座子育てネットワークは、新たな活動を食材の提供などでサポート・協力しています。

 

また、「子どもひろば」は、校区内に複数以上設置されている場合もあれば1か所の場合もあります。こちらも、地域差により温度感は違いますが広がりました。子どもにとっての「居場所」が、たくさんできることは選択肢を増やすことにもなるので今後も広がっていってほしいです。

 

伊藤 : 居場所が増えることで、団体同士が結果として「競合」する状態になる場合があるでしょう。一方で、分野が異なるなど直接の利害関係がない場合には、共同での取り組みを進めやすい場合があります。

 

ただ、利用者の目線からすると居場所は多様なほうが望ましいと思うので、互いに対立する構図は望ましくありません。団体同士のコミュニケーションを大切にしながら調和をしていくことが重要だと思います。

 

守谷 : わたしたちの活動自体が新しいこともあり、活動を進めていく上で実際に対立を感じる機会はあまりありませんでした。ただ、団体ごとに課題に感じていることはそれぞれあると思うので、どちらかがどちらかを指導するような上下の関係は望ましくないでしょう。

 

互いに気持ちよく一緒に活動していける術を模索することは重要だと思います。わたしも利用者にとって多様な選択につながるよう、地域で活動する輪が広がることはよいことだと感じています。

こまめな広報と居場所の継続がアクセスできない方へのアプローチに

川島 : 多様な居場所を提供してもどうしてもこぼれ落ちていく層は一定あるかと思います。いわゆるアウトリーチ(必要な人に必要な情報を届ける)についてどのようにされていますか。

 

伊藤 : 福祉サービスの居場所も多様化しつつあるとはいえ、まだまだどこにもつながることができていない人が多い印象があります。わたしたちの居場所を選んできてくれる方の多くは、それまでにどこにも居場所などのつながりがない方です。

 

居場所へのつながりを得るためには、ハードルが低く参加しやすいきっかけを複数設けると良いと思います。わたしたちの農園では、収穫祭イベントによって参加者の知り合いや自分の子どもに実は障がいがあったなど、障がいに関する認知・周知が進みました。

 

貸農園に訪れる地域の人と収穫できた作物:NPO法人つくばアグリチャレンジ(現:ユアフィールドつくば)

 

守谷 : わたしたちの活動は中高生を対象としているので、学校での行事や活動との連携を意識しています。たとえば、授業の一環としてINBaseの活動を紹介したり、部活の引退式をINBaseと絡めたりと、積極的に学校活動との関連性を強めています。

 

竹内 : アウトリーチの重要性は理解しているものの、実際の活動においては課題に感じています。学校を通じてチラシの配布を試みたこともありますが、チラシの授受が先生から子ども、子どもから親に渡るため、間接的となり配付完了や周知徹底があいまいでした。また、チラシが親に渡されても、親に興味や時間がなければ子どもは参加できません。居場所を求める子どもにどこまでリーチできたか、分からない状況です。

 

なお、民生委員やその他の公的機関の方に対して、気になる子どもさんがいたら子どもひろばに来ていただくようご案内もしていますが、まだまだ件数としては多くありません。

多様な居場所を提供する団体や活動に共通する想い

川島 : 居場所づくりや地域づくりが多様化するものの、それぞれの団体には根底に共通するなにかがある気がします。異なる分野ではありますが、居場所を提供する立場として同じくする想いなどがあるのでしょうか。

 

伊藤 : 居場所の提供にしても、地域づくりの活動にしても、それぞれにおいて「自分でやりたい」など、社会課題に近い距離にいるのが、わたしを含め共通して見られる傾向であります。

 

自分が捉える社会課題に対してどのように対応するかは、人によって距離感が違うと思います。たとえば、「寄付」など間接的に関わる場合もあるし、直接自分で関わりたいと思う場合も。団体をつくり活動を始めている人の多くは、社会課題の近くで関わりたい場合が多いのではないでしょうか。

 

守谷 : わたしも、多くの団体や活動においては「自分がいいと思うものを知ってもらいたい」気持ちが共通して見られると思います。社会課題の解決だけに焦点を当てるならば、既存の団体や活動で一緒にメンバーとして取り組むことができますが、そうではない。自分の想いを広めたい気持ちがあるのだと思います。

 

また、自分でやっているのは自分が楽しむためで、自分でやるのが一番だという感覚が共通してあるかもしれません。自分で始めた活動なので、活動そのものが楽しく、自分のためにもなっていると思います。

 

竹内 : ここまでの話を聞いて、新座市では子ども関連の団体が多くないのは、逆に個性や多様性があまりない状況ではないかと課題を感じました。ただ、活動をしたい想いを持った人たちは確実に広がっているので、十分にサポートできるように考えていきたいです。

地域づくりと居場所づくりのパターン

川島 : 前回の議論で示された居場所づくりと地域づくりの関係性にはいくつかパターンがありました。みなさんの活動はそれぞれどのようなパターンに近いのか、またはここにはないパターンなのか、ご意見をいただければと思います。また、最後にメッセージを一言ずついただければ幸いです。

 

伊藤 : わたしたちの活動は、多様な居場所がありながらも互いの居場所同士の関係が深まっていることが地域づくりにつながっていくイメージに近いと思います。障がい者を対象にする活動は、地域から独立した「居場所」を提供する傾向があります。しかし、地域づくりの観点から見ると、居場所同士の関係を深めていければ「居場所」そのものが地域の中に入っていくのではないでしょうか。

 

改めて、他の方の発言や取り組みをうかがって「居場所づくり」も「地域づくり」もいろんな意味があり、多義的であるからこそよいのだと感じました。

 

むすびえ理事長の湯浅誠氏による居場所づくりと地域づくりの関係図

 

守谷 : わたしたちの活動する地域では、小さい町の中でのつながりや血縁など、限られたつながりが強い傾向にあります。隣の町であっても、まったく関係性がないこともしばしばです。一方で、わたしたちの居場所づくりが、地縁ではないがゆえに「地域」同士をつなげつつあるかと思います。

 

わたしたちの活動では、趣味や興味といった地域にはなかった属性で互いがつながります。今までなかった関係性を柔らかくつないでいくことで、輪が地域の中で広がり、地域の多様性が増えると思います。スライドのパターンにはないですが、新しいつながりが、居場所づくりによって広がり、地域づくりに発展しているイメージです。

 

セミナーに参加して、居場所づくりか地域づくりかなど、自分たちの活動を概念的にとらえることができ、よい振り返りの機会となりました。これからも、地域づくりとしての居場所づくりを進めていきたいです。

 

竹内 : わたしたちの活動は、地域の人たちを居場所づくりに巻き込みながら、地域づくりに貢献しています。居場所でつながりながら、地域の人とそこに訪れる子どもたちや関係者と一緒に地域づくりを盛り上げていきたいです。居場所が地域づくりのツールやきっかけになってくれるのなら光栄なことです。

 

セミナーに参加するまでは、居場所が地域づくりに貢献するなんて大それたことだと思っていました。しかし、みなさんの話を聞きながら居場所づくりが地域づくりにつながっていると認識できるようになり、これからの活動への自信になりました。

 

<プロフィール詳細>

竹内 祐子(たけうち ゆうこ)さん

NPO法人新座子育てネットワーク 事務局長

岩手県出身。2005年から個人事業で地元矢巾町で地域密着型のフリーペーパーを発行。2008年、夫の転勤により廃業し、埼玉県新座市に転居。息子(現在大学3年生)が小学校の学校検診で大病が見つかり、看病に専念。2016年から、同法人が委託運営している「地域子育て支援センター」勤務。2019年、本部に異動。2021年より事務局長。

 

伊藤 文弥(いとう ふみや)さん

NPO法人つくばアグリチャレンジ(現 : NPO法人ユアフィールドつくば) 代表理事

1988年生まれ。筑波大学在学中より前代表理事の五十嵐の下で議員インターンシップを行い、農業の問題、障害者雇用の問題を知る。農業法人みずほにて研修を実施。ホウレンソウ農家を中心に農業の専門知識を学ぶ。同時に障害者自立支援施設でも勤務し、障害者福祉についても実地で現状を学び、つくばアグリチャレンジを五十嵐とともに設立、副代表理事に就任。第一回いばらきドリームプランプレゼンテーション大賞受賞。2012年公益財団法人日本青年会議所主催の人間力大賞にてグランプリ受賞、2013年世界青年会議所主催の「世界の傑出した若者10人」選出。社会福祉士、精神保健福祉士、公認心理師、保育士。スクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラーとしても活動をしている。

 

守谷 克文(もりや かつふみ)さん

NPO法人f.saloon 代表執行役

1992年生まれ。京都大学公共政策大学院在学中に備前市に移住し、備前市地域おこし協力隊に就任。2017年にNPO法人f.saloonを立ち上げ、備前市全域において多くのステークホルダーと連携しながら、幼児期から青年期までを対象に様々な教育活動に取り組む。2021年10月に10代の居場所として放課後スペースINBaseをオープンし、地域と子どもたちを繋ぎ、自己実現と社会参画の機会を提供する。

 

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望月愛子

フリーライター。 アラフォーでフリーランスライター&オンラインコンサルに転身。夫のアジア駐在に同行、出産、海外育児を経験し7年のブランクを経るも、滞在中の活動経験から帰国後はスタートアップや小規模企業向けにライティングコンテンツや企画支援サポートを提供中。ライティングでは相手の本音を引き出すインタビューを得意とする。学生時代から現在に至るまでアジア地域で生活するという貴重な機会に恵まれる。将来、日本とアジアをつなぐ活動を実現するのが目標。 タマサート大学短期留学、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修了。